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令和6年度税制改正大綱の概要
月刊誌『会計情報』2024年2月号
デロイト トーマツ税理士法人 公認会計士・税理士 大野 久子
はじめに
令和5年12月14日、与党より令和6年度与党税制改正大綱(以下「大綱」)が公表され、12月22日に閣議決定された。
大綱では、3年間にわたったコロナ禍による国際的な産業構造の転換の加速化や世界情勢の緊迫化といった大転換の時代において、わが国は四半世紀にわたりデフレからの脱却という難題に挑んでいる現況が記載されている。その構造転換のチャンスを逃さぬよう、令和6年度税制改正では、物価上昇を上回る賃金上昇の実現が最優先とされ、所得税・個人住民税の定額減税、賃上げ促進税制の強化等が予定されている。さらに、企業や個人が持てる能力を最大限発揮し挑戦できる社会の実現のため、戦略分野国内生産促進税制やイノベーションボックス税制が創設される。
また、国内外のグローバル化など、経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直しが予定されている。OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において議論されている、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対応する2本柱の解決策のうち、移転価格税制に関連する第1の柱「市場国への新たな課税権の配分」に関しては、大綱には具体的な内容が記載されなかったが、引き続き状況を注視する必要がある。第2の柱「グローバル・ミニマム課税」については、令和5年度税制改正に引き続き、国際合意に則った法制化が進められる。
消費課税の分野では、デジタルサービス市場の拡大によりプラットフォームを介して多くの国外事業者が国内市場に参入している中で、国外事業者の納めるべき消費税の捕捉や調査・徴収が課題となっていることから、事業者に代わりプラットフォーム事業者に納税義務を課す制度(プラットフォーム課税)が導入される。
本稿においては、大綱に掲げられた改正項目のうち、主要な項目について解説を行う。
なお、以下の内容は大綱に基づくものであり、実際の適用に当たっては、令和6年3月までに成立が見込まれる関連法令等を確認する必要がある点に、留意されたい。
法人課税
1. 給与等の支給額が増加した場合の税額控除制度
構造的・持続的な賃金上昇の動きを拡げることを目的として、賃上げ促進税制が強化される。大企業、中堅企業、中小企業に区分し、企業の規模に応じた賃上げ率の要件を設定し、賃上げ率の増加等に応じて控除率を増加させることにより企業の賃上げをさらに促進する見直しが行われる。
また、子育てと仕事の両立支援や女性活躍の推進に積極的な企業に対する厚生労働者による認定を受けている企業に対して控除率の上乗せ措置を講ずることにより、最大の控除率が、大企業・中堅企業では現行の30%から35%に、中小企業では現行の40%から45%に引き上げられることになる。
さらに、中小企業の多くが欠損法人であり、欠損法人に対して税制措置のインセンティブが有効となっていない現状を考慮して、中小企業に対して新たに繰越税額控除制度が創設される。
(1)全法人向けの措置
1) 概要
賃上げ促進税制は、継続雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて3%以上増加している場合等に、その増加額(控除対象雇用者給与等支給増加額)の一部を法人税から税額控除できる制度である。本措置については、控除対象雇用者給与等支給増加額に乗ずる税額控除率が原則の15%から10%へ引き下げられる一方で、最大控除率が30%から35%へ拡大される等の税額控除率について次の見直しが行われた上、その適用期限が3年延長される。
2) マルチステークホルダー要件の見直し
本措置の適用を受けるための要件として、資本金の額等が10億円以上かつ常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合には「給与等の支給額の引上げの方針、取引先との適切な関係の構築の方針その他の事項」(いわゆるマルチステークホルダー方針)を公表しなければならないこととされているが、この要件について以下の見直しが行われる。
(2)従業員数2,000人以下の青色申告書提出法人についての制度
従来の大企業のうち、常時使用従業員数2,000人以下の企業(中堅企業)について、従来の賃上げ率の要件を維持しつつ、控除率を見直すよう、以下の措置が追加される。
(3)中小企業者向けの措置
中小企業者向けの賃上げ促進税制は、雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加している場合に、その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度である。本措置については、新たに繰越控除制度を創設し、これまで本税制を活用できなかった赤字企業に対しても賃上げにチャレンジできるよう見直されたことに加え、最大控除率が40%から45%へ拡大される等の税額控除率について次の見直しが行われた。その上で、適用期限が3年延長される。
(4)事業税付加価値割についての措置
上述の法人税における賃上げ促進税制の見直しに合わせ、法人事業税付加価値割についても、同税制の見直し後の要件と同様の要件を満たす法人に対して、以下の措置がとられる。
