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事例で見る事業ポートフォリオ転換 ~失敗しないための実務 第1回

なぜ事業ポートフォリオの転換はうまくいかないのか?

刻々と変化するマーケットに対応するために、多くの企業が戦略的に事業ポートフォリオ転換に取り組もうとしている。しかし残念ながらその成功例は多くない。事業ポートフォリオ転換ならではの課題がそこには存在し、それが解決できないが故に必要性は認識されつつも意思決定が先延ばしとなり手遅れになるケースも散見される。本稿では「なぜ事業ポートフォリオの転換」がうまくいかないのか、事例をもとに紐解き、事業ポートフォリオの転換の課題とその解決法について解説します。

I. 事業ポートフォリオの転換の潮流

事業ポートフォリオの転換(=ターゲット市場の変更)は、本社レベルの戦略的プロセスである。日本においてもいくつかの伝統的な企業が適切な事業ポートフォリオ転換により再び成長軌道に乗せ、業績を回復させた事例を見ることが出来る。直近では幾つかのエレクトロニクス企業が家電事業の構造改革を行い、電子デバイス分野を成長させることで急回復したケースや、組立事業を転換事業と位置づけ大胆にアセットの入れ替えを行った結果、産業・社会インフラ事業を中心に好業績を上げているケースも目にする。

しかし、このような成功例が常態かというと、逆に例外と言わざるを得ない。「選択と集中」、「事業ポートフォリオの転換」、「事業構造の転換」といったキーワードを経営計画に盛り込んだものの、その実現が停滞あるいは頓挫しているケースは少なくない。本稿では「なぜ事業ポートフォリオの転換」がうまくいかないのか、我々の経験を中心に紐解きながら、実際に事業ポートフォリオの転換の現場で何が起き、何が課題となり、それに対してどのような解決策が求められているのか紹介していきたい。

II. 事例1:事業撤退の判断~規模を追いたくなる経営者

成長投資資金を確保するために一部収益事業の撤退・売却の提案を受けた電機メーカーのA社長は、首を縦に振らなかった。「全社で赤字なわけでもないし、成長資金の確保には別の方法もある。確かに撤退候補事業の成長はあまり望めないものの、一定の営業利益は上げている。第一、会社の規模を維持し、雇用を守ることも大切だ。」と力説した。説得にあたった経営企画担当のB役員によれば、A社長は従来型の経営者で、事業の売上規模や従業員数を経営者の「格」と捉える向きがあった。B役員は、事業の売却は企業の境界を変更することであり、むしろ雇用を守る方法でもあること、当該事業は当社では成長に必要なリソースの供給が難しく、成長の芽をつぶしてしまう恐れがあること、事業撤退により一時的に収益が低下し一株当たりの利益は希薄化するが、それによって得られる現金を成長性の高い事業へ投資することで長期的には株主価値が向上することなどについて、合理的かつ根気強く説明を繰り返したが、結果として事業からの撤退を実現できたのは社長交代後であった。

事業撤退に対しマイナスイメージを持つ経営者は多い。彼らは事業撤退=失敗のサインだと考えている。特に日本ではそのような考え方が根強く、結果として実施される事業撤退は何らかの圧力(大幅な赤字、親会社の債務、アナリストなどの否定的な意見など)による受動的なものが多い。しかし、資金は勿論、優れた人的リソースの確保が容易ではない今日、「選択と集中」はこれまで以上に不可欠であり、経営判断上、自発的になされるべきである。能動的な事業撤退を通じて好業績に返り咲いた事例も多く、それらは株価にも反映され、成功のサインと捉えられる。過去に実施された事業撤退に関して、その要因が能動的であった場合、そのプレスリリース前後の株価の値動きを見ると、市場はこれらの事業撤退を成功のサインと捉えている事例が多くみられる。市場の期待は、事業の規模より質にうつっている。

III. 事例2:技術開発分野の撤退・縮小・売却~根拠なき技術神話

医療用機器を製造・販売する本業から派生したC事業は、現在も本業への技術の供給を行いつつ、外販も行うという事業であった。元来は本業に必要な生産設備を提供・維持することが主眼のコストセンターであったが、保有する技術を外販することでプロフィットセンター化することを目的としていた。これは収益確保もさることながら、外販を通じて顧客からの要望に応えることで技術を研鑽し、本業に還元することも意図したものである。

