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国の会計と関連制度(14回目)~2022年度(令和4年度)の国の財務書類~
月刊誌『会計情報』2024年11月号
公認会計士 長村 彌角
2022年度は、「経済財政運営と改革の基本方針2021」等における歳入歳出改革に加えて、燃料高騰に対応する「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」、「物価高騰克服・経済再生実現のための総合経済対策」などの実施に向けた補正予算も編成された。このような中、国の財務書類によれば、国の業務費用は過去5年間(2018年度から2022年度)では、コロナ禍にあった2020年度の190.7兆円をピークに減少傾向にある。2022年度は燃料等の高騰対策や(国研)科学技術振興機構が設置した大学ファンドへの貸付けなどがあったものの、コロナ対策経費の減少などによる社会保障給付費は1.7兆円減少、補助金・交付金等0.4兆円減少などで業務費用総額は2021年度比較で2.6兆円減少し、税収等の財源から業務費用を控除した超過費用も2020年度の59.1兆円をピークに2022年度は32.2兆円に減少した。一方で、いわゆる赤字国債である特例国債を含む公債残高は1,143.9兆円と対前年比30.0兆円増加している。
本稿では、2024年1月に財務省より公表された2022年度の国の財務書類などをもとに、過去5年間の主要項目の経年比較等により傾向を分析した。なお、本稿における図表はいずれも財務省が公表する「国の財務書類」1及び「「国の財務書類」のポイント」2並びに各府省庁の省庁別財務書類をもとに、筆者が作成している。
1. 国の財務書類の作成目的と特徴
国の財務書類については、本誌2023年5月号(Vol.561)「国の会計と関連制度(1回目)」及び本誌2023年7月号(Vol.563)「国の会計と関連制度(2回目)」3において国の財務書類およびコスト情報が作成されるまでの経緯や展開、国の財務書類で示される情報の概略、財政制度等審議会の資料をもとにした省庁別財務書類の作成の特徴点を解説した。
国の財務書類の作成目的は、国の財務状況等に関する説明責任の履行の向上及び予算執行の効率化・適正化に資する財務情報を提供すること等にある。
国は、毎年度の7月30日に歳入歳出主計簿を締め切り、各府省庁の歳入歳出決算報告書等に基づいて「歳入歳出決算」を作成し、閣議決定を経て11月30日までに会計検査院に送付している(財政法第39条)。会計検査院では、この国の収入支出の決算を検査し、決算検査報告を作成して内閣に送付する(日本国憲法第90条、会計検査院法第29条)。内閣では、会計検査院の検査を受けた歳入歳出決算を、翌年度開催の常会において国会に提出している(財政法第40条)。この一連の過程において、法令に基づき国民に対する情報開示や説明責任を果たしている。
一方、国の決算はいわゆる現金主義に基づき作成されることやストック情報等が十分でないことから、むしろ企業会計に慣れている国民一般が国の財務状況を理解し考察したり、判断していくには、資産や負債の状況、税金を主とした財源の使用状況を発生主義等の企業会計の手法を活用し分かり易く開示することが期待され、これにより国の財政活動の効率性や適正性を含め国民に対する説明責任の履行の向上につながる。
2. 国の財務書類の5年間の経年比較
(1)国の資産、負債、業務費用、財源の推移
国の資産、負債、業務費用、財源の2018年度から2022年度までの推移は、次のとおり。
資産総額は66.0兆円増加(9.8%増)である一方で負債総額は184.7兆円増加(14.7%増)と、資産の伸び率の1.5倍の速さで負債は増加し、財源を上回る業務費用の原資として公債が累積的に増加している。また、収入である財源(主に税収)は15.6兆円増加(12.0%増)、業務費用は32.5兆円(22.4%増)と、財源の伸び率のほぼ2倍の速さで業務費用は増加している。財源を上回る業務費用の原資として公債が累積的に増加している。
なお、資産、負債、業務費用ともに2020年度に2019年度比で大きく増加しているが、主に2020年度以降の新型コロナウイルス感染症対応として持続化給付金や中小事業者へ貸付け等、そのため財源として特例国債を発行したこと等が要因になっている。増えていく国の借金である公債の償還(返済)原資は、税収等の財源もしくは実質的な償還(返済)繰り延べのための借換えになるため、税収等の財源により償還(返済)されなければ、公債残高は基本的には減少しない。
