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M&Aにおける最適化の視点

Financial Advisory Topics 第1回

Financial AdvisoryのHot Topic解説や事例紹介、新規サービスなどを紹介する新連載。第1回は、アナリティクスを紹介します。M&Aを成功に導くためには統合後のプランをディール当初から意識することが大切ですが、そうした将来への意思決定に向けたインサイトを得るための基礎になるものの一つが、企業の各種データ資産です。そのなかで特に定量的なインサイトを導き出すのがアナリティクスです。

I.はじめに

M&Aの一般的なプロセスは、基本合意書の締結やデューデリジェンスなどを経て、買収契約の締結、クロージングと進み、シナジー実現に向けた統合作業を実施するPMI(Post Merger Integration)に至る流れで構成される。そしてM&Aが“成功した”といえるのは、実際にシナジー効果が発揮された時である。その意味で統合後のプランをディール当初から意識することは大切といえる。同様にリストラクチャリングにおいても事業再生後の実効性あるビジネス計画を念頭に置きながら課題を解決していくことが大切といえるだろう。

そうした将来への意思決定に向けたインサイトを得るための基礎になるものの一つが、企業の各種データ資産である。オペレーションの変革やそれを可能とするITの視点でM&Aライフサイクルの各フェーズを支援するM&A Digitalサービスのなかで、特に定量的なインサイトを導き出すのはアナリティクスである。

例えば、M&Aで事業拡張をした運送会社が新しい拠点も含めて日々何往復も配送を行うとする。経営者はどのルート、配送順序、荷物の積み込みをすると最短時間とコストで配送ができるか知りたいであろう。そうした計画策定を行うためには、この運送会社が持つデータを活用することになり、その有効なアプローチがアナリティクスにおける最適化だ。

II.最適化の事例

最適化は多くの組合せの中から目的に合ったものを考えるような場合に適している。よってPMIなどで最適化の視点を取り入れる場合、サービス/製品ラインナップの再編や各事業規模の再編といった課題に対して有効であろうことは想像できると思うが、ここではもう少し具体的に流通分野のPMIを例として取り上げてみる。最適化によるプラン策定が有効となり得る課題としては次のようなものが想定される。

  1. 輸送体制の最適化:新拠点や輸送先が加わることでどのように輸送体制を組んだらコスト効率が良いか
  2. 輸送経路の最適化:新たな輸送先が加わることで、どのルートに、どれぐらいの輸送量を配分すると効率的か
  3. 稼働拠点の最適化:地域単位で見たとき、新拠点が加わることで統廃合の必要はないか
  4. 荷物積載率:新たな輸送手段が増えても、それに応じて積載率を最大化するようになっているか

このような課題に対し、下表にあるように「用いるデータ(入力データ)」「得られる結果(出力結果)」、そのために「最適化する項目(最適化項目)」を決める。これを、M&Aにて新たに追加されたビジネスリソースに対する制限や運用ルールを定式化することも含めて最適化のためのモデリングという。少し注意する必要があるのは、PMIの課題におけるビジネスリソースの多くは整数値なことである。実際、流通分野の例でも輸送車を0.5台にするとか輸送荷物を0.3個に分割するようなことはできない。そのため、入力データが整数値の場合、制約条件の範囲内で取り得る値の組合せを全て試すことに相当する計算を行うため、「組合せ最適化」と呼ばれるクラスの最適化アルゴリズムを用いることが多い。実際には詳細な状況をモデリングすることは難しい場合もあるが、それぞれ下表に示したようなデータを用いて一定レベルの解の導出ができれば、それを叩き台としてモデリングに盛り込めなかった条件に関して修正を加えていくことで、真の最適解に近づくことは可能と考えられる。

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III.最適化の流れ

少々大雑把だが、PMIやリストラクチャリングにおける最適化とは「ビジネスリソースの制限や運用ルールの範囲内に存在する膨大なシナリオの中から最も評価基準に合ったものを算出すること」である。ここで評価基準とは、例えば運用コストの効率性の高さのような最適化項目である。このようにシナリオが膨大になることが分かっている時に総当たりで考察するのは難しいため、最適化問題として捉えることで、シナリオ可能性が多くても総当たりせずに最も運用コストを少なくするリソース体制などがどのようなものになるかを導出できる。よって最適化では、インサイトを必要とする問題をどのようにモデル化するかが重要となる。

そしてモデルによって最適解を計算するアルゴリズムが異なってくるが、幸い最適化計算のソフトウェアについてはフリーのものも含めてかなり整備されているので、モデルが定まればその問題を解くためのライブラリーやパッケージを使うことで大抵の場合は計算できる。つまりPMIなどで最適化のインサイトを得るために重要なのは、いかにモデル化を行うかの部分であり、それにかかっているともいえる。もちろん算出された解の意味を実務的観点から検討・検証して、意味のあるインサイトと結び付けることができるようになるまでモデルの調整を繰り返すことも必要である。

 

IV.おわりに

最適化の視点を導入する際、一度のモデル化作業で完了するわけではなく、下図のように何度か作業を繰り返しながらより良いモデルを作り、そこで得たインサイトを採用することになる。もっとも、こうしたスパイラル状にモデル化を進めることは最適化に限ったことではなく機械学習にも当てはまるアナリティクスサービス全般の進め方で、一見遠回りに見えるこうしたアプローチが最も確実に将来の意思決定に近づくことができる方法だ。PMIやリストラクチャリングの計画策定局面で、選択できるシナリオが多すぎて意思決定に困るようなときや定量的裏付けを必要としているときなどには、本稿で述べたような最適化の視点を導入することも有効ではないだろうか。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

 

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執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
アナリティクス
ヴァイスプレジデント 清水 淳也

(2021.9.1)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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