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サブスクリプションビジネスの特徴とビジネスモデル設計の観点

月刊誌『会計情報』2021年7月号

ファイナンス観点でのサブスクリプションビジネス・マネジメント(1)

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 森田 寛之、竹田 明香

1.はじめに

2000年代に欧米企業を中心に、音楽や動画といったデジタルコンテンツを起点としてサービス提供が拡大してきたサブスクリプションビジネスが、日本市場でも浸透・拡大を続けている。近年では、デジタルコンテンツだけでなく、フィジカルな“モノ”の提供とサービスを組み合わせたサービス提供形態も多く見られ、需要サイドである消費者としても身近な選択肢になりつつある。

“サブスクリプション”とは元々、予約購読や会員制クラブなどの会費といった意味合いを持つが、近年では企業が顧客との一定期間の契約に基づき、継続的にサービスを提供する形態のビジネスモデルのことを指して使われる。

日本におけるサブスクリプションビジネスの供給サイドに目を向けると、ソニーグループ株式会社が2021年3月期に過去最高益を更新したが、その業績を支え、牽引した要因としては約4700万人(2020年12月末時点*1 )のPlay Station® Plus の有料会員を抱えるゲーム事業の存在が挙げられる。一方でPlay Station® Plus のサービス開始時期は2010年*2 であった。サブスクリプションビジネスの特徴として、継続的に利益を創出するビジネスとなるための顧客基盤の形成等に一定の時間がかかる。一方で、顧客基盤の形成等の条件が整えば継続的に利益を創出でき、また将来の予見性が高いビジネスであることも特徴である。

今回「ファイナンス観点でのサブスクリプションビジネス・マネジメント」と題して、サブスクリプションビジネスの成長を加速させるために、ファイナンス観点でどのようなマネジメントが求められるかについて、本稿と次号の2回に分けて考察する。初回の本稿ではまず、サブスクリプションビジネスの特徴とビジネスモデル設計上のポイントについて紹介する。

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2.サブスクリプションビジネスが注目される背景

サブスクリプションビジネスが注目される背景には、様々な要因がある。サブスクリプションビジネスが登場する前は、企業は“モノ”としての製品を製造・販売するビジネスモデルを採用してきた。このビジネスモデルの利益拡大のポイントは、いかに製造・販売等にかかるコスト以上の値付けをして、売り切るかにあった。そのために高機能な製品の開発などを通じ他社と差別化し、またコストを下げるために原価低減やサプライチェーン改革等を実施してきた。高品質の“モノ”を低コストで製造・販売すれば、利益が上がるという考え方である。しかし、最近はこの状況が明確に変化してきている。リーマンショックから続いた経済の低成長に伴う給与の上方硬直性や個人消費の冷え込みも影響し、消費者の意識が、“モノ”(製品)に価値を置き、その“モノ”を所有するという意識から、必要な時に必要な分だけ“コト”(体験・手段)として利用する、という経済合理性を追求する意識に変化している。これは例えば、「高級で見栄えのよい車を持ちたい」という欲求から、「旅行先に行くための移動手段として、車を利用する」というようなケースが挙げられる。

また、テクノロジーの発展も、この状況の主たる要因となっている。スマートフォンやタブレットといった通信機器の浸透と常時高速通信可能な環境の整備により、インターネット上の様々な情報に容易にアクセス可能となり、またそれをクラウドサービスの形で提供することが可能となった。それに加えて、情報家電やコネクティッドカーなどのIoT機器へアクセスし、利用状況に関する情報の取得が可能となったこと、さらに大容量データの収集と分析を可能とするアナリティクス基盤により、分析結果の活用が容易になったことも重要な変化点である。

このように、消費者の意識・行動が変化し、また必要なときに必要なサービスを享受しやすく、かつ提供しやすい環境が整ってきていることから、顧客との接点を持ち、消費行動を分析しつつ、次の一手を考えるサブスクリプションビジネスが注目されている。次の章では、より具体的に、サブスクリプションビジネスにはどのような特徴があるかを説明する。

3.サブスクリプションビジネスの特徴

従来の“モノ”売りと比較した際のサブスクリプションビジネスの特徴は、顧客と直接接点を持つこと、そしてその接点をもとに顧客と継続的な関係を築くこと、である。

“モノ”を製造するメーカーは、代理店など様々なチャネルを経由することで、商品を消費者に届けている。メーカーから見た販売先はあくまで代理店であり、消費者との直接の接点は、故障時や問い合わせ時に限られている。そのため、マーケティング部門が顧客の声を様々な手段で収集・分析し、次の商品企画に活用している。しかし、それは顧客動向を「間接的」に分析している、ことである。また、顧客とは購入タイミングに限った「都度の関係」であり、同じメーカー・シリーズの商品が再度購入されたとしても、それは「再選択」である。

