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IAS第36号非金融資産の減損―リマインダーとホット・トピック

A Closer Look|月刊誌『会計情報』2023年7月号

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

多くの企業が、より広範なマクロ経済の不確実性から生じる様々な影響を経験しているため、IAS第36号「資産の減損」の要求事項は、多くの企業が慎重に検討する価値がある。欧州証券市場監督局のような規制当局も、最近、このトピックに関する重要な考慮事項のリマインダーを公表した。

本ニュースレターは、本基準の適用、潜在的な落とし穴への対処、IAS第36号の特定の主要な要求事項へのリマインダーに関するいくつかの一般的な質問に回答する。しかし、これは、IAS第36号の適用に関する包括的なガイドではない。本ニュースレターが取り扱う質問を以下に示す。

629 KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

IAS第36号に基づいて減損損失をテストする対象は何で、いつテストするか

  • IAS第36号の要求事項の対象となる資産は何か?
  • これらの資産の減損はいつテストするべきか?
  • 期中報告の目的で減損テストが要求されるか?
  • 減損テストはどのレベルで実施するべきか?
  • 資金生成単位はどのように識別されるか?
  • どの資産とCGUをテストすべきかの特定の順序はあるか?
  • 減損損失の戻入れについてはどうか?

 

回収可能価額をどのように決定するか

  • 回収可能価額とは何か?
  • 予想される維持、資産の拡張、及びリストラクチャリングは、使用価値にどのような影響を与えるか?
  • キャッシュ・フロー予測は、予算・予測に基づいてどの期間について行うべきか?
  • 全社資産と全社コストはどのように使用価値に組み込まれるか?
  • 気候変動の考慮をどのように取り入れるべきか?
  • 親会社は、子会社及び他の企業への投資の減損をどのようにテストするべきか?

 

他の論点

  • 減損損失はCGUの資産にどのように配分されるか?
  • IAS第36号及びIAS第1号で要求される感応度分析の開示は何か?

 

IAS第36号に基づいて減損損失をテストする対象は何で、いつテストするか

IAS第36号の要求事項の対象となる資産は何か?

IAS第36号は比較的範囲が広く、(特に以下の資産にも)適用される。

  • 原価又は再評価額で計上される土地、建物及び機械設備
  • リースで生じる使用権資産
  • 原価で計上される投資不動産
  • 原価で計上される生物資産
  • 原価又は再評価額で計上される無形資産
  • のれん
  • 連結財務諸表における関連会社及び共同支配企業への投資
  • 個別財務諸表における子会社、関連会社、共同支配企業への投資(IFRS第9号「金融商品」に従って会計処理されたものを除く)

IAS第36号自体は、例外のリスト以外のすべての資産に適用されることを規定することにより、その範囲を定めている。特定の注目すべき例外は、棚卸資産、繰延税金資産及びIFRS第9号の範囲に含まれる金融資産である。
 

これらの資産はいつ減損テストをするべきか?

減損の兆候があるかどうかに関係なく、少なくとも年に一度、次の項目の減損をテストすることが要求される。

  • 耐用年数を確定できない無形資産
  • 未だ使用可能ではない無形資産
  • のれん

強制の年次テストは、毎年同時期に実施される場合に限り、事業年度中いつでも実施することができる。当事業年度中の企業結合によりのれんを取得した場合、又は年次テストが要求される無形資産の1つを当事業年度中に当初認識した場合、当事業年度の末日前に減損テストを行わなければならない。

さらに、企業は、各事業年度(期中報告日を含む)の末日に、(IAS第36号の範囲に含まれる)資産が減損している可能性を示す兆候があるかどうかを評価しなければならない。そのような兆候のいずれかが存在する場合、企業は資産の回収可能価額を見積もらなければならない。

資産が減損している可能性を示す兆候があるかどうかを評価するにあたり、IAS第36号は、内部及び外部の両方の情報源を検討して、いくつかの兆候を検討することを要求している。

企業はまた、資産が売却(又は所有者に分配)するために使用されなくなったときに減損の兆候があるかどうかを評価することが要求される。資産が、IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」に従って、売却目的保有に適格である場合、当該基準を適用して測定し、IAS第36号の要求事項の対象ではなくなる。しかし、この分類変更の直前に、IFRS第5号18項は、資産に通常適用される基準に従って資産を測定することを要求している。したがって、通常IAS第36号の対象となる資産が、売却目的保有に分類変更される直前に減損している可能性があるという兆候がある場合、企業はIAS第36号を適用して資産の減損をテストする。結果として生じる減損損失は、そのように別個に報告される。

