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IASBは、引当金の会計処理について的を絞った改善を提案する
IFRS iGAAP in Focus 財務報告|月刊誌『会計情報』2025年1月号
トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス
注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレター1をご参照下さい。
iGAAP in Focusでは、2024年11月12日に国際会計基準審議会(IASB)から公表された公開草案「引当金-的を絞った改善」(ED)に示される、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の修正案を解説する。
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背景
IASBは、引当金を認識する際に満たさなければならない「現在の義務」という規準の以下の条件を解きほぐすことの困難さについて、利害関係者から一貫したフィードバックを受け取っている。
- 義務の条件。企業に責任を課すメカニズムを要求し、特定の事象が発生した場合にそれらの責任を果たすための現実的な選択肢を企業に残さない。
- 過去の事象の条件。特定の事象が発生し、その義務が現在の義務であることを要求する。
さらに利害関係者は、現在の義務という認識規準を解釈するIFRIC第21号に不満を表明し、IAS第37号の既存の要求事項を新たな執行メカニズム又は決済オプションを有する法律及び規制に適用することが困難であると報告した。
当該フィードバックに対応して、IASBは、IAS第37号に的を絞った改善を行うことを目的として、2020年にワーク・プランに基準設定プロジェクトを追加した。当該改善案は、EDに示されている。
修正案
認識規準
IASBは、引当金を認識するために、以下の3つの規準を満たさなければならないことを提案する。
- 企業が、過去の事象の結果として経済的資源を移転する現在の義務を有している(「現在の義務という認識規準」)。
- 企業は、当該義務を決済するために経済的資源を移転することが必要となる可能性が高い。
- 当該義務の金額について、信頼性のある見積りができる。
IASBは、現在の義務という認識規準の重大な変更を提案している。他の2つの認識規準に対する変更は提案されていない。
現在の義務という認識規準
現在の義務という規準の改訂された文言は、「概念フレームワーク」における負債の定義(すなわち、過去の事象の結果として経済的資源を移転するという企業の現在の義務)を反映している。
この改訂された定義から開始し、EDは3つの基礎となる条件をより明確に示すことを提案する。
- 義務の条件。以下の場合に満たされる。
- 企業が特定の便益を得る又は特定の行動をとる場合に、企業に責任を課すメカニズム(法的又は推定的)がある。
- 企業は、当該責任を他の当事者に対して負う。
- 企業は、便益を得る又は行動をとる場合に、責任を果たすことを回避する実際上の能力を有していない(法的義務の場合にこれが何を意味するかを説明するガイダンスが提案されている)。
- 移転の条件。義務が企業に経済的資源を別の当事者に移転することを要求する潜在能力を有する場合に満たされる。
- 過去の事象の条件。以下の場合に満たされる。
- 企業が、特定の経済的利益を得ている又は特定の行動を取っている。
- その結果、企業は、他の場合では移転する必要がなかったであろう経済的資源を移転しなければならない、又は移転しなければならない可能性がある。
過去の事象の条件に対する変更案は、一定の期間にわたり得られる経済的便益又はとる行動から生じる義務の認識に重大な影響を与えることとなる。
特に、ある期間(評価期間)における活動の指標が閾値を超えた場合にのみ、企業が経済的資源を移転する義務を有する場合、EDは、過去の事象の条件は、移転の量が評価される対象となる活動の総量に寄与する活動であると提案している。評価期間内のどの日においても、企業は、評価期間に予想される義務の合計の一部について、現在の義務を有するとみなされる。引当金は、以下の場合に認識される。
- 企業の活動が閾値を超え、企業が経済的資源を移転することが必要となる可能性が高い。
- 当該義務の金額について、信頼性のある見積りができる。
