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ナレッジ
IASB、サプライヤー・ファイナンス契約に対処するためにIAS第7号及びIFRS第7号を修正
iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2023年8月号
注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。
トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス
本iGAAP in Focusは、2023年5月に国際会計基準審議会(IASB)によって公表された「サプライヤー・ファイナンス契約」に示されているIAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」及びIFRS第7号「金融商品:開示」の修正について解説するものである。
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背景
2020年12月、IFRS解釈指針委員会は、サプライチェーン・ファイナンス契約に適用されるIFRS会計基準の要求事項を説明するサプライチェーン・ファイナンス契約に関するアジェンダ決定を公表した。アジェンダ決定案に対するフィードバックは、この形式のファイナンスに関して企業が提供することが要求される情報は、利用者の情報ニーズを満たすには不十分であることを示した。IASBは、このフィードバックを検討し、IAS第7号及びIFRS第7号を修正してこの問題に対処することを決定した。
本修正
IAS第7号の修正
本修正は、財務諸表の利用者が、企業の負債及びキャッシュ・フローに対する当該契約の影響及び企業の流動性リスクへのエクスポージャーを評価できるようにする、サプライヤー・ファイナンス契約に関する情報を企業が開示することが要求されることを記述する開示目的をIAS第7号に追加する。
サプライヤー・ファイナンス契約は、1つ又は複数の資金供給者が、企業が仕入先に対して負っている金額を支払うことを申し出ること、及び仕入先が支払を受けるのと同じ日又はそれより後の日に契約の条件に従って支払うことに企業が同意することにより特徴付けられる。これらの契約は、関連する請求書上の支払期日と比較して、企業に対する支払条件の延長、又は企業の仕入先に対しての支払条件の早期化を提供する。サプライヤー・ファイナンス契約は、サプライチェーン・ファイナンス、支払債務ファイナンス、又はリバース・ファクタリング契約と呼ばれることが多い。
企業に対する信用補完のみである契約(例えば、保証として使用される信用状を含む金融保証)又は負っている額を仕入先と直接決済するために使用される金融商品(例えば、クレジットカード)は、サプライヤー・ファイナンス契約ではない。
上記の開示目的を達成するために、企業はサプライヤー・ファイナンス契約について集約して開示することが要求される。
(a)契約の条件(例えば、延長後の支払条件及び提供される担保又は保証)。しかし、企業は、類似していない契約条件を有する契約の条件を別個に開示することが要求される。
(b)報告期間の期首及び期末現在の
(i) サプライヤー・ファイナンス契約の一部である金融負債の、企業の財政状態計算書に表示されている帳簿価額及び関連する科目
(ii) (i)で開示された金融負債のうち、仕入先が資金供給者からすでに支払を受けている金融負債の帳簿価額及び関連する科目
(iii) (i)で開示された金融負債と、サプライヤー・ファイナンス契約の一部ではない比較可能な営業債務の両方の支払期日の範囲(例えば、請求日から30日から40日後)。比較可能な営業債務とは、例えば、(i)で開示された金融負債と同じ事業分野又は法域内の企業の営業債務である。支払期日の範囲が広い場合、企業は、それらの範囲に関する説明情報を開示する、又は追加の範囲(例えば、階層化した範囲)を開示することが要求される。
(c)(b)(i)に基づいて開示された金融負債の帳簿価額における非資金変動の種類及び影響。非資金変動の例には、企業結合、為替差額、又は現金又は現金同等物の使用が要求されないその他の取引の影響が含まれる。
見解 2021年の公開草案「サプライヤー・ファイナンス契約」(ED)に対する一部の回答者は、仕入先が資金供給者から既に支払いを受けているサプライヤー・ファイナンス契約の一部である金融負債の帳簿価額及び関連する科目を開示するために必要な情報が容易に入手できない可能性があることを、IASBに報告した。 他の利害関係者、特に財務諸表の利用者は、IASBに対し、この開示がなければ、提供される情報は不完全であり、利用者の情報ニーズを満たさないであろうと報告した。 IASBは、財務諸表の作成者及び利用者にとってのコストと便益を評価し、この情報の開示を要求することによる便益がコストを上回ると結論付けた。 |
IFRS第7号の修正
IFRS第7号の既存の適用ガイダンスの下では、企業は金融負債から生じる流動性リスクをどのように管理しているかの説明を開示することが要求されている。本修正には、企業に支払条件の延長を提供するか又は企業の仕入先に支払条件の早期化を提供するサプライヤー・ファイナンス契約に、企業がアクセスしたか、又はアクセスを有するかが追加の要因として含まれる。
IFRS第7号の適用ガイダンスにおいて、流動性リスク及び市場リスクの集中はサプライヤー・ファイナンシング契約から生じる可能性があり、その結果、企業が当初は仕入先に対して負っている金融負債の一部を資金供給者に集中させる可能性があることを追加している。
発効日及び経過措置
企業は、2024年1月1日以後開始する事業年度に、IAS第7号の修正を適用することが要求される。早期適用は認められる。企業が本修正を早期適用する場合、その旨を開示することが要求される。
本修正を適用するにあたり、企業は以下を開示することは要求されない。
- 企業が本修正を最初に適用する事業年度の期首より前に表示された報告期間に係る比較情報
- 企業が本修正を最初に適用する事業年度の期首における、上記の(b)(ii)-(iii)で要求される情報
- 企業が本修正を最初に適用する事業年度中の表示される期中報告期間について、IAS第7号の修正により要求される情報
企業は、IAS第7号の修正を適用するときに、IFRS第7号の修正を適用することが要求される。
見解 IASBは、企業の期中財務報告に継続的に適用されるいかなる開示要求も変更しなかった。企業は、IAS第34号「期中財務報告」 の要求事項を適用する。 |
以 上
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。