ナレッジ

IASBは、財務諸表における気候関連及びその他の不確実性についての設例案を提案

iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2024年11月号

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレター1をご参照下さい。

 

本iGAAP in Focusでは、2024年7月31日に国際会計基準審議会(IASB)が公表した公開草案(ED)「財務諸表における気候関連及びその他の不確実性-設例案」を解説する。

  • IASBは、企業が財務諸表における気候関連及びその他の不確実性の影響を報告するために、IFRS会計基準の要求事項をどのように適用するかを示す8つの設例をIFRS会計基準に追加することを提案している。
  • 設例案は主に気候関連の不確実性に焦点を当てているが、示されている原則及び要求事項は他のタイプの不確実性にも同様に適用される。
  • IFRS会計基準に付属する資料(設例を含む)は、当該基準の不可欠な一部ではなく、したがって強制的ではないため、発効日又は経過措置は提案されていない。
  • EDのコメント期間は2024年11月28日に終了する。
[PDF, 543KB] ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

2023年3月、IASBは、財務諸表における気候関連リスクの影響の報告を改善するための的を絞った行動を検討するプロジェクトを作業計画に追加した。

IASBは、アジェンダ協議に対する回答者からの強い要望のため、このプロジェクトに取り組むことを決定した。これらの回答者は、財務諸表における気候関連リスクの影響に関する情報が不十分であるか、企業が財務諸表の外で提供する情報と不整合に見えることを懸念していた。

IASBは、財務諸表における気候関連リスクの影響の報告に関する回答者の懸念の内容及び原因を理解するための調査を実施した。当該調査に基づき、IASBは、以下のことを決定した。

  • 気候関連及びその他の不確実性をカバーするようにプロジェクトの目的を一般化する。
  • EDに示される提案の作成を含め、財務諸表におけるこれらの不確実性の影響の報告を改善するための措置を講じる。

見解

IASBは、このプロジェクトの作業を通じて、IFRSのサステナビリティ開示基準を開発する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のメンバー及びテクニカル・スタッフと協力してきた。このコラボレーションの目的は、企業が財務諸表で提供する情報と、一般目的財務報告書の他の部分で提供する情報との間のつながりを強化することであった。

 

設例案

本EDは、企業がIFRS会計基準の要求事項をどのように適用し、財務諸表における気候関連及びその他の不確実性の影響を報告するかを示す8つの設例を提案している。設例自体は主に気候関連の不確実性に焦点を当てているが、示されている原則及び要求事項は他のタイプの不確実性にも同様に適用される。

IASBは、以下に関する要求事項に関する設例に焦点を絞ることを決定した。

  • 財務諸表における気候関連及びその他の不確実性の影響を報告するのに最も関連性が高いものである。
  • 財務諸表における気候関連リスクの影響に関する情報が不十分である、又は財務諸表以外の一般目的財務報告書で提供される情報と不整合に見えるという懸念に対処する可能性が高いものである。

見解

IASBは、当設例案を、例えば、教育的資料として別途公表したり、基準自体に追加したりするのではなく、IFRS会計基準に付属する設例として含めることを決定した。この決定に至るにあたり、IASBは、このアプローチの利点(作成者、監査人及び規制当局によるアクセスの容易さ及び利用の容易さ、及びIFRS会計基準に直接含まれる例としてガイダンスが提示される場合よりも内容及び形式の柔軟性が高いこと)が、設例案が基準の不可欠な一部ではなく、したがって、一部の法域では翻訳又はエンドースメントされない可能性があるという潜在的な欠点を上回ると判断した。

しかし、公開草案には、このアプローチの利点及び代替案に関するフィードバックを求める質問が含まれている。

 