■ 法人が令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度において国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、継続雇用者給与等支給額の前期の継続雇用者給与等支給額に対する増加割合が3%以上である等の要件を満たすときは、控除対象雇用者給与等支給増加額を付加価値割の課税標準から控除できることとされる
■ 外形標準課税の対象法人の見直しに伴い、中小企業者等が令和7年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度において、雇用者給与等支給額の前期雇用者給与等支給額に対する増加割合が1.5%以上である等の要件を満たすときは、控除対象雇用者給与等支給増加額を付加価値割の課税標準から控除する制度が設けられる
(5)その他
その他、以下の見直しが予定されている。
2. 特定税額控除規定の停止措置の見直しと延長
賃上げ促進税制や国内投資促進税制の強化を通じて賃上げや国内投資に積極的な企業を後押しする一方、収益が拡大しているにもかかわらずこれらに消極的な企業に対する特定税額控除規定の停止措置(いわゆる「ムチ税制」)が強化される。具体的にはこのムチ税制について、その適用期限が3年延長された上、一定の大企業に対する要件の上乗せ措置の対象の拡大や要件の強化が図られる。
3. 中小企業事業再編投資損失準備金制度(中小企業経営資源集約化税制)の見直し
成長意欲のある中堅・中小企業が、複数の中小企業を子会社化し、グループ一体となって成長していくことを後押しするために、令和3年度税制改正で創設された中小企業事業再編投資損失準備金制度が拡充される。
具体的には、産業競争力強化法の改正を前提に、青色申告書提出法人で同法の改正法の施行日から令和9年3月31日までの間に産業競争力強化法の特別事業再編計画(仮称)の認定を受けた認定特別事業再編事業者(仮称)であるものが、その認定に係る特別事業再編計画に従って他の法人の株式等の取得(購入による取得に限る)をし、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合において、その株式等の価格の低落による損失に備えるため、その株式等の取得価額に次の株式等の区分に応じそれぞれ次の割合を乗じた金額以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できる措置が加えられる。
なお、株式を取得した事業年度において積み立てた準備金は、その株式等の全部又は一部を有しなくなった場合、その株式等の帳簿価額を減額した場合等において取り崩すほか、その積み立てた事業年度終了の日の翌日から10年(現行:5年)を経過した日を含む事業年度から5年間でその経過した準備金残高の均等額を取り崩して、益金算入される。
4. 戦略分野国内生産促進税制の創設
(1)概要
生産性向上・供給力強化を通じて潜在成長率を引き上げるため、グリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)、経済安全保障という戦略分野において、民間として事業採算性に乗りにくいが、国として特段に戦略的な長期投資が不可欠となる投資が選定され、産業競争力強化法の改正を前提に、それらを対象として生産・販売量に比例して法人税額を控除する戦略分野国内生産促進税制が創設される。対象物資ごとに単価が設定され、企業の投資の中長期的な予見可能性を高める観点から、措置期間が計画認定から10年間という極めて長期の措置とされる上で、4年間(半導体は3年間)の税額控除の繰越期間が設けられる。
(2)適用対象法人及び適用要件等
当該税制措置の具体的な適用対象法人及び適用要件等の内容は、以下のとおりである。
(3)措置の内容
上記(2)に該当する場合には、以下の税額控除の適用を受けることができる。
5. イノベーションボックス税制の創設
国際競争が進む中、わが国の研究開発拠点としての立地競争力を強化し、民間による無形資産投資を後押しするために、国内で自ら行う研究開発の成果として生まれた知的財産から生じる所得に対して優遇するイノベーションボックス税制が創設される。
具体的には、企業が国内で自ら研究開発を行った特許権又はAI分野のソフトウェアに係る著作権について、当該知的財産の国内第三者への譲渡所得又は国内外における第三者からのライセンス所得に対して、以下のように所得の30%の所得控除が認められる。
これにより、対象所得については、法人税率約7%相当の税制優遇(法定実効税率ベースで見ると現在の29.74%から約20%相当まで引き下がる税制優遇)が行われることとなる。
6. 研究開発税制の見直し
イノベーションボックス税制(前述 p.61)の創設に伴い、一部目的が重複する研究開発税制については、試験研究費が減少した場合の控除率の引下げを行うことにより、投資を増加させるインセンティブをさらに強化するためのメリハリ付けが行われる。
(1)一般試験研究費の額に係る税額控除制度の見直し
研究開発投資を増加させるためのインセンティブを強化するために、一般試験研究費の額に係る税額控除制度における税額控除率の算式について、研究開発費が減少している場合の控除率の段階的な引下げが行われる。また研究開発費が減少している場合における、税額控除率の下限が撤廃される。
(2)制度の対象となる試験研究費の額の範囲
制度の対象となる試験研究費の額について、以下の見直しが行われる。
7. 暗号資産の期末時価評価の見直し
(1)概要
発行者以外の第三者が保有する市場暗号資産については、その保有目的にかかわらず、期末時価評価の対象とされていたところ、継続的に保有する暗号資産については、一定の要件の下、期末時価評価の対象外とする見直しが行われる。
(2)改正案
法人が有する市場暗号資産に該当する暗号資産で、譲渡についての制限その他の条件が付されているものの期末における評価額は、原価法・時価法のいずれかの評価方法のうちその法人が選定した評価方法により計算した金額とされる。
