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プライベートカンパニーに関するグローバルな知見

Crisis as catalyst: トランスフォーメーションを推進する

2021年にDeloitte Privateが世界のプライベートカンパニーを対象に実施した調査では、パンデミックがもたらす影響に企業がどのように対処しているかを取り上げています。また、レジリエンスの追求によって企業の戦略とアクションがどのように推進されるかを中心に、企業の重要課題について探っていきます。

プライベートカンパニーに関するグローバルな知見

筆者:Nathalie Tessier

現代の歴史の中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ほど、人類の日々の生活にこれほどまでに大きなインパクトを与えた危機は他にないのではないでしょうか。そして世界中の企業のリーダーが、この危機に対応し、そこから回復し、そしてポストコロナの時代において成功を収めるために尽力するなか、企業が組織としての進化の加速を余儀なくされた事態は歴史上初めての出来事です。

Deloitte Privateが世界で実施したプライベートカンパニーに関する最新の調査から、地域を問わず、企業幹部は今回の危機を、私たちの働き方や生活の仕方に関わる事実上すべての側面における変化を促進するカタリストとして活用したことが明らかになりました。調査に回答した企業幹部は、テクノロジーに対するさらなる投資を行い、そしてテクノロジーを実装することで、自社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進めてきました。着手した改革が完遂に近づく一方で、まだ計画段階だった取り組みが稼働し始めています。企業幹部は新たなパートナーシップやアライアンスを検討しながら、自社の供給ネットワークを強化し、市場を拡大する新たな機会を探求しました。そして、利益を超えた企業としての目的を理解する努力をすると同時に、サステイナビリティ(持続可能性)を高め、従業員、顧客、あるいはその他の主要ステークホルダーからの信頼を強化する新たな方法を模索しました。また、働き方や働く場所に関しても新たな選択肢を受け入れるようになっています。言い換えると、世界の動きが停滞するなか、変化のスピードは加速しているのです。

世界規模の困難を乗り越える原動力となってきた要因を一つ挙げるとしたら、それはレジリエンスの重要性です。プライベートカンパニーのリーダーは、今回の危機だけでなく、次なる危機、あるいは今日世界で事業を展開する上で切り離すことのできない競争の脅威や混乱を、どのように対処していくことができるでしょうか。本調査では、多くのプライベートカンパニーがレジリエンスを構築する過程にあると考えていることが明らかになりました。レジリエンスは、組織に今後の見通しを与えます。レジリエントになればなるほど、自社の未来に自信を抱くようになり、成長に向けた投資を積極的に行う傾向があり、社会における目的や役割に関する考えがより明確になるのです。

もっと速く、もっと前へ

今回の調査において、すべての業界の企業幹部はDXを推進する、事業目的を自社戦略に組み入れる、サステイナビリティなどの優先順位の高い活動や今日のビジネス環境における競争力および関連性を高めるための取り組みに再度注力するなど、各社の計画が前進していると述べています。さらに、もう一歩先に進んだ試みとして、組織のレジリエンスを構築する7つの要素を回答者に振り返ってもらいました。

  • 戦略:改革の工程や目標を定義する
  • 成長:顧客中心、製品のイノベーション、収益増加を推し進める
  • 経営:経営を変革、刷新する
  • テクノロジー:DXを推進する
  • 労働力:仕事、労働力、職場を変革する
  • 資本:運転資本、資本構造、事業ポートフォリオを最適化する
  • 社会:環境・社会的リソースを管理する

レジリエントな組織にとって最も重要な要素の一部が成長とテクノロジーであると企業幹部は考えています。しかし同時に、自社の戦略と野心との整合性をとり、人材に投資し、資本基盤を強化し、そして環境・社会的リソースを管理する必要性があることも認識しています。(FIGURE 1参照)。

今後も残るCOVID-19のリスク

COVID-19のパンデミックは、世界のほぼすべての業界のプライベートカンパニーに甚大な被害をもたらしました。特にサプライチェーンについては、コロナ禍の影響をまともに受けているため再設計が必要だと回答者の60%が述べているとおり、貿易ルートが一時的に断絶され、生産能力が大幅に低下するなど、過去に例がないほど強いストレスにさらされました。

効率性だけでなくレジリエンスや冗長性を持たせる観点から、多くの企業は自社により近いところに供給ネットワークを移しました3。企業は今回の危機を生かして自社の相互依存関係をより正確に把握し、予期せぬ変化をより正確に予測・察知し、適切に対応できるよう、デジタル供給ネットワークなどの領域に対する投資を強化しています。

本調査の回答者は、コロナ禍がもたらした広範な影響が今後一年どころか数年間続くと考えています。

COVID-19関連のリスクが最大の脅威であることに変わりはないものの、企業のトップはそれ以外のリスクにも引き続き注意を払わなければなりません。常にサイバー攻撃や市場の競争激化といった絶えず変化し続ける課題の一歩先を行き、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する課題や気候変動が自社の経営に与える影響も注視し続ける必要があります。
 

回復への期待

今後12カ月の収益増加に対する期待がわずかながらも低下しているにも関わらず、本調査では、回答者の大多数は自社が危機から立ち直ると考え、そのうち3分の2超が今後12カ月間に自社が成功するという強い自信を持っています。ここで分かるのが、レジリエンスが高い組織は前向きな企業でもあるということです。(FIGURE 2参照)。

 

企業の幹部が自社に関して最大の自信を示したのが生産性を向上させる能力で、これは今後一年間における成長戦略のトップに挙げられているテーマです。一方DXも優先順位の高い課題として位置付けられています。これらの企業が自社の成長におけるDXの重要性をどのように考えているかに関して、レジリエンスが高い企業と低い企業との間には18%もの差があり、本調査で最も大きな差が見られました。