さらに、企業が2つ(又はそれ以上)の別々の行動をとる場合にのみ経済的資源を移転する義務を有し、経済的資源を移転する要求がこれらの行動の両方(又はすべて)の結果である場合、EDは、企業がいずれか1つの行動を取り、かつ残りの行動をとることを回避する実際上の能力がない場合に、過去の条件が満たされることを提案する。
見解 IFRIC第21号の現在の要求事項は、賦課金の支払いの契機となる活動として、賦課金を支払う負債を生じさせる義務発生事象を定義している。義務発生事象が最低限の活動の閾値に達することである場合、当該最低限の活動の閾値に達した時点で対応する負債が認識される。したがって、IFRIC第21号を適用すると、企業は一般的に、EDの提案を適用するよりも後に引当金を認識することが要求される。したがって、IASBは、IFRIC第21号の原則が、現在の義務という規準の改訂された文言と整合しないため、IFRIC第21号の廃止を提案する。 |
本提案には、IFRIC第6号「特定市場への参加から生じる負債-電気・電子機器廃棄物」を廃止し、IAS第37号の適用ガイダンスの設例に置き換えることも含まれる。
IASBは、IAS第37号の適用ガイダンスの修正も提案している。当該修正は、要求事項に対する修正案を反映するために、現在の義務という認識規準の適用に関するガイダンスを更新する。
引当金の測定
義務の決済に必要となる支出
IAS第37号は、企業が現在の義務を決済するために必要となる支出の最善の見積りで引当金を測定することを要求している。IASBは、この支出が、義務に直接関連するコストで構成され、これには、当該義務の決済のための増分コストと、当該種類の義務の決済に直接関連する他のコストの配分の両方が含まれることを規定することを提案する。
見解 2020年5月、IASBは「不利な契約-契約履行のコスト」(IAS第37号の修正)を公表し、契約が不利かどうかを「評価」し、企業が不利な契約の引当金を認識するかどうかを判定する際に企業が含めるコストを規定した。本修正は、企業が不利な契約の引当金を「測定する」際に、及びより広範に、IAS第37号の範囲に含まれるあらゆるタイプの引当金を測定する際に、どのコストを含めるかを規定していなかった。IASBは、このガイダンスの欠如に対し、当該提案をEDに含めることで対処することを決定した。 |
割引率
IASBは、企業が義務を決済するために必要となる将来の支出を、不履行リスクを調整しない、リスクフリー金利で表される、貨幣の時間価値を反映した金利で割り引くことを規定することを提案する。
IASBはまた、企業が使用した割引率及び当該金利(又は当該複数の金利)を決定するために使用したアプローチを開示することを企業に要求することも提案する。
見解 IASBは、様々なアプローチが適切である可能性があることを認識し、企業が適切なリスクフリー金利をどのように決定するかを規定することを提案しないことを決定した。 |
公的説明責任のない子会社の開示要求
IASBは、IFRS第19号「公的説明責任のない子会社:開示」に、引当金の測定に用いる割引率を開示する要求事項を追加することを提案するが、当該金利(又は当該複数の金利)を決定するために使用されたアプローチを開示する要求事項は追加しないことを提案する。
発効日、経過措置及びコメント期間
EDは発効日を提案していない。IASBが本提案を再審議するときに発効日が決定される。
経過措置に関して、IASBは、企業に対して以下を要求することを提案する。
- 企業が常に本修正を適用していたかのように、引当金を識別、認識及び測定する。
- 企業が常に本修正を適用していたかのように、関連する資産がある場合に、その帳簿価額を再測定する。
- 利益剰余金、又は適切な場合には資本の他の内訳項目に生じる正味の差額を認識する。
IASBはまた、企業が本修正に準拠するため、引当金の測定に含まれるコスト及び割引率の決定の会計方針を変更する場合について、特定の経過措置も提案する。
EDのコメント期間は2025年3月12日に終了する。
以上
1. 英語版ニュースレターについては、IAS Plusのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www.iasplus.com/en/publications/global/igaap-in-focus/2024/provisions-ed)
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。