8. 特定事業活動として特別新事業開拓事業者の株式の取得をした場合の課税の特例(オープンイノベーション促進税制)の延長
オープンイノベーション促進税制は、令和2年度税制改正により創設された制度で、スタートアップ企業とのオープンイノベーションに向け、国内の事業会社又はその国内コーポレートベンチャーキャピタルが、スタートアップ企業の株式を一定額以上取得する場合、その株式の取得価額の25%を所得控除することができる制度である。当該税制につき、以下のとおり適用期限が2年延長される。
現行 |
改正案 |
|
---|---|---|
適用期限 |
令和6年3月31日まで |
令和8年3月31日まで |
9. 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(地域未来投資促進税制)の見直し
青色申告書を提出する法人が、令和7年3月31日までに承認地域経済牽引事業計画に従って特定事業用機械等を取得した場合、機械装置・器具備品につき取得価額等の40%相当額の特別償却又は4%相当額の税額控除(上乗せ要件を満たす場合は、50%相当額の特別償却又は5%相当額の税額控除)、また、建物・附属設備・構築物につき20%相当額の特別償却又は2%相当額の税額控除を適用できる課税の特例(地域未来投資促進税制)について、主務大臣の確認要件の見直しが行われた上で、成長志向型中堅企業に係る要件を満たす場合に機械装置等の税額控除率の引上げが行われる(所得税についても同様)。
(1)特別償却率及び税額控除率を引き上げる措置(上乗せ要件)の要件の見直し
(2)特別償却率及び税額控除率を引き上げる措置(上乗せ要件)の対象の追加
10. 交際費等の損金不算入制度の見直しと延長
地方活性化の中心的役割を担う中小企業の経済活動の活性化や、「安いニッポン」の指摘に象徴される飲食料費に係るデフレマインドを払拭する観点から、交際費等の損金不算入制度の見直しが行われる。
(1)概要
交際費等の損金不算入制度について、次の措置がとられた上、適用期限が3年延長される。
(2)適用関係
上記の「損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食に係る金額の基準」に関する改正は、令和6年4月1日以後に支出する飲食費について適用される。
11. 外形標準課税の見直し
企業の稼ぐ力を高める法人税改革の趣旨や地方税収の安定化・税負担の公平性といった制度導入の趣旨を踏まえ、事業税の外形標準課税の適用対象法人のあり方について見直される。具体的には、(1)減資への対応及び(2)100%子法人等への対応として以下の見直しが行われる。
(1)減資への対応
(2)100%子法人等への対応
12. カーボンニュートラルに向けた投資促進税制(カーボンニュートラル投資促進税制)の見直しと延長
エネルギー利用環境負荷低減事業適応計画(以下「事業適応計画」)の認定を受け、かつ青色申告書を提出する法人が、事業適応計画に従って生産工程効率化等設備等の取得等を行った場合、当該設備等の取得価額等の50%相当額の特別償却又は5%若しくは10%相当額の税額控除を適用できる課税の特例(カーボンニュートラル投資促進税制)について、次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長(令和8年3月31日までの期間内)される(所得税についても同様)。
(1)適用対象資産
事業適応計画の認定(令和8年3月31日まで)を受けた日から3年以内に取得等をして、事業の用に供する資産について、次の見直しが行われる。
(2)認定要件等及び措置内容
生産工程効率化等設備の導入を伴う事業適応計画の認定要件のうち、事業所等の炭素生産性向上率に係る要件及び措置内容について、次の見直しが行われる。
なお、令和6年4月1日前に認定の申請をした事業適応計画に従って同日以後に取得等をする資産については、本制度は適用されない。
13. 欠損金の繰戻しによる還付制度の不適用措置の期限延長
欠損金の繰戻しによる還付制度は、中小企業者等及び清算中に終了する事業年度において生じた欠損金等を除き、不適用とされている。この不適用措置の適用期限が2年延長される。また、不適用の対象から銀行等保有株式取得機構の欠損金額を除外する措置の適用期限が2年延長される。
14. 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の見直しと期限延長
中小企業者等のうち常時使用する従業員の数が500人以下の法人は、取得価額が10万円以上30万円未満の減価償却資産(一定の貸付用資産を除く)を取得等して事業の用に供した場合には、損金経理要件等の一定要件のもとに、1事業年度あたり300万円を上限として事業の用に供した事業年度にその取得価額の全額を損金算入することが認められている。この対象法人から、電子情報処理組織を使用する方法(e-Tax)により法人税の確定申告書等に記載すべきものとされる事項を提供しなければならない法人のうち、常時使用する従業員の数が300人を超えるものが除外され、適用期限が2年延長される。
組織再編
1. 認定株式分配(パーシャルスピンオフ)に係る課税の特例の見直しと延長
いわゆる「パーシャルスピンオフ税制」(認定株式分配に係る課税の特例)(※1)について、次の見直しが行われた上、適用期限が4年延長される。
(※1)元親会社に一部持分を残すパーシャルスピンオフ(株式分配に限る)について、一定の要件を満たせば再編時の譲渡損益課税を繰り延べ、株主のみなし配当に対する課税を対象外とする特例措置。
2. 現物出資についての見直し
(1)改正案
現物出資に関連し、以下の見直しが行われる。
