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IASBは、特定の特徴を有する再生可能電力に係る売買契約についての修正を提案

iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2024年7月号

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレター1をご参照下さい。

本iGAAP in Focusでは、国際会計基準審議会(IASB)が2024年5月8日に公表した公開草案(ED)「再生可能電力に係る契約」に関するIFRS第9号「金融商品」及びIFRS第7号「金融商品:開示」の修正案の概要を解説する。

  • IASBは、以下の修正を提案する。
    –IFRS第9号における「自己使用」の要求事項に、以下の特徴を有する再生可能電力の購入及び引受けに係る契約にIFRS第9号2.4項を適用する場合に企業が考慮すべき要因を含める。
     »電力の生産の源泉が自然に依存するものである。
     »購入者がほとんどすべての数量リスクに晒されている。
    –IFRS第9号におけるヘッジ会計の要求事項として、特定の特徴を有する再生可能電力に係る契約をヘッジ手段として使用する企業に対して、以下の取扱いを認める。
     »特定の規準が満たされる場合に、予定電力取引における変動する名目的な数量をヘッジ対象として指定すること。
     »ヘッジ手段に使用されているのと同じ数量の仮定を用いてヘッジ対象を測定すること。
    –IFRS第7号及びIFRS第19号「公的説明責任のない子会社:開示」に、特定の特徴を有する再生可能電力に係る契約についての開示の要求事項を導入する。
  • EDは本修正の発効日を特定していないが、2025年1月1日以後に開始する事業年度を発効日とすることが適切かどうかを回答者に質問している。
  • 修正案の早期適用は、本修正の公表日から認められる。
  • 企業は、以下のように適用することを要求される。
    –IFRS第9号の「自己使用」の要求事項に係る修正について、修正遡及アプローチを用いる。
    –ヘッジ会計の要求事項の修正について、将来に向かって適用する。
  • EDに対するコメント期間は、2024年8月7日に終了する。
535KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

2023年6月にIFRS解釈委員会(IFRS IC)は、企業が自然に依存する源泉から生産される電力の購入及び引受けに係る契約にIFRS第9号2.4項をどのように適用するかについて、受け取った要望書を検討した。この要望書は、IFRS第9号の要求事項をこれらの契約に適用する場合に、以下により、企業が適用上の課題に直面することを指摘していた。

  • 再生可能電力の源泉の特徴と、電力が販売される市場の設計及び運営
  • 参照する生産施設から生産される電力を生産された時点で購入することを購入者に義務付ける(一般に物理的電力購入契約(PPAs)と呼ばれる)という生産量買取(pay-as-produced)の特徴—この特徴は、生産された電力量が生産時における購入者の電力需要と一致しないリスクのほとんどすべてを購入者に負担させる。

IFRS ICは、この問題をIASBに照会した。IASBのリサーチ期間において、利害関係者は企業が「バーチャルPPAs」、すなわち参照する生産施設から生産される電力量について実勢市場価格と契約上合意された価格との差額の純額決済を必要とするPPAsに対してどのように会計処理するかについてもIASBは検討すべきであると言及した。

IASBは、これらの問題に対処するために、IFRS第9号及びIFRS第7号の修正を提案するEDを公表することを決定した。

 

提案された要求事項

範囲

本修正は、具体的に以下の両方の特徴を有する再生可能電力契約に適用される。

  • 再生可能電力の生産の源泉が自然に依存するものであるため、特定の時期又は特定の数量での供給を保証できない。
  • この契約は、生産量買取(pay-as-produced)の特徴により、当該契約の下でほとんどすべての数量リスクに購入者を晒している。

企業は、本修正を他の契約、商品又は取引に対して類推適用することは禁止される。

見解

IASBは、修正案に他の電力契約を含めるかどうかを検討した。IASBは、提案を作成するにあたり、他の契約が上記の特徴を有する契約と同様の懸念をもたらすというフィードバックを受けていない。例えば、IASBは、バイオマス発電に係る契約及び水力発電に係る一部の契約は上記の特徴のうち1つしか有しない可能性があるため、これらの契約を提案した要求事項の範囲に含めなかった。そのため、本修正を特定の特徴を満たさない契約に対して類推適用することは認められない。

