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IASB、OECDの第2の柱モデルルールから生じる繰延資産の会計処理についての一時的な例外を導入するために、IAS第12号を修正する

iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2023年7月号

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本iGAAP in Focusは、2023年5月に国際会計基準審議会(IASB)によって公表された「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール」に示されているIAS第12号「法人所得税」の修正について解説するものである。

  • IASBは、OECDの第2の柱モデルルールの導入から生じる繰延税金の会計処理についての一時的な例外と、影響を受ける企業に対する的を絞った開示要求を導入する、IAS第12号の修正を公表した。
  • 本例外を適用することにより、企業はOECDの第2の柱の法人所得税に関連する繰延税金資産及び負債を認識しない。また、これらの繰延税金資産及び負債に関する情報も開示しない。
  • 第2の柱の法制が制定又は実質的に制定されているが未発効である期間について、企業は、当該法制から生じる第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャーを財務諸表利用者が理解するのに役立つ、既知の又は合理的に見積可能な情報を開示することが要求される。
  • 本修正は、本例外を適用すること及び本例外を適用したことを開示する要求事項について、本修正の公表後直ちに、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って、企業が遡及的に適用することを要求する。残りの開示要求は、2023年1月1日以後開始する事業年度に要求される。
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背景

2022年3月OECDは、経済のデジタル化から生じる税の課題に対処するためのプロジェクトの第2の「柱」として合意された15%のグローバル・ミニマム課税についてテクニカル・ガイダンス1を公表した。このガイダンスは、2021年12月に合意し公表されたグローバル税源侵食防止(GloBE)ルール2の適用及び運用について詳しく説明している。これは、収益が7億5,000万ユーロを超える多国籍企業(MNE)が、事業を行う各法域で発生する所得に対して少なくとも15%の税金を支払うことを保証するための調整されたシステムを構築する。

IASBは、IAS第12号を適用する法人所得税の会計処理に関するこれらの「第2の柱」モデルルールの、法域での差し迫った導入の潜在的な影響に関する利害関係者の懸念に対応することを決定した。

 

本修正

IASBは、IAS第12号の範囲を修正し、OECDが公表した第2の柱モデルルールを導入するために制定又は実質的に制定された税法(同ルールに記載された適格国内ミニマム・トップ・アップ税を導入する税法を含む)に適用されることを明確化した。

本修正は、IAS第12号の繰延税金の会計処理の要求事項に一時的な例外を導入し、企業は、第2の柱の法人所得税に関連する繰延税金資産及び負債に関する情報を、認識も開示もしないこととなる。

見解

IASBは、第2の柱の法人所得税に関連する繰延税金を会計処理するために、企業がIAS第12号の原則及び要求事項をどのように適用するかを決定することに、企業に時間が必要であることを認識している。IASBはまた、利害関係者とさらに対話(engage)し、例えば、IAS第12号の一貫した適用を支援するために何らかの行動が必要かどうかを検討する時間も必要としている。

したがってIASBは、法域が新しい税法を制定し、企業が繰延税金の会計処理において当該税法を反映することが要求される前に、このような活動を完了することは実行可能ではないと結論づけた。

 

本修正を適用し、企業は、本例外を適用した旨の開示が要求される。また企業は、第2の柱の法人所得税に関連する当期税金費用又は収益を区分して開示する。

第2の柱の法制が制定又は実質的に制定されているが未発効である期間について、企業は、当該法制から生じる第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャーを財務諸表利用者が理解するのに役立つ、既知の又は合理的に見積可能な情報を開示することが要求される。

当該開示目的を満たすために、企業は、報告期間の末日現在の第2の柱の法人所得税に対する企業のエクスポージャーに関する定性的情報及び定量的情報を開示することが要求される。当該情報は、当該法制のすべての具体的な要求事項を反映する必要はなく、示唆的な範囲の形で提供することができる。情報が既知でも合理的に見積可能でもない範囲では、企業はその代わり、当該影響についての記述及びエクスポージャーの評価の進捗に関する情報を開示しなければならない。

