IASB、年次改善プロセスの一環としてIFRS会計基準の修正を公表 ブックマークが追加されました
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IASB、年次改善プロセスの一環としてIFRS会計基準の修正を公表
iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2024年10月号
トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス
注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。
この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレター1をご参照下さい。
本iGAAP in Focusでは、2024年7月に国際会計基準審議会(IASB)から公表された「IFRS会計基準の年次改善(第11集)」を解説する。
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背景
IASBは、年次改善プロセスの一環としてIFRS会計基準の修正を公表した。これらの年次改善は、十分に軽微であるか又は範囲が狭いため、それらの修正が関連していなくても、1つの文書にまとめられた。年次改善は、IFRS会計基準の文言を明確化するか、又は比較的軽微な意図せざる帰結、見落としもしくは基準の要求事項間の矛盾を訂正又は修正する変更に限定される。
修正
初度適用企業によるヘッジ会計(IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」の修正)
利害関係者はIASBに、IFRS第1号B6項の文言とIFRS第9号「金融商品」におけるヘッジ会計の要求事項との間の不整合から生じる混乱の可能性について報告した。修正前のIFRS第1号B6項はヘッジ会計の「条件」に言及していたが、IFRS第9号のセクション6.4はヘッジ会計の「適格要件」を定めている。IFRS第1号B6項は当初、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」のヘッジ会計の要求事項と整合するように書かれていた。
この問題に対処するため、IASBは、IFRS第9号の要求事項とIFRS第1号B5項及びB6項との整合性を向上させるためにIFRS第1号B5項及びB6項を修正し、IFRS第1号の理解可能性を向上させるためにIFRS第9号6.4.1項への相互参照を追加した。
認識の中止に係る利得又は損失(IFRS第7号「金融商品:開示」の修正)
2011年5月、IASBはIFRS第13号「公正価値測定」を公表し、いくつかのIFRS会計基準に結果的修正が行われた。当該修正には、IFRS第7号27項から27B項の削除が含まれていた。しかし、IFRS第7号B38項において、IASBは、IFRS第13号の公表後に使用されないIFRS第7号27A項へ参照を削除することを省略した。
したがってIASBは、IFRS第7号B38項において使用されない相互参照を更新し、IFRS第7号B38項の文言をIFRS第13号で使用されている用語と合わせた。
公正価値と取引価格との間の繰延差額の開示(IFRS第7号の適用ガイダンスの修正)
IASBは、IFRS第13号を公表した際、IFRS第7号28項の文言をIFRS第13号で使用されている文言及び概念と整合させるために修正した。しかし、IASBは、IFRS第7号28項の開示要求の一部を例示するIFRS第7号IG14項の修正を省略した。その結果、IFRS第7号IG14項の文言の一部は、IFRS第7号28項の文言と整合していなかった。
この問題に対処するため、IASBは、IFRS第7号IG14項の文言をIFRS第7号28項と整合させるために、またIFRS第7号IG14項の設例での文言の内部整合性を向上させるために、IFRS第7号IG14項を修正した。
「はじめに」及び信用リスクの開示(IFRS第7号の適用ガイダンスの修正)
利害関係者はIASBに、IFRS第7号IG20C項がIFRS第7号35M項のすべての要求事項を例示していないことを記載していないため、明確性が欠如している可能性があると報告した。さらに、IFRS第7号35H項と35I項の要求事項の適用を例示するIFRS第7号IG20B項は、「この例は、購入また組成した信用減損金融資産に関する要求事項は示していない」と記述していた。利害関係者はIASBに、この記述により、IFRS第7号IG20C項においてもIFRS第7号35M項の特定の要求事項を例示していないと記述することを、読者が期待する可能性があると報告した。
これらの問題に対処するため、IASBは、IFRS第7号IG1項を修正し、本ガイダンスが必ずしも参照されたIFRS第7号の項のすべての要求事項を例示しているわけではないことを明確にする記述を追加した。IASBはまた、IFRS第7号IG20B項を修正し、例示されていない要求事項の部分についての説明を簡素化した。
