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実務対応報告公開草案第66号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」等の解説

月刊誌『会計情報』2023年8月号

公認会計士 早野 真史

1. はじめに

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2023年5月31日に、実務対応報告公開草案第66号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」(以下「本実務対応報告案」という。)及び企業会計基準公開草案第79号「『連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準』の一部改正(そのX)(案)」(以下「キャッシュ・フロー作成基準一部改正案」という。また、以下、本実務対応報告案と合わせて「本公開草案」という。)を公表した。本稿では、本公開草案の概要について解説する。

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2. 本公開草案の公表の経緯

2022年6月に成立した「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第61号。以下「改正法」という。)により、「資金決済に関する法律」(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)が改正された。改正後の資金決済法においては、法定通貨の価値と連動した価格で発行され券面額と同額で払戻しを約するもの及びこれに準ずる性質を有するものが新たに「電子決済手段」と定義され、また、これを取り扱う電子決済手段等取引業者について登録制が導入され、必要な規定の整備が行われた。

当該規定の整備を背景に、2022年7月に公益財団法人財務会計基準機構内に設けられている企業会計基準諮問会議に対して、資金決済法上の電子決済手段の発行及び保有等に係る会計上の取扱いについて検討するよう要望が寄せられ、ASBJが検討を行い、本実務対応報告案を公表するに至った。

また、ASBJは、本実務対応報告案に併せて、企業会計審議会が1998年3月13日に公表した「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」及び「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準注解」のうち資金の範囲に関する事項についての検討を行い、本実務対応報告案と同時にキャッシュ・フロー作成基準一部改正案を公表した。

なお、本公開草案は、日本公認会計士協会(JICPA)の会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」にも影響する。JICPAは、2023年5月31日に、キャッシュ・フロー作成基準一部改正案との整合を図るため、同実務指針の改正案を公表した。

 

3. 資金決済法第2条第5項における電子決済手段の規定の内容

資金決済法第2条第5項は電子決済手段を4つに分けて、それぞれ同項第1号から第4号に以下のとおり規定している(以下、資金決済法第2条第5項各号に規定されている電子決済手段を「第1号電子決済手段」等という。)。

資金決済法

第2条第5項各号

規定の内容

第1号

物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権、第三条第一項に規定する前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるもの(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を除く。第2号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第3号に掲げるものに該当するものを除く。)

第2号

不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第3号に掲げるものに該当するものを除く。)

第3号

特定信託受益権※1

第4号

上記に掲げるものに準ずるものとして内閣府令で定めるもの※2

※1 資金決済法において「特定信託受益権」とは、金銭信託の受益権(電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示される場合に限る。)であって、受託者が信託契約により受け入れた金銭の全額を預貯金により管理するものであることその他内閣府令で定める要件を満たすものをいう(資金決済法第2条第9項)。
※2 本公開草案が公表された時点において、第4号電子決済手段に指定されるものは見込まれていない(本実務対応報告案BC3項)。

 

4. 本実務対応報告案の概要

① 範囲

本実務対応報告案は、資金決済法第2条第5項に規定される電子決済手段のうち、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段を対象としている。ただし、次に掲げる項目については、本実務対応報告案の適用範囲に含めていない(本実務対応報告案第2項及び第3項)。

 (i) 第3号電子決済手段の発行者側の会計処理及び開示

本実務対応報告案BC6項では、第3号電子決済手段は、信託の受益権として発行されるため、第3号電子決済手段の発行者は、信託における受託者の会計処理を行うことになると考えられるとしている。ASBJは、これまで基本的に株式会社における会計処理等を定めており、信託の受託者の会計処理については、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」のQ8 Aにおいて一般的な取扱いのみ定めている。したがって、本実務対応報告案においては、第3号電子決済手段の発行者側に係る会計処理等を定めないこととしている(本実務対応報告案BC6項)。

 (ii) 第1号電子決済手段、第2号電子決済手段又は第3号電子決済手段に該当する外国電子決済手段のうち、当該電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託している外国電子決済手段以外の外国電子決済手段

外国電子決済手段とは、外国において発行される資金決済法等に相当する外国の法令に基づく電子決済手段をいう(本実務対応報告案第4項⑷及びBC7項)。

電子決済手段の利用者が電子決済手段等取引業者に預託している外国電子決済手段以外の外国電子決済手段については、電子決済手段等取引業者に関する内閣府令(令和5年内閣府令第48号)における一定の利用者の保護はなく、かつ、資金決済法等で規定される電子決済手段の発行者に対する規制も及ばないため、国内で発行される電子決済手段と同様の会計上の性格を有するか否かは必ずしも明らかではないと考えられること、また、仮に会計上の取扱いを定める場合、国際的な会計基準との整合性を図ることの検討も必要になると考えられることから(本実務対応報告案BC8項)、本実務対応報告案の適用範囲に含めないこととしている。

企業会計基準諮問会議に寄せられた要望では、改正された資金決済法の施行に合わせて会計上の取扱いを定めることのニーズがあったため、ASBJは、本実務対応報告案において、第1号電子決済手段、第2号電子決済手段及び第3号電子決済手段に関する会計上の取扱いを優先して定めることとし、当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いを定めることを提案している。なお、今後の電子決済手段の取引の発展や会計実務の状況により、本実務対応報告案において定めのない事項に対して別途の対応を図ることの要望が市場関係者によりASBJに提起された場合には、公開の審議により、別途の対応を図ることの要否をASBJにおいて判断することとしている(本実務対応報告案BC3項及びBC4項)。