連結財務諸表の目的では、企業は、関連会社及び共同支配企業への投資に関して、IAS第28号「関連会社及び共同支配企業への投資」41A項から41C項の特定の減損の兆候を検討しなければならない。

上記の強制の年次テストの場合を除き、IAS第36号15項は、資産の回収可能額を見積もる必要があるかどうかを判断するために、企業が重要性の概念を適用することを指摘している。たとえば、以前のテストで資金生成単位(CGU)の回収可能価額がその帳簿価額よりも著しく大きいことを示している場合に、当該差額を解消するような事象が生じていなければ、企業はCGUの回収可能価額を再度見積もることを要しない。これは、以前の分析により、CGUの回収可能価額がIAS第36号に記載されている兆候の1つ(又はそれ以上)にさほど影響されないことが示される場合にも当てはまる場合もある。

ホット・トピック-潜在的な減損の兆候-市場金利の上昇

IAS第36号は、市場金利の上昇を資産が減損している可能性を示す兆候として識別しているが、そのような上昇にもかかわらず、企業が資産の回収可能価額を正式に見積もることが要求されない場合もあることにも留意している。これは、市場金利の上昇が問題となっている資産の適切な割引率に影響を与えない場合(例えば、短期金利の変動が「長期の資産」に使用する割引率に影響を与えない場合)、又は企業が顧客に請求する価格を通じてより高い金利を回収することを見込んでいる場合に当てはまる。又は、資産の回収可能価額が帳簿価額を超えるヘッドルームについて懸念が生じないほどに、金利の上昇が小さい場合である。しかし、減損損失の可能性を見逃してはならず、金利の全般的な上昇は、完全な減損レビューが要求されるかどうかを適切に検討することにつながるはずである。

 

期中報告の目的で減損テストが要求されるか?

IAS第34号「期中財務報告」は、企業に、事業年度の会計年度末と同じ減損テスト、認識及び戻入れの規準を期中報告日に適用することを要求している。ただし、企業は必ずしも各期中報告期間の末日に詳細な減損計算を行う必要はない。代わりに、直近の事業年度の末日以降に重大な減損又は減損の戻入れの兆候についてのレビューを実行して、そのような計算が必要かどうかを判断するだけで十分な場合がある。
企業が前事業年度の末日に資産に関連する減損損失を認識した場合、減損レビューが生じた減損の兆候がまだ存在する場合は、期中報告期間の末日に減損計算のレビューが必要になる場合がある。

期中報告日に減損テストを実施した場合でも、その後の報告日にさらなる減損の兆候又はのれん以外の資産の減損の戻入れの兆候が発生したかどうかを検討する必要がある。

IAS第34号の重要な原則の1つは、企業の報告の頻度(年次、半年又は四半期)が年次の業績の測定に影響を与えてはならないことであるが、この原則の注目すべき例外は、IFRIC第10号「期中財務報告と減損」で取り扱われているように、のれんの減損損失の認識である。IFRIC第10号で説明されているように、期中報告期間に減損テストを実施し、のれんの評価減が発生した場合、減損損失は期中財務報告で認識しなければならず、この減損損失をその後の期間に戻し入れることはできない。これは、その後の期中報告期間又は企業の事業年度の末日までに問題が改善し、減損テストが後日に実施された場合には、のれんの減損損失が少なくなる又は存在しない可能性がある場合でも当てはまる。
 

減損テストはどのレベルで実施するべきか?

減損テストが正しい「レベル」で実施されていることを確認することが重要である。事実と状況に応じて、このレベルは、個別資産、CGUと呼ばれる資産のグループ、又はCGUグループである場合がある。

実際、IAS第36号22項は、回収可能価額(回収可能価額とは何か?を参照)は、個別資産レベルで算定される。ただし、当該資産が他の資産又は資産グループからのキャッシュ・インフローからおおむね独立したキャッシュ・インフローを発生させない場合を除く。この場合、当該資産が属するCGUの回収可能価額が算定される。ただし、以下のいずれかに該当する場合を除く。

  • 当該資産の処分コスト控除後の公正価値が帳簿価額よりも高額である。
  • 当該資産の使用価値が処分コスト控除後の公正価値に近いと見積もられ、かつ処分コスト控除後の公正価値が算定できる。

のれんは、その性質上、個別資産としての減損をテストすることはできない。むしろ、企業結合で取得したのれんは、取得日以降、取得企業の各CGU又はCGUグループのうち、企業結合のシナジーから便益を得ると見込まれるものに配分される。IAS第36号は、集約前におけるIFRS第8号「事業セグメント」5項で定義されている事業セグメントよりも大きいCGUのグループにのれんを配分してはならないことを規定している。この要求事項は、企業がIFRS第8号の開示要求の対象であるかどうかに関係なく適用される。
 

資金生成単位はどのように識別されるか?

