ナレッジ

IASBは、子会社に対する削減された開示のフレームワークを導入する

iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2024年8月号

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。
この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレター1をご参照下さい。

本iGAAP in Focusでは、国際会計基準審議会(IASB)が2024年5月9日に公表したIFRS第19号「公的説明責任のない子会社:開示」の概要を解説する。

  • IASBはIFRS第19号を公表し、要件を満たす子会社が財務諸表にIFRS会計基準を適用する際、削減された開示を提供することを認める。
  • 子会社が公的説明責任を有しておらず、最終的な又は中間的な親会社が、IFRS会計基準に準拠した、一般の使用のために利用可能な連結財務諸表を作成している場合、子会社は削減された開示の要件を満たす。
  • IFRS第19号の適用は、要件を満たす子会社にとって任意であり、これを適用することを選択する子会社についての開示要求を示す。
  • 新基準は、2027年1月1日以後開始する事業年度に発効する。早期適用は認められる。

 

[PDF, 523KB] ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

親会社がIFRS会計基準を適用する場合、子会社は、通常、連結目的で親会社に報告する際に、IFRS会計基準の認識及び測定の要求事項を適用する。

IASBは、こうした子会社の一部が、自身の財務諸表をIFRS会計基準を適用して作成しながら開示要求を削減することを望んでいるというフィードバックを受けた。

IASBは、「中小企業向け国際財務報告基準(IFRS for SMEs会計基準)」は、その認識と測定の要求事項がIFRS会計基準のものと異なるため、これらの子会社にとって魅力的ではないことを認めた。

これにより、IFRS for SMEs会計基準を適用する子会社は、親会社への報告のために追加の会計記録を維持する必要がある。

この問題に対処するため、IASBは、2021年7月に「公的説明責任のない子会社:開示」と題した公開草案(ED)を公表した。IASBは、IFRS第19号を公表することにより、このEDを最終化した。

見解

IASBは、EDの提案に以下の重要な変更を加えた。

  • 基準で使用される用語は、IFRS会計基準で使用されている用語と整合させる
  • 詳細な開示要求、特に金融商品に関する開示要求を修正する
  • 信用リスクに関して狭い範囲の開示要求を導入し、要件を満たす子会社の1つのグループのみに適用する
  • 引き続き適用する他のIFRS会計基準の開示要求への参照場所を含め、基準の構成を変更する

 

目的

IFRS第19号は、他のIFRS会計基準の開示要求の代わりに企業が適用することが認められる開示要求を規定している。

 

範囲

企業がIFRS第19号を適用することが認められるのは、報告期間の末日現在で以下のすべてに該当する場合に限られる。

  • 子会社である(これには中間的な親会社が含まれる)
  • 公的説明責任を有していない
  • 最終的な又は中間的な親会社が、IFRS会計基準に準拠した、一般の使用のために利用可能な連結財務諸表を作成している。

子会社は、以下のいずれかの場合には公的説明責任を有している。

  • 企業の負債性金融商品又は資本性金融商品が公開市場(国内又は国外の証券取引所又は店頭取引市場(地方市場及び地域市場を含む))で取引されているか又は公開市場での当該金融商品の発行の過程にある場合
  • 主要な事業の1つとして、外部者の広範なグループの受託者として資産を保有している場合(例えば、銀行、信用組合、保険会社、証券ブローカー/ディーラー、投資信託会社及び投資銀行は、多くの場合、この2つ目の要件を満たす)

見解

IFRS第19号における公的説明責任の定義は、IFRS for SMEs会計基準におけるものと同じである。したがって、要件を満たす子会社は中小企業の一部である。IASBは、IFRS会計基準を適用する親会社に報告する必要があるため、IFRS for SMEs会計基準の適用に魅力を感じない中小企業の一部のコスト及び便益を考慮してIFRS第19号を開発した(上記の「背景」を参照)。

 

要件を満たす企業は、連結財務諸表、個別財務諸表、又は単独の財務諸表にIFRS第19号を適用することができる。連結財務諸表にIFRS第19号を適用しない中間的な親会社は、要件を満たす場合、個別財務諸表でIFRS第19号を適用することができる。

IFRS第19号を適用する選択又は選択の取消し

ある報告期間にIFRS第19号の適用を選択した企業は、その後にその選択を取消すことができる。また、企業はIFRS第19号を複数回適用する選択を行うことも認められる。

比較情報(すなわち、前期の情報)は、IFRS第19号が当期に適用されるかどうかに基づいて決定される。

  • IFRS第19号を当期に適用しているが直前期には適用していない企業は、当期の財務諸表において報告したすべての金額について、比較情報を提供することが要求される。ただし、IFRS第19号又は他のIFRS会計基準が他の方法を認めるか又は要求している場合は除く。
  • 同様に、IFRS第19号を前期に適用したが当期に適用しないことを選択する(又はもはや要件を満たさなくなった)企業は、当期の財務諸表において報告したすべての金額について、前期に係る比較情報を提供することが要求される。ただし、他のIFRS会計基準が他の方法を認めるか又は要求している場合は除く。

IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」における会計方針の変更の要求事項は、IFRS第19号を適用する選択又は選択の取消しには適用されない。

IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」との相互関係

IFRS第19号は、IFRS第1号を適用する要件を満たす企業(例えば、最初のIFRS財務諸表を作成する企業)に対して、IFRS会計基準の初度適用に関する削減された開示を提供している。

IFRS第19号を適用する選択又は選択の取消しは、それ自体では、企業がIFRS第1号の意味におけるIFRS会計基準の初度適用企業の定義を満たすことにはならない。

 

削減された開示要求

IFRS第19号の開示要求は、他のIFRS会計基準に規定された開示要求の削減版である。

IFRS第19号は開示のみの基準である。IFRS第19号を適用する要件を満たす子会社は、認識、測定及び表示の要求事項について、他のIFRS会計基準の要求事項を適用することが要求される。開示の要求事項については、以下の場合を除き、他のIFRS会計基準の開示要求の代わりにIFRS第19号が適用される。

  • 他のIFRS会計基準における開示要求の一部は、IFRS第19号を適用する企業に依然として適用される。これらはIFRS第19号に定められている。
  • IFRS第19号を適用する企業が、IFRS第8号「事業セグメント」、IFRS第17号「保険契約」又はIAS第33号「1株当たり利益」も適用する場合、それらの他の基準のすべての開示要求を適用することが要求される。
  • 新IFRS会計基準又は修正IFRS会計基準には、当該新基準又は修正基準への企業の移行に関する開示要求が含まれている場合がある。これらの移行の開示要求に関してIFRS第19号を適用する企業に与えられる救済措置は、新IFRS会計基準又は修正IFRS会計基準に規定される。

IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」に従って、IFRS第19号を適用する企業は、IFRS第19号が要求している特定の開示からもたらされる情報が重要性があるものではない場合には、その開示を提供することは要求されない。

企業は、IFRS第19号における具体的な要求事項への準拠が、財務諸表の利用者が、取引、他の事象及び状況が企業の財政状態及び財務業績に与える影響を理解できるようにするのに不十分である場合には、追加的な開示を提供すべきかどうかも検討することが要求される。

財務諸表がIFRS会計基準及びIFRS第19号の要求事項に準拠している企業は、IFRS第19号を適用した旨の記述とともに、その準拠の旨の明示的かつ無限定の記述を注記において行うことが要求される。

 

発効日

IFRS第19号は、2027年1月1日以後開始する事業年度に発効する。早期適用は認められる。企業がIFRS第19号を早期適用することを選択した場合、その旨を開示することを要求される。

IFRS第18号

IFRS第18号は2024年4月に公表され、IAS第1号「財務諸表の表示」を置き換える。IFRS第18号は、2027年1月1日以後開始する事業年度に適用され、早期適用は認められる。IFRS第18号が最初に適用される報告期間より前の報告期間にIFRS第19号を適用することを選択した企業は、IFRS第19号の付録に規定された一連の修正された開示要求を適用することを要求される。

IAS第21号「外国為替レート変動の影響」の修正

2023年8月に公表された「交換可能性の欠如」は、IAS第21号を修正し、新たな開示要求を追加した。IAS第21号の修正は、2025年1月1日以後開始する事業年度に適用され、早期適用は認められる。企業が2025年1月1日より前に開始する事業年度にIFRS第19号を適用し、IAS第21号の修正を適用していない場合、「交換可能性の欠如」に関するIFRS第19号の開示要求を適用することは要求されない。

見解

IFRS第19号は、他のIFRS会計基準における新たな又は修正された開示要求と整合し、最新の状態を保つために、必要に応じて修正される。IASBは新たな基準を策定する場合又は基準の修正を行う場合には、開示要求の削減に関する原則を適用し、要件を満たす子会社のコスト及び便益を評価する。その後、IASBは、開示要求の削減に関するフィードバックを得て、IFRS第19号の結果的修正として公表し、これを新基準又は修正基準の付録に含める。

IFRS第19号の策定に当たって、IASBは、2021年2月28日時点のIFRS会計基準における開示要求を考慮に入れた。その後に追加又は修正された基準の開示要求は変更を加えずに含まれている。IASBは、2021年2月28日から2024年5月の間に、IFRS会計基準に追加又は修正された開示要求に関するIFRS第19号の修正案である「キャッチアップ」公開草案を公表する。本稿執筆時点では、キャッチアップ公開草案は2024年第3四半期に公表される見込みである。

 

以上

 

1  英語版ニュースレターについては、IAS Plusのウェブサイトを参照いただきたい。
https://www.iasplus.com/en/publications/global/igaap-in-focus/2024/ifrs-19

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

お役に立ちましたか?