当該開示要求を満たすために、企業が開示する可能性のある情報の例には、次のものが含まれる。

  • 第2の柱の法制によりどのように企業が影響を受けるか、及び第2の柱の法人所得税のエクスポージャーが存在する可能性のある主要な法域に関する情報のような、定性的情報
  • 次のいずれかのような定量的情報
    –第2の柱の法人所得税の対象となる可能性のある企業の利益の割合及び当該利益に適用される平均実際負担税率の指標(indication)
    –第2の柱の法制が発効した場合に、どのように企業の平均実際負担税率が変化することとなるかについての指標(indication)

見解

IASBは、第2の柱モデルルール(及びIAS第12号の修正)が、IFRS for SMEs会計基準を適用するにも目的適合性があることを決定した。したがって、IASBは、IFRS for SMEsの第29章「法人所得税」を修正する範囲の狭い基準設定プロジェクトを作業計画に追加した。公開草案の公表は、2023年6月を予定している。

 

発効日及び経過措置

本修正は、本例外を適用すること及び本例外を適用したことを開示する要求事項について、本修正の公表後直ちに、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って、企業が遡及的に適用することを要求する。

残りの開示要求は、2023年1月1日以後開始する事業年度に発効する。企業は、2023年12月31日以前に終了する期中報告期間に対して当該要求事項により必要とされる情報を開示することを要求されない。

見解

さまざまな法域が、第2の柱モデルルールを導入する税制を制定するプロセスを開始している。第2の柱モデルルールの対象となる可能性のある企業は、営業を行っている法域における法制化のプロセスをモニターし、いずれかの法域において第2の柱の法制が制定(又は実質的に制定)されているかどうかを評価する必要がある。第2の柱の法制が制定又は実質的に制定されている場合、企業は、財務諸表において法制のIAS第12号における影響を検討する必要がある。

会計基準についてのエンドースメント及びアドプションのプロセスがある法域においては、本修正は直ちに利用可能とならない可能性がある。そのような場合、本修正が利用可能になる前、企業は、次の要因を検討した後、IAS第12号における繰延税金の要求事項が第2の柱モデルルールから生じる法人所得税に適用されないと結論づけることができる。

  • 公開草案ED/2023/1の結論の根拠は、第2の柱モデルルールが追加の一時差異を生じさせるかどうか、繰延税金を再測定する必要があるかどうか、そうである場合、繰延税金を測定するためにどの税率を使用するかについての不確実性に留意している。その結果、影響を受ける企業が適用する会計処理への多様性を生じさせる可能性がある。
  • 2023年4月11日のIASB会議のために作成されたスタッフ・ペーパー(Agenda paper 12A, Appendix A, item 4)は、(第2の柱の法制が一時差異を生じさせるかどうかについての明確化に対する要請に対応して)「一時的な例外を導入する主要な理由の1つは、『企業がIAS第12号の多様な解釈を開発することを避けること』」であることに留意している。
  • 2023年2月の米国FASBスタッフのアナウンスでは、ASC740(IAS第12号と同様のフレームワークに基づいた、法人所得税を取り扱う米国会計基準)に基づいて、第2の柱の法制の影響について、繰延税金を認識する又は修正してはならないとされている。
  • 次の理由を含め、企業が第2の柱の法人所得税に繰延税金の会計処理を適用した場合、目的適合性及び信頼性の観点から、限定的な情報価値しか提供されない。
    –(信頼性をもって予測することが不可能ではないとしても)困難な多数の要因に左右される、第2の柱モデルルールにより要求される計算の認識されている複雑性及び不確実性(例えば、将来の期間における企業の超過利益に適用される税率)
    –繰延税金資産及び負債は、本修正が利用可能となり、それらの認識の中止が要求されるまでの短期間のみ認識される。

IAS第1号「財務諸表の表示」の要求事項に従って、企業は、重要性のある会計方針情報、及び経営者が企業の会計方針を適用する過程で行った判断のうち、財務諸表に認識されている金額に最も重大な影響を与えているものの開示を含む、財務諸表において行う開示の内容及び範囲を検討しなければならない。

 

以 上

 

*1 OECDのウェブサイトを参照いただきたい。
https://www.oecd.org/tax/beps/oecd-releases-detailed-technical-guidance-on-the-pillar-two-model-rules-for-15-percent-global-minimum-tax.htm

*2 OECDのウェブサイトを参照いただきたい。
https://www.oecd.org/tax/beps/tax-challenges-arising-from-the-digitalisation-of-the-economy-global-anti-base-erosion-model-rules-pillar-two.htm

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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