以下では、資産、負債、業務費用、財源の各側面別に増減要因等を確認していく。
(2)貸借対照表(一般会計+特別会計合算)の経年比較(資産)
国の公表する貸借対照表(資産の部)の5か年推移と直近2022年度の資産構成は次のとおり。
① 2022年度の主な資産の内訳
2022年度の資産総額(740.7兆円)の構成のうち、上位5項目で約90%を占めている。その主な内訳は次のとおりである。
② 過去5ヶ年の主な資産項目の推移
次表は、10兆円を超える資産項目の過去の推移である。
運用寄託金、土地や公共用用地、公共用施設の残高に大きな変化はない一方で、現金・預金、出資金、有価証券、貸付金には比較的大きな変動の傾向が見られる。主な理由は次のとおりである。
(3)貸借対照表(一般会計+特別会計合算)の経年比較(負債)
国の公表する貸借対照表(負債の部)の5か年推移と直近2022年度の負債構成は次のとおり。
① 2022年度の主な負債の内訳
2022年度の負債総額(1,442.7兆円)の構成のうち、上位3項目で約94%を占めている。その主な内訳は次のとおりである。
2022年度は、公債1,143.9兆円だけで負債総額の約80%を占めている。その主な内訳である建設国債297.5兆円(新規債114.0兆円、借換債183.5兆円)、特例国債708.9兆円(新規債241.0兆円、借換債467.9兆円)、財政投融資特別会計国債100.9兆円(以下、「財投債」という)の残高推移は次のとおりである。
建設国債は借換債に減少傾向があるものの、新規債には減少を上回る増加があり、5年間で20.9兆円(約7%)増加している。また、財投債は8.6兆円(約9%)の増加となっている。また、いわゆる赤字国債である特例国債12は2020年度以降著しい増加を示しており、2018年度から2022年度で132.4兆円(約23%)増加している。特に、特例国債(借換債)の増加と公債残高の増加がパラレルに動いており、公債増加の主因は特例国債(借換債)の増加にあることが分かる。なお、特例国債の2022年度末残高は706.6兆円であり、2023年度の償還額133.3兆円以降2061年度まで償還が続く。
(4)業務費用計算書(一般会計+特別会計合算)の経年比較
国の公表する業務費用計算書の直近5か年の計上額と構成割合の推移は次のとおり。
① 主な業務費用の主な増減要因
主な業務費用の内訳と増減要因等は次のとおりである。
なお、「補助金・交付金等」には、社会保障に関する費用(全国健康保険協会への保険料等交付金、国家公務員共済組合連合会等交付金、介護給付費等負担金、後期高齢者医療給付費負担金など13)が含まれており、この部分を「社会保障関係経費」として「補助金・交付金等」から控除し「社会保障給付費」に含めて整理するとその金額と推移は次のとおりになる。
オ)支払利息
公債等の残高は増加基調にある一方で、過去に発行した相対的に利率の高い公債が償還を迎えていること、2018年度から2022年度にかけては国債の金利が低下傾向にあることなどから、支払利息は増加傾向にはない。
2022年度の国の財務書類の附属明細書「公債の年次償還表15」を参照すると、将来の償還予定額は次のとおりである。5年以内に526.5兆円(46.6%)、10年以内では776.8兆円(69.0%)が償還を迎える予定になっている。2024年8月末の10年利付国債の金利は0.922%16であり、今後発行される新規債や借換債の金利動向次第では将来世代の支払利息負担が急増する可能性があると思われる。
(5)資産・負債差額増減計算書(一般会計+特別会計合算)の経年比較
資産・負債差額増減計算書は、国の資産・負債差額17が当該年度にどのような要因で増減したかを明らかにするため、業務費用に加えて、財源である税収等や業務費用に計上されない資産評価差額(有価証券等の評価差額や国有資産台帳の価格改定による評価差額など)、為替換算差額(外国為替資金特別会計が保有する外貨建て金銭債権債務の評価替え)などのすべての増減要因を、前年度末と当年度末の資産・負債差額の内訳として示している。
このうち、「本年度業務費用」が収入である「財源」を超えている部分が「超過費用」である。資産・負債差額増減計算書には、「超過費用」が表示されていないため、超過費用を算出し特例国債の増加額18と比較したところ、次のとおり、特例国債増加額とほぼ近似している。
