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IASBは、通貨が交換可能な場合、及び交換可能でない場合に為替レートをどのように決定するかを明確にするためにIAS第21号を修正する

iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2023年10月号

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレター*をご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本iGAAP in Focusでは、2023年8月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した「交換可能性の欠如」(IAS第21号「外国為替レート変動の影響」の修正)を解説する。

  • IASBは、通貨が交換可能かどうかをどのように評価するか及び交換可能でない場合の為替レートをどのように決定するかを定めるIAS第21号の修正を公表した。
  • 本修正を適用し、企業が測定日に特定の目的のために過度の遅延なしに強制可能な権利及び義務を生じさせる市場又は交換メカニズムを通じてその通貨を他の通貨と交換できる場合、通貨は交換可能である。しかし、企業が特定の目的のために測定日に他の通貨の僅少な金額しか入手できない場合、通貨は他の通貨に交換可能ではない。
  • 測定日に通貨が交換可能ではない場合、企業は、全般的な経済状況の下で、測定日における市場参加者間での秩序ある為替取引に適用されるであろうレートとして、直物為替レートを見積ることが要求される。その場合、企業は、通貨の交換可能性の欠如が企業の財務業績、財政状態及びキャッシュフローにどのように影響を与えているか又は影響を与えると見込まれるかを、財務諸表の利用者が評価できるような情報を開示することが要求される。
  • 企業は、2025年1月1日以後開始する事業年度に本修正を適用することが要求される。早期適用は認められる。企業は、本修正を遡及的に適用することは認められない。代わりに、企業は本修正に含まれる特定の経過規定を適用することが要求される。
518KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

IFRS解釈指針委員会(IFRS IC)は、長期的に交換可能性が欠如している場合の為替レートの決定に関する要望書を受け取った。IFRS ICは、この問題に対処するためのさまざまなアプローチを検討し、IASBがIAS第21号の狭い範囲の修正を公表することを提案することが最善の方法であると結論付けた。

 

修正点

「交換可能性」の定義

本修正は、企業が通常の事務上の遅延を認める時間枠の中で、かつ、交換取引が強制可能な権利及び義務を生じさせる市場又は交換メカニズムを通じて他の通貨を取得することができる場合、ある通貨は他の通貨に交換可能であると規定している。

企業は、測定日にある通貨が特定の目的のために他の通貨に交換可能であるかどうかを評価する。企業が測定日に特定の目的のために他の通貨の僅少な金額しか入手できない場合、その通貨は他の通貨に交換可能ではない。

ある通貨が他の通貨に交換可能であるかどうかの評価は、その意図又は意思決定ではなく、他の通貨を入手する企業の能力に依存する。

通貨が交換可能でない場合の直物為替レートの見積り

測定日に通貨が他の通貨に交換可能でない場合、企業は当該日の直物為替レートを見積ることが要求される。直物為替レートを見積る企業の目的は、全般的な経済状況の下で、測定日における市場参加者の間での秩序ある為替取引が行われるであろうレートを反映することである。

本修正は、企業が当該目的を達成するために直物為替レートをどのように見積るかを定めていない。企業は、修正又は他の見積技法を使用しないで観察可能な為替レートを使用することができる。観察可能な為替レートの例には、次のものが含まれる。

  • 企業が交換可能性を評価する目的以外の目的での直物為替レート
  • 通貨の交換可能性が回復された後に、企業が特定の目的のために他の通貨を入手することができる最初の為替レート(最初の事後の為替レート)

他の見積技法を使用する企業は、観察可能な為替レート(強制可能な権利及び義務を生じさせない市場又は交換メカニズムでの為替取引からのレートを含む)を、必要に応じて、上記の目的を満たすように調整して使用することができる。

見解

IASBは、直物為替レートの見積りは複雑となる可能性があり、企業固有及び法域固有の事実及び状況に依存するため、企業が直物為替レートをどのように見積るかに関する詳細な要求事項を提供しないことを決定した。したがって、直物為替レートをどのように見積るかを規定することは、過度に負担を生じさせずに、可能性のあるすべての状況についてのすべての関連性のある要因を反映する可能性は低い。さらに、交換可能性を評価する要求事項により、企業が限定された状況においてのみ直物為替レートを見積る結果となると見込まれる。

 