CGUは、他の資産又は資産グループからのキャッシュ・インフローとはおおむね独立したキャッシュ・インフローを生成する、最小の識別可能な資産グループである。

同一の(又は類似する)方法でキャッシュ・インフローを生成する複数のロケーションで営業する企業の場合、キャッシュ・インフローが他のロケーションのキャッシュ・インフローから独立している場合、個々のロケーションが単一のCGUを構成する。しかし、ロケーション間で収入の代替性に起因して、それぞれのロケーションからのキャッシュ・インフローが相当程度に相互依存性がある証拠がある場合がある(つまり、1つのロケーションのキャッシュ・インフローの減少が、1つ又は複数の他のロケーションからのキャッシュ・インフローの増加を伴うという証拠がある)。このような状況では、適切なCGUが2つ又はそれ以上のロケーションのグループにより構成されると決定される場合がある。

企業が営業する異なるロケーションからのキャッシュ・インフローの相互依存性と、外的要因(例えば、商品価格)又は資産(例えば、ブランド)への共通の依存を区分することが重要である。さらに、(たとえば、集中購買機能や共有の管理コストに起因する)キャッシュ・アウトフローの相互依存性は、CGUの識別には関連性がない。

資産又は資産グループが生産する産出物について活発な市場が存在する場合には、当該資産又は資産グループをCGUとして識別しなければならない。これは、当該産出物の一部又は全部が内部で使用されている場合であってでもある。これは、当該資産又は資産グループは、他の資産又は資産グループからのキャッシュ・インフローからおおむね独立したキャッシュ・インフローを生成できるからである。このような場合、経営者は、当該単位の産出物の予想市場価格を見積り、当該見積りに関して、産出物を供給する単位の使用価値を決定する際だけではなく、産出物を使用するその他のCGUの使用価値を算定する際にも使用する。いいかえれば、「回収可能価額をどのように算定するか」について、CGUの回収可能価額を見積もる際には、内部振替価格ではなく、市場価格が使用される。

企業の内部管理報告は、資産又は資産グループにより生成されるキャッシュ・インフロー(企業が営業する異なるロケーションから生成されるキャッシュ・フローを含む)が独立している(又は相互依存している)という証拠を提供する限りにおいて、CGUの識別と関連する。しかし、内部管理報告はそれ自体が決定要因ではなく、資産又は資産グループから生じるキャッシュ・インフローが確かに独立していると明示する他の証拠に優先すべきではない。
 

資産とCGUが「どのレベルで減損テストを実施すべきか」についての特定の順序はあるか?

のれんが個別のCGUに配分されており、CGU内の資産の1つが減損している兆候があり、減損について単独でテストできる場合(「減損テストはどのレベルで実施するべきか?」参照)、のれんが配分されているCGUをテストする前に、当該資産の減損をテストしなければならない。

同様に、のれんがCGUグループに配分され、グループ内の個別のCGUが減損している兆候がある場合、のれんが配分されているCGUグループの減損をテストする前に、個別のCGUの減損が最初にテストされる(及び個別のCGUに関連する識別された減損損失が認識される)。
 

減損損失の戻入れについてはどうか?

のれん以外の資産又はCGUの減損損失が過去の期間に認識された場合、企業は各報告期間の末日に、減損損失がもはや存在しないか、又は減少している可能性を示す兆候があるかどうかを評価することが要求される。そのような兆候が存在する場合には、企業は当該資産(又はCGU)の回収可能価額を見積り、以前に認識した減損損失の全部又は一部を戻し入れるべきかどうかを判断しなければならない。しかし、のれんに関して認識した減損損失を戻し入れることはできない。

減損損失の戻入れは、使用又は売却のいずれかによる資産(又はCGU)の見積潜在用役(estimated service potential)の増加を反映しなければならない。このような変更の例には次のようなものが含まれる。

  • 回収可能価額の基礎の変更(すなわち、回収可能価額が処分コスト控除後の公正価値又は使用価値のどちらを基礎としているか)
  • 回収可能価額が使用価値を基礎とする場合には、将来の見積キャッシュ・フローの金額又は時期、又は割引率の変更
  • 回収可能価額が処分コスト控除後の公正価値を基礎とする場合には、処分コスト控除後の公正価値の構成要素の見積りの変更