1) 内国法人が外国法人の本店等に無形資産等(※1)の移転を行う現物出資について、適格現物出資の対象から除外される。
2) 現物出資により移転する資産等(国内不動産等を除く)の内外判定は、以下のとおりである。
(2)適用関係
上記の改正は、令和6年10月1日以後に行われる現物出資について適用される。
国際課税
1. 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等の見直し
各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等について、次の見直しが行われる。国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax:以下「QDMTT」)を含め、OECDにおいて来年以降も引き続き実施細目が議論される見込みであるもの等については、国際的な議論を踏まえ、令和7年度税制改正以降の法制化が検討される。
(1)自国内最低課税額に係る取扱い
次の見直しが行われる。現行、QDMTTはグループ国際最低課税額の計算上で当期国別国際最低課税額等から控除されるところ、改正案では一定の要件を満たすQDMTTを設けた国又は地域について、グループ国際最低課税額を零とするセーフ・ハーバーが設けられることになる。
■ 構成会社等がその所在地国において一定の要件を満たす自国内最低課税額に係る税を課することとされている場合に、その所在地国に係るグループ国際最低課税額を零とする適用免除基準が設けられる
■ 無国籍構成会社等が自国内最低課税額に係る税を課されている場合には、グループ国際最低課税額の計算においてその税の額が控除される
(2)外国税額控除の見直し
次に掲げる外国における税について、外国税額控除における取扱いが設けられる。改正案ではQDMTTが外国税額控除の対象であることが明確化され、懸念されていた外国子会社合算税制による課税とQDMTTによる二重課税について一定の措置が講じられることとなる。
(3)その他
OECDが令和5年2月及び7月に公表している執行ガイダンス及びGloBE情報申告に係る文書で検討されていたもののうち、現行未反映であったもの等を含む次の追加や見直し等が行われる。
■ 個別計算所得等の金額から除外される一定の所有持分の時価評価損益等は、特定多国籍企業グループ等に係る国又は地域単位の選択により、個別計算所得等の金額に含めることが認められる
■ 導管会社等に対する所有持分を有することにより適用を受けることができる税額控除の額(一定の要件を満たすものに限る)は、特定多国籍企業グループ等に係る国又は地域単位の選択により、調整後対象租税額に加算することが認められる
■ 特定多国籍企業グループ等報告事項等の提供制度について、特定多国籍企業グループ等報告事項等が、提供義務者の区分に応じて必要な事項等に見直される
■ 法人住民税の計算の基礎となる法人税額に各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税の額が含まれないよう所要の措置が講じられる
■ その他所要の措置が講じられる
2. 外国子会社合算税制の見直し
外国子会社合算税制におけるペーパー・カンパニー特例については、その適用要件の一つに、「収入割合要件」がある。このうち、例えば、持株会社特例に係る収入割合要件は、外国関係会社の収入金額の合計額のうちに占める一定の子会社等からの配当等が占める割合が95%超であることを要するというものであるが、当該外国関係会社に収入等がない場合には、当該要件を充足しないことになるのではないかという疑義が生じていた。大綱によれば、外国関係会社の事業年度に係る収入等がない場合には、その事業年度における収入割合要件の判定が不要とされる。
3. 過大支払利子税制の見直し
過大支払利子税制(対象純支払利子等に係る課税の特例)は、所得金額に比して過大な利子を支払うことを通じた租税回避を防止するための制度である。
過大支払利子税制の適用を受け、損金不算入とされた支払利子等の額(以下「超過利子額」)は、現行法上、原則として最大7年間繰り越して、一定の金額を限度として損金算入を行うことができることとされている。大綱によれば、令和4年4月1日から令和7年3月31日までの間に開始した事業年度に係る繰越期間が10年(原則:7年)に延長される。これは、米国における急激な金利上昇を受けた時限的対応措置と推測される。
現行 |
改正案 |
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超過利子額の繰越期間 |
7年 |
10年(原則:7年)※ |
※ 令和4年4月1日から令和7年3月31日までの間に開始した事業年度に係る超過利子額
4. 子会社株式簿価減額特例の見直し
子会社株式簿価減額特例の適用により減額する株式等の帳簿価額の計算に際しては、その子法人から受ける対象配当金額のうち特定支配関係発生日以後の利益剰余金の額から支払われたものと認められる部分の金額を除外できる特例計算が認められている。
現行法上、この特例計算が認められる「対象配当等の額」から、特定支配日の属する事業年度に受ける配当等の額は除外されている。大綱によれば、上記の特例計算について、特定支配関係発生日の属する事業年度内に受けた対象配当金額(その特定支配関係発生日後に受けるものに限る)についても、その特例計算の適用を受けることができることとされる。
5. その他
国内外のグローバル化など、経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直しが予定されている。OECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において議論されている、経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対応する2本柱の解決策のうち、移転価格税制に関連する第1の柱「市場国への新たな課税権の配分」に関しては、大綱には具体的な内容が記載されなかったが、引き続き状況を注視する必要がある。
