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「収益認識に関する会計基準等」インダストリー別解説シリーズ(8)第8回 情報サービス産業

(月刊誌『会計情報』2019年8月号)

2018年3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針が公表されている。本稿では、情報サービス産業の収益における実務上の論点について解説を行う。

著者:公認会計士 髙橋 明宏

2018年3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)、企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針(以下「収益認識適用指針」といい、これらを合わせて「収益認識会計基準等」という。)が公表されている。

本稿では、情報サービス産業の収益における実務上の論点について解説を行う。

1. 情報サービス産業における収益認識会計基準等の論点の概要

(1)契約の識別━先行着手

情報サービス産業の取引慣行として、正式な契約書が締結される前であっても、顧客からの内示書もしくは顧客からの依頼等に基づきソフトウェア開発に着手する取引慣行がある。収益認識会計基準等では契約の識別について規定されているため、どのように契約を識別するのかについて実務上の論点がある。

契約とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいい(収益認識会計基準5項)、契約における権利及び義務の強制力は法的な概念に基づくものであり、契約は書面、口頭、取引慣行等により成立するとされている(収益認識会計基準20項)。そのため、正式な契約書締結前のタイミングであっても契約が識別される可能性はあり、顧客からの内示書等が契約の識別に関する要件を満たすかどうかについて、個別に検討する必要があると考えられる。

収益認識会計基準では、以下の要件のすべてを満たす顧客との契約を識別する(収益認識会計基準19項)。

(1) 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること

(2) 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること

(3) 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること

(4) 契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)

(5) 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと

情報サービス産業では、ソフトウェア開発の検収直前まで契約書が締結されない場合もあり、契約書締結前から契約を識別すべきかどうかについて、個別に検討が必要となると考えられる。

※続きは添付ファイルをご覧ください。

(613KB, PDF)
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