しかし、時の経過による資産の回収可能価額の増加は、資産の見積潜在用役の増加を表すものではないため、これに基づいて減損損失の戻入れを認識することは認められない。言い換えれば、将来のキャッシュ・インフローの現在価値が時期が近づくにつれて増加する(すなわち、「割引の振戻し」)という理由のみで、資産の使用価値が増加し、さらに資産の帳簿価額よりも大きくなる可能性がある。ただし、これは資産の価値の経済的変化を表すものではない。したがって、減損損失の戻入れは、これに基づいて認識してはならない。しかし、仮定の変更により減損の戻入れを認識する場合、当該戻入れを全額認識しなければならず、仮定の変更に関連する金額と割引の振戻しに関連する金額に分割してはならない。

減損損失は、減損損失が認識されなかった場合の帳簿価額を超えて関連資産の帳簿価額を増加させない範囲でのみ、戻し入れることができることに注意する必要がある。

 

回収可能価額をどのように決定するか

回収可能価額とは何か?

資産(又はCGU又はCGUグループ)の回収可能価額は、処分コスト控除後の公正価値と使用価値のいずれか高い金額である。資産の帳簿価額が回収可能価額を超える場合、減損損失が認識され、帳簿価額が減少する。

CGUの回収可能価額は、処分コスト控除後の公正価値又は使用価値に基づいて、その帳簿価額と首尾一貫した基礎で算定される、すなわち、CGUに配分された資産を反映することが重要である。例えば、CGUの帳簿価額には、認識された負債の帳簿価額は含めない。ただし、CGUの回収可能価額がこの負債を考慮しないと算定できない場合を除く。したがって、CGUの帳簿価額から除外された負債に関連するキャッシュ・フローも、回収可能価額から除外される。

公正価値は、測定日時点で市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格、又は負債を移転するために支払われるであろう価格である。使用価値は、資産又はCGUから生じると見込まれる将来のキャッシュ・フローの現在価値である。

現在価値の算定に使用される割引率は、テスト対象の資産又はCGUに固有のリスクのうち、将来のキャッシュ・フローの見積りを調整していないものを反映した税引前レートである必要がある。したがって、グループ内のさまざまなCGUに使用される割引率は、CGUが営業している地域又は業界によって異なる場合がある。割引率は、企業内部の資金調達コストではなく、市場参加者のレートを反映しなければならない。最後に、企業はまた、使用価値を算定するために使用するインプットが、インフレの影響を組み込む際に首尾一貫したアプローチに従っていることを保証しなければならない。インフレの影響を含む名目キャッシュ・フローは名目レートで割り引かなければならず、インフレの影響を除いた実質キャッシュ・フローは実質レートで割り引かなければならない。

減損レビューの目的で、常に処分コスト控除後の公正価値と使用価値の両方を計算する必要はない。

  • 処分コスト控除後の公正価値又は使用価値のいずれかが帳簿価額よりも高いことが判明した場合、資産は減損しておらず、したがって他の金額を計算する必要はない。
  • 処分コスト控除後の公正価値について信頼性のある見積りを行う基礎がない場合、回収可能価額は使用価値のみを参照して測定される。
  • 単純な見積りが、使用価値が帳簿価額を上回る(この場合、減損はない)こと、又は使用価値が処分コスト控除後の公正価値を下回ること(この場合、回収可能価額は、処分コスト控除後の公正価値である)のいずれかを示すのに十分である場合、使用価値の測定にあたり詳細な計算を回避できる場合がある。

一部の企業はこれまで、回収可能価額は継続的に使用価値(又は処分コスト控除後の公正価値)であると結論付けていたかもしれないが、回収可能価額は使用価値と処分コスト控除後の公正価値のいずれか高い金額であることを覚えておくこと、上記のように、常に双方を算定する必要がないことを認識することが重要である。
 

予想される維持、資産の拡張、及びリストラクチャリングは、使用価値にどのような影響を与えるか?

使用価値を算定する際、キャッシュ・フローの予測は、資産の改善又は拡張の影響を除外しなければならない。しかし、将来キャッシュ・フローの見積りには、資産の現在の状態から生じることが予想される経済的便益のレベルを維持するために必要な将来キャッシュ・フロー(例えば、オーバーホール又は点検に係るコスト)を含めなければならない。実務上は、維持と改善の区別は容易ではない場合がある。

取替資産の購入を保守のための支出とみなし、使用価値の計算に含めるためには、予測される取替資産が現在使用中の資産と同一である必要はない。例えば、CGUの一部を形成する資産が運営方法を著しく変更しないが、代わりに同じ機能を果たす技術的なアップグレードである資産によって取替えられる場合、この取替えによってCGUの経済的生産性が向上されない限りは、取替えに係る支出(及び結果として生じる継続的なキャッシュ・インフロー)は、使用価値の計算に含めなければならない。

