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財務数値からみる航空業界の特徴(2)

航空業界をめぐる経営環境を踏まえ、主要な航空会社の業績を分析します。著者: 有限責任監査法人トーマツ 航空運輸事業ユニット 公認会計士 佐藤和基

世界の経済成長と共に伸びる航空需要

世界経済の成長の影響を受け、世界の航空会社のRPK(Revenue Passenger Kilometers=各区間の旅客数×各区間距離)の合計は2013年から2014年にかけて6.0%増加し、旅客数も5.8%増加しました 。地域別に見ると、RPKベースで中東地域が12.6%と一番増加率が高く、次いでアジア太平洋地域が6.9%の増加率でした 。中東地域の増加は、中東地域経済の成長によるものと、アフリカ地域の経済成長に関連して中東の航空会社が勢力を伸ばしていることが要因と考えられます。アジア地域は、引き続き経済成長が大きいことと、人口増加による影響が要因と考えられます。

日本も訪日外国客の増加等による需要が増加

2014年の日本の航空輸送の概況は、客単価は下落したものの輸送人員が2.2%増加した結果、主要な航空会社の旅客収入は1.3%増加しました 。客単価の下落は、LCC(Low Cost Carrier)の台頭により国内航空会社での競争によってFSC(Full Service Carrier)が単価を下げたことが要因と考えられます(図1)。輸送人員の増加は、円安傾向、航空路線の拡大、査証免除・要件緩和、消費税免税制度の拡充などに起因した訪日外国人客の増加が主な要因と考えられます。フィリピン、中国からの訪日外国人客は2013年度から2014年度にかけて2倍近く増加しており、その他の国からの訪日外国人客も増加の一途をたどっています 。

図1:FSC、LCCの輸送人キロシェアの推移(国内線)

出典:国土交通省 特定本邦航空運送事業者に係る情報(平成26年度)を基に筆者が作成。

原油価格の下落が航空会社の業績改善に寄与

航空会社の業績に大きな影響を与える可能性のある原油価格については、2000年台初頭から長期的に上昇の一途を辿っていましたが、原油の供給過剰等により2014年後半から原油価格が急落しました。航空会社にとっては原油価格の下落は航空機燃料費の低下に繋がる可能性があるため、業績に対して好材料になりうると考えられます。ただし、大抵の航空会社は燃油価格の変動リスクをヘッジするためにデリバティブを利用しているため、ヘッジの方針・デリバティブの実施状況によっては原油価格の変動が即座に業績に反映されない可能性もあります。

図2:原油価格の推移

出典:IMF Primary Commodity Prices(http://www.imf.org/external/np/res/commod/index.aspx) Price & Forecasts Monthly Dataを基に筆者が作成。

航空会社の業績は好調

財務数値から見る航空業界の特徴(1)」では各社間の比較が中心でしたが、今回は前期からの推移を踏まえて分析します。前期数値については「財務数値から見る航空業界の特徴(1)」をご参照ください。
前回の分析で日本の大手航空会社のイールドが高いことがわかっていますが、図3を見るとイールドが高い会社が営業利益が高い傾向にあることがわかります。また、原油価格の下落を受けて営業利益が2013年から2014年にかけて増加している会社が多くあります。
一方で大きく業績が悪化しているのはA社およびC社の2社です。A社は、燃油価格の下落に対してデリバティブを利用していましたが、ヘッジ会計を適用しておらず、先物価格の下落に伴いデリバティブ評価損が多額に生じた結果、約$2billionの損失が計上されていることが業績に大きく影響を与えています。C社は、2014年9月に労働組合によるストライキがあったことから€425millionの損失が発生しており、2014年度は赤字に転じています。

図3:営業利益の推移

出典:各社の決算期のアニュアルレポート・有価証券報告書、決算説明資料を基に筆者が作成。

換算に用いた平均為替レート(図3)

表1-1:概括的な財務数値の比較 (FSC)

出典:各社の決算期のアニュアルレポート・有価証券報告書、決算説明資料

表1-2:概括的な財務数値の比較 (LCC)

出典:各社の決算期のアニュアルレポート・有価証券報告書、決算説明資料

表2:KPI(Key Performance Indicators)の比較

出典:各社の決算期のアニュアルレポート・有価証券報告書、決算説明資料

注釈(表2)

(※4)日本以外の会社については各社の事業年度に対応した為替レートに基づき著者試算。
(※5)各航空会社が開示・公表しているKPI指標は計算前提が異なることから、(※6)に記載の算定式に基づいて著者が統一的に試算。
(※6)各指標の算定式は次のとおり。
・ユニットレベニュー=旅客収入/座席キロ(ASK)
・ユニットコスト=営業費用/座席キロ(ASK)
(注)ASK(Available Seat Kilometers)= 各区間の有効座席数×各区間距離の合計
(注)RPK(Revenue Passenger Kilometers)=各区間の旅客数×各区間距離の合計
・イールド:RPK当たり収入単価=旅客収入/RPK
・L/F(Load Factor):有償座席利用率 =RPK/ASK
(※7)LCCについては、旅客収入に附帯収入を含めている。
(※8)ユニットコストの算定に当たっては全ての営業費用を分子に算入しているため、上記計算上ではユニットレベニューを上回っている場合がある。

業績から見る国内航空会社の戦略

日本国内に目を向けてみると、D社、E社ともに営業利益が増加しており、D社の方がASK、RPKが伸び、旅客収入が増加しています。国内線、国際線の別に見ると、ASKベースで国内線が微減し、国際線が増加しています。これは、2014年の夏より羽田空港国際線の発着枠が拡大し、D社への配分が多かったことが主な要因と考えられます。前述のとおり、国内線はLCCとの競合によってFSCの収入単価に下落圧力がかかっていることから、国内FSCにおいては高付加価値サービスによる収入単価維持と、国内空港のハブ化への対応を含む国際線需要の取り込みを戦略としていることがうかがえます。

図4:D社、E社の国内線、国際線の状況

出典:各社決算説明資料

今後の展望

航空会社の業績は、その経営環境に大きく左右されている傾向があります。IMFが公表している2015年7月の経済予測によれば2015年の世界経済成長率は3.3%と前年の3.4%から若干の減少が予測されており、足元ではギリシャ経済、中国経済といった懸念材料もあります。一方で航空需要の増加しているアジアの新興国では経済成長は高い水準を維持しており、所得水準の状況によっては一気に需要が高まる可能性も秘めています。これらの経済情勢等を踏まえた路線の開設・維持、発着枠の確保が航空会社の業績を左右すると考えられ、各社の動向が注目されます。

※本文中の意見に関る部分は執筆者の私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではございません。

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