リース負債の認識の中止(IFRS第9号の修正)
利害関係者はIASBに、リース負債の認識の中止に関する借手の会計処理に関する明確性の欠如について報告した。一部の利害関係者は、IFRS第9号に従ってリース負債が消滅したとき、借手はIFRS第9号3.3.3項を適用し、その結果生じる利得又は損失を純損益に認識することが要求されるのか、又は、たとえば、IFRS第16号「リース」に従って、認識されている使用権資産に対応する修正を行うことが要求されるのかどうか明確ではないと報告した。
この問題に対処するため、IASBは、IFRS第9号2.1項(b)(ii)を修正し、IFRS第9号3.3.3項への相互参照を追加した。本修正により、借手はIFRS第9号に従ってリース負債が消滅したと判断した場合、借手はIFRS第9号3.3.3項を適用し、その結果生じる利得又は損失を純損益に認識することを要求されることが明確化された。
見解 一部の利害関係者は、IFRS第9号とIFRS第16号の相互関係―具体的には、借手はIFRS第16号で定義されているリースの条件変更とリース負債の消滅(又は部分的な消滅)をどのように区別するのかを明確にするようIASBに求めた。IASBは、当該相互関係の明確化は年次改善の範囲を超えると結論付けた。 |
取引価格(IFRS第9号の修正)
利害関係者は、IFRS第9号5.1.3項とIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の要求事項との間の不整合についてIASBに報告した。IFRS第15号105項を適用する企業は、対価に対する無条件の権利を債権として区分表示することが要求される。しかし、債権は、当初認識時に、収益として認識された取引価格の金額とは異なる金額で測定されることがある(IFRS第15号に付属する設例40に例示されているとおり)。したがってIASBはIFRS第9号5.1.3項を修正し、「取引価格(IFRS第15号で定義)」を「IFRS第15号を適用して算定される金額」に置き換えた。
IFRS第9号5.1.3項から「取引価格」の用語が削除された後は、IFRS第9号では、IFRS第15号における「取引価格」の定義方法と関連するような当該用語の使用は残っていない。したがってIASBは、IFRS第9号の付録Aにおける「取引価格」(IFRS第15号の定義による)への参照を削除することを決定した。
「事実上の代理人」の判定(IFRS第10号「連結財務諸表」の修正)
利害関係者はIASBに、IFRS第10号B73項とB74項の要求事項は、状況によっては矛盾する可能性があると報告した。IFRS第10号B73項は、「事実上の代理人」を投資者のために行動する当事者として言及し、他の当事者が事実上の代理人として行動しているかどうかの決定には、判断が必要であると規定している。しかし、IFRS第10号B74項の第2文には、より決定的な文言が含まれており、投資者の活動を指図する人々が当事者に対して投資者のために行動するよう指図する能力を有する場合、当該当事者は事実上の代理人であると規定している。
この問題に対処するため、IASBは、IFRS第10号B74項を、より決定的でない表現を用いるように修正し、IFRS第10号B74項で記載された関係は、当事者が事実上の代理人として行動しているかどうかの判断が必要とされる状況の一例にすぎないことを明確にした。
原価法(IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」の修正)
2008年5月、IASBは、「子会社、共同支配企業又は関連会社に対する投資の原価」を公表することにより、IFRS会計基準を修正した。これらの修正の一環として、IASBはIFRS会計基準から「原価法」の定義を削除した。しかしIASBは、IAS第7号37項から「原価法」という用語への参照を削除しておらず、これは見落としであった。
したがってIASBは、IAS第7号37項を修正し、「原価法」という用語を「原価で」に置き換えた。
発効日及び経過措置
本修正は、2026年1月1日以後開始する事業年度から適用され、早期適用が認められる。企業が本修正を早期適用する場合、その旨を開示することが要求される。
企業は、本修正を最初に適用する事業年度の期首以後に消滅するリース負債に対して、IFRS第9号2.1項(b)(ii)の修正を適用することが要求される。その他の修正に関しては特段の経過措置は設けられていない。
以上
1 英語版ニュースレターについては、IAS Plusのウェブサイトを参照いただきたい。
(https://www.iasplus.com/en/publications/global/igaap-in-focus/2024/aip)
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。