使用価値は、将来のキャッシュ・アウトフロー及び関連するコスト節減(例えば、人件費の節減)、又は企業が未だコミットしていない将来のリストラクチャリングから発生すると見込まれる便益を反映しない。IAS第36号はリストラクチャリングを、「経営者が立案し統制している計画であって、企業が従事する事業の範囲又はその事業を運営する方法に重要性がある変更を加えるもの」と、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」と同じように定義している。

事業の変更に重要性があるかどうかを決定するには、判断の行使が要求される。その判断を行使するにあたり、次のいずれかを検討する必要があることが多い。

  • 資産又はCGUから生じるアウトプット、又は当該アウトプットを生産するプロセスが、著しく変化すること(企業がリストラクチャリングをコミットするまで除外される重要性がある変更を示す)
  • 当該変更が、当該アウトプット又はプロセスに対する微調整(refinement)であるかどうか(当該変更は、リストラクチャリングの定義を満たしていないことを示している)
例-使用価値の計算に含まれる製造プロセスの微調整

企業Bは、使い捨てのコーヒー・カップを製造する施設から構成されているCGUを減損目的でテストしている。顧客からの圧力に応えて、企業Bは、製造プロセスのある要素を、さらに容易にリサイクル可能なカップを生産する要素に取り換えることを計画している。

経営者の判断は、このことは、販売される使い捨てのコーヒー・カップ又はその生産の主要な変更にはならないため、施設の運営又はアウトプットの重要性がある変更ではなく、製造プロセスの微調整を単に構成するだけというものである。したがって、製造プロセスの当該要素への変更コスト及びその収益維持の影響(そうでなければ、企業Bの競合他社に対する損失となる)は、CGUの使用価値の計算に含まれる。

 

キャッシュ・フロー予測は、予算・予測に基づいてどの期間について行うべきか?

予測は、のれん及び他の非金融資産の減損の評価、予想信用損失の評価、繰延税金資産の回収可能性、流動性分析及び継続企業の前提の妥当性に関連するものが含まれるがこれらに限定されない、さまざまな会計上の見積りに使用される。他の財務諸表における見積りの目的と要求事項の違いを反映している場合、主要な相違は正当化及び見込まれる可能性があることに留意して、首尾一貫した仮定を使用しなければならない。企業は、仮定が外部の情報源、気候戦略及びその点で行われた一般に対するコミットメントと首尾一貫していることを確認しなければならない。

使用価値を算定する際、キャッシュ・フロー予測は、経営者によって承認された最新の財務予算・予測を基礎としなければならない。これらの予算・予測を基礎とした予測の対象期間は、最長でも5年間としなければならない。ただし、より長い期間が正当化できる場合を除く。
期間が5年よりも長い場合の詳細な予算・予測は、一般に入手不能であり、入手できたとしても、正確である可能性が低い。しかし、経営者が5年を超える期間の予算・予測を作成した場合、それほどの長期間にわたる予測方法に信頼性があることを過去の経験に裏付けて証明でき、またその予測に信頼性があると経営者が確信するならば、5年超の長期間の予測を使用することができる。これは規則ではなく、極めてまれな例外的な措置と考えられる。

直近の予算・予測の期間を超えたキャッシュ・フロー予測は、製品又は産業のライフサイクル全体にわたるパターンについての客観的な情報に基づき逓増率が正当化できる場合を除き、後続の年度に対し一定の又は逓減する成長率を使用した予算・予測に基づく予測を推定し、見積らなければならない。この成長率は、過度に楽観的なものであってはならず、より高い成長率を正当化できる場合を除き、企業が営業活動をしている製品、産業もしくは国、又は当該資産が使用されている市場の、長期平均成長率を超えてはならない。場合によっては、成長率をゼロ又はマイナスに設定することが適切な場合がある。

予算・予測の対象となる最終年度を超えて推定する際には、それが長期の期間を適切に代表していることを確認することが重要である。状況によっては、予算又は予測の対象となる最終年度以降に生じる代替資産に対する資本的支出及びリースの更新などの項目を把握するために、追加の調整を行う必要がある場合もある。気候変動の潜在的な影響を反映するための調整も必要かもしれない。

ホット・トピック-気候変動の考慮をどのように取り入れるべきか?

