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業界展望2021 消費財
不確実な状況下におけるノーリグレット行動の実践
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナという)により、世界レベルでマクロ経済が逆風にさらされる一方で、消費財業界の展望は比較的明るいものとなっている。業界の成長見通しは前向きにとらえることができるが、消費者の巣ごもり消費のトレンドやニーズを満たす準備を整えられるかが、企業にとっては重要なポイントになっている。本稿では、複雑かつ不確実な環境下で、今後の消費財業界を左右する要因を踏まえ、消費財業界のシナリオを分析し、今後の展望について検討する。
今後の消費財業界の方向性を示すトレンド
2021年における今後の展開を左右する要因には、コロナに対するワクチンの普及、安全性確保に向けた制約、財務上の支援、政府および地方自治体の財源、オンライン授業やリモートワークの持続性だけでなく、消費者の心理状態や新しい習慣の継続性などがあるだろう。こうした状況下で、消費財企業は常時と比べてより困難な舵取りが求められる。
今回、デロイトでは米国の消費財業界のエグゼクティブを対象に調査を実施し、統合的なシナリオ分析、業界エグゼクティブへの調査結果を踏まえ、2021年の消費財業界を特徴づけるであろう5つの「ノーリグレット(悔いのない)行動に向けた戦略的な取り組み」を特定した。
5つの戦略的「ノーリグレット」行動
企業は消費者の行動や選択の変化に合わせるため、自社の市場開拓戦略や機能を変化させている。消費財業界のプレーヤーは消費者のセグメンテーション、チャネルの優先順位付け、製品ポートフォリオの開発、自社ブランドの投入、およびサービスモデルの展開などの変化を図っており、この動きは本年も継続していくこととなる。
その中でも、最優先事項はパンデミックによる消費者の急激なチャネル選択の変化へ対応することである。消費者へのアピールとエンゲージメントを強化するための手段であるオンラインとオムニチャネルへの依存度が上がってきている。歴史的にeコマースの浸透度が低かった食品飲料等の領域でも複数のデジタルプラットフォームを活用し、売上を増加させている成功例も挙げられている。
また、ダイレクト・トゥ・コンシューマー(DtoC)チャネルも注力すべき領域のひとつである。小売業者がプライベートブランドを立ち上げて有名ブランド市場に参入しているように、消費財業界も消費者のニーズを満たし直接販売するための手段として、新たなサービスラインの導入へ注力していく必要がある。
2021年はコロナによるパンデミックによりデジタル変革が著しく加速しているが、消費財企業はそれが何を意味するのか、今後どのように投資を優先させていくかを理解することが重要である。
多くの企業が、自社のeコマースとショッピングプラットフォームの改善のためにリソースを割り当てているが、デジタル化へのシフトには、社内機能の構築やテクノロジーを用いた効率性の向上といった他の領域も含まれる。ロボティックプロセスオートメーション(RPA)や人工知能(AI)への投資のほか、データ機密性とサイバーセキュリティへの投資についても検討し、自社のエンタープライズテクノロジーを向上させることが必要である。
消費財業界では、何十年もの間、グローバル化、低コストの供給、在庫の最小化により、サプライチェーンの管理を効率的に行うことが基本理念とされてきた。これに加え、2021年はレジリエンスの構築が注力すべき事項になるだろう。レジリエンスとは、企業がいかにサプライチェーンを健全に維持し、崩壊の危機が生じた場合にいかに素早く回復させられるのか、ということである。また、企業がいかに素早さと拡張性を獲得し、新たな市場開拓アプローチや革新的なビジネスモデルを発展させられるか、ということでもある。
つまり、レジリエンスの構築は確実な供給体制を確立することで、必要とされる生産量や場所を把握するための予測を行い、状況変化に対応するために異なる場所やチャネルで供給をシフトさせるための柔軟性を構築する。そうすることで、自社が望む製品を生産できるようになる。自社のレジリエンスをよりよく管理する指標を設定し、消費者ニーズをより迅速に満たすため、自社のサプライチェーン機能の優先度を高める戦略が必要である。
消費財企業は危機がもたらす機会を無駄にはしていない。各企業は、多大な変化がもたらされているこの機会を利用し、より力強い未来を築いていくうえで必要となり得るビジネス構造や運用面の改善を行っており、今後のアジェンダには、コスト構造の再調整が含まれる。
パンデミックの始まりを受けて、多くの企業が運営資本の削減、施設の閉鎖、資産の売却等、迅速に戦略的なコスト削減対策に取り組み始めた。2021年には、自社の競争優位性を維持、または強化し、将来の成長機会に資金を供給するために、より戦略的で、構造的なコスト変革アプローチが求められるようになるだろう。
一部の企業は、自社のポートフォリオを再形成し、より強固な基盤を築くための手段として、M&Aを検討するだろう。本年のM&Aは、パンデミックによって生じた変化に資金を投下する体制を整えていなかった企業にとって特に重要となる。
また、企業が今後1年間に目標を達成するうえで重要な要素として、安全衛生面での対応が挙げられる。多くの消費財企業はこの領域の成熟度は高いと考えられるが、消費者が衛生面に対して今後も引き続き関心を示していく中で、対処すべき課題が多いことを示している。
このパンデミックは、大手企業が一からやり直し、従業員、消費者、地域社会、環境のために正しいアクションをとることへ注力していく機会として捉えるべきである。企業の存在意義であるパーパスと利益を繋ぎ合わせ、企業の価値観を体現し、消費者が高い関心を寄せる持続可能性、社会的正義・平等、環境意識に対処するための戦略が重要になってくる。
パーパスに忠実であることは、資金を獲得するうえでも重要となってきている。今後、ESG領域において必須となるファンドは、非必須資産の3倍のスピードで増加すると予測され、5年以内に専門家により運用される全投資額の半分を占めるようになる可能性がある。また、M&Aのデューデリジェンスには、取引を行うための前段階として、持続可能性の評価項目が取り入れられることも考慮すべきだ。これらの投資家へアクセスするには、企業の社会的責任(CSR)のニーズに応えることが前提となる。
パーパスを単なるCSR分野での報告慣習として扱うのではなく、信頼構築の観点から考え、戦略の中核部分として位置付けている企業が、組織として変化し、繁栄していくことができるだろう。表明したパーパスに対して一貫性がない行動や、逸れるような行動を取ったメーカーは消費者から支持されない可能性がある。真の道徳的スタンスを持った企業が消費者から支持されるようになると確信している。
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