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IASB、金融商品の分類及び測定の要求事項の修正を提案する

iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2023年6月号

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本iGAAP in Focusは、2023年3月に国際会計基準審議会(IASB)によって公表された公開草案(ED)IASB/ED/2023/2「金融商品の分類及び測定の修正」(IFRS第9号及びIFRS第7号の修正案)に示されている、IFRS第9号「金融商品」及びIFRS第7号「金融商品:開示」の修正案を解説するものである。

  • IASBは、以下に対処するIFRS第9号の修正を提案する。
    –電子送金を通じて決済される金融負債の認識の中止
    –金融資産の分類-基本的な融資の取決めと整合的な契約条件
    –金融資産の分類-ノンリコース要素のある金融資産
    –金融資産の分類-契約上リンクしている商品
  • IFRS第7号に対する以下の修正が提案されている。
    –開示-その他の包括利益を通じて公正価値で測定するものとして指定された資本性金融商品に対する投資
    –開示-偶発事象の発生(又は非発生)により契約上のキャッシュ・フローの時期又は金額を変化させる可能性のある契約条件
  • これらの修正の必要性は、IFRS第9号の分類及び測定の要求事項の、IASBの適用後のレビューの結果として識別された。
  • EDは、本修正の発効日を規定していない。企業は、本修正を遡及的に適用することが要求される。比較情報の修正再表示は、要求されないが、事後的判断を使用せずに可能である場合には認められる。本修正により測定区分が変更された金融資産は、開示が要求される。
  • EDのコメント期間は2023年7月19日に終了する。
539KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

2022年にIASBは、IFRS第9号の分類及び測定の要求事項の適用後レビュー(PIR)を完了した。全般的に、IASBは、作成者が要求事項を一貫して適用できることを見いだした。しかし、IASBは、IFRS第9号及びIFRS第7号の修正が要求されるいくつかの事項を識別した。IASBは、これらの修正を単一のEDで提案することを決定した。

 

修正案

電子送金を通じて決済される金融負債の認識の中止

EDは、IFRS第9号3.1.2項の「通常の方法の例外」が適用される場合を除き、金融資産又は金融負債を認識又は認識を中止する際に決済日会計が要求されることを提案している。さらに、決済日会計を使用する代わりに、以下のすべての条件が満たされている場合、企業は電子決済システムを使用して決済される金融負債の認識を中止することができる。

  • 企業は、送金指示を開始した。
  • 企業は、送金指示を撤回、中止又は取消しを行う能力がない。
  • 企業には、送金指示の結果として決済に使用される現金にアクセスする実際上の能力がない。
  • 電子決済システムに関連する決済リスクが、僅少である。

IASBは、電子決済システムの特徴として、送金指示の完了に続いて標準的な管理プロセスが行われ、送金指示を開始してから現金が引き渡されるまでの時間が短い場合には、決済リスクは僅少であることを明確にすることを提案する。

決済リスクは、送金指示の完了が決済日に現金を引き渡す企業の能力に左右される場合、僅少ではない。

認識の中止の選択肢案を金融負債に適用することを選択した企業は、同じ電子送金システムを通じて行われるすべての決済にそれを適用することが要求される。

見解

電子送金を通じて決済される金融資産の認識の中止に対するIFRS第9号の適用は、2021年9月のIFRS解釈指針委員会の関心を集めた。その際に、委員会は、企業が以下を要求されることを暫定的に結論付けた。

(a)営業債権からのキャッシュ・フローに対する契約上の権利が消滅する日に、営業債権の認識を中止する。

(b)当該営業債権の決済として受け取る現金(又は他の金融資産)を同じ日において認識する。

本アジェンダ決定は、暫定的な結論の潜在的な結果について懸念が提起されたため、最終決定されなかった。代わりに、これらの懸念はIASBに付託された。

これに対応して、IASBは、金融資産からのキャッシュ・フローに対する契約上の権利がいつ消滅するか、又は金融負債が消滅するかを明確にするために、IFRS第9号を修正することを検討した。しかし、IASBの利害関係者は、負債がいつ消滅するか、又は金融資産からのキャッシュ・フローに対する権利が満了するかを正確に決定することは、時間とコストがかかり、それぞれの決済プラットフォーム及び関連する個別の契約条件の広範な(法的)分析を伴う可能性があることを指摘した。これは、消滅する時点を決定するための関連する規制と要求が法域によって異なり、経済的に類似した金融資産と金融負債が異なる時期に認識が中止される可能性があるためである。

