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わが国における物流の近代化(その2)

~環境問題への対応~

環境問題への対応は物流業者だけでなく、荷主企業などの物流に関係する企業も含め、わが国全体で取り組むべき重要な課題であり、環境にやさしい「グリーン物流」が今、これまで以上に注目されています。 筆者 公認会計士 渡邊徳栄

1、物流業界と環境問題との関係

「環境問題」と一口に言っても様々な問題がありますが、多くの方は「地球温暖化問題」を連想されるのではないでしょうか。地球温暖化は、大気中の二酸化炭素(CO₂)などのいわゆる温室効果ガスの増加が要因の1つと考えられており、これまで国連を中心にCO₂削減に向けた世界規模の協議が重ねられてきました。

2015年11月30日からフランス(パリ)で開催された第21回国連気候変動枠組締約国会議(COP21)では、2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組みとして「パリ協定」が正式に採択されました。このパリ協定は1997年のCOP3で採択された「京都議定書」と同じく法的拘束力を持つ強い協定として合意されたもので、すべての国が2020年以降の温室効果ガスの削減目標を作り、5年ごとに見直すことが義務付けられました。

2020年以降の温室効果ガスの削減目標として、わが国では現在「2030年度までに2013年度比で26%削減する」という非常に高い目標が掲げられています。
ここで、わが国のCO₂排出量(2013年度)を部門別にみてみますと、運輸部門からのCO₂排出量は全体の17%を占めており(図表1-1参照)、わが国の温室効果ガスの削減目標を達成するためにも物流業界におけるCO₂排出量の削減が重要な課題となっています。
 

図表1-1 わが国の部門別CO₂排出量(2013年度)

(出所)国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」1. 運輸部門における二酸化炭素排出量より作成

CO₂排出量の削減

物流という経済活動によってCO₂が排出され環境悪化の要因になるという点は否定できませんが、わが国の物流は今や産業や生活の基盤であり経済社会にとって不可欠な機能となっていますので物流を止めることはできません。しかし、可能な限り環境に配慮しCO₂排出量を削減することは可能です。
経済産業省と国土交通省が共同で策定しているわが国の物流方針である「総合物流施策大綱(2005-2009)」においても、わが国の物流が目指すべき方向として「『グリーン物流』など効率的で環境にやさしい物流の実現」と示され、最新の「総合物流施策大綱(2013-2017)」においても「さらなる環境負荷の低減に向けた取組」が求められています。
 

2、物流業界における環境負荷軽減に向けた取り組み

(1)CO₂排出量削減のターゲットは「トラック輸送」

運輸部門のCO₂排出量(2013年度)を輸送機関別にみてみますと、自動車が運輸部門全体の87%と圧倒的多数を占めており、さらに細分化すると自家用乗用車が48%、貨物自動車が35%を占めています(図表2-1参照)。一方で、船舶、航空、鉄道はいずれも5%以下と低い割合になっています。
 

図表2-1 運輸部門におけるCO₂排出量(2013年度)

(出所)国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」1. 運輸部門における二酸化炭素排出量より作成

CO₂排出量が多い要因

物流という経済活動の中で貨物自動車、いわゆるトラック輸送からCO₂排出量が多い要因としては、トラック輸送が最も多く利用されている物流手段である反面、エネルギー効率の悪い物流手段であることが挙げられます。

トラック輸送は輸送スピードが速く弾力的で運賃も安いため、わが国の物流の主力を担っており、国内貨物輸送量(トンキロベース)の51%と半分以上を占めています(図表2-2参照)。これは、高度経済成長期に急ピッチで進められた道路整備をはじめ、大量一括輸送の「量」から、リードタイム短縮、小ロット・多頻度化の「質」へという物流に求められる役割の変化も大きく影響しています。
 

図表2-2 国内貨物輸送の分担率(トンキロベース)

(出所)日本物流団体連合会「数字でみる物流 2014」国内物流の動向(8ページ)より作成

物流別CO₂排出量

わが国の物流に求められる経済的ニーズに最も合致しているトラック輸送ですが、「環境」という側面からみるとその評価は一変します。
1トンの貨物を1キロメートル運ぶのにどれだけのCO₂が排出されているかというCO₂排出原単位を輸送機関別にみてみますと、鉄道は25グラムしかCO₂を排出しないのに対して、営業用貨物トラックは217グラムと鉄道の8.7倍、自家用貨物トラックにいたっては1,201グラムと鉄道の48倍ものCO₂を排出していることがわかります(図表2-3参照)。
 

図表2-3 輸送機関別のCO₂排出原単位(2013年度)

(出所)国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」2. 運輸部門における二酸化炭素排出量の推移より作成

トラック輸送における取り組み(1)

これらをみても、トラック輸送がいかにエネルギー効率が悪く、そして多くのCO₂を排出しているかがわかります。このため、物流業界におけるCO₂排出量削減に向けたターゲットとしてトラック輸送に焦点が当てられています。