IASBは、再生可能電力の契約には、通常、再生可能エネルギー証書(RECs)が付随していることを認めている。IASBは排出物価格設定メカニズムに関する潜在的なプロジェクトの一部としてこの問題に取り組むことが最善であると考えたため、EDはRECsの会計処理方法を提案していない。

 

IFRS第9号における「自己使用」の要求事項

IFRS第9号2.4項の要求事項を上記の「範囲」に記述された特徴を有する再生可能電力の購入及び引受けに係る契約に適用する目的で、企業(購入者)は、契約の開始時及びその後の各報告日に、以下の事項を考慮することが要求される。

  • 契約目的、設計及び構造(契約の残存期間にわたり引き受けると見込まれる電力量を含む)。契約に基づき引渡されると見込まれる数量が、企業の予想される購入又は使用の必要に引き続き従っているかどうかを評価する際に、企業は以下を行う。
    –報告日から12か月以上の間(又は企業の正常営業循環期間)に、企業の購入又は使用の必要に予想される変更について、報告日に入手可能な合理的で裏付け可能な情報を検討する。
    –遠い将来の期間については、報告日に入手可能な合理的で裏付け可能な情報から推定して予想することが認められる(すなわち、当該期間において、企業は詳細な見積もりを行うことは要求されない)。
  • 引渡し後短期間における未使用の再生可能電力の過去の売却及び予想される売却が、企業の予想される購入又は使用の必要に従っているかどうか。未使用の再生可能電力の売却は、以下の規準をすべて満たしている場合にのみ、企業の予想される購入又は使用の必要に従っている。
    –売却は、企業が晒されている数量リスク、すなわち引渡された再生可能電力と引渡時における企業の電力需要との間の不一致から生じている。
    –電力が売買される市場の設計及び運営により、企業は売却の時期又は価格を決定する実際上の能力を有することが制限されている。
    –企業が売却後、合理的な期間内(たとえば、1か月間)に少なくとも同等の数量の電力を買い戻すことを見込んでいる。

 

IFRS第9号におけるヘッジ会計の要求事項

上記の「範囲」に記述された特徴を有する再生可能電力に係る契約がヘッジ手段として指定されているキャッシュ・フロー・ヘッジ関係に対してIFRS第9号のヘッジ対象の要求事項を適用する目的のために、企業は予定電力取引(売却又は購入)の変動する名目的な数量をヘッジ対象として指定することは以下の場合にのみ認められる。

(a)ヘッジ対象は、ヘッジ手段の関連する電力の変動数量として指定され、かつ、

(b)(a)に従ってヘッジ指定された予定電力取引の変動数量は、発生する可能性が非常に高い将来の電力取引量を超過しない。

企業が(a)に従って再生可能電力の売却を指定するとき、ヘッジ手段が再生可能電力契約で特定されている生産施設からの将来の再生可能電力の総売却量の割合に関連している場合には、予定される売却は発生する可能性が非常に高いという要求事項を満たす必要はない。

適格なキャッシュ・フロー・ヘッジ関係が確立されている場合には、企業はヘッジ手段の測定に使用されるのと同じ数量の仮定を用いてヘッジ対象を測定することが要求される。ただし、ヘッジ対象を測定する場合には、価格付けの仮定など、他のすべての仮定とインプットはヘッジ対象の性質と特徴を反映する(すなわち、企業はヘッジ手段の特徴を織り込むことは認められない)。  

見解

EDは、ヘッジ対象の識別方法の変更を提案している。電力の売買に係るヘッジ会計では、本修正がなければ、企業はヘッジ関係の期間を通じて変更できない発生する可能性が非常に高い将来の予定電力の特定の数量、すなわち絶対量を指定することが要求される。これにより、ヘッジ手段の数量がその特定の数量と異なる場合にはヘッジの非有効が生じる。契約上の電力量が、発生する可能性が非常に高い購入電力量を下回る電力の購入者及び販売する電力量が契約に連動している売手について、IASBは数量の不確実性から生じるヘッジの非有効が財務諸表におけるヘッジ関係の経済的影響を忠実に表現しているとは考えていない。したがって、EDは、本修正の「範囲」に含まれる契約については、取引量の不確実性によって引き起こされるヘッジの非有効は生じるべきではない(すなわち、ヘッジの非有効は、価格差などの他の要因からのみ生じるべきである)ことを提案している。