ますます多くの科学的予測が、地球の気温の潜在的な平均的な上昇だけでなく、そのような変化が海面上昇及びより頻繁な異常気象などの物理現象にどのように変換されるかを詳述している。経済予測も、カーボン・プライシング・イニシアチブ及び化石燃料と再生可能エネルギーの需要の変化などの関連要因とともに、そのような変化の影響をますます反映している。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)及び世界経済フォーラム(WEF)を含む組織が強調しているように、これはすべての業界のビジネスモデルにさまざまな影響(プラス又はマイナス)をもたらす可能性がある。これは、気候変動の物理的影響と、規制、技術開発及び消費者の嗜好についての関連する影響によるものである。市場の期待の変化及び風評リスクによっても、企業がビジネスモデルの修正を選択する可能性がある。

これらの要因は、経営者のキャッシュ・フロー予測(IAS第36号33項(a)で要求される経済的状況に関する経営者の最善の見積りを反映する合理的で裏付け可能な仮定を基礎とする)、又はそれらのキャッシュ・フローの達成に関連するリスクのレベルを変更する可能性があり、その場合、それらは必要に応じて、企業の使用価値の評価の一部を形成しなければならない。気候変動が企業のより幅広い企業報告で議論される場合(例えば、企業が晒されるリスク又はビジネスモデルの変更の観点から)、言及された変更が企業の減損テストの一部として適切に考慮されたかどうかを検討しなければならない。

消費者行動の変化は、企業によるリストラクチャリング、または資産もしくはCGU自体の変化に依存しない。その結果、将来の販売量又は価格のいずれかに変化(プラス又はマイナス)をもたらすと予想される消費者行動の変化を予測する経営者の最善の見積りは、資産又はCGUの回収可能価額の算定に含めなければならない。

同じアプローチは、企業のサプライヤー又は企業顧客の行動の予想される変化(彼ら自身が社会の変化する期待に反応している)に適用するべきであり、見積りが合理的で裏付け可能な仮定を基礎とする範囲で、企業のコストベース又は収益に変化をもたらす。

詳細な法律を制定する前に、政府は所定の期間内での排出量のネットゼロを達成するという目標を設定し、将来的に法律を通過させる意図を示す場合がある。予想される政府の行動が資産又はCGUから生じるキャッシュ・フローに影響を与える場合、これをキャッシュ・フロー予測にどの時点で考慮する必要があるかを検討する必要がある。

予想される政府の行動がキャッシュ・フロー予測に影響を与える時期を判断する際には、判断が要求される。しかし、IAS第12号「法人所得税」又はIFRIC第21号「賦課金」に基づく新たな負債の認識とは異なり、既存の資産又はCGUの帳簿価額を裏付ける将来のキャッシュ・フローの見積りに組み込む前に、変更の制定又は実質的な制定を待つ必要はない。政府の立法又は規制措置の正確な内容又は形態は確定していないが、経営者の最善の見積りでは、それでも企業の将来のキャッシュ・フローに影響があるという可能性がある。この場合、キャッシュ・フローの予想される変化は、合理的で裏付け可能な仮定を基礎としている限り、使用価値の計算に含めなければならない。

重大なのれん又は耐用年数を確定できない無形資産を含むCGUの回収可能価額を決定する上で、気候関連要因が重大な要因である場合、それぞれの主要な仮定に割り当てた値を算定するための経営者のアプローチの説明とともに適用される主要な仮定は、IAS第36号に従って開示しなければならない。目的適合性がある場合、この開示は、主要な仮定だけでなく、企業の将来のキャッシュ・フローに対する予測の影響の説明も提供しなければならない。

以下に説明するように、見積りの不確実性の主要な発生要因の開示もIAS第1号「財務諸表の表示」によって要求される場合がある。

 

全社資産と全社コストはどのように使用価値に組み込まれるか?

全社資産とは、のれん以外の資産で、検討の対象である資金生成単位と他の資金生成単位の双方の将来のキャッシュ・フローに寄与する資産である。このような資産には、企業の本社の建物又は研究センター等のグループ又は部門の資産が含まれる。全社資産のその他の事例として、ブランドや営業ライセンスが含まれる場合がある。企業資産が単一のCGUに帰属しないという事実の結果として、全社資産がIAS第36号の減損計算から誤って省略されるリスクが高まっている。