(2)トラック輸送におけるCO₂排出量削減に向けた取り組み

トラック輸送における主なCO₂排出量削減に向けた取り組みとしては、①トラック輸送業者単独での取り組み、②トラック輸送台数を減らす取り組み、③トラック輸送そのものを減らす取り組み、の3つがあります。

(A) トラック輸送業者単独での取り組み

1) エコドライブの実践

トラック輸送業者にとって最も身近で、かつ、ローコストで取り組みやすいCO₂排出量削減に向けた取り組みは「エコドライブ」(省燃費運転)の実践です。
例えば、東京都トラック協会が地球温暖化対策の対応を図るために2006年に立ち上げされた「グリーン・エコプロジェクト」ではエコドライブ活動を推進されており、立ち上げからこれまでの9年間で平均15.8%の燃費向上が確認されています。

効果的にエコドライブを実践するために活用されているものとして「デジタルタコメーター」(デジタコ)があります。
デジタコによって記録された運行データは、コンピュータで分析されて正確に運行記録が作成されるとともに、急発進や急加速などエコドライブを実践する上での問題点を迅速にかつ的確に把握することができます。

さらに、エコドライブの実践によりCO₂排出量削減効果のほかに交通事故件数が減少する効果も期待でき、前述した「グリーン・エコプロジェクト」での実績では、プロジェクト参加1台あたりの事故件数が平均29.2%も低減されていることが確認されています。

2) 低公害車の導入

低公害車は、従来のディーゼルエンジントラックに比べてCO₂排出量が少ない車両で、CNG(圧縮天然ガス)車、メタノール自動車、ハイブリッド車、LPG(液化石油ガス)車、電気自動車などがあります。
こうした低公害車のうち、貨物トラックとして主に使われているのがCNG車です。
CNG車では、CO₂排出量をディーゼルンジントラックに比べて20~30%程度削減できるだけでなく、大気汚染物質である窒素酸化物の排出量を約90%、黒煙、硫黄酸化物及び粒子状物質の排出量も約100%削減できます。また、最近ではCO₂などの排出量だけでなく騒音も少ないハイブリット車も注目されてます。

CNG車及びハイブリット車を使用することによって環境負荷を削減することができますが、トラック輸送業者にとっては車両価格が通常の車両に比べて高いことが課題です。そこで、国と全日本トラック協会は、これらの低公害車を導入するトラック輸送業者に対して価格の一部を助成する低公害車導入促進助成事業を推進しており、この結果、貨物トラックへのCNG車及びハイブリット車の導入が年々増加しています(図表2-4参照)。
 

図表2-4 CNG車及びハイブリット車の普及実績(貨物トラック)

(出所)一般社団法人 日本ガス協会「天然ガス自動車普及状況」、一般社団法人 次世代自動車振興センター「EV等 保有台数統計」より作成

トラック輸送における取り組み(2)

3) グリーン経営認証制度

企業の社会的責任(CSR)の普及もあり環境問題に積極的に取り組まれる企業が増えています。ここで、環境に配慮される企業は物流業者の選定においても環境問題に積極的に取り組んでいる業者を選ぼうと考えられますし、また、実際に環境問題に積極的に取り組んでいる物流業者もその事実を強くアピールして差別化を図ろうと考えられます。

そこで、中立の客観的な第三者機関による物流業者の環境問題への対応を評価・認証する制度として「グリーン経営認証制度」があります。これは、交通エコロジー・モビリティ財団が認証機関となって審査を行い、物流業者に対して「環境負荷の少ない事業経営を行っていること」を認証する制度です。
この認証を受けているかどうかが、荷主企業によるトラック輸送業者選定基準の1つになり、トラック輸送業者の環境問題への取り組みの後押しとなることが期待されています。

(B) トラック輸送台数を減らす取り組み(共同配送)

同じ量の貨物を運ぶ場合、例えば今まで積載率50%の2台のトラックで輸送していた貨物を積載率100%の1台のトラックで輸送すれば、それだけでトラック輸送台数が減少し、CO₂排出量も削減できます。
これを1つトラック輸送業者だけでなく、複数の業者がバラバラに輸送している貨物を束ねて満載に近い状態で輸送すればCO₂排出量を大きく減らすことが可能となります。このような物流のしくみを「共同配送」といいます。

これまで共同配送は、トラック輸送業者の中で「総論では賛成だが各論では反対」という状況が長く続いていました。しかし、共同配送はCO₂排出量削減効果だけでなく、物流コストの削減や交通渋滞や騒音の問題を解消するという点でも効果が期待されます。このため、最近ではこれらが追い風となり共同配送化を検討する企業が増えつつあります。

(C) トラック輸送そのものを減らす取り組み(モーダルシフト)