しかしながら、技術を外販することは容易でなく、事業化後数年経った今でも毎年、多額の赤字を計上している状況であったため、改めてこのC事業をどうするか、「撤退・縮小・売却」もしくは「存続」という議論の俎上に載せられた。C事業部長は、「確かに赤字ではあるが、純粋なコストセンターとしてかかるコストよりも赤字幅は少なく、また当事業部がなくなると、本業が立ち行かなくなる。また当社の本業は特殊な事業であり、自社開発の技術があってこそ成り立っている。外注で同じ技術を獲得することは極めて難しいため、C事業は赤字であっても存続させなくてはならない。本業に影響が出る。」と主張した。経営陣は、本業への影響は回避したかったため、この議論においては結論が見いだせずにいた。

それに対し、コンサルタントはいくつかのオプションを提示した。「事業をそのまま継続した場合」から「純粋なコストセンター化する場合」までいくつか考えられる機能の組み合わせ、それらに必要となる人員(組織能力)、設備、治具、研究資材までを洗い出し、一つ一つの作業の外注可否の検証を行い、各オプションの想定損益をシミュレーションした。その結果、現在では殆どすべての技術はコモディティ化しているという現実が見えてきた。自社の技術の特殊性、優位性を訴え、マーケティングの問題としていた技術者達ではあったが、技術部門のトップから末端の従業員に至るまで、殆ど競合の保有技術が何かを知らず、それらと自社の技術の比較もされぬままであった。根拠に乏しい抽象的な議論をいくら重ねても何も見えてこない。定量的な情報に基づくこと、また、定性的な情報であっても、ファクトとロジックの裏付けのあるものではじめて議論になる。

IV. 事例3:注力分野におけるマネジメントの在り方~コラボレーションの落とし穴

既存の事業部とビジネスチャンスとの間に歪みが生じるケースがある。特に複数の市場が融合し、新技術を取り入れた新たな市場が成り立っているような状況においては、急成長を遂げる事業と消えゆく事業が神出鬼没かつ変幻自在に現れる。そうした環境下において、事業部間に高い壁が存在したり、組織図上に漫然と組織の箱を並べているようでは時代の流れに後れを取りかねない。ここに、これまで順調に事業を拡大してきたX事業とY事業があるが、新たな技術の登場により既存事業のパイが削られていくことは確実であった。この両事業を所管するX事業部長・Y事業部長は共に優秀なマネージャーであったため、この事業環境の変化に機敏に対応し、それぞれの事業が将来の新たな収益の柱としてZ製品群の立上げを進めていた。

トップマネジメントは、本案件において折衷案を採用した。すなわち、このZ製品群に関して役割、責任範囲を分けることとし、X事業部には製品開発、Y事業部にはマーケティングの責任を切り分け、コラボレーションという名のもとにプロジェクト体制を組成したが、これが命取りとなった。結果として、X事業部もY事業部もZ製品群においては何ら果実を得ることは出来なかった。双方の組織が互いに責任を押し付け合ってしまい、プロジェクトが頓挫したのである。
本来トップダウンで判断すべきところ、双方の顔を立て権限を分断したため、誰一人として責任を持って推進する者がいなくなった。正確には、X事業部長とY事業部長をステアリングメンバーとしたプロジェクトが組成され、そのリーダーがいたが、X事業部とY事業部という2つの大きな部門からは、この新プロジェクトは脇に追いやられ、必要なリソースを得ることが出来なかった。X事業部長、Y事業部長それぞれにとって担当事業の業績を如何に維持するかが最も重要な関心ごとであった。

事業ポートフォリオの転換においては、既存組織が抵抗勢力化することがある。事業ポートフォリオの転換を行うには、強いリーダーシップと共に組織の柔軟性を高め、抵抗勢力化を回避することが重要だ。

V. 事業ポートフォリオ転換のポイント/留意点

ここまでのケースにあるように、トップマネジメントから末端の従業員まで、事業ポートフォリオの転換は、たとえ必要性は理解していたとしても、出来るだけ実施は避けたい、或いは先延ばしにしたいという考えが働く領域だ。

しかしながら、この「先延ばし」という意思決定の結果、放置された事業の多くはそう遠くない未来に衰退することになってしまうであろう。これまで数多くの事業ポートフォリオの転換に向けた支援をしてきた経験から、事業ポートフォリオの転換を進めるために重要となるのは、(1)判断のモノサシを正しく決め、(2)判断材料をわかりやすい数字に置き換え、(3)戦略の柔軟性を確保するという3点にある。
 