② 実務上の取扱い

本実務対応報告案は、本実務対応報告の対象となる電子決済手段は主に以下の特徴を有するとしている(本実務対応報告案BC10項)。

  • 送金・決済手段として使用される(第2号電子決済手段を除く。)。
  • 電子決済手段の利用者の請求により、電子決済手段の券面額に基づく価額と同額の金銭による払戻しを受けることができるものであり、価値の安定した電子的な決済手段である。
  • 流通性がある。

本実務対応報告案では、このような特徴を踏まえて、本実務対応報告の対象となる電子決済手段は、会計上、現金又は要求払預金に類似する性格を有する資産であるとして(本実務対応報告案BC17項及びBC18項)、以下の会計処理及び開示が提案されている。

 (i) 電子決済手段の保有に係る会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を取得したときは、その受渡日に当該電子決済手段の券面額に基づく価額をもって電子決済手段を資産として計上し、当該電子決済手段の取得価額と当該券面額に基づく価額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(本実務対応報告案第5項)。

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を第三者に移転するとき又は電子決済手段の発行者から本実務対応報告の対象となる電子決済手段について金銭による払戻しを受けるときは、その受渡日に当該電子決済手段を取り崩す。電子決済手段を第三者に移転するときに金銭を受け取り、当該電子決済手段の帳簿価額と金銭の受取額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(本実務対応報告案第6項)。

本実務対応報告の対象となる電子決済手段は、期末時において、その券面額に基づく価額をもって貸借対照表価額とする(本実務対応報告案第7項)。

 (ii) 電子決済手段の発行に係る会計処理

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を発行するときは、その受渡日に当該電子決済手段に係る払戻義務について債務額をもって負債として計上し、当該電子決済手段の発行価額の総額と当該債務額との間に差額がある場合、当該差額を損益として処理する(本実務対応報告案第8項)。

本実務対応報告の対象となる電子決済手段を払い戻すときは、その受渡日に払戻しに対応する債務額を取り崩す(本実務対応報告案第9項)。

本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務は、期末時において、債務額をもって貸借対照表価額とする(本実務対応報告案第10項)。

 (iii) 外貨建電子決済手段に係る会計処理

外貨建電子決済手段とは、外国通貨で表示される電子決済手段をいう(本実務対応報告案第4項⑸)。

本実務対応報告の対象となる外貨建電子決済手段の期末時における円換算については、企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」(以下「外貨建取引等会計処理基準」という。) 一 2⑴ ①の定めに準じて処理を行うとされ(本実務対応報告案第11項)、決算時の為替相場による円換算額を付する。

本実務対応報告の対象となる外貨建電子決済手段に係る払戻義務の期末時における円換算については、外貨建取引等会計処理基準 一 2⑴ ②の定めに従って処理を行うとされ(本実務対応報告案第12項)、決算時の為替相場による円換算額を付する。

 (iv) 預託電子決済手段に係る取扱い

預託電子決済手段とは、電子決済手段等取引業者又は電子決済手段の発行者(以下合わせて「電子決済手段等取引業者等」という。)が、電子決済手段の利用者との合意に基づいて当該利用者から預かった本実務対応報告の対象となる電子決済手段をいう(本実務対応報告案第13項)。

電子決済手段等取引業者等は、預託電子決済手段を資産として計上しない。また、当該電子決済手段の利用者に対する返還義務を負債として計上しない(本実務対応報告案第13項)。

 (v) 開示

本実務対応報告の対象となる電子決済手段及び本実務対応報告の対象となる電子決済手段に係る払戻義務に関する注記については、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第40-2項に定める事項(金融商品の状況に関する事項、金融商品の時価等に関する事項及び金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項)を注記する(本実務対応報告案第14項)。

③ 適用時期等

改正された資金決済法は2023年6月1日から施行されている。ASBJは、改正された資金決済法の施行に合わせて本実務対応報告の対象となる電子決済手段が発行される場合、本実務対応報告案を可能な限り早い時期に適用することのニーズが高いと考えられるとしている。また、本実務対応報告案に定める会計処理等には複雑さがなくその適用の困難さはないと考えられるため、特段の準備期間は必要ないと考えられるとしている。したがって、本実務対応報告案は、公表日以後適用することが提案されている(本実務対応報告案第15項、BC46項)。

本実務対応報告案では、特段の経過的な取扱いを定めておらず、企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第6項⑴に定める会計方針の変更に関する原則的な取扱いに従い、新たな会計方針を遡及適用することが提案されている(本実務対応報告案BC46項なお書き)。

 

5. キャッシュ・フロー作成基準一部改正案の概要

キャッシュ・フロー作成基準一部改正案では、特定の電子決済手段、すなわち、第1号電子決済手段から第3号電子決済手段(外国電子決済手段については、利用者が電子決済手段等取引業者に預託しているものに限る。)を連結キャッシュ・フロー計算書等における資金の範囲として現金に含めることが提案されている(キャッシュ・フロー作成基準一部改正案第2項及びBC6項)。キャッシュ・フロー作成基準一部改正案は、本実務対応報告案と同様に、公表日以後適用することが提案されている(キャッシュ・フロー作成基準一部改正案第4項)。

 

6. おわりに

金融庁は、2022年12月26日に、改正法に関係する政令・内閣府令案等を公表した。パブリックコメントによる意見募集手続を経て、当該政令は2023年6月1日から施行され、また、当該内閣府令等及び告示は、監督指針・ガイドライン等と併せて、2023年6月1日から施行・適用されている。本公開草案と併せて、改正された資金決済法並びに関係する政令、内閣府令等、告示、監督指針及びガイドライン等を参照していただきたい。

以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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