 

IFRS第7号及びIFRS第19号における開示の要求事項

IASBは、IFRS第7号の修正を提案しており、財務諸表の利用者が、特定の特徴を有する再生可能電力契約が企業の財務業績並びに企業の将来キャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性に及ぼす影響を理解できるようにするための情報の開示を企業に要求している。

特に、企業は以下を開示することが要求される。

  • 契約条件
  • 純損益を通じて公正価値で測定されない再生可能電力に係る契約について、以下のいずれかの事項
    –報告日における公正価値(該当するIFRS第13号における開示とともに)
    –契約の残存期間にわたって、契約に基づいて売手が売却する予定の再生可能電力の数量又は購入者が購入する予定の再生可能電力の数量。この情報は、特定の期間帯における範囲として開示することができ、また、当該情報を作成する際に用いた方法及び仮定の説明、並びに、該当する場合には当該方法又は仮定の変更の理由を併せて記載する必要がある。

さらに、本修正の「範囲」に含まれる再生可能電力に係る契約を有する企業は、以下の情報を開示することが要求される。

  • 売手:報告期間に売却された総電力量に占める当該契約の対象となる再生可能電力の割合
  • 買手:報告期間における以下の事項

a.購入した電力の正味購入量に占める当該契約の対象となる再生可能電力の割合

b.生産の源泉に関係なく、購入した電力の正味購入量

c.企業が電力を購入した市場における電力の単位あたりの平均市場価格

d.(b)に(c)を乗じた金額が(b)の電力量を購入するためにかかった合計コストと著しく異なる場合には、当該差異についての定性的な説明

また、IASBは、IFRS第19号の修正を提案しており、当該基準を適用する公的説明責任のない子会社に対して同様の開示の要求事項を導入している。

見解

2名のIASBメンバーは、EDの公表に反対票を投じた。特に、これらのIASBメンバーは、以下の見解を持っている。

  • 再生可能電力の購入者が契約期間中のある期間に契約に基づいて供給された電力が使用されずに売却されることを合理的な確実性をもって知っている場合には、公正価値による会計処理が適切である(つまり、例外を導入すべきではない)。
  • 修正案は、他の電力契約や他の非金融商品項目の契約の会計処理に疑問を呈するだけでなく、再生可能電力の契約に対してはより寛大に見える。
  • もしIASBが、特定の特徴を有する再生可能電力に係る契約の公正価値の変動を純損益に認識することが有用な情報を提供しないと考えるのであれば、これについては財務諸表の表示を通じて対処すべきであった。

これらのIASBメンバーのうちの1名は、ヘッジ会計の修正の範囲に同意しなかった。このメンバーの意見では、ヘッジ関係にある再生可能電力に係る契約については変動する名目的な数量を指定することが許される一方で、同様の経済性を有する他の契約ではそれができないことについて、原則的な理由はない。

 

発効日、経過措置、コメント期間

EDは発効日を提案していない。発効日は、IASBが提案を再審議する時に決定される。しかしながら、IASBはコメント募集において2025年1月1日以後に開始する事業年度を発効日とすることが適切であり、修正案を適用する準備に十分な時間を提供するかどうかを質問している。修正案の早期適用は、修正案が公表された日から認められる。

IASBは、企業に以下を要求することを提案している。

  • IFRS第9号の「自己使用」の要求事項に係る修正について、修正遡及アプローチを用いて適用すること。
  • ヘッジ会計の要求事項に係る修正について、将来に向かって適用すること。

EDのコメント期間は2024年8月7日までである。

以上

 

  1. 英語版ニュースレターについては、IAS Plusのウェブサイトを参照いただきたい。
    https://www.iasplus.com/en/publications/global/igaap-in-focus/2024/renewable-energy-ed

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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