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グローバルでの競争を生き残る手段としての物流の国際化

~付加価値の高い物流サービスが企業活動のグローバル化を加速させる~

我が国の企業のグローバルな事業展開にあわせて、企業活動を支える物流企業もグローバルな事業展開を進めています。また、国内で培った物流サービスの海外展開を進める物流企業もあります。

1. はじめに

物流は、指定された場所・時間に正しい品目・数量を届けることで、企業活動や国民生活を支える重要な役割を担っており、経済社会にとって必要不可欠な構成要素といえます。

物流企業の代表的な荷主である製造業を例にとって考えると、「工場でモノを生産するために原材料を調達し、生産した製品を出荷して顧客まで届ける」という製造業の企業活動では、調達に関する物流、生産に関する物流、販売に関する物流が生じています。

企業の事業活動がグローバル化していくと、このような各場面における物流が、国境を越えて発生することになり、これを支える物流企業の事業活動もグローバル化していくことになります。また、見方を変えれば、輸送コストの削減や輸送日数の短縮などの面で国際物流サービスが発展することが、企業活動のグローバル化を加速させることになります。 

2. 荷主企業のグローバル化に伴う物流の国際化

(1)荷主企業のグローバル化

我が国は、原油、石炭、鉄鉱石といった原材料を輸入し、日本国内で加工した工業製品を輸出することで戦後の経済発展を遂げてきました。高度経済成長期には、各企業においても、日本国内で製品を集中生産して輸出することが、生産コストや輸送コストの面から見ても経済的合理性をもっていました。

しかし、日本からの大量輸出は貿易摩擦を生み、関税障壁の高まりやプラザ合意後に生じた円高の結果、日本からの製品輸出をおさえ、販売地の近くで生産するという現地生産の流れに移ります。

やがて、世界的にもGATTやWTOといった貿易障壁の撤廃の動きがでてくると、生産コストを削減するために、世界の工場と呼ばれた中国での生産など、グローバルで見た最適地での調達・生産が行われるようになってきました。これが、いわゆるグローバル・サプライチェーンです。

 

実際の国際貨物輸送量をみると、リーマン・ショックの影響を受けた2009年には輸出・輸入ともに大きく落ち込んでいます。その後、東日本大震災以降の電力不足から、原油やLNGの輸入量が増加したことにより輸入貨物輸送量は増加しているものの、輸出貨物輸送量は横ばいとなっています(図表1)。

これは、東日本大震災後のいわゆる六重苦(円高、高い法人税率、自由貿易協定への対応の遅れ、電力価格問題、厳しい労働規制、環境規制の強化)を背景に、製造業を中心として、調達、生産、販売活動をグローバルで最適化する、という流れが加速していることを示していると考えられます。

 

このような荷主企業の事業活動のグローバル化に伴い、従来は主に日本国内で企業の調達や販売の物流に携わっていた物流事業者が海外展開を進めています。また、現地で工場を建設することに伴って生じる生産設備の輸送・据付業務や、そこから派生したメンテナンス業務を手がけるために海外展開を進める物流事業者もあるようです。 

(図表1)国際貨物輸送量の推移(金額ベース)

(出所)日本物流団体連合会「数字でみる物流 2014」国際物流の動向(27ページ)から作成
 

物流企業各社では

(2)物流企業のグローバル化

物流には、輸送、保管、荷役、包装、流通加工、情報管理という6つの機能があると言われています。

企業がグローバルに調達、生産、販売活動を行うようになると、これらがグローバルで最適になるように一元的に情報管理していくニーズが高まるものと考えられます。

また、海外においても、単に輸送だけではなく、物流センターでの保管、荷役、流通加工といった、その他の物流機能も合わせた総合的な物流サービスへのニーズが高まっています。その結果、近年、メーカーの物流子会社が物流事業者に売却される事例が増加しているように、企業の物流業務のアウトソーシング傾向は今後も強まり、これを受けた3PLサービス(*1)の需要は海外でも高まっていくものと考えられます。

さらに、輸送サービスについても、複数の輸送手段を提供することや、物流企業の責任で複数の輸送手段を利用して目的地まで届ける複合一貫輸送といったニーズも高まるものと考えられます。

 

これらを背景に、物流企業各社は、荷主企業の動きに合わせて、もしくは先回りするように、物流設備も含めた海外拠点の拡充を進めています。また、自社の物流ネットワーク網を拡充するために、海外事業者との提携、あるいは既に海外で事業展開している事業者に対するM&Aが積極的に行われています。

*1 荷主企業の物流業務を包括的に受託するサービス。物流の機能のすべて、もしくは機能の複数を組み合わせた物流サービスを提供し、荷主企業に対する物流システム効率化の企画提案を含むといわれています。
 

3. 物流企業による物流サービスの海外展開

物流企業は、荷主企業のグローバル展開にあわせた海外展開だけではなく、物流企業自身が国内で培った物流サービスの海外展開も進めています。

図表2-1のとおり、日本国内の貨物輸送量は、高度経済成長期は右肩上がりで成長を続けてきましたが、1990年代に入ると横ばい状態となり、近年は減少傾向が見られます。また、日本の人口は将来的に減少するものと予測されていることから(図表2-2参照)、国内物流量はさらに減少していくことが避けられないと考えられます。

 

これらを背景に、日本国内だけでは成長に限りがあることから、今後も成長が見込まれ市場としても発展途上にあるアジア諸国をターゲットに、日本国内で培った宅配便サービスや定温物流サービス(*2)といった高付加価値の物流サービスの海外展開に取り組んでいる物流企業もあるようです。

*2 冷凍、冷蔵、常温など、商品に応じた温度帯ごとに保管・配送を行う物流サービス

(図表2-1)国内貨物輸送量の推移(トンキロベース)

(出所)日本物流団体連合会「数字でみる物流 2014」国内物流の動向(7ページ)から作成

 

(図表2-2)日本の総人口の推移と将来予測

(出所)総務省統計局HP(http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm)に掲載の「人口の推移と将来予測」から作成
(注)2015年以降は将来予測数値である。
 

4. おわりに

物流企業がグローバル展開を加速していくと、日本国内の物流企業との競争だけではなく、海外の総合物流業者(インテグレーター)との競争にもさらされることになると考えられます。ただし、経営資源には限りがあることから、全ての物流事業者がこれに対抗することは現実的ではなく、実際にはこれに対抗する事業者と、自社の特定分野で強みを磨く事業者とに分かれるものと思われます。

物流企業各社がグローバルでの競争を生き残っていくためには、自社の重点領域を定め、その領域において付加価値の高い物流サービスを提供していくことが必要になってくるでしょう。

※本文中の意見に関わる部分は筆者の私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではありません。 

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