減損テストの実施の一環として、テスト対象のCGUに関連する全社資産を識別することが重要である。全社資産の帳簿価額の一部については、以下のとおりとする。

  • CGUに合理的かつ首尾一貫した基礎により配分できる場合には、企業はCGUの帳簿価額(配分した全社資産の帳簿価額の一部を含む)とその回収可能価額を比較する。減損損失がある場合には、認識する。
  • 当該CGUに、合理的かつ首尾一貫した基礎により配分できない場合には、企業は次のことを行う。
    –全社資産を除くCGUの帳簿価額とその回収可能価額を比較し、減損損失を認識する。
    –検討の対象となるCGUを含み、かつ全社資産の帳簿価額の一部を合理的かつ首尾一貫した基礎により配分できる最小のCGUグループを識別する。
    –全社資産の帳簿価額の配分された部分を含む、CGUのグループの帳簿価額を当該CGUのグループの回収可能価額と比較する。減損損失がある場合には、これを認識する。

全社資産がCGUの帳簿価額に配分された場合、当該資産を使用するためにCGUにおいて発生した内部費用は、資金生成単位の予想将来キャッシュ・フローに含めてはならない。含めてしまった場合、全社資産の影響を二重計算することになり、減損損失が誤って認識される可能性がある。IAS第36号に付属する設例8は、全社資産に対する要求事項の適用を示している。

CGU(又は、のれんが配分されているCGUグループ)の使用に直接賦課又はCGU(又はCGUグループ)に合理的で首尾一貫した基礎による配分ができるすべての全社コストは、使用価値の計算に含めなければならない。これは通常、ITコスト、人件費又は特定の直接的なマーケティング活動のようなコストのケースである。

しかし、CGU(又は、のれんが配分されているCGUグループ)の使用価値の計算で使用される予想将来キャッシュ・フローについての経営者の見積りに、すべての全社コストを含める要求事項はない。コストによっては、CGU(又はCGUグループ)に直接賦課又は合理的で首尾一貫した基礎による配分ができないと決定される場合がある。事実と状況に基づいて、そのようなコストの例には、企業の非業務執行取締役又は投資家向け広報活動に関連する支払いが含まれる場合がある。


親会社は、子会社及び他の企業への投資の減損をどのようにテストするべきか?

親会社の個別財務諸表において、子会社、関連会社及び共同支配企業への投資は、IAS第36号に従って減損についてテストしなければならない(ただし、当該投資をIFRS第9号を適用して会計処理している場合を除く)。IAS第36号は、そのような投資が減損している可能性を示す兆候として、投資者が当該投資からの配当を認識しており、かつ、次のいずれかの証拠が利用可能であるという事実を含めている。

  • 投資者の個別財務諸表における当該投資の帳簿価額が、投資先の純資産(関連するのれんを含む)の連結財務諸表における帳簿価額を上回っている。
  • 配当が、その配当が宣言された期間における当該子会社、共同支配企業又は関連会社の包括利益の合計額を超えている。
    また、減損をテストする資産は、投資先が保有する原資産ではなく、親会社が保有する投資の帳簿価額であることをリマインドすることも重要である。

特に、連結財務諸表の目的で減損テストを実施する場合、親会社は子会社の活動がCGUを表すと判断する場合がある。個別財務諸表の目的上、親会社はCGUの回収可能価額を出発点として使用して、子会社への投資の回収可能価額を算定する場合があるが、特定の調整が必要になる場合がある。これは、回収可能価額が使用価値と算定されるか、処分コスト控除後の公正価値と算定されるかに関わらず当てはまる。例えば、CGUの回収可能価額は、次の影響に合わせて調整する必要がある場合がある。

  • IAS第36号の範囲外であるが、子会社に対する親会社の投資の回収可能価額に寄与する子会社の特定の資産、例えば、IAS第40号に基づき公正価値で測定された投資不動産
  • CGUの回収可能価額を算定する際に通常無視することが要求されるが、子会社への投資の親会社の株式価値を減少させる特定の負債。これらの負債には、IFRS第9号に基づく金融負債(例えば、債務)、IFRS第16号「リース」に基づくリース負債、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」に基づく引当金、及びIAS第12号に基づく当期税金負債が含まれる場合がある。

さらに、子会社が100%所有でない場合、連結財務諸表の目的におけるCGUの回収可能価額は、関連するキャッシュ・フローの全額を反映し、親会社の所有持分に帰属する割合のみではないため、通常、調整が要求される。

事実や状況によっては、他の調整が必要になる場合がある。

 

他の論点

減損損失はCGUの資産にどのように配分されるか?