企業が直物為替レートを見積る場合の開示要求

通貨が他の通貨に交換可能でないために企業が直物為替レートを見積る場合、企業は、他の通貨に交換可能でない通貨が企業の財務業績、財政状態及びキャッシュフローにどのように影響を与えているか又は影響を与えると見込まれるかを、企業の財務諸表の利用者が理解できるようにする情報を開示することが要求される。この目的を達成するために、企業は以下に関する情報を開示することが要求される。

  • 通貨が他の通貨に交換可能でないことの性質及び財務上の影響
  • 使用した直物為替レート
  • 見積プロセス
  • 通貨が他の通貨に交換可能でないために企業が晒されているリスク

特に、企業は以下を開示することが要求される。

  • 通貨と、その通貨が他の通貨に交換可能でない状況を生じさせている制限についての記述
  • 影響を受ける取引についての記述
  • 影響を受ける資産及び負債の帳簿価額
  • 使用した直物為替レート、及び当該レートが修正なしの観測可能な為替レートであるか、他の見積技法を使用して見積った直物為替レートであるか
  • 企業が使用した見積技法の記述、及び当該見積技法において使用したインプット及び仮定に関する定性的及び定量的情報
  • 通貨が他の通貨に交換可能でないために企業が晒されている各種類のリスクに関する定性的情報、及び各種類のリスクに晒されている資産及び負債の性質及び帳簿価額

在外営業活動体の機能通貨が表示通貨に交換可能でない場合(又は該当する場合は、その逆)、企業は以下も開示することが要求される。

  • 在外営業活動体の名称、在外営業活動体が子会社、共同支配事業、共同支配企業、関連会社又は支店のいずれであるか、及びその主たる事業場所
  • 在外営業活動体に関する要約財務情報
  • 在外営業活動体への財政的支援の提供を、企業に要求する可能性のある契約上の取決めの性質及び条件(企業に損失を生じさせる可能性のある事象又は状況を含む)

付属文書及び結果的修正

本修正は、IAS第21号の不可分の一部として新たな付録を追加する。付録には、本修正によって導入された要求事項に関する適用指針が含まれる。本修正は、新たに「IAS第21号に付属する設例」を追加する。これは、提示された限定的な事実に基づいて、企業が仮想的な状況において、いくつかの要求事項をどのように適用するかを示している。

さらにIASBは、交換可能性を評価するために改訂IAS第21号に合わせ、また参照するために、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」に結果的修正を追加している。

 

発効日及び経過措置

企業は、2025年1月1日以後開始する事業年度に本修正を適用することが要求される。早期適用は可能である。企業が本修正を早期適用する場合には、その旨を開示することが要求される。

本修正を適用する際に、企業は比較情報を修正再表示することは認められない。その代わり、

  • 企業がその機能通貨で外貨建取引を報告し、適用開始日(企業が最初に本修正を適用する事業年度の開始日)に、当該機能通貨が外貨に交換可能性がない(又は該当する場合、外貨が機能通貨に交換可能性がない)と結論付けた場合、 企業は、適用開始日に以下のことが要求される。
    –影響を受ける外貨建の貨幣性項目、及び外貨での公正価値で測定する非貨幣性項目を、適用開始日の見積直物為替レートを使用して換算する。
    –本修正の適用開始の影響を、利益剰余金期首残高の修正として認識する。
  • 企業が自らの機能通貨以外の表示通貨を使用する場合、又は在外営業活動体の業績及び財政状態を換算していて、適用開始日に、当該機能通貨(又は在外営業活動体の機能通貨)が表示通貨に交換可能性がない(又は該当する場合、その表示通貨が機能通貨(又は在外営業活動体の機能通貨)に交換可能性がない)と結論付けた場合、 企業は、適用開始日に以下のことが要求される。
    –影響を受ける資産及び負債を、適用開始日の見積直物為替レートを使用して換算する。
    –企業の機能通貨が超インフレである場合に、影響を受ける資本項目を適用開始日の見積直物為替レートを使用して換算する。
    –本修正の適用開始の影響を、為替差額の累計額(資本の独立の内訳項目に累積)の修正として認識する。

以上

* 英語版ニュースレターについては、IAS Plusのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.iasplus.com/en/publications/global/igaap-in-focus/2023/ias-21

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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