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ホテルのESG認証~持続可能な観光のために宿泊施設ができること

Financial Advisory Topics 第10回

観光業界においてサスティナブルな旅行に対する関心が高まっています。今後、ホテルが持続可能な運営、発展を継続していくための道標としてエコラベルやサスティナビリティ認証の活用について解説します。

I. 概要

観光業界においてサスティナブルな旅行に対する関心が高まっている。今後、ホテルが持続可能な運営、発展を継続していくための道標として、エコラベルやサスティナビリティ認証を活用することが有用ではないだろうか。

II. 業界動向

A) 旅行者の意識変化

コロナ禍で旅行が制限される中でもサスティナブルな旅行に対する意識は高まっている。世界大手OTA*1 のサスティナブルトラベルに関する調査(2021年)によると、世界の旅行者の81%が1年以内にサスティナブルな宿泊施設を利用する意思を示しており、2016年の62%から年々増加している。ホスピタリティやコストパフォーマンス、アクセスといった従来の要素に加え、サスティナビリティに関する取り組みの有無が消費者にとって重要な決め手の一つになりつつある。 また、同調査によると76%の旅行者が第三者機関のサスティナビリティ認証を受けた宿泊施設の利用を望んでいる。宿泊施設がサスティナブルな運営をしているかの判断材料として、多くの旅行者が第三者機関の認定に信頼を置いていることが伺える。

旅行者の意識変化
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B) 旅行代理店からのはたらきかけ

旅行者の意識変化に加え、宿泊施設にとって重要な販売チャネルである旅行代理店やツアー催行会社もパートナーホテルに対し、環境や地域社会に配慮した運営を求めている。例えば、日本でもよく目にする大手OTAでは施設概要やアクセス欄に並べて、「サスティナビリティに関する取組み」の項目を設け消費者に示している。予約サイトによっては、一定の基準を満たしたホテルや既にエコラベルを取得した宿泊施設を検索できるフィルター機能を導入している。OTAやツアー会社がそれぞれのESG戦略の一環として、旅行者に対しサスティナブルな旅行手段を提供することを掲げ、サスティナブルなサプライチェーンの構築を始めている。将来的にはサスティナブルなホテルを優先的に販売網に組み込むだけでなく、取り組みに消極的なパートナーホテルをサプライヤーから除外することも考えられる。
 

C) DMOからの圧力

宿泊施設が所属する観光協会やDMO(Destination Management Organization*2 )においても、サスティナブルな観光地への転換に向けて努力がされている。2020年には観光庁が「日本版持続可能な観光ガイドライン(Japan Sustainable Tourism Standard for Destinations,JSTS-D)」を策定している。世界的に信頼の高いGSTC(Global Sustainable Tourism Council*3 )の国際基準に則り定められた、観光地マネジメントにおける日本版ガイドラインである。自然、文化遺産を守り、住民と観光客の双方にとってプラスになるような持続可能な観光地を推進する意図がある。ガイドラインの項目の一つには「事業者における持続可能な観光への理解促進」が含まれており、もちろん宿泊施設も対象となる。地域の観光を支える一員として、宿泊施設にもサスティナビリティに関する教育や取り組みが求められている。

III. サスティナビリティ認証

こうした、消費者やパートナー企業、政府や地域の変化に対し、個々の宿泊施設ができることは何か。その取り組みの中心となるのがエコラベルやサスティナビリティ認証の取得だ。
 

A) 宿泊施設を対象とした認証

様々なエコラベルや認証プログラムが存在する中で、信頼性の高いものの1つが前述のGSTC(Global Sustainable Tourism Council*3 )が定めたホテル向けの国際基準である。GSTCの基準は①持続可能な運営、②社会経済への影響、③文化への影響、④環境への影響の4つを柱に、最低限守るべき基準が定められている。GSTC自体は企業や施設に対し直接審査はせず、各認証機関に対してGSTCの基準に沿ったものであるかを審査する。GSTCの基準に準拠した認証プログラムは国や地域固有のものも含め現在約35のプログラムが存在する。その中には、世界的なホテルチェーンが独自でGSTCに準じた基準を設け、加盟ホテルに対して参加を課しているものも含まれる。どの認証取得を目指すのかは自社施設の特性や規模に応じて選択できる。
 

B) 日本のホテルの取得状況

一方で、日本での認知度はまだ高くない。GSTCの基準に準拠したエコラベルや認証制度の内、国際的に使用されている5つの認証制度について調べたところ、日本国内の取得実績はそれぞれ数施設にとどまっていた。例として、A認証は65ヶ国3,605施設が参加するエコラベルであるが、その内日本の施設は5施設であった。前途の通り、サスティナビリティに対する消費者からの視線は厳しくなっており、今後はこうした認証取得によるアピールが望まれる
 

C) 今後の取り組み

認証取得に取り組む意義は、第三者が認めたという信頼性やラベルの認知度だけではない。環境問題への対策や地域社会との共存において、宿泊施設が取り組めることは多々あるが、その分明確なゴールもなく、何をどこまでやればいいのかという指針無しに実行することは難しい。例えば、トイレを流す水量が何リットルであれば、節水であると言えるのかを即答できる人は多くはないだろう。多くの認証制度には、トイレの節水基準や、従業員への教育プログラムの実施頻度、環境にやさしい洗剤の使用割合などにおいて、具体的な目標数値が定められている。一つ一つ基準をクリアしていけばサスティナビリティに配慮した宿泊施設になれるのだ。多くのリソースをもたない小規模施設でも取り組みやすい。また、節水や節電の目標数値は経費の削減に繋がり、従業員への教育はモチベーション維持にも貢献する。せっかく分かりやすいロードマップがあるのだから、活用しない手はない。できるところからすぐにでも着手をし、コロナが収束しインバウンド客が戻る頃には世界から選ばれるサスティナブルなホテルを目指したい。

主な国際認証やエコラベルにおける日本国内での取得数
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IV. おわりに:サスティナビリティ推進支援

当社では、サスティナブルな運営を目指す宿泊施設に対し、認証取得の支援業務を行っている。認証の取得には具体的な計画策定や様々なデータの提出が求められ、サスティナビリティの重要性を理解していても、実行に移すにはリソースが足りない場合も多い。煩雑な書類を効率的に作成し、的確な施策策定を支援することで、認証取得までの期間の短縮化を図る。日本がサスティナブルな目的地として胸を張って旅行客を誘致できるよう、宿泊施設のサスティナビリティ推進にさらに貢献していきたい。

エコラベルやESG認証の取得や維持における支援構築
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*1:オンライントラベルエージェント

*2:様々なステークホルダーと協業し、地域の観光産業を戦略的に推進する法人や団体

*3:エコラベルが乱立する中で、信頼できる持続可能な観光の国際基準を開発するために国連機関を中心として2007年に設立された国際非営利団体

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
シニアアナリスト 大堀 顕司
アナリスト 渡辺 彩未 

(2022.6.13)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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