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保険会社におけるAIのリスク管理

新たな技術がもたらすリスクへの対処

AIは保険実務で活用され事業機会を生みますが、導入に伴うリスクも増加しています。新たな技術の発達に規制が追いつかない状況でも、保険会社は自律的なリスク管理が求められます。保険会社においてAIのもたらすリスクへの理解を深め、それへの対処について考えます。

保険会社におけるAIのリスク管理 - 新たな技術がもたらすリスクへの対処

保険業界において、他の業界と同様にAIの利用が急速に拡大しています。AIはデータの解析や顧客サービスの向上、契約管理の効率化など、幅広い業務領域での活用が考えられ事業機会を生むと同時に、その導入に伴うリスクも増加しています。

保険のように公共性の高い事業へのAIの導入は、顧客の利便性を高めると期待される一方で、潜在的なリスクが放置されないよう適切なリスク管理が必要となります。OECDなどの国際機関や各国の保険当局がAIに関するハイレベルな原則を公表してはいますが、具体的な規制は未だ検討・整備中です。

新たな技術の進歩になかなか規制が追いつかない状況下でも、保険会社は新たな技術のリスクを理解・把握し、原則に則って自律的なリスク管理を行っていくことが求められます。本稿では、保険会社におけるAIという新たな技術のもたらすリスクへの理解を深め、それへの対処について考えます。保険事業には不当に差別的でないことと説明責任がより強く求められるので、本稿では公平性の確保と解釈可能性について重点的に取り上げます。

保険会社におけるAIのガバナンスを考えるとき、次のような観点から検討が必要となります。

  • 自律的な統制
    現在策定されている原則はハイレベルなものであり、そのような状況の中で消費者の保護や健全な経営判断を行うためには、規制に従っているだけでは十分と言えない。新たな技術の導入を進めるに際し、国内外の規制当局の動向を常に注視しながら、法規制が及んでいない新たな分野においても原則に則した自律的なコンプライアンスが求められる。
  • システムガバナンス・データガバナンス
    AIもシステムの一環として捉えられ、従来から保険会社に求められているシステムガバナンスが求められる。プロセスの文書化、システム・セキュリティの確保など、基本的なリスク管理、内部統制の枠組みが適用されると考えるべきである。また、社内に蓄積したデータのみならず、社外データについてもデータガバナンスやデータ管理のプロセスについて内部統制の重要性が増すと考えられる。
    さらに、保険事業の公共的性格から、AIを用いた判断や事業運営において公平性や透明性の確保が重要となる。
  • 意図せざる結果に対する責任
    AIのブラックボックス化を回避し、解釈可能性を確保し透明性を高める努力が必要となる。加えて、意図せざる結果に対しても説明責任があることを認識しておくべきである。
  • 社会的受容
    AIという新たな技術を社会が受容するかという観点での検討も必要となる。公平性の判断においても、『AIによって判断された』ことに対する消費者の受け止めは、人間による応対とは異なってくる可能性がある。AIは導入された部分的な分野だけではなく、企業全体や社内外のすべてのステークホルダーに影響を与える可能性がある。
     

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