「「国の財務書類」のポイント」では、資産・負債差額について「その大部分が過去における超過費用の累積であることから、概念的には、将来への負担の先送りである特例国債の残高に近いものとなり」、「資産・負債差額の悪化が緩和された原因が、歳出の見直し・効率化等に伴う超過費用の改善ではなく、資産評価差額や為替相場の変動に伴う為替換算差額等によるものである場合には」、超過費用の改善を伴うものではないことから、資金不足を補うための公債(特例国債等)発行を必要とする状況に変わりは生じないとある。また、超過費用が発生している状況は、「企業会計の考え方でみると、「当期純損失」(いわゆる赤字決算)であるといえ、国の厳しい財政状況を示して」いるとある。
(6)区分別収支計算書(一般会計+特別会計合算)の経年比較
国の公表する区分別収支計算書の5か年推移は次のとおり。
財政法第2条では、国の収入を「国の各般の需要を充たすための支払の財源となるべき現金の収納をいい、支出とは、国の各般の需要を充たすための現金の支払をいう」と定義している。国は現金主義を採用しており企業会計における発生主義の考え方は採用していないため、現金の収受のみをもって「収入」「支出」とする点が企業会計と大きく異なる。一方で、区分別収支計算書は国の歳入歳出決算の収納済歳入額及び支出済歳出額をもとに並び替えて作成されている。予算の執行結果を説明するものとして歳入歳出決算が作成されているが、歳入歳出決算は予算統制の観点から作成されるため、企業会計的なキャッシュ・フロー計算書の様式に準じた区分別収支計算書は国民一般の理解に貢献すると考える。
なお、区分別収支計算書の項目のうち、企業会計におけるキャッシュ・フロー計算書に見られない特徴的な科目の内容20は次のとおり。
3. 最後に
国の財務書類は、各府省庁の一般会計、特別会計を含めると膨大な量になり、この体系等を理解していなければ全体を理解・分析することは難しい。そのため国(財務省主計局)は、ストックやフロー情報を中心に経年比較分析を実施し、また歳出歳入決算との関係などを分かり易く解説した「「国の財務書類」のポイント」を毎年度公表している。そこでは、短期的な視点だけではなく、過去20年程度の推移なども用いてマクロ的に日本の財務状況を示している。
ところで、「「国の財務書類」のポイント」の中で、国の決算は「赤字決算」とある。この赤字額は財源合計から業務費用合計を控除した超過費用額であり、この超過費用額の累積(資産・負債差額)と赤字国債である特例国債の残高が近似していることから、毎年度、税収等の財源を超える予算執行を補う形で特例公債が発行され、これが積み上がっていることになる。一方で、例えば国は、業務費用として地方交付税交付金等を地方公共団体に交付しているが、使途は自由であるため地方公共団体で資産として形成されている部分があれば、オールジャパン(国と地方公共団体の合算)でみた場合には必ずしも超過費用を構成しない部分もあると考えられる。また、総務省「今後の地方公会計のあり方に関する研究会」22では、その中間報告において、所有外資産(国所有・地方管理の資産等)の整備に係る支出は支出時費用処理され資産計上がないが、所有外資産の整備費用に対する地方債充当分は負債計上しており、両者でアンバランスな取扱いが続いているとして、地方公共団体が管理権限を持つ所有外資産の整備に係る支出は、資産計上すべきと整理している。このような状況もあるため、国の「赤字」の考え方も、今後も整理の余地があるのではないだろうか。
以上
1 https://www.mof.go.jp/policy/budget/report/public_finance_fact_sheet/index.html
2 財務省HP「国の財務書類」と同じ場所に掲載されている。
3 https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/audit/articles/aa/accounting-and-related-systems.html
4 年金特別会計における年金積立金管理運用独立行政法人への寄託金
5 翌年度に満期を迎える国債の償還のために資金を確実に調達し、年度間の国債発行の平準化を図るため、借換債の一部を、国会の議決を経た範囲内において、前年度にあらかじめ発行しておく仕組み(令和元年度「国の財務書類」のポイント(https://www.mof.go.jp/policy/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2019/point.renketu.pdf)2ページ)。
