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データ分析体制支援
Financial Advisory Topics 第12回
「DX」デジタルトランスフォーメーションが叫ばれて久しくなっています。しかし、データをどのように活用すれば良いかわからない、DX人材をどのように育成すれば良いかわからない、またデータが社内に分散しているといった課題を抱えている企業はまだ多いのではないでしょうか?本稿ではデータ分析を社内に定着するために行った取り組みの一例をご紹介します。
I. 初めに
「DX」デジタルトランスフォーメーションが叫ばれて久しくなっている。
DXはもはや競争優位性を築くというより、企業の規模を問わず、ビジネスを進めていくうえで必須の要件となっている。また社内でのデータ活用人材(DX人材)の必要性が高まっているなか、データサイエンティストなどの専門家だけではなく、一般のビジネスパーソンにもデータ活用に関するリテラシーやスキルが求められる時代だ。
しかし、データをどのように活用すれば良いかわからない、DX人材をどのように育成すれば良いかわからない、またデータが社内に分散しているといった課題を抱えている企業はまだ多いのではないだろうか?本稿ではデータ分析を社内に定着するために行った取り組みの一例をご紹介する。
II. 背景
ある製造メーカーではこれまでトップラインを伸ばすことを第一と考えており、データが社内に分散、人手不足などの問題から製品単位での原価の配賦が年次でしか行われておらず、製品毎の収益性などの詳細な分析も年次レベルのみの実施になっていた。コロナの影響もあり利益を伸ばす経営への転換が必要と考え、分析環境の改善と利益状況の可視化についてご相談を受けた。
III. 目的
今回のプロジェクトでの到達目標が掲げられた。
- 製品単位での利益の把握を月次で行う
- 社内で既にTableauを導入しているため可視化はTableauで行う
- 運用は自社で行う
- Tableauを有効活用できる人材を育成する
それぞれの目標に対してどれだけの時間がかかるかはっきりしないため、以下のフェーズに分けて実施した。
- 原価配賦ロジック構築とデータ処理の自動化
- 可視化の実装
- DX人材の育成
それぞれのフェーズについて見ていく。
IV. 原価配賦のロジック構築とデータ処理の自動化
製品別の利益を月1回確認するためには原価を毎月製品に配賦する必要がある。
これまで年1回行っていたものを12回行うようになっただけ・・・となればよいのだが、実際のところ12回行えるようにするためには機械的な配賦ロジックの定義が必要となる。また、配賦に必要なデータが1カ所にまとまっていないためデータの収集加工も必要となった。原価の配賦は売上規模や人員状況といった機械的に取得できる指標によって行うが、製品の利益性にかかわるため各事業部との繊細な調整のうえ、配賦ロジックを定義した。運用を自社内で行えるようにするため、分散したデータの収集統合は ETLツールを導入しできる限り手作業の少ないよう実装する。
ETLツールとはデータを抽出(Extract)、変換(Transform)、格納(Load)するソフトウェアで、ツールによって異なるがグラフィカルなインターフェイスをもち、一度ワークフローを作成すればボタン一つで再実行できるようなものが多くなっている。
ETLツールを使用し原価や売上といったデータをまとめて取り込み、売上へ原価配賦し可視化用に出力する。
今回はTableauとの親和性の高いAlteryxを使用した。
Alteryxにより煩雑なエクセルのデータも含めたデータ処理が可能となり、全ての処理がグラフィカルに可視化されているため自社内で運用するためのスキルトランスファーも容易となった。
V. 原価配賦のロジック構築とデータ処理の自動化
データが準備できたらいよいよ可視化になる。
・・・とはいうものの、データの準備と可視化はコインの表と裏の関係だ。
可視化できる範囲はデータによって制限され、実現したい可視化によってデータの修正も必要になる。
完全に「何を作りたいか」が明らかでデータの状況も明らかであればデータの準備から可視化へとウォーターフォールで行うが、そういったケースは多くない。
進めていく中で、「実はこのデータがなかった」、「こういう風に見られるのであればこういったものも見たい」といったイレギュラーや追加のご要望をいただくことが多くなる。
そのため、データの準備がある程度進んだ段階から並走して可視化を行い、クライアントと適宜コミュニケーションを取りながらアジャイルで作成する。
今回は売上、売上総利益、営業利益、経常利益といった項目を事業部別や営業所別に深堀するダッシュボードや製品カテゴリから製品単位に深堀するダッシュボード、マーケティング目的のダッシュボードを作成した。
VI. DX人材の育成
DX人材の育成と銘打っているが、今回の場合「Tableauを使用して自分で分析しダッシュボードを作成できる人材の育成」がテーマとなる。
研修期間は2ヵ月間で以下のプランで実施することとした。
- BIツールの資格の合格を目標とする
- 社内のデータを使用して研修を行う
- 受講者自らテーマを考え可視化を行い最終回に発表する
それぞれの意図を解説する。
- BIツールの資格の合格を目標とする
BIツールの入門的位置づけの資格の合格を目標とすることで、モチベーションの維持と網羅的な知識の獲得を図る。 - 社内のデータを使用して研修を行う
自社のデータを使用することによりデータについての理解がしやすく、自分事としてとらえやすくなる。 - 受講者自らテーマを考え可視化を行い最終回に発表する
研修をただ受講するのではなく自分事としてとらえ、自分で分析テーマを考え実践する練習のため行ってもらう。
VII. おわりに
「データ分析は前処理が8割を占める」などといわれますが、データの可視化においても同様だ。
データの準備と可視化を連動させ、クライアントと密にコミュニケーションを取りながらアジャイルにプロジェクトを進めていくことが肝要となる。
また、人材育成については目標の設定と研修を自分事と捉えられるための工夫が重要と考える。
今回は一例を紹介させていただいたが、クライアントによってニーズやデータを取り巻く環境は様々でありプロジェクトの進め方も様々になる。
「研修だけお願いしたい」
であるとか、
「DXを推進するにあたり可視化を行いたいがどう進めればいいか・・・」
といったところからご一緒に検討させていただくことも可能である。
ご興味がございましたら是非ご連絡いただきたい。
執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A Digital
シニアアナリスト 林 周作
(2022.8.9)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。