追加開示につながる重要性の判断(IAS第1号「財務諸表の表示」/IFRS第18号「財務諸表の表示及び開示)」

この設例案では、製造業者は資本集約型の産業で事業を行っており、気候関連の移行リスクにさらされている。しかし、その移行計画は、影響を受ける資産の残存簿価が小さいこと、減損評価において大幅なヘッドルームがあること、及び廃棄義務がないことにより、財務諸表に認識される項目に重要性がある影響を与えることはない。

この設例は、企業がIAS第1号31項(IFRS第18号20項)の要求事項に従って、財務諸表の文脈で重要性判断をどのように行うかを例示している。この設例では、これらの判断は、IFRS会計基準の具体的に要求されている開示を超えて、なぜ移行計画(一般目的財務報告書の他の部分で説明されているもの)が財務状況に影響を与えないのかについて説明する記述に関する追加の開示につながる。

見解

この例の鍵となるのは、気候リスク又はその他のリスクから財務諸表に重要性がある影響が「生じない」こと自体が、特に他の箇所の記述又は広範な業界要因が利用者にそのような影響を予想することを合理的に導くかもしれない場合、開示及び説明を要求する可能性があることを理解することである。

 

追加開示につながらない重要性の判断(IAS第1号/IFRS第18号)

この設例案では、企業は、気候関連の移行リスクへのエクスポージャーが限られている産業で事業を行うサービス・プロバイダーである。この設例は、企業が財務諸表の文脈において、IAS第1号31項(IFRS第18号20項)の要求事項に従って、どのように重要性の判断を行うかを例示している。財務諸表の利用者に財政状態又は業績に重要性がある影響を与えると予想することに合理的につながる可能性のある他の情報がない場合、これらの判断は、IFRS会計基準が具体的に要求する開示を超える追加の開示につながらない。

仮定の開示:具体的な要求事項(IAS第36号「資産の減損」)

この設例案では、企業の事業により大量の温室効果ガスが排出され、事業を行う一部の法域で規制の対象となる。この設例は、IAS第36号134項(d)(i)-(ii)及び134項(f)の要求事項を例示している。特に、企業が資産の回収可能価額を算定するために使用する主要な仮定(この場合は、温室効果ガス排出規制の将来の範囲及び排出枠のコストに関する情報)と、それらの仮定に価値を割り当てるための企業のアプローチについて、どのように開示するかを例示している。

見解

この例は、減損評価を裏付ける仮定を総合的に考慮する必要性を例示しており、これらの開示は、例えば割引率及び長期成長率の見慣れた指標を超えて必要かもしれないということを認識している。

 

仮定の開示:一般的な要求事項(IAS第1号/IAS第8号「財務諸表の作成基礎」)

この設例案では、企業は資本集約型の産業で事業を行っている。当該企業は、一部の非流動資産の帳簿価額を回収する能力に影響を与える可能性のある気候関連の移行リスクにさらされているが、減損レビューを実施した結果、当期に減損は認識されるべきではないと結論付けている。問題となる資金生成単位には、のれん又は耐用年数が確定できない無形資産が含まれていないため、IAS第36号には、企業の減損評価に使用した仮定を開示するという具体的な要求事項はない。

しかし、この設例は、翌事業年度に重要性がある減損の重大なリスクがあるとみなされるため、IAS第1号125項及び129項(IAS第8号31A項及び31E項)の一般的な要求事項が、影響を受ける資産の内容及び帳簿価額の詳細とともに使用した仮定に関する情報の開示につながることを例示している。

見解

この例では、重要性がある減損の即時のリスクは、IAS第1号125項及び129項(IAS第8号31A項及び31E項)に基づく開示の範囲に該当する。このようなリスクが長期にわたって重要性があると予想される場合、開示が適切であるかどうかについて、次の設例で解説したような評価が必要になるかもしれない。

 

仮定の開示:追加の開示(IAS第1号/IFRS第18号)