6 歳計剰余金とは、毎会計年度における歳入の収納済額から歳出の支出済額を控除した残額をいう。
7 国庫余裕金の繰替使用とは、個別の特別会計等で資金不足となっている場合に、国庫全体で一時的に生じている融通可能な余裕金をその特別会計等に無利子で融通(繰替使用)すること。国庫全体の余裕金を、例えば特定の特別会計で繰替使用した場合、当該特定の特別会計財務書類では現金預金の増加を認識できる。一方で、国庫余裕金は国庫全体でみた一時的な余裕金であるため特定の府省庁に紐付けて認識することができず、省庁別財務書類を構成するいずれの省庁においても、現金預金の減少を財務書類上認識できない。そのため、国の財務書類(一般会計・特別会計の合算)を作成する段階で、当該ダブルカウントとなる現金預金相当額を消去(減額)している。
8 公的年金預り金とは、将来の年金給付財源に充てることが法令による場合も含めて明確である現金・預金、運用寄託金、未収金等の資産から未払金相当額を控除したもの。
9 政府短期証券とは、財政法や特別会計に関する法律に基づき、国庫または特別会計等において受入れと支払いのタイミングのズレにより発生する一時的な現金不足を補うために発行する短期証券(資金繰り債)であり、これまでに、財務省証券、財政融資資金証券、外国為替資金証券、石油証券、原子力損害賠償支援機構証券、食糧証券が発行されている。
10 外国為替資金証券は、外国為替資金特別会計において、特別会計に関する法律第83条第1項の規定により外国為替資金の現金不足に充てるため発行される。
11 石油証券とは、エネルギー対策特別会計において、特別会計に関する法律第94条第2項及び第95条第1項の規定により国家備蓄石油の購入に要する費用の財源に充てるために発行される。
12 特例国債とは、建設国債を発行してもなお歳入不足が見込まれる場合に、公共事業費以外の歳出に充てる資金を調達することを目的として、いわゆる特例公債法(財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律)に基づき発行される国債で、その性質から「赤字国債」と呼ばれることもある。
13 財務省主計局の公表する各年度の「「国の財務書類」のポイント」では、補助金・交付金等に含まれる社会保障関係経費は、2018年度(36.6兆円)、2019年度(37.9兆円)、2020年度(45.0兆円)、2021年度(51.4兆円)、2022年度(47.0兆円)である。
14 各年度の「「国の財務書類」のポイント」より。
15 年次償還表では、出資国債等、国際通貨基金通貨代用証券、㈱日本政策投資銀行危機対応業務国債、原子力損害賠償・廃炉等支援機構交付国債は除かれている。
17 「資産・負債差額」は、企業活計の「純資産」に相当する部分であるが、国には企業のような払込資本に関する取引はなく、営利活動ではないため、企業における分配可能利益の算定としての損益計算意義は乏しいことから、また、その大部分が省庁別財務書類作成開始当時の資産・負債差額で構成され内訳を示すことができないこと等から、資産・負債差額には、差額以上の特別の位置付けとはしていない(本誌2023年7月号(Vol.563)「国の会計と関連制度(2回目)」
(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/audit/articles/aa/accounting-and-related-systems.html)参照)。
18 各年度の国の財務書類内の「公債の明細」より抽出
19 2022年度「「国の財務書類」のポイント」10ページ
(https://www.mof.go.jp/policy/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2022/point.renketu.pdf)
20 2022年度国の財務書類内の「表示科目の説明」を参考に記載
21 財政法第44条では、国は法律をもって定める場合に限り特別の資金を保有することができるとされ、一般の現金と区分して保有され、主に歳入歳出外(歳計外)で管理される。そのため、歳入歳出決算には反映されていない。
22 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/koukaikei_arikata/index.html
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