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データガバナンスの必要性と導入方法

FA Innovative Senses 第3回

新規事業PoC(Proof of Concept)や既存ビジネスの効率化、最適化、または経営戦略の立案を目的としたデータ利活用は、この数年でさまざまな企業において取り組みが進んでいる。データドリブン経営の考え方が浸透するにつれて、環境整備や人材確保のためのDX投資を拡大させている企業が増えている一方で、その効果を正しく把握し成果を享受できている企業は多くない現状がある。データ利活用の取り組みが持続的な効果を生むために、データガバナンスの導入が求められる。

データガバナンス概要

データガバナンスとは、企業における適切なデータ管理と利活用の取り組みを正しくコントロールするための仕組み、業務プロセスを含めた活動を指します。個人情報の取り扱いをはじめとした、データ利活用の過程で発生しうるリスクを最小化しつつ、データから享受できる価値を最大化するために、企業のデータ利活用を支援するための一連の枠組みです。

データ利活用の取り組み状況としては、数年前のビッグデータ分析にはじまり、機械学習モデルやAIの導入、直近ではChat GPTをはじめとした生成AIのビジネス適用検討が各業界で進められています。ただ、それら先進的なデータアナリティクス技術の適用が企業内の限定された範囲にとどまり、成果を正しく評価する基準を持たない企業がまだまだ多い印象です。

経営の視点でデータ利活用への投資対効果について正しく評価し、且つ今以上にデータからの価値創出を加速させるためにも、取り組みの効率性を高め、適切に統制を効かせることが必要といえます。

そうした背景に照らし、データ利活用を進める企業においてデータガバナンスの仕組みと運用体制を構築することが求められています。

図(1):データガバナンスの位置付け
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データガバナンスの要素

データガバナンスの策定、導入にあたっては、以下の構成要素を踏まえてそれぞれ検討が必要となります。

  1. データ利活用の目的・ビジネスニーズ
    データ利活用によって実現するビジネス価値、明確な目的を経営層から発信することが重要です。データガバナンスはそれら目的達成を支援する位置づけとなり、整備すべきデータ取り扱いポリシーやデータの管理・監督方針や基準等に関わってきます。
  2. データの所在と価値の把握
    ビジネスニーズに照らして必要となるデータとその価値を評価する指標を定義し、収集・蓄積するデータの仕分けを行います。必要なデータを社外から費用をかけて調達する必要がある場合、投資対効果について評価する基準が必要となります。
  3. データ品質基準
    データ資産の維持管理、またデータ分析等の具体的な施策への活用にあたっての効率性や統一性を担保する意味で、データ品質の基準が必要となります。取り扱うデータの種類や形式、DWH(Data Warehouse)や分析基盤等の利活用環境も踏まえて整備が必要です。
  4. データ取り扱いポリシー・基準、マネジメント業務プロセス
    取り扱いデータに個人情報や営業秘密が含まれる場合、それらの取り扱いにあたり遵守すべき法令や契約事項を踏まえた管理規定やデータ取り扱いポリシーについての整備が必要となります。個々のデータによってアクセス制限や参照権限付与のレベルが異なるケースも多くあることから、ユーザーの業務負荷を低減しつつ、リスクを最小化できる仕組み、業務モデルの設計が求められます。
  5. 管理体制
    データ利活用の目的達成を支援するため、既存のデータマネジメント体制も踏まえて、持続的なデータガバナンス運用のための専門チーム・体制の設置が必要です。トップマネジメントとユーザーサイドそれぞれと連携し、データ利活用の効率化と統制維持の両立を図る必要があり、それらの執行・監督にあたる役割を定め、管理プロセスの安定的運用が可能となる体制構築を行います。
  6. データドリブンな”文化”の浸透
    データ利活用と併せてデータガバナンスの重要性発信をポリシーの遵守やコンプライアンスに関する教育等を通じて継続的に実施することで、企業全体でデータリテラシーの向上を図っていきます。そのためには、経営層からの具体的メッセージの発信や、データドリブンの経営方針について打ち出していくことが重要です。

 

データガバナンス導入のステップ

企業のデータ利活用の成熟度や経営方針等の条件によって、前後する工程はあるものの、概ね以下のステップに沿ってガバナンス導入を進めます。

  1. 前提整理
    データガバナンス導入の前提となる、データ利活用の目的や実現事項を明らかにします。データガバナンスはデータ利活用の効率化や効果最大化を図るべきものであり、そうした位置づけや重要性について、経営層の理解とトップダウンの後押しが必要となります。
  2. 課題整理
    データガバナンスによって統制と効率化を目指すべきデータライフサイクルの現状把握を行い、あるべき利活用の姿(To-Be像)とのギャップを整理することで、実現に向けた課題を明らかにします。整理した課題に基づき、DMBOK(Data Management Body of Knowledge)フレームワーク*等も参照しながら検討を進めるデータガバナンスの要素やテーマの優先順位付けを行います。
  3. データガバナンスの構築
    まず、利活用の取り組みで扱うデータについて棚卸を行います。自社内に点在するデータの所有部署や外部購入データ等の契約状況などを網羅的に把握し、各データの価値について評価を行います。データを適切に取り扱うためのポリシーや品質の基準を設け、ユーザーが遵守した上でデータ利活用ができる業務プロセスに落とし込みます。そうしたユーザーの遵守状況を監督する組織や責任者の人選など管理体制の確立を図ります。
  4. データガバナンスの運用
    データ利活用の浸透と併せてデータガバナンスに関する意識付けについても研修プログラムなどを通じて教育を進めていきます。ユーザーの遵守状況を通じて、導入効果を測りながら、持続的な改善を行っていきます。

図(2):データガバナンスの導入ステップ(図内で一部データガバナンスをDGと表記)
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*DAMA DMBOKフレームワーク|一般社団法人 データマネジメント協会 日本支部(https://www.dama-japan.org/DAMAJ_index.html

 

生成AIとデータガバナンス

Chat GPTやStable Diffusion等に代表される高い汎用性と想像性を備えた生成AI(Generative AI)をビジネスに活用し、新たな企業価値を生み出す取り組みが各業界で検討されています。これまでのAI技術は、ビジネス機能の一部を自動化、または最適化することで効果を発揮してきたかと思いますが、生成AIの登場によりそれ以前は人間が担ってきたクリエイティブな領域をはじめとした人間以外では代替しにくいとされてきた業務においても、適用可能であるケースが示されています。

一方で生成AIの活用が生むリスクについても幾つか明らかになってきています。大規模言語モデルをベースにしたチャットボット等で生成されるアウトプットに、差別的表現や不正確な情報が含まれる等の問題が指摘されています。AIモデルの学習に必要なインプットデータの評価や選定、出力される結果に対する検証が必要になるなど、生成AI活用には信頼性や品質を担保するためのガバナンスが必要になると考えられます。

企業のデータ利活用が進展する中で、生成AIのビジネス活用も今後含まれていくものと考えられるため、早期のデータガバナンス導入は、生成AIを効果的に活用しビジネス成果を生む取り組みの中で今後より必要性が高まることが予想されます。

データから新たな価値を生み出し、生成AIの活用によって競争優位性を獲得する上でも、経営レベルでデータガバナンスの重要性を理解し、その構築と導入をトップダウンで推進していくことが求められます。

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