消費課税
1. プラットフォーム課税の導入
国外事業者に係る消費税の課税の適正化を目的として、プラットフォーム課税の導入が行われる。プラットフォーム課税については、これまでプラットフォームを介して数多くの国外事業者が国内市場に参⼊している中で、国内外の競争条件の公平性も考慮しつつ、適正な課税を確保するための⽅策を検討するとされていたが、令和6年度の税制改正により具体化される。
(1)プラットフォーム課税
国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う電気通信利用役務の提供(事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く:以下同じ)のうち、国税庁長官から指定を受けたプラットフォーム事業者(以下「特定プラットフォーム事業者」)を介してその対価を収受するものについては、特定プラットフォーム事業者が行ったものとみなされる。すなわち、国外事業者が特定プラットフォーム事業者を経由して電気通信利用役務を提供する場合、そのデジタルサービスに係る消費税について、国外事業者に代わり特定プラットフォーム事業者に納税義務が課される。
上記の改正は、令和7年4月1日以降に行われる電気通信利用役務の提供について適用され、所要の経過措置を講ずるとされている。
1) 特定プラットフォーム事業者における対応
国税庁長官は、プラットフォーム事業者のその課税期間において対象となるべき電気通信利用役務の提供に係る対価の額の合計額が50億円を超える場合には、当該プラットフォーム事業者を特定プラットフォーム事業者として指定する。また、特定プラットフォーム事業者に指定した旨を通知するとともに、当該特定プラットフォーム事業者に係るデジタルプラットフォームの名称等についてインターネットを通じて公表するものとし、指定を受けた特定プラットフォーム事業者は、上記の対象となる国外事業者に対してその旨を通知するものとする。
指定を受けた特定プラットフォーム事業者は、確定申告書に国外事業者が提供した電気通信利用役務について、金額等を記載した明細書を添付した上で、消費税の申告及び納付を行うこととなる。
よって、特定プラットフォーム事業者は以下の対応が必要となる。
■ その課税期間において対象となるべき電気通信利用役務の提供の対価の額の合計額が50億円を超える場合には、その課税期間の確定申告期限までに国税庁長官に届出を行う
■ 特定プラットフォーム事業者の指定を受けた旨の国外事業者への通知
■ 令和7年4月1日以降に行われる国外事業者による電気通信利用役務の提供に関して、明細書を添付して消費税の申告及び納付を実施する
2. 外国法人に対する事業者免税点制度の特例及び簡易課税制度の見直し
事業者免税点制度は国外事業者により、売⼿が納税せず買⼿が控除を⾏う、いわゆる「納税なき控除」による租税回避が⾏われている状況を踏まえ、見直しが行われる。また、簡易課税制度においても恒久的施設を有しない国外事業者については、国内における課税仕⼊れ等が⼀般的に想定されず、業種ごとのみなし仕⼊率による控除が適切とはいえないため、簡易課税制度の適⽤を認めないこととされる見直しが行われる。
(1)事業者免税点制度の特例の見直し
事業者の事務処理能力等を踏まえて、事業者免税点制度を適用しないこととする特例に関して見直しが行われる。
上記の改正は、令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用される。
1) 特定期間における課税売上高による納税義務の免除の特例
課税売上高に代わり適用可能とされている給与支払額による判定の対象から国外事業者を除外する。
⾮居住者への給与の支払が判定の対象となっていないため、国外事業者に対して本特例が適切に機能していないことを踏まえ、国外事業者については「給与(居住者分)の合計額」による判定を認めないこととされる。
2) 資本金1,000万円以上の新設法人に対する納税義務の免除の特例
外国法人は基準期間を有する場合であっても、国内における事業の開始時に本特例の適用の判定を行う。
現行法では新設法人の特例は、事業年度開始の日の資本金等が1,000万円以上の法人でかつ基準期間がない課税期間を対象としているが、外国法人は、⽇本への進出時点で設⽴から⼀定期間経過していることが⼀般的であり、本特例が適⽤されないことを踏まえ、外国法⼈については、⽇本における事業を開始した時の資本⾦等により本特例を適⽤することとされる。すなわち、外国法人で日本における事業を開始した時の資本金等が1,000万円以上の法人は、納税義務を免除されない。
3) 資本金1,000万円未満の特定新規設立法人に対する納税義務の免除の特例
本特例の対象となる特定新規設立法人の範囲に、その事業者の国外分を含む収入金額が50億円超である者が直接又は間接に支配する法人を設立した場合のその法人を加えるほか、外国法人は基準期間を有する場合であっても、国内における事業の開始時に本特例の適用の判定を行う。現行法では、国内の課税売上⾼が5億円超の法⼈等が、直接又は間接に支配する法人として設⽴した資本⾦等1,000万円未満の法⼈であり、かつ基準期間がない課税期間を対象としているが、事務処理能⼒を有する⼤企業でも、⽇本での課税売上⾼がなければ⼀律に対象外となってしまうことを踏まえ、全世界における収⼊⾦額が50億円超である者が、直接又は間接に支配する法人として資本⾦等1,000万円未満の法⼈を設⽴した場合も対象に加えられる。すなわち、国内事業者・国外事業者を問わず、特定新規設立法人の判定には、当該法人を直接又は間接に支配する者の全世界の収入金額が基準とされるほか、外国法人については、基準期間がある場合にも適用されるため、全世界の収入金額が50億円を超える者が直接又は間接に保有する法人等は、納税義務を免除されないこととされる見込みである。