減損損失は、CGU(又はのれん又は全社資産を配分した最小のCGUグループ)の回収可能価額がその帳簿価額を下回っている場合に、かつその場合にのみ認識しなければならない。減損損失は、次の順序に従ってCGU又はCGUグループの資産の帳簿価額を減額するように、配分しなければならない。

  • 最初に、当該CGU(CGUグループ)に配分したのれんに配分する。
  • 次に、CGU(CGUグループ)内の各資産の帳簿価額に基づいた比例配分によって、当該CGU(CGUグループ)内の他の資産に配分する。

CGU内の個別資産に減損損失を配分する場合、各個別資産の帳簿価額は、以下のうち最も高い価額を下回るまで減額してはならない。

  • 処分コスト控除後の公正価値(測定可能な場合)
  • 使用価値(算定可能な場合)
  • ゼロ

この結果、ある資産に配分された金額が、減損損失の比例配分額を下回る場合、その超過額はCGU内の残りの資産に比例配分される。

配分手続の適用後、CGUに対する減損損失の残額があれば、それについての負債の認識を、他の基準が要求している場合に、かつその場合にのみ、行わなければならない。他の基準で要求されていない場合、減損損失の残額は認識されない。負債は、過去の事象の結果として生じる現在の義務に関してのみ認識される。IAS第37号は、適切な認識規準について記述している。引当金の認識が要求される場合、当該引当金は、IAS第37号の一般的な要求事項に従って測定される。

有形固定資産項目が減損している場合、IAS第16号「有形固定資産」は、有形固定資産項目の見積耐用年数、減価償却方法及び残存価値をすべて見直し、新しい帳簿価額は資産の残存耐用年数にわたって減価償却することを要求している。IAS第38号「無形資産」には、無形資産に関する同様の要求事項が含まれている。
 

IAS第36号及びIAS第1号で要求される感応度分析の開示は何か?

IAS第36号は、のれん又は耐用年数を確定できない無形資産が配分されているCGU(又はCGUグループ)に関して、特定の感応度分析を要求している。特に、経営者がCGU(又はCGUグループ)の回収可能価額の算定の基礎とした主要な仮定についての合理的に考え得る変更により、当該CGU(又はCGUグループ)の帳簿価額が回収可能価額を上回ることになる場合には、以下を開示しなければならない。

  • 当該CGU(又はCGUグループ)の回収可能価額がその帳簿価額を上回る金額
  • 主要な仮定に割り当てた値
  • 当該CGU(又はCGUグループ)の回収可能価額をその帳簿価額と等しくするには、主要な仮定に割り当てた値がどれだけ変化しなければならないか(その変化が回収可能価額の測定に使用される他の変数に与える影響を反映した後)

これらの開示は、のれん又は耐用年数を確定できない無形資産の合計帳簿価額と比較して重大である、のれん又は耐用年数が確定できない無形資産の金額が配分されているCGU(又はCGUグループ)ごとに別個に行う。

個別のCGU(又はCGUグループ)に配分されたのれん又は耐用年数を確定できない無形資産の金額が、企業全体ののれん又は耐用年数を確定できない無形資産の合計帳簿価額と比較して多額ではないが、合計金額が多額であり、同じ主要な仮定が使用されている場合、開示は合計ベースで表示する。

さらにIAS第1号は、企業に対し、報告期間の末日における、将来に関しておこなう仮定及び見積りの不確実性の他の主要な発生要因のうち、翌事業年度中に資産及び負債の帳簿価額に重要性がある修正を生じる重大なリスクがあるものに関する情報を開示することを要求している。特に、企業は、これらの資産及び負債の性質、及び報告期間の末日現在の帳簿価額の詳細を開示しなければならない。IAS第1号は、経営者が将来について及び他の見積りの不確実性の発生要因について行う判断を、財務諸表の利用者が理解するのに役立つ方法で情報を提供しなければならないことを示している。例えば、

  • 帳簿価額の、その計算の基礎となる方法、仮定及び見積りに対する感応度(その感応度の理由を含む)
  • 不確実性についての予想される解消方法、及び翌事業年度中に合理的に生じる考え得る結果の範囲(影響を受ける資産及び負債の帳簿価額に関して)
  • 当該資産及び負債に関する過去の仮定について行った変更の説明(その不確実性が未解消のままである場合)

IAS第36号の感応度の開示は、仮定の合理的に考え得る変更が、のれん及び耐用年数が確定できない無形資産が配分されているCGUに関して減損を生じさせる可能性がある状況に関する情報を提供する。IAS第1号の開示は、翌事業年度中に資産及び負債の帳簿価額に重要性がある修正を生じる重大なリスクがある仮定に関する情報を提供する。

さらに、IAS第36号は、CGU(又はCGUグループ)の「ヘッドルーム」をゼロにするために、主要な仮定に割り当てた値が変化しなければならない金額の開示を要求しているが、IAS第1号が要求する情報は、資産及び負債の帳簿価額の感応度及び翌事業年度中に合理的に生じる考え得る結果の範囲に関するものである。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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