IASBは、したがって、IFRS第9号の認識及び認識の中止の要求事項を根本的に再検討せず、代わりに、上記の狭い範囲の修正を提案することを決定した。

 

金融資産の分類

基本的な融資の取決めと整合的な契約条件

EDは、金融資産の契約上のキャッシュ・フローが基本的な融資の取決めと整合的であるかどうかを、どのように企業が評価するかに関するガイダンスを提供するようにIFRS第9号の適用指針の修正を提案する。これは、企業が契約上のキャッシュ・フロー特性を評価する要求事項についての、環境、社会、ガバナンス(ESG)事項に関連する要素がある金融資産に対する適用を支援することを目的としている。

IASBは、利息を評価する際に、企業が「いくら」補償を受け取るかではなく、企業が「何を」補償されているかに焦点を当てることを規定することを提案する。当該提案では、契約上のキャッシュ・フローは、通常、基本的な融資のリスク又はコストとは通常は考えられていないリスク又は市場要因に対する補償(例えば、借手の収益又は利益のシェア)を含む場合、基本的な融資の取決めと整合的ではない。これは、そのような契約条件が、企業が事業を行っている市場で一般的であっても当てはまると提案されている。

さらに、契約上のキャッシュ・フローの変化が、基本的な融資のリスク又はコストの変化の方向及び大きさと一致しない場合、基本的な融資の取決めと整合的ではない。

偶発事象の発生(又は非発生)を受けて契約上のキャッシュ・フローの時期又は金額が変化する可能性のある契約条件は、偶発事象が借手に固有のものである場合、基本的な融資の取決めと整合的である。これは、偶発事象の発生が、借手が契約上特定された目標を達成することに左右される場合、たとえ同じ目標が他の借手の他の契約に含まれている場合でも当てはまる。しかし、結果として生じる契約上のキャッシュ・フローは、借手に対する投資又は特定の資産の運用成績に対するエクスポージャーを表すものであってはならない。

上記を説明するために、IASBは、元本及び元本残高に対する利息の支払のみである契約上のキャッシュ・フローを有する、又は有さない金融資産の以下の2つの例を追加することを提案する。

設例1:

商品EAは、借手が前期中に契約で特定された温室効果ガス排出の削減を達成した場合に、所定のベーシスポイント分、定期的に調整される金利の貸付金である。

偶発事象の発生(契約上定められた温室効果ガス排出の削減の達成)は借手に固有であり、偶発事象の発生(又は非発生)から生じる契約上のキャッシュ・フローは、すべての状況において、元本及び元本残高に対する利息の支払のみである。契約上のキャッシュ・フローは、借手に対する投資又は特定の資産の運用成績に対するエクスポージャーを表すものではない。したがって、これは基本的な融資の取決めと整合的である。

設例2:

商品Iは、市場で決定された炭素価格指数が契約で定義された閾値に達したときに、定期的に調整される金利の貸付金である。

契約上のキャッシュ・フローは、市場要因(炭素価格指数)に応じて変化するが、これは基本的な融資のリスク又はコストではないため、基本的な融資の取決めと整合しない。

IASBは、IFRS第9号の契約上のキャッシュ・フロー特性の評価は、他の金融資産と同様にESG連動要素を有する金融資産にも関連性があり、IFRS第9号の要求事項は(上記の明確化案を条件として)、当該金融資産が償却原価又はその他の包括利益を通じて公正価値(FVOCI)で測定される条件を満たしているかどうかを判断するための適切な根拠を提供すると判断した。

したがって、IASBは、ESG連動要素のある金融資産について、IFRS第9号の契約上のキャッシュ・フロー特性に関する要求事項から例外を設けることは、適切ではないと結論付けた。

