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3PL(3rd party logistics)市場の現状と可能性

~提案型3PLへの進化により続く市場の拡大と今後の展望~

インターネット通販市場の拡大や企業による選択と集中の推進といった外部環境の大きな変化を起点として、いまほどに物流が注目されている時代はないのではないでしょうか。中でも、日本で1990年代後半以降認知された3PLの市場拡大は顕著であり、外部環境の変化に柔軟に対応しながら発展しています。 公認会計士 前田尚彦

はじめに

インターネット通販市場の拡大や企業による選択と集中の推進といった外部環境の大きな変化を起点として、いまほどに物流が注目されている時代はないのではないでしょうか。中でも、日本で1990年代後半以降認知された3PLの市場拡大は顕著であり、外部環境の変化に柔軟に対応しながら発展しています。
今回は、そんな3PL市場の現状と可能性について、下記構成で考察したいと思います。
1. 3PLの概要
2. 3PL市場の現状
3. 3PL市場の可能性
 

1.3PLの概要

(1)物流を包括的にアウトソーシング

3PL(3rd Party Logistics)とは、専門企業(以下「3PL企業」)が荷主より、物流業務を包括的に受託することをいいます。21世紀に入り物流サービスレベルの向上や物流コストの削減が企業の重要な経営課題として注目される中、3PL企業は1つの解決策を提供する物流企業として重要な役割を担っています。

(2)3PLの受託形態

3PLの受託形態は、下記2つに大別されます。
・荷主が所有する物流センターの運営業務を受託する場合
・3PL企業が所有又は賃借している物流センターにおいて荷主の物流業務を受託する場合

A) 荷主が所有する物流センターの運営業務を受託する場合

荷主が自社で物流センターを保有し物流業務を行っていた場合で、当該物流センターに3PL企業の人材を派遣する形で物流業務を受託するパターンがあります。この場合は、既存の物流システムは変えずに運営する人材を変えるだけであるため、物流コストの削減が主目的であることが多くなります。3PL企業においては、スムーズに受託するために委託企業から人材の転籍を受け入れることも多いようです。

B) 3PL企業が所有又は賃借している物流センターにおいて荷主の物流業務を受託する場合

3PL企業が物流センターを所有又は賃借している物流センターにおいて、荷主の物流業務を受託するパターンがあります。この場合には、物流サービスレベルの向上が主目的であることが多く、たとえば荷主の物流に対するニーズを反映する物流システムの構築が3PL企業に求められます。さらに、全国各地に倉庫を保有している倉庫型3PL企業の場合には、上記に加えて施設稼働率のコントロールが経営上の重要課題となっています。

 

2.3PL市場の現状(1)

(1)続く市場の拡大

3PL市場は拡大トレンドにあり、2014年度の市場規模は2兆2490億円と2005年度と比べて2倍超に成長しています(図表参照)。他の業界と同様に2008年のリーマンショック直後は縮小しているものの、3PL市場の特徴として、景気回復局面である13年度及び14年度よりも、リーマンショック後で企業の構造改革ニーズが高まった10年度及び11年度の方がむしろ成長性が高くなっています。
 

【図表】日本の3PL市場規模の推移

(出典)㈱ライノス・パブリケーションズ「月刊 ロジスティクス・ビジネス 2015年8月号」3PL白書2015(18ページ)より引用

3PL市場の現状(2)

(2)提案型3PLへの進化

3PL市場黎明期のニーズは、主に物流コストの削減にありました。たとえば、自社雇用の従業員により物流業務を行っていた荷主の場合、それをアウトソーシングするだけで、3PL企業がパート・アルバイトを多用する等の人件費単価の違いにより、物流コストは削減できることになります。
しかしながら、近年においてもなお3PL市場の拡大トレンドが続いている理由は、アウトソーシングによる一時的な物流コストの削減に留まらず、継続的な物流コストの削減につながる提案や、荷主の物流ニーズに応える物流システムの構築などのように、提案型の3PLに進化していることが挙げられます。
たとえば、アパレル物流の「品質」「納期」「コスト」を大きく左右するものに物量波動への対処があります。アパレル物流の現場が、来月の物量予測に関する情報にアクセスできない場合どうなるでしょう?人や車両の手当が過剰となって高コストとなったり、人や車両の手当が不足して品質の低下や納期遅延を起こしたりします。
提案型3PLであれば、荷主の適切な部門とコミュニケーションを図り、早い段階で物量予測情報にアクセスすることで、物流コストの削減や荷主の物流ニーズに応える体制を構築することが可能となるのです。
 

3.3PL市場の可能性

(1)人件費上昇への対応

人口減少時代に突入した日本においては、人件費単価の上昇が見込まれ、労働集約型のビジネスである物流業界においても対応が急がれる喫緊の課題となっています。
3PL企業にとっては、自社で物流を実施していた企業が人件費単価の上昇に耐え切れなくなり、アウトソーシングを志向するきっかけとなる点でチャンスといえます。しかしながら、人件費単価の上昇は3PL企業にとってもコストアップ要因であるため、これに対応しなければ不採算業務が増加することにつながり、利益無き成長となりかねません。
たとえば、マテリアルハンドリングを活用した自動化や物流の川上部分を人件費の安い海外で提供するといった、人件費上昇への対応力を磨いた3PL企業が、3PL市場の健全な成長を牽引していくのではないでしょうか。

(2)荷主の成長を支援する物流専門家へ

市場が拡大しているとはいうものの、人件費単価の上昇や配送コストの上昇等、3PL市場を取り巻く環境は決して楽観視できるものではありません。
しかし、提案型3PLにより市場を拡大してきた3PL企業は、提案型3PLをさらに進化させ物流の専門家として荷主の成長を支援することで、さらなる市場拡大を目指しているようです。
たとえば、荷主の滞留在庫が増加し、物流センターの一角に固定化されていたとします。3PL企業にとっては、荷主から受け取る保管料が増加し短期的には収益にプラス作用が働くため、物流の効率化を阻害しないよう物流センターの隅に保管するだけなのかもしれません。しかし、滞留在庫が増加している事実は、荷主にとって成長の阻害要因、ひいては3PL企業の長期的な成長の阻害要因となりかねません。短期的な利益を放棄してでも滞留在庫が増加している事実を荷主に助言することで、将来的な荷主の成長に寄与するという考え方もあるのではないでしょうか。
荷主が成長することで3PL企業も成長する、そのような企業が3PL市場の拡大を牽引していくのではないでしょうか。


※ 本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではございません。

 

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