CO₂排出量の削減効果が大きいといわれる取り組みとして「モーダルシフト」があります。具体的にはトラック輸送からCO₂排出量のより小さい鉄道や海運へ輸送手段を変更することをいいます。
「モーダルシフト」という言葉は、古くは第二次石油危機時に石油消費を抑制する観点から運輸政策として登場しており、その後、COP3にて京都議定書が採択された1997年には地球温暖化問題への対策として明確にモーダルシフトを推進する方針が決定されています。

このように、わが国において環境問題への対策としてモーダルシフトが提唱されて既に約20年ほど経過しますが、現時点では明確にモーダルシフトが進んだとは言いがたい状況です。これは、モーダルシフトを実践していくにあたって検討すべき課題がたくさんあることを意味します。
よく挙げられる課題として、コンテナの確保や運行ダイヤによる制約に加え、発地と着地で積み替えが必ず発生することからトラック輸送に比べ輸送スピード及び柔軟性に欠けるといわれます。
さらに、災害時などの安定輸送に不安がある点も課題として挙げられます。輸送中に事故やトラブルなどの障害が発生した場合に、他の経路・方法に振り替える手配が難しくトラック輸送と比べてかなりの時間を要することになるためです。
 

モーダルシフト(輸送手段の転換)

このように、トラック輸送と比べれば、鉄道や海運は使い勝手という点で劣ることは否めません。しかし、最近では環境問題以外の「ある問題」の対策としてモーダルシフトが注目されています。それは「ドライバー不足」の問題です。
リーマンショック後の景気回復及びわが国の少子高齢化に伴いトラック輸送業界ではドライバー不足が徐々に深刻化しており、特に労働環境の厳しさ等により長距離ドライバー不足が顕著になってきています。
このように、環境問題だけでなく将来さらに深刻化することが予想されているドライバー不足への懸念から、これまで以上にモーダルシフトが注目されている今、本格的にモーダルシフトを進める取り組みが期待されます。
 

3、今後のさらなる環境負荷の軽減に向けて

運輸部門のCO₂排出量(2013年度)は、物流業者の取り組みの成果もありピーク時の2001年度に比べると13%程度減少していますが、近年はCO₂排出量が横ばいになっています(図表3-1参照)。

図表3-1 運輸部門のCO₂排出量の推移

(出所)国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」1. 運輸部門における二酸化炭素排出量より作成

さらなるCO₂排出量軽減に向けて

前述したトラック輸送業者単独での取り組みはCO₂排出量削減に向けて欠かすことのできない基盤となる非常に重要な活動ですが、単独での取り組みにはやはり限界があります。今後のさらなるCO₂排出量軽減に向けては、より大きな枠組みでの取り組みが必要になってきます。

(1)グリーン物流パートナーシップ会議

ここで官民一体となっての物流における環境問題への取り組みとして「グリーン物流パートナーシップ会議」というものがあります。これは日本ロジスティクスシステム協会、日本物流団体連合会、経済産業省、国土交通省の主催、日本経済団体連合会(オブザーバー)の協力により発足したものです。
会の名称に「パートナーシップ」という言葉が入っている点が大きな特徴で、これは荷主企業と物流事業者が連携を深め、パートナーを組んで環境対策に取り組む必要性を強調しています。
具体的な活動としては、荷主企業と物流事業者がパートナーシップを組んで行おうとする環境対策事業を承認し、補助金を出すことが挙げられ、これまでに承認された事業としては、前述した共同配送化や鉄道・海運へのモーダルシフト化などの事業があります。

(2)物流総合効率化法の一部改

2016年2月2日に「物流総合効率化法の一部改正」が閣議決定されました。
これは、人手不足が懸念される物流の更なる総合化・効率化を図るために物流事業者や荷主企業などの関係者が連携して取り組む共同配送化やモーダルシフト化を後押しするために、2005年に物流総合効率化法が制定されて以来、はじめての大改正になります。
具体的には、物流事業者や荷主企業などの関係者が連携して取り組む認定事業に対する税制上の特例や経費等に対する補助が挙げられます(図表3-2参照)。

図表3-2 認定事業に対する支援策

(1)関連施設及び設備に対する税制上の特例(平成28年度税制改正案)

(2)計画策定経費等に対する補助(平成28年度予算案)

(3)事業開始に必要となる行政手続の一括化等の関係法律の特例等

   (トラック事業許可のみなし取得等)

(出所)国土交通省「改正物流総合効率化法案」概要(2016年2月2日)より作成

4、おわりに

これまでは「物流は物流業者に任せている」と言って、物流における環境問題にあまり関心を持っていなかった企業もあったかもしれません。
しかし、物流における環境問題は物流業者だけでなく、荷主企業などの物流に関係する企業も含め、わが国全体で取り組むべき重要な課題です。
2020年以降の温室効果ガスの削減目標である「2030年度までに2013年度比で26%削減」を考えると既に『待ったなし』の状況にあると言えますので、環境にやさしい「グリーン物流」の実現に向けて国のバックアップのもと一丸となって推進していく必要があると考えます。

※ 本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではございません。

 

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