(2)簡易課税制度等の見直し
その課税期間の初日において、所得税法又は法人税法上の恒久的施設を有しない国外事業者について、簡易課税制度の適用を認めないこととされる。また、適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置の特例(いわゆる2割特例)についても同様の扱いとされる。
上記の改正は、令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用される。
3. インボイス制度に関連する改正
(1)免税事業者等からの仕入税額控除に係る経過措置の適用に関する制限
適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置について、一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で10億円を超える場合には、その超えた部分の課税仕入れについて、インボイス制度導⼊に伴う8割控除・5割控除の経過措置の適⽤を認めないこととする。すなわち、免税事業者等からの仕入税額控除に係る経過措置の適用は、特定の1社から10億円を超えた部分は認められないこととされる。
上記の改正は、令和6年10月1日以後に開始する課税期間から適用される。
(2)自動販売機等及び入場券回収による帳簿のみの保存の特例について
一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる自動販売機及び自動サービス機による課税仕入れ並びに使用の際に証票が回収される課税仕入れ(3万円未満のものに限る)について、帳簿への住所等の記載が不要とされる。
なお、令和5年10月1日以後に行われる上記の課税仕入れに係る帳簿への住所等の記載については、運用上、記載がなくとも改めて求めないものとされる。
4. その他
消費税の現行制度を利用した不正な仕入税額控除を防ぐ観点等から、以下の措置が導入される。
(1)外国人旅行者向け消費税免税制度により免税購入された物品に関する仕入税額控除について
外国人旅行者向け消費税免税制度により免税購入された物品と知りながら行った課税仕入れについて、仕入税額控除制度の適用を認めないこととされる。
上記の改正は、令和6年4月1日以後に国内において事業者が行う課税仕入れについて適用される。
(2)消費税の不正受還付犯(未遂犯を含む)の対象について
消費税の不正受還付犯(未遂犯を含む)の対象に、偽りその他不正の行為による更正の請求に基づく還付が加えられる。
上記の改正は、法律の公布の日から起算して10日を経過した日以後にした違反行為について適用される。
(3)金又は白金の地金等の購入した場合の事業者免税制度及び簡易課税制度の適用について
高額特定資産を取得した場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を制限する措置の対象に、その課税期間において取得した金又は白金の地金等の額の合計額が200万円以上である場合を加えることとされる。
上記の改正は、令和6年4月1日以後に国内において事業者が行う金又は白金の地金等の課税仕入れ及び保税地域から引き取られる金又は白金の地金等について適用される。
(4)消費税法上の調整対象固定資産について
漁港及び漁場の整備等に関する法律の漁港水面施設運営権を消費税法上の調整対象固定資産(無形固定資産)とすることとされる。
二酸化炭素の貯留事業に関する法律(仮称)の制定を前提に、同法の貯留権(仮称)及び試掘権(仮称)を消費税法上の調整対象固定資産(無形固定資産)とすることとされる。
個人所得課税
1. 所得税・個人住民税の定額減税
賃金上昇と相まって、国民所得の伸びが物価上昇を上回る状況をつくり、デフレマインドの払拭と好循環の実現につなげていくため、令和6年の所得税の定額減税が実施される。
(1)内容
居住者の所得税額、及び納税義務者の所得割の額から、特別控除額が控除される。ただし、その者の令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円(給与収入のみの場合、給与収入2,000万円に相当)以下である場合に限られる。
特別控除の額=次の金額の合計額(その者のそれぞれ所得税額、所得割の額を限度) |
---|
(2)特別控除の実施方法
給与所得者・公的年金等の受給者については令和6年6月1日以後最初に支払われる給与等について源泉徴収されるべき所得税の額から控除し、事業所得者等については令和6年分の所得税に係る第1期分予定納税額(7月)から控除する等の措置が講じられる。
また、住民税について特別徴収を行う場合は、特別控除後の住民税の額の11分の1の額を令和6年7月から令和7年5月まで給与の支給の際に徴収する。
2. ストックオプション税制の拡充
特定の取締役等が受ける新株予約権の行使による株式の取得に係る経済的利益の非課税等(ストックオプション税制)について、次の措置が講じられる。
(1)適用対象となる新株予約権に係る保管等の要件の緩和
ストックオプション税制における保管委託要件について、企業買収時において機動的に対応できるよう、スタートアップ自身による管理の方法が新設される。
(2)その年における新株予約権の権利行使価額の限度額の引上げ
主としてレイター期の人材確保に資するよう、スタートアップが発行した新株予約権について、ストックオプション税制の年間の権利行使価額の上限の引上げが実施される。