 

ノンリコース要素のある金融資産

IFRS第9号の修正は、「ノンリコース」という用語の記述を強化するために提案されている。本修正では、企業のキャッシュ・フローを受け取る契約上の権利が、金融資産の存続期間中及び債務不履行の場合の両方において特定の資産によって生み出されたキャッシュ・フローに制限されている場合、金融資産はノンリコース要素がある。言い換えれば、金融資産の存続期間全体を通じて、企業は債務者の信用リスクではなく、主に特定の資産の運用成績のリスクに晒されている。

IASBは、ノンリコース要素のある金融資産の契約上のキャッシュ・フロー特性の評価の一環として、以下に関する程度を含むが、それに限定されない、企業は借手の法的構成及び資本構成のような要因を考慮する必要があるかもしれないことを説明することを提案する。

●原資産によって生み出されるキャッシュ・フローは、分類する金融資産の契約上のキャッシュ・フローを上回ることが見込まれる。

●原資産によって生み出されるキャッシュ・フローの不足は、借手が発行した劣後債務又は資本性金融商品によって吸収されることが見込まれる。

契約上リンクしている商品

IASBは、他の取引と区別する、契約上リンクしている商品の特性を明確にすることを提案している。 具体的には、IASBは、これらのトランシェの保有者に対する支払の優先順位付けは、ウォーターフォール支払構造を通じて確立されることを付け加えることを提案する。当該支払構造は、信用リスクの集中を生み出し、異なるトランシェの保有者間で損失の不均衡な配分をもたらす。

修正案はまた、複数の負債性金融商品とのすべての取引が、複数の契約上リンクしている商品との取引の要件を満たしているわけではないことにも言及している。たとえば、貸手は、借手(スポンサー企業)がシニア及びジュニアの負債性金融商品を発行する組成された企業を設立する、担保付貸付契約を締結する場合がある。借手は、シニアの負債性金融商品を保有する企業に信用保全を提供するために、ジュニアの負債性金融商品を保有している。当該組成された企業は単一の貸手からの貸付取引を容易にするために生み出されているため、修正案では、そのような取引には契約上リンクしている複数の商品を含んでいない。

さらに、修正案は、基礎となるプール内の商品への言及には、分類の要求事項の範囲に含まれない金融商品が含まれる可能性があることを明確にしている。たとえば、元本及び元本残高に対する利息の支払と同等である契約上のキャッシュ・フローを有するリース債権である。

 

開示

その他の包括利益を通じて公正価値で測定するもの(FVTOCI)として指定された資本性金融商品に対する投資

EDは、FVTOCIに指定された資本性金融商品に対する投資に関して、企業が提供する開示の修正を提案する。特に、企業は、期間中に認識を中止した投資に関連する変動の金額と期末に保有している投資に関連する金額を別個に表示して、期中の公正価値の変動を開示することが要求される。

契約上のキャッシュ・フローの時期又は金額を変更する可能性のある契約条件

IASBは、借手に固有の偶発事象の発生(又は非発生)により、契約上のキャッシュ・フローの時期又は金額を変更する可能性のある契約条件を含む金融商品に対する開示の要求事項を提案している。要求事項案は、償却原価又はFVTOCIで測定された金融資産の各クラス、及び償却原価で測定される金融負債の各クラスに適用される。

 

発効日、経過措置及びコメント期間

EDは、EDにおける修正の発効日を特定していない。発効日は、後日設定される。

IASBは、IFRS第9号の修正の遡及適用を企業に要求することを提案する。企業は、IFRS第7号の修正によって要求される開示を、修正の適用開始日より前に開始する表示期間について、比較情報を修正再表示すること、又は開示を提供することを要求されない。 IFRS第9号の修正に関して、企業は、事後的判断を使用せずにそれが可能である場合に限り、以前の期間を修正再表示することが認められる。

企業は、IFRS第9号の修正を適用した結果として測定区分を変更した金融資産に関する情報を開示することが要求される。

EDのコメント期間は、2023年7月19日に終了する。

以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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