主な成長戦略としては、回答者の大半がM&Aよりもオーガニックグロース(有機的成長)を重視しているものの、多くの企業は、自社が今後12カ月間に買収を計画する可能性が高い、あるいは非常に高いと考えており、レジリエンスが高い企業は低い企業と比べてよりM&Aに積極的な傾向が見られます。

企業がディフェンシブな戦略とオフェンシブな戦略を組み合わせて既存の市場を守り、自社の回復を加速させ、市場のリーダーとしての地位を確立しようとするポストコロナの時代において、M&Aは市場の勢力形成に極めて大きな影響を及ぼすでしょう。サステイナビリティもまた、企業の目的と結びついて事業の成功を定義する要素であることから、新たな時代における企業買収の基盤となり得ます。
 

従業員計画

調査に回答した企業は今後一年間の採用計画には注意を要すると述べており、従業員数の増加を予測しているのは11%に過ぎず、8%は減少すると予想しています。残りの81%は、現在の従業員数の維持、業務委託ベースでの人材登用、あるいはより限定的な形での雇用で見解が別れました。

主要企業はウェルビーイングを仕事に組み入れているようになっており、例えば、多様な従業員セグメントのニーズを満たすこと、デジタルウェルネスを実現し、デジタルを活用して生産性を高めること、そして従業員がどのような形で自社に貢献するかに関して彼ら自身が有意義な意思決定ができるよう、より大きな裁量を与えることでウェルビーイングを実現しようとしています。

プライベートカンパニーの中には、より少人数かつ独立したチームによるアジャイルで実行力のある企業を実現するため、組織を再設計したり、あるいは従業員に関してフレキシブルな配置をしたりすることで、上述した内容の基盤をすでに構築している企業も見られます。そのような動きが、調査対象のプライベートカンパニーがレジリエンスを構築する一助となっており、回答者の19%がすでに組織内での改革を終えたと答えたほか、38%は現在改革に取り組んでいると回答しました。そのような取り組みを行っている企業は結果的にレジリエンスのスコアが高くなります。このことは、今後一年間で労働力を強化する可能性が高いと答えた企業の割合が、レジリエンスのスコアが最下層の企業が48%だったのに対し、スコアが高い層の企業が66%だったことからも分かります(FIGURE 3参照)。

多様性に富み、インクルーシブな労働力を活用することは、レジリエンスのスコアが低い企業の成長戦略では重要度が最も低く、一方、スコアが高い企業では優先度が高い戦略として位置付けられています。
 

デジタルトランスフォーメーション

当社の調査から、テクノロジー投資がもたらすメリットについて、企業の幹部がさまざまな期待を抱いていることが明らかになりました。そのなかでもとりわけ、DXによるカスタマーエンゲージメントの向上、売上高の増加、コストを管理・最小化する能力の強化が期待されています。また、多くの幹部がパンデミック以前よりもDXに関する目標の実現に大幅に近づいていると考えています。

DXに関するプロセスをパンデミック以前から導入していた、あるいは現在進行中であると回答した企業の割合は、レジリエンスのスコアが高い層が80%、低い層が43%と、2倍近い差が見られました(FIGURE 3を参照)。

情報セキュリティは今後12カ月のテクノロジー支出で最大の領域になると見込まれ、クラウドコンピューティングやデータ解析がそれに続きます。回答者の大半もまた、自社がロボティクス、自動運転車、ドローンなどの新興テクノロジーに投資するだろうと予測しています。
 

目的と信頼を再定義する

今回の調査では、目的や信頼に関してすでに幅広く普及している取り組みが、昨年から新たな意味を持つようになったことが明らかになりました。回答者の約70%が、コロナ禍の直接の影響を受けて自社の目的の重要性が高まったと述べており、この傾向は特にアジア太平洋地域で顕著に見られました。

従業員は自分の安全が重視されていると、雇用主がこれからも彼らを正当に扱い、彼らのニーズを第一に考えてくれると信じます。透明性もまた重要です。US Best Managed Companiesに選出された組織による世界的なラウンドテーブル(2021年3月開催)で、参加企業の幹部は、とりわけ不確実な時代において、自社の従業員との間で信頼を構築するための大切な要素として、頻繁かつオープンなコミュニケーションの重要性を強調しました。企業が世界にその足跡を残すためには信頼もまた大きな課題です。
 

緊迫感を持ち続ける

プライベートカンパニーは企業として機敏に動きやすい、とはよく聞く話です。これは重要な転機においてとりわけ大きな意味を持ちます。それでも、先見の明のあるプライベートカンパニーでさえ、パンデミックの発生が主な引き金となり、あまりにも早く未来が到来したことに驚かされました。

アジリティ、目的、文化、長期的な視点を維持する能力が、プライベートカンパニーがコロナ禍でも自社のトランスフォーメーションを進展させる助けとなっています。私たちは、リーダーがよりレジリエントな組織を構築するのに役立つ特性、あるいは企業がこれまでとは違った考え方や行動をとることにつながる特性について、より深く理解できるようになってきました。また、いかにレジリエンスがプライベートカンパニーのリーダーの見通しに情報を与え、彼らが自信を持って未来に目を向けるための力になれるかついても知ることができます。

今回私たちが経験したCOVID-19による事業活動の中断のような状況は今後発生しないかもしれません。しかし加速とレジリエンスは、持久力とともに今後の重要なテーマとなるでしょう。加速とレジリエンスの両方を受け入れ、組織全体に取り入れることができるか。それがプライベートカンパニーのリーダーが取り組まなければならない今後の課題です。
 

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