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鉄道グループにおける観光戦略とオープンイノベーションの取り組み

~鉄道グループにおける観光魅力度の創出と沿線価値向上の取り組み~

国や地方自治体の政策とも相まって、鉄道グループによる観光戦略の取り組みが高まっています。観光戦略の推進にあたっては、グループ内の多様な事業の連携だけでなく、グループには無い多様なリソースやノウハウをオープンイノベーション的に融合させている取り組み事例が多くなってきています。 筆者 公認会計士 黒田雅美

1 高まりを見せる鉄道グループにおける観光戦略

2020年に向けて訪日外国人旅行者数2000万人の高みを目指す国の政策や、観光を海外からの旺盛なインバウンド需要の取込み機会としてとらえ、交流人口の拡大による地域活性化を図っていこうとする地方自治体の政策とも相まって、交通・旅行・飲食・宿泊・小売・流通などの産業が観光戦略によるインバウンド需要の取り込みを図っています。中でも、グループ内に関連事業を数多く抱える鉄道グループにおいて積極的な観光戦略の取り組みが高まっています。
鉄道グループ各社はその中期経営計画などにおいて、観光戦略の推進を明確に打ち出し、事業戦略の重点テーマとして観光戦略を位置づけています。各社における観光戦略の方向性としては、(1) 観光に関わる多様な事業のグループ内連携、(2) 沿線にある貴重な観光資源を活かしたグループ事業推進、(3) 沿線にある公共施設の魅力度向上とグループ資源との連携強化による事業機会創出などがあります。
鉄道グループ各社は沿線価値最大化の観点を重視し、各地域ににおける観光客を誘引し、保有しているグループ資源(鉄道、ホテル、レジャー施設、ショッピングセンター、バス、タクシーなど)を最大限活用できるような地域魅力の創出に向けた戦略および施策を実行されています。
 

2 鉄道グループにおけるオープンイノベーションの取り組み

(1) オープンイノベーションとは

ハーバードビジネススクールのヘンリー・チェスブロウ博士によって提唱された概念で、企業内部と外部とのアイデアやリソースなどを組み合わせることで、革新的で新しい価値を創り出すことを目的として、グループ内資源のみに頼るのではなく、他企業や大学、地方自治体、ベンチャー企業などが持つ技術やアイデア、サービスなどを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや研究成果、製品開発、サービス開発などにつなげるイノベーションの方法論です。

(2) 鉄道グループの国や地方自治体との連携

ある鉄道グループは、主要ターミナル沿線にある重要な観光資源である国や自治体が所有・運営していたレジャー施設(公園、劇場施設、動物園、水族館、美術館など)の運営受託を官民連携事業として担い、その集客力向上などに尽力して沿線エリアの街としての魅力度向上を図って街の賑わいを創出し、グループ内の関連事業の収益力向上につなげることに成功しています。また、他の鉄道グループにおいては官民連携を推進し、地域特性に応じたターミナル周辺開発の推進や空港運営事業の推進など国や地方自治体との連携強化による事業拡大を進めています。

(3) 鉄道グループのベンチャー企業との取り組み

鉄道グループによるベンチャー企業の育成・連携の取り組みが広がっています。ビジネスコンペなどを開催してベンチャー企業を発掘し、そのノウハウやスキルを活かした事業展開につなげたり、ベンチャー企業の育成施設を設けてベンチャー企業が集まる場を提供したり、ベンチャー企業向けの投資ファンドを立ち上げて資金面からベンチャー企業を支援するなど、ベンチャー企業の育成・連携を通した沿線地域の活性化に向けた取り組みをすすめています。
 

3 「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」からみた鉄道グループへの期待

平成27年6月に観光立国推進閣僚会議により公表された「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2015」では、以下の5本の柱を立て、各分野に存在する隘路を打開する施策を効果的に講じつつ、政府一丸、官民一体となった取り組みを強力に進めていくこととするとしています。
   (A) インバウンド新時代に向けた戦略的取り組み
   (B) 観光旅行消費の一層拡大、幅広い産業の観光関連産業としての取り込み、観光産業の強化
   (C) 地方創生に資する観光地域づくり、国内観光の振興
   (D) 先手を打っての「攻め」の受入環境整備
   (E) 外国人ビジネス客等の積極的な取り込み、質の高い観光交流
   (F) 「リオデジャネイロ大会後」、「2020年オリンピック・パラリンピック」及び「その後」を見据えた観光振興の加速

プログラムに盛り込まれた各施策の中でも、以下のような鉄道グループにおける観光戦略にもつながる期待が示されています。
 ・広域観光周遊ルートの形成・発信等による地方への誘客
 ・地域の観光振興の促進
 ・鉄道の旅の魅力向上
 ・テーマ別観光に取り組む地域のネットワーク化による新たな旅行需要の掘り起こし
 ・公共交通機関による快適・円滑な移動のための環境整備
 

4 鉄道グループにおける観光戦略のポイント

鉄道グループにおける観光戦略のポイントとしては、2つの観点が挙げられます。
(観点1)鉄道グループ保有資産の活用による収益向上
(観点2)既存の来訪客をさらに誘引するための価値(サービス)提供です。

(1) 鉄道グループ保有資産の活用による収益向上

鉄道グループが保有する資産に観光客を誘引し、消費してもらうための戦略により沿線価値の向上を図ります。そのためには鉄道グループが保有する資産を鉄道、レジャー、ホテル、流通等、事業横断的にたな卸しし、地域にある観光資源(自然資源、文化・歴史的資源、自治体が保有する公共施設・公園など)との掛け合わせにより、どのように新たな魅力を創造できるのかを検討していくことが重要になります。鉄道グループの観光資源が集中している沿線地域の特性を見極め、そのエリア毎の特性に応じた保有資源の最大活用を目指していきます。

そのためには、鉄道グループが保有する事業横断的な資産を沿線にある地域観光カテゴリーごとにマッピングし、そのエリア毎の施策オプションを設定していくことが必要です。そのうえで効果と実現可能性が高い施策を抽出し、それらの施策を実行するための計画を施策実行マネジメントプランとして策定していくことになります。

(2) 既存の来訪客をさらに誘引するための価値(サービス)提供

観光客の満足を高めるために鉄道グループとして提供できる価値(サービス)は何かを検討していきます。そのためには、各沿線地域における顧客セグメンテーションを行い、それぞれの顧客機能を明確にしたうえで、地域内、地域間の誘客パターンを整理して新たな観光魅力を創出し、沿線地域における来訪者数や客単価向上を目指していきます。

沿線地域における顧客セグメンテーションや顧客機能を理解するために、旅行者の口コミデータを収集・解析したり、観光事業者や留学生グループなどへのインタビューを行います。これにより、インバウンドも含めた来訪者の購買動機や沿線地域の認知度、イメージや期待価値などを把握したニーズが多様化している国内観光客や訪日外国人の嗜好の特定と課題の洗い出しを行っていきます。

以上のような仮説検証や分析結果を基にして、鉄道グループが作成しているビジョンや中期経営計画など、中長期の目標とすり合わせながら観光事業の目標設定と戦略オプションの洗い出しを行い、優先順位や判断基準を明確にして実効性ある観光戦略にまとめあげて、アクションプランに落とし込んでいきます。

(*)本文中の意見に関わる部分は私見であり、デロイト トーマツ グループの公式見解ではございません。

 

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