この設例案では、企業がその法域で事業を運営し、将来その法域で課税所得を生み出す能力を制限する規制(課税に関連しない)を発表した法域で企業が事業を行い、繰延税金資産の回収に影響を与える可能性がある。しかし、現在の予想では、企業の税務上の繰越欠損金が利用されるまで法律は発効せず、その予想が翌事業年度の事象によって影響を受ける可能性は低いとされている。

この状況では、この設例では、繰延税金資産に関するIAS第12号の具体的な要求事項も、IAS第1号125項及び129項(IAS第8号31A項及び31E項)の一般的な要求事項も適用されないが、発表された規制及びその繰延税金資産に対する影響の可能性に関する企業の仮定は、IAS第1号31項(IFRS第18号20項)の要求事項により、引き続き開示されるべきであると結論付けている。これは、「企業は、IFRS会計基準における具体的な要求事項に準拠するだけでは、特定の取引、その他の事象及び状況が企業の財政状態及び財務業績に与えている影響を財務諸表利用者が理解できるようにするのに不十分である場合には、追加的な開示を提供すべきかどうかも検討しなければならない。」というIAS第1号31項(IFRS第18号20項)の要求事項によるものである。

見解

この設例は、上記の設例と併せて、公開草案が、問題となる資産又は負債を取り扱うIFRS会計基準が具体的に要求していない開示を提供するための基礎として、IAS第1号(IFRS第18号及びIAS第8号)の一般的で包括的な要求事項にいかに大きく依存しているかを例示している。とりわけ、設例案で表現された原則を適用するためには、潜在的なリスクの重要性について慎重な判断が必要になる。

 

信用リスクに関する開示(IFRS第7号「金融商品:開示」)

この設例案では、企業は、さまざまなタイプの顧客にさまざまな商品を提供する金融機関である。信用リスク管理実務の一環として、企業は気候関連リスクが信用リスク・エクスポージャーに与える影響を考慮している(具体的には、この例では、農業顧客の干ばつリスク及び不動産担保ローンの洪水リスク)。この設例は、IFRS第7号35A項から38項の要求事項を例示している。特に、この設例は、企業が以下を開示する方法を例示している。

  • 特定のリスクが信用リスク・エクスポージャー及び信用リスク管理実務に及ぼす影響に関する情報
  • これらの実務が予想信用損失の認識及び測定にどのように関連しているかについての情報

廃棄及び原状回復に関する引当金に関する開示(IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」)

この設例案では、ある企業が石油化学施設に関連してプラントの廃棄及びサイトの原状回復の義務を負っているが、その義務の現在価値に重要性がないほど、施設の維持及び稼働が非常に長期間続くと予想している。

この例は、特に、関連する引当金の帳簿価額が重要性がない場合でも、プラントの廃棄及びサイトの原状回復義務に関する情報、また、それらを取り巻く不確実性について、企業がどのように開示するかについてのIAS第37号85項の要求事項を例示している。

分解情報の開示(IFRS第18号)

この設例案では、企業は、耐用年数が長い有形固定資産を所有しており、その使用により高レベルの温室効果ガスが排出される。同じ機能を果たす排出の少ない代替資産への投資を開始したが、事業の大部分で「古い」資産を引き続き使用している。

この例は、IFRS第18号41項、42項及びB110項の要求事項を例示しており、この場合、2つの資産タイプのリスク(潜在的な規制及び/又は消費者の需要から生じる)は十分に異質であるため、このクラスの有形固定資産の注記開示を分解する必要があると結論付けている。

 

発効日、経過措置及びコメント期間

IFRS会計基準に付属する資料(設例を含む)は、これらの基準の不可欠な一部ではないため、強制的ではない。したがって、発効日又は経過措置は提案されていない。

EDのコメント期間は2024年11月28日に終了する。

以上

 

  1. 英語版ニュースレターについては、IAS Plusのウェブサイトを参照いただきたい。
    https://www.iasplus.com/en/publications/global/igaap-in-focus/2024/climate-ed

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

お役に立ちましたか?