(3)新株予約権の付与対象者の拡充等
新株予約権の付与対象者である社外高度人材の要件の緩和・拡充等が行われる。
3. 非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得及び譲渡所得等の非課税措置(NISA)の拡充
非課税口座内上場株式等について与えられた新株予約権で一定のものの行使等に際して金銭の払込みをして取得した上場株式等について、①非課税口座が開設されている金融商品取引業者等を経由して払込みをすること、②金融商品取引業者等への買付けの委託等により取得した場合と同様の受入期間及び取得対価の額の合計額に係る要件その他の要件を満たす場合に限り、特定非課税管理勘定に受け入れることができることとされる。
4. 子育て支援に関する政策税制
(1)子育て世帯等に対する住宅借入金等特別控除の拡充
子育て支援の観点から、子育て特例対象個人が住宅借入金により所定の住宅の新築・取得を行った場合には、現行の住宅借入金等特別控除とは別に、以下の年末の借入残高の限度額を基礎に住宅借入金等特別控除の計算ができることとされる。
子育て特例対象個人とは、①40歳未満で配偶者を有する者、②40歳以上で、40歳未満の配偶者を有する者又は19歳未満の扶養親族を有する者をいう。
この改正は、令和6年1月1日から令和6年12月31日までの間に、その住宅を居住の用に供した場合に限り適用することとされている。
住宅の区分 |
現行の借入限度額 |
改正案 |
---|---|---|
認定住宅 |
4,500万円 |
5,000万円 |
ZEH水準省エネ住宅 |
3,500万円 |
4,500万円 |
省エネ基準適合住宅 |
3,000万円 |
4,000万円 |
※住宅借入金等特別控除の金額は、年末の住宅借入金残高の0.7%で計算される。
(2)子育て世帯等に対する既存住宅に特定の改修工事を行った場合の特別控除の拡充
子育て世代の居住環境の改善の観点から、子育て特例対象個人が、その居住用家屋に一定の子育て対応改修工事を行い、令和6年4月1日から令和6年12月31日までの間に居住の用に供した場合に、その改修工事に係る標準的な工事費用相当額(250万円を限度)の10%相当額を控除することができることとされる。
この税額控除は、その年分の合計所得金額が2,000万円を超える場合には適用されない。
(3)子育て世帯に対する生命保険料控除の拡充
生命保険料控除における新生命保険料に係る一般枠(遺族保障)について、23歳未満の扶養親族を有する場合には、現行の4万円の適用限度額に対して2万円の上乗せ措置が講じられる。
5. 非居住者に係る暗号資産等取引情報の自動的交換のための報告制度の整備等
暗号資産等を利用した国際的な脱税及び租税回避を防止する観点から、令和4年、OECDにおいて策定された暗号資産等の取引や移転に関する自動的情報交換の報告枠組み(CARF:Crypto-Asset Reporting Framework)に基づき、非居住者の暗号資産に係る取引情報等を租税条約等により各国税務当局と自動的に交換するため、国内の暗号資産取引業者等に対し非居住者の暗号資産に係る取引情報等を税務当局に報告することを義務付ける制度が以下のとおり整備される。
■ 報告暗号資産交換業者等との間でその営業所等を通じて暗号資産等取引を行う者は、①その者の氏名又は名称、②住所又は本店の所在地、③居住地国、④居住地国が外国の場合にはその国の納税者番号等の必要事項を記載した届出書を提出しなければならない。
➣ 令和8年1月1日以降に報告暗号資産交換業者等との間でその営業所を通じて暗号資産等取引を行う者は、その取引の際に提出
➣ 令和7年12月31日において、暗号資産等取引を行っている者は、令和8年12月31日までに提出
■ 報告暗号資産交換業者等は、年末において、その営業所等を通じて暗号資産等取引を行った者が報告対象契約を締結している場合には、所定の報告事項(氏名、名称、住所、本店の所在地などのほか、暗号資産等の売買等に係る資産の種類ごとの名称、対価の額の合計額など)を、翌年4月30日までに報告暗号資産交換業者等の本店所在地の所轄税務署長に提供しなければならない。
■ 外国居住者等に係る暗号資産等取引情報の自動的な提供のための報告制度が整備される。
また、非居住者に係る金融口座情報の自動的交換のための報告制度等について、報告金融機関等の範囲の見直し等が行われるほか、双方居住者に該当する者について、租税条約上の振分けルールにかかわらず、日本と相手国等の双方を居住地国と取り扱うこととされる。
上記の改正は、令和8年1月1日から施行される。
資産課税
1. 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置の見直し
父母・祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用家屋を新築等するための資金を取得した場合に、一定の限度額まで贈与税が非課税となる当該制度につき、一部要件の見直しが行われた上で、3年延長される。
(1)適用期限の延長・要件等の見直し
適用期限が、令和5年12月31日から令和8年12月31日まで3年延⾧される。また、非課税限度額の上乗せ措置の適用対象となるエネルギーの使用の合理化に著しく資する住宅用の家屋の要件について、住宅用家屋の新築又は建築後使用されたことのない住宅用家屋の取得をする場合にあっては、次の見直しが行われる。なお、一定の耐震住宅、一定のバリアフリー住宅については、要件の見直しはされない。
(2)適用関係ほか
上記の改正は、令和6年1月1日以後の、当該制度に係る贈与税について適用され、特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例措置等についても適用期限が3年延長され、同様に適用される。
