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時系列分析による不動産価格の将来予測

Financial Advisory Topics 第23回

日本においては、不動産価格に関する指標として、公示地価等の時系列データが存在します。不動産市場分析を行う際には、当該指標を活用することも多いですが、将来予測に関する見方については、評価者の主観的な判断となっている傾向があります。本記事においては、将来予測に用いられる手法の一例として、時系列データの統計学的解析手法であるARIMAモデルを用いて、不動産価格の将来予測を行う場合の基本的な流れを紹介します。

ARIMAモデルを用いた不動産価格の将来予測

ARIMAモデルとは、自己回帰モデル(ARモデル)と移動平均モデル(MAモデル)を組み合わせた自己回帰移動平均モデル(ARMAモデル)を、階差に対して適用したモデルです。ARモデルは、時点tにおけるモデル出力が時点t以前のモデル出力に依存する確率過程を表現したモデルであり、MAモデルは、時点tにおけるモデル出力が時点t以前の誤差項に依存する確率過程を表現したモデルです。ARMAモデルは、ARモデルとMAモデルから構成される確率過程を表現したモデルです。各モデルの計算式は以下の通りです。

ただし、当該ARMAモデルは、分析対象の時系列データが定常性(注)を有する場合には高い説明力を有するのですが、一般的には、不動産価格の推移を含む多くの時系列データは定常性を持たないことがほとんどです。

(注)定常性とは、時系列データの特性の一つであり、時間が経過しても期待値や分散、自己共分散が一定であることを表します。つまり、データの平均や変動の程度、前後の時間帯の関係性が時間に依存しない状態をいいます。

定常性を持つデータは、将来の値を比較的予測しやすく、統計分析を行ううえでも扱いやすいとされています。一方、定常性を持たないデータは、時間の経過とともに平均や変動幅が変化するため、将来予測や統計分析には注意が必要となります。

ARIMAモデルでは、定常性を持たない不動産価格のような時系列データに対しても、データの階差をとることで定常性を持つデータに変換することができます。階差とは、データの時間変化における増減量を表す差分のことで、階差を取ることでデータの変動幅を一定に保つことが可能となります。ARIMAモデルでは、このようにして定常性を持つデータに変換した後に、自己回帰モデルと移動平均モデルを組み合わせて将来予測を行います。

また、ARIMAモデルは様々な時系列データの将来予測に適用可能で、売上高や来店者予測といった項目のほか、国民経済計算の在庫増加の算出方法等においても活用されている手法です。

日本においては、公示地価の制度により、不動産価格に関する長期の時系列データの活用が可能であるため、参考までに、当該データを用いた初歩的な将来予測を以下で行っております。なお、本記事においては、統計データの分析で広く活用されているR言語を用いてプログラムを作成しております。

 

分析手順の解説とプログラミングコード

1975年から2023年の全国地価公示平均価格を分析対象の時系列データとして、以下の手順でARIMAモデルを適用のうえ、不動産価格の将来予測を行います。

【手順】

① 分析対象の不動産価格に関する時系列データの読み込み。

② 時系列分析に必要なライブラリをインポートする。

③ データの形式を分析可能な型に変更する。

④ 時系列データが定常か非定常かを判断する(ADF Test* : 拡張ディッキーフラー検定)。

⑤ ARIMAモデルにおける適切な次数を決定する(AIC** :赤池情報基準量)。

⑥ ⑤で求められた次数を適用のうえモデルを決定する。

⑦ 上記モデルにより不動産価格の将来予測を行う。

*ADF Test: 時系列データが単位根過程(長期的なトレンドが存在し、非定常な性質を持つが、当該差分系列は定常である過程)であるかどうかを検定する統計テスト 

**AIC: 異なる統計モデルの予測精度を比較するために使用される統計量の一つで、統計モデルの複雑さと予測精度のトレードオフを考慮して、最も良い予測モデルを選択するための基準。本分析では、AICを用いてARIMA(2,1,0)がベストモデルと判定されたので、当該モデルを採用している。
 

【プログラミングコード】

不動産価格の将来予測結果とまとめ

当該プログラミングコードを実行した将来予測の分析結果は以下の通りとなります。点線で表示されている部分が2024年以降3年間の不動産価格の将来予測結果を表しています。

今回の分析は上記の通り、あくまで不動産価格に関する時系列データのみを分析対象とした初歩的なものなので、例えば、人口・世帯数や金利動向、景気の変化といった不動産を取り巻く様々な要因の影響は考慮されていません。したがって、これらの外生変数等を分析対象に加えることによって、更に高度な将来予測を行うことが可能となります。

不動産価格を含め、将来予測は非常に難しい問題ではありますが、一つの見方として統計的解析手法であるARIMAモデルやその発展形を適用し、自分なりの理解を深め解釈を行っておくことは、不動産価格の分析を行うに当たっても有意義なものであると考えられます。

デロイト トーマツでは、不動産および統計的解析の専門家が多数所属しておりますので、各種不動産レポート上での当該分析の活用、また応用分析に関するサポートも可能です。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
シニアヴァイスプレジデント 成田 正憲

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