一方、サブスクリプションビジネスでは、直販のECサイトやサービスアプリケーション、IoTデバイスなどのデジタルチャネル・サービスを通して、顧客と直接接点を持つことができる。そして、サービス利用頻度など個々の顧客動向を「直接的」に入手することができる。更に言うと、入手しなければならない。これらの情報をもとに、よりよい顧客体験を提供するためのサービス改善や、価格改定、サービスプランのラインナップの見直しを高い頻度で実施することで、顧客にサービスを利用し続けてしてもらい、「継続的な関係」を築くことができるかが、サブスクリプションビジネスにおいて重要である。

なぜ「継続的な関係」が重要なのかは、収益モデルを見れば明確である。“モノ”売りの場合、収益は「単価×数量」で計算する。できるだけ高い価格で、より多くの数量を購入してもらうことで、収益を上げる。しかし、顧客とは「都度の関係」であり、どれほどの顧客が、何を・いつ・いくらで買ってくれるかを予想することは非常に難しい。

一方、サブスクリプションビジネスは、「契約数×単価×契約期間」で収益を計算する。契約が解約されない限りにおいては、定期的に収益が上がり続け、そして新規顧客を獲得すると、その分が更に定期収益として積み重なる。そのため、将来の収益予想が立てやすいだけでなく、新規顧客の獲得と、解約率低減による既存顧客の維持、及び複数プランの用意(高付加価値・高価格帯プラン等)による顧客単価の向上を実現することができれば、加速度的な収益増加も期待することができる。このように、顧客といかに「継続的な関係」を築くことができるか(顧客にいかにサービスを利用し続けてもらうか)は、サブスクリプションビジネスにおいて収益を大きく左右する。

4.サブスクリプションビジネスの設計に必要な要素

ここまで、サブスクリプションビジネスが注目される背景とその特徴を説明した。では、「サブスクリプションビジネスを始めたい」と思った際、その実現に向けて何を実施する必要があるのだろうか。

①ビジネス戦略・サービス仕様の策定

まずは、“モノ”売りビジネスと同様、どのようなターゲットに対し、サービスを通してどのような価値を提供するのかといった、ビジネス戦略を策定することが必要である。特にメーカーがサブスクリプションビジネスを開始するにあたってよく発生するのが、単に「既存製品を定額で提供するサービス」(例:既存製品を毎月〇円で使い放題 など)と設計するケースである。この場合、サブスクリプションが、既存製品を顧客に利用・消費してもらう手段になってしまっており、顧客に対するサービス提供価値が後付けになる傾向がある。もちろん、顧客が何を求めているかを分析したうえで、既存製品をサブスクリプションで提供することが顧客の課題解決に繋がるのであれば問題ない。当然のことではあるが、手段からの逆算ではなく、顧客のニーズを明確にしたうえで、ビジネス戦略を検討・定義する必要がある。

ビジネス戦略を定めた後には、サービス仕様を定義する。サービス仕様とは、サービスプランのラインナップや価格、契約期間や請求タイミング、問い合わせや不具合発生時の対応など、サービスの申込から利用・解約に至るまでの検討事項を網羅的に定義したものである。ビジネス戦略で策定したサービス提供価値に基づき、どのようなサービス仕様とすれば、提供価値を実現できるかを検討しながら、定義していく。社内のリソース制約やスケジュールに引っ張られてサービス仕様を決定してしまうと、最終的に完成するサービスが、顧客にとって魅力のないものとなる可能性がある。そのため、定義したサービス提供価値に都度立ち戻りながら、どのようサービス仕様とすべきかを議論することが重要である。

②ビジネスモデルに対応したオペレーション設計

サービス仕様を定義した後は、そのサービス仕様をどのようなオペレーションで実現するかを検討する。具体的には、サービスの申込から、契約管理、サービス開通・利用、課金・請求、回収、会計(収益計上)という一連の業務について、誰が、いつ、何をするかを定義する。また、これらの要素に加え、契約変更/解約時の対応やアフターサポート、顧客のサービス利用状況の分析やそれに基づくサービス改善・プラン改定など、サブスクリプションビジネス特有の業務についても、どのようなオペレーションとするかを定義する。

オペレーションを定義する際は、まずサービスを利用する中で顧客にどのような体験を提供するか(カスタマージャーニー)を定義したうえで、それを実現するために必要なオペレーションは何かを検討する。そうしなければ、例えば顧客が「サービスの利用方法が分からないので問い合わせたい」、「契約内容を変更したい」と思った際に、スムーズに必要な情報にアクセスできない、アクションを取ることができない、といった事象が発生する。そうなると、顧客はサービスに対して不満をもち、最悪の場合は解約に繋がってしまう。