(1) 判断のモノサシを決める

事例1のように、会社の規模感(売上高、従業員数など)や、短期の指標を何よりも重視すべき指標としているようでは事業ポートフォリオの転換は難しい。特に現経営陣がこうした指標に意識が向いていては将来への大きな判断に踏み切ることなどできないだろう。ここで求められるのは、経営者として「何にコミットするのか」である。数年間の在任期間で短期的な収益指標にコミットするなら、そもそも事業ポートフォリオの転換に取り組む必要などない。少なくとも3年から5年、さらには10年程度の時間軸での成長にコミットするならば、事業ポートフォリオの転換は極めて有効な手段の一つであるし、その際の意思決定においては、株主価値に直結するROEをはじめとする資本効率を図る指標(ROIC、EVAなど)をモノサシとして運用する必要がある。

また経営においてはバランス感覚も求められるものではあるが、最も重視する指標(判断のモノサシ)を社内/社外に対し中期経営計画などで明確に宣言することで、部下たちに方向性を示すことにもなり、同時に経営判断に迷いが生じたときに本来の方向性(コミットメント内容)を見失わない道標ともなる。
 

(2)判断材料を数字に置き換える

事例2のように、長年議論をしているがいつまでも決まらない、あるいは結論は出ていても実行しないのは、往々にして定性的な情報での議論に終始し、議論ごっこの域を脱していないことにある。一見、資料に数字が並んでいても、それが意思決定の鍵となる情報でないならば意味はない。定量化にはそれなりの労力が必要であり、いくつか前提をおく必要があるから正確ではないと、やたら精度を求めたがる者は少なくないが、経営の意思決定においては、極端に言えばプラスかマイナスか、一桁億円か二桁億円か、という程度で足ることも多く、それ以上に高い精度を求め、判断を後ろ倒しにしているケースが散見される。

まずは、目的に対し必要となる情報は何かを明確化し、定量化された情報で判断をしていくことが必要だ。
 

(3)戦略の柔軟性を確保する

事例3のように、マーケットの変化に応じて、事業ユニットの形を変えていくことが有効な場合は多く、これも事業ポートフォリオ転換のための一つのきっかけとなる。特に、事業の環境変化が速いIT、通信、テクノロジー領域の企業は日々事業ユニットの対象領域、ユニットサイズの見直しを行っている。事業ユニットを長い間変えていないということは、市場や競合環境の変化が激しい今日において、規制産業などのよほど安定した市場でなければ、組織として市場に対峙していないということにほかならない。

そのためには、戦略事業ユニットを戦略目標が明確な最小ユニットとして定義し、それらの集合体の管理がすべての事業の管理というモジュール的な組織運営も一考に値する。この組織運営を通じて、マネジメントは自社のリソースとそのパフォーマンスを平易に捉えられ、全社として自社の経営資源をどう動かすかの判断の負荷は大幅に軽減する。その結果、マーケットの変化に柔軟に対応する形で、戦略や組織を適宜刷新し、その実行力を高めることができ、また、撤退や売却が必要な場合にも組織・人事上の課題が比較的解決しやすくなる。

VI. 事業ポートフォリオ転換によるもう一つのメリット

ここまで事業ポートフォリオの転換側、つまりどの事業を残し、どの事業を成長させるかを決定する経営側主体の目線で議論してきたが、実は、もう一つの側である切り出された側の事業にとっても事業ポートフォリオの転換は悪いことではないことを付記しておきたい。実際、スピンオフ企業が元の組織から切り出された後に経営の自由度を獲得し、起業家精神に富んだ柔軟性のある事業運営を実現しているという例もある。

例えば、無印良品を展開する株式会社良品計画は、元は西友のプライベートブランドであるがスピンオフし、商品企画力やオペレーション力を伸ばして成功した企業である。このように現在所属する企業において中核事業でないことは、決してダメ事業を意味するものではない。むしろ切り出しを通じた新たな経営資源の獲得と、切り出された事業に経営の自由度を提供するきっかけと捉えるべきであろう。


本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
チーフリストラクチャリングオフィサー(CRO)サービス
シニアヴァイスプレジデント 豊田 洋司

(2018.3.28)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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