2. 非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度の見直し
非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度を適用するためには、特例承継計画を対象会社の主たる事務所が所在する都道府県に提出する必要があるが、次のとおり提出期限が2年延長される。
現行 |
改正案 |
---|---|
令和6年3月31日 |
令和8年3月31日 |
特例承継計画の提出期限は2年延長されたものの、特例制度自体は令和9年12月末までの時限措置とされており、今回の大綱の基本的考え方において適用期限の延長は行わない旨が明記されているため、適用を検討している企業に関しては早期に事業承継に取り組むことが期待される。
3. 産業競争力強化法の特別事業再編計画についての登録免許税の特例の創設
産業競争力強化法の改正を前提に、同法に規定する特別事業再編計画(仮称)の認定(同法の改正法の施行の日から令和9年3月31日までの間にされたものに限る。)を受けた特別事業再編事業者(仮称)のうち一定のものが、その特別事業再編計画に基づき行う次に掲げる登記に対する登録免許税の税率を軽減する措置がとられる。
また、認定事業再編計画(事業再編計画の認定要件が見直された後の産業競争力強化法に規定するもの)に基づき行う登記に対する登録免許税の税率の軽減措置について、その適用期限が3年延長され、令和9年3月31日までに認定された計画が対象となることになる。
4. 新たな公益信託制度の創設に伴う、相続税・贈与税を非課税とする措置の導入
(1)公益信託制度の概要
公益信託とは、委託者(財産を有する者)が、学術、技芸、慈善等の公益目的のために受託者(信託銀行等)に財産を託し、受託者は、定められた目的に従って、その財産を管理・運用し、公益的な活動を行う制度である1。
「令和6年度内閣府税制改正要望2」における新たな公益信託制度の創設の背景・目的によると、公益信託を組成するためには、信託銀行等が主務官庁へ認可申請を行う必要があるが、この主務官庁制を撤廃し、公益法人認定法と共通の枠組みで公益信託の認可・監督を行う仕組みとし、公益性を担保しつつ、より使いやすい制度を構築するため、公益信託法の改正が行われる予定とのことである。
(2)相続税・贈与税の非課税措置
公益信託制度改革による新たな公益信託制度の創設に伴い、公益信託の信託財産とするために相続財産を拠出した場合について、相続税の非課税制度の対象とされるほか、公益信託から給付を受ける財産については、その信託の目的にかかわらず贈与税を非課税とするなど一定の措置がとられる。
1 【出所】公益信託(一般社団法人信託協会ウェブサイト)
2 「令和6年度内閣府税制改正要望」(内閣府ウェブサイト(PDF19頁))
納税環境整備
1. 隠蔽し、又は仮装された事実に基づき更正請求書を提出していた場合の重加算税制度の整備
過少申告加算税又は無申告加算税に代えて課される重加算税の適用対象に、隠蔽し、又は仮装された事実に基づき更正請求書を提出していた場合が追加される。
上記の改正は、令和7年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用される。
地方税の重加算金制度についても、同様の整備が行われる。
2. 偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社の役員等の第二次納税義務の整備
偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は国税の還付を受けた株式会社、合資会社又は合同会社がその国税(その附帯税を含む)を納付していない場合において、徴収不足であると認められるときは、その偽りその他不正の行為をしたその株式会社の役員又はその合資会社若しくは合同会社の業務を執行する有限責任社員(※1)は、その偽りその他不正の行為により免れ、若しくは還付を受けた国税の額又はその株式会社、合資会社若しくは合同会社の財産のうち、その役員等が移転を受けたもの及びその役員等が移転をしたもの(通常の取引の条件に従って行われたと認められる一定の取引として移転をしたものを除く)の価額のいずれか低い額を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負うこととされる。
(※1)その役員等を判定の基礎となる株主等として選定した場合にその株式会社、合資会社又は合同会社が被支配会社(※2)に該当する場合におけるその役員等に限る。
(※2)上記の「被支配会社」とは、1株主グループの所有株式数が会社の発行済株式の50%を超える場合等におけるその会社をいう。
上記の改正は、令和7年1月1日以後に滞納となった一定の国税について適用される。
地方団体の徴収金についても同様の整備が行われる。
その他
1. 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置
防衛力強化に係る財源確保のための税制措置については、令和5年度税制改正大綱に則って取り組むことが記載された。なお、たばこ税については、税負担の適正化による増収と合わせ、3円/1本相当の財源を確保することとされた。
あわせて、令和5年度税制改正大綱及び上記の基本的方向性により検討を加え、その結果に基づいて適当な時期に必要な法制上の措置を講ずる趣旨を令和6年度の税制改正に関する法律の附則において明らかにするものとされた。
以上
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。