③オペレーションを支えるシステム整備

オペレーションをすべて手作業で実施することは現実的ではないため、サブスクリプションビジネス特有の業務を実現するシステムが必要となる。具体的には、提供プランや顧客・契約の管理、及び契約内容に基づいた課金・請求及び回収機能が必要である。また、契約期間途中で発生しうる契約変更(例:プラン・数量の変更)、解約などの煩雑なイベントにも対応し、またそれらのイベントを反映した正しい会計仕訳を作成する機能も合わせて必要である。

これらの仕組みは、顧客視点では、「できて当然、早くて当然」である。ビジネスを素早く立ち上げ、オペレーションを迅速かつ正確に処理することを支える、サブスクリプションビジネス専用のパッケージ・ソリューションも用意されているため、活用することも有力な選択肢である。

④継続的なサービス改善

「サブスクリプションビジネスの特徴」で述べたとおり、サブスクリプションビジネスでは、顧客と継続的な関係を構築し、サービスを使い続けてもらうことが重要である。そのためには、顧客のニーズに合わせて、サービスを改善し続ける必要がある。

具体的には、まずサービス利用頻度など顧客動向に関するデータをもとに、「解約に至っている理由は何か」、「顧客のニーズは何か」という問いに対して仮説を立てる。そして、その仮説の検証を繰り返すことで、サービスの機能改善や、より付加価値の高い新サービスの開発、多様なプランの準備などを実施し、既存顧客の維持・顧客単価向上を実現していく。

特に、新規でサブスクリプションビジネスを立ち上げる場合、「新規顧客をいかに獲得するか」に終始してしまい、「既存顧客に対するフォローをいかに実施するか」の検討が後回しにされやすい。サブスクリプションビジネスの立上げタイミングにおいては、顧客動向を把握するために必要なデータは何で、誰が、どれほどの頻度で確認するかを定義し、それらのデータを取得・分析できるような業務・システム設計をする必要がある。また、このような既存顧客の維持を目的とするサービス改善業務は、新規顧客獲得を狙うマーケティング・営業活動とは利害が一致しない部分が多い。そのため、サービス改善機能がその力を最大限発揮するためには、マーケティング・営業とは組織として切り出すことが望ましい。

⑤ビジネスモデルに対応した財務会計・管理会計制度の構築

ファイナンス観点でサブスクリプションビジネスを取り扱い、管理・分析する際の重要なポイントは、ビジネスモデル上の特徴である“顧客と直接接点を持つ”ことと、“顧客と継続的な関係を築く”ことを、どのように財務・管理両面での会計制度設計に組込むかである。ファイナンス観点での詳細な考察は次号にて行うため、本稿では概論のみに留める。

財務会計観点では、“顧客と継続的な関係を築く”ことに対応した正確な会計処理を行うことが必要となる。具体的には、新しい収益認識基準への対応が主な検討事項になる。“モノ”売り型のビジネスでは販売時に収益を一括計上する会計処理を行っていたものから、契約期間にわたり継続的に収益計上を行うことが求められる。このような会計処理はIFRS15号に対応する形でIFRS適用会社ではすでに対応している企業も多いが、2021年4月から始まる会計期間においては日本基準適用会社においても、対応が求められる。

管理会計観点で考慮すべきは、“顧客と直接接点を持つ(顧客単位)”ことをビジネスの管理・分析にどのように織り込むか、という点である。次号において、サブスクリプションビジネスを管理・分析する際に用いる管理指標(KPI)や管理の考え方についても考察する。

 

5.おわりに

本稿では「ファイナンス観点でのサブスクリプションビジネス・マネジメント」の第1回として、サブスクリプションビジネスの特徴とビジネスモデル設計上のポイントについて考察した。サブスクリプションビジネスをこれから手掛ける、もしくは既に手掛けているが今後本格的に推進しようと考えている企業、既に“モノ”売りビジネスにおいて一定の顧客基盤が形成できている企業、それぞれ個々に状況は異なる。自社の現状のビジネス展開に照らして、ビジネスモデル設計・業務設計・システム整備など、どのポイントに注力してビジネスを立上げ、推進すべきか、検討の一助になれば幸いである。

次号においては、サブスクリプションビジネスの特徴を踏まえ、ファイナンス観点でどのようなマネジメントを行うべきか、どのような制度設計上の検討が求められるのか、といった考察を行う。

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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