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令和7年度税制改正大綱の概要
月刊誌『会計情報』2025年2月号
デロイト トーマツ税理士法人 公認会計士・税理士 大野 久子
令和6年12月20日、与党より令和7年度税制改正大綱(以下「大綱」)が公表され、12月27日に閣議決定された。
大綱では、わが国の経済がようやく長きにわたるデフレからの脱却が見えてきた現況が記載され、今後、物価に負けない賃上げを定着させることで、「賃金と物価の好循環」を安定的に実現していくためには、生産性の向上が不可欠であるとしている。
そのため、令和7年度税制改正では、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への移行に対応し、またそれを更に発展させていくための税制改正が最重点事項とされている。具体的には、物価上昇局面における税負担の調整の観点から、所得税の基礎控除等の見直しが行われるとともに、就業調整対策の観点から、大学生年代の子等に係る新たな控除が創設される。また、エンジェル税制の見直しによりスタートアップへの投資促進が図られるほか、NISAの利便性向上等を行い「資産運用立国」の実現に向けた環境整備が図られる。
法人課税の分野では、特に成長意欲の高い中小企業の設備投資に対する更なる税制上の措置などがとられる。
また、わが国の防衛力の抜本的な強化を行うために安定的な財源を確保するという観点から、法人税及びたばこ税について防衛力強化に係る財源確保のための措置が講じられる。
国際課税の分野では、OECD/G20「BEPS包摂的枠組み」で取りまとめられた、経済のデジタル化に伴う課税上の課題への解決策に関する国際合意(「2本の柱」の解決策)の実施に向けた取組みでは、グローバル・ミニマム課税(「第2の柱」)については令和7年度税制改正においても国際合意に則り、軽課税所得ルール及び国内ミニマム課税の法制化が行われる。
また、移転価格税制に関連する「第1の柱」については、大綱に具体的な内容は記載されていないが、前文には利益A及び利益Bに関する言及があり、それぞれに対する現在のスタンスが一定程度明らかになった。利益Aに関しては、日本が市場国として新たに配分される課税権に係る課税のあり方、条約上求められる二重課税除去のあり方等について、国・地方の法人課税制度を念頭において検討される。また、利益Bについては、当面は実施しないと明言された。他国が本簡素化・合理化を実施する場合については、現行法令及び租税条約の下、国際合意に沿って対応するとのことである。
近年、物品販売に係る国境を越えた電子商取引の市場は急速に拡大しているが、国外事業者による消費税の無申告や少額輸入貨物に対する免税により、適正な課税や国内外の事業者間の競争上の公平性の確保に課題が生じている。こうした課題に対応するため、諸外国における制度・執行両面での対応を参考としつつ、事業者間の公平性や通関実務への影響等を考慮の上、国境を越えた電子商取引に係る適正な消費課税のあり方について検討を行うとされた。
本稿では、大綱に掲げられた改正項目のうち、主要な項目について解説を行う。
なお、以下の内容は大綱に基づくものであり、実際の適用に当たっては、令和7年3月までに成立が見込まれる関連法令等を確認する必要がある点に、留意されたい。
防衛力強化に係る財源確保のための税制措置
わが国の防衛力の抜本的な強化を行うために安定的な財源を確保するという観点から、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置について、令和5年度税制改正大綱等の基本的方向性により検討され、法人税及びたばこ税について大綱に具体的な措置が記載された。所得税については、令和5年度税制改正大綱等の基本的方向性を踏まえつつ、いわゆる「103万円の壁」の引上げ等の影響も勘案しながら、引き続き検討することとされた。
このうち、法人税についての措置は次のとおりである。
1. 防衛特別法人税(仮称)の創設
法人税額に対し、税率4%の新たな付加税として、防衛特別法人税(仮称)が課され、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用される。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500万円を控除する。概要は次のとおりである。
POINT: 令和5年度税制改正大綱等の基本的方向性に基づき、法人税の付加税である防衛特別法人税が創設され、企業の税負担の増加が予想される。防衛特別法人税は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から課されることになるが、税効果会計においては、決算日において国会で成立している税法に規定されている税率に基づいて計算することとされているため、今後の法律成立時期を注視し、決算への影響を考慮する必要があると考える。 |
法人課税
1. 中小企業者等の法人税の軽減税率の特例
中小企業者等の法人税の軽減税率の特例について、次の見直しが行われた上、その適用期限が2年延長される。
2. 中小企業投資促進税制
中小企業投資促進税制について、関係法令の改正を前提に、以下の見直しが行われ、その適用期限が2年延長される。
POINT: 雇用の7割を抱えて地域の経済を支え、重要な経済主体となっている中小企業の成長の底上げに向けて、設備投資が促進される。足下では生産性が低迷し、人手不足、物価高・価格転嫁が重荷になっている中小企業に積極的な設備投資・事業展開を促し、設備投資を通じた生産性や経営力の向上が図られる。 |
3. 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(中小企業経営強化税制)
(1)特定経営力向上設備等の追加
中小企業経営強化税制について、関係法令の改正を前提に、次の措置が取られ、その適用期限が2年延長される。
(2)その他
中小企業経営強化税制について、そのほか、以下の見直しが行われる。
POINT: 大綱では、売上高100億円を超えるような地域の中核となる中小企業を育成し、地域経済に好循環を生み出していくことが地域経済の維持・発展の鍵となるとされている。そのような成長意欲の高い中小企業が思い切った設備投資を行うことができるように、売上高100億円を目指す中小企業に対する措置が講じられる。具体的には、対象設備に建物が加えられる。また、食品等事業者がワンストップで同税制を活用できる仕組みが構築される。 |
4. 認定地方公共団体の寄附活用事業に関連する寄附をした場合の法人税額の特別控除制度(企業版ふるさと納税)
認定地方公共団体の寄附活用事業に関連する寄附をした場合の法人税額の特別控除制度について、関係法令等が改正され、次の措置が講じられることを前提に、その適用期限が3年延長される。
■ まち・ひと・しごと創生寄附活用事業(以下「寄附活用事業」)を実施した認定地方公共団体は、寄附活用事業の完了の時及び各会計年度終了の時に、寄附活用事業を適切に実施していることを確認した書面(以下「確認書面」)を内閣総理大臣に提出しなければならないこととされる。なお、寄附活用事業の企画・立案に関係会社が関与している場合など一定の場合には、速やかに確認書面の提出が求められる。
■ 認定地方公共団体が、その実施する寄附活用事業に関連する寄附金を受領した場合において、その寄附活用事業に係る契約等が寄附活用事業の応札者が一の者等のみであり、かつ、その事業に係る契約者等が寄附法人等である場合などに該当するときは、その認定地方公共団体は内閣総理大臣にその寄附金を支出した法人の名称を報告するとともに、その寄附金を支出した法人の名称を公表することとされる。
POINT: 地方経済が、人口減少・過疎化や地域産業の衰退等の課題に直面する中、官と民が連携して課題に対応することが求められている。それにより地方への資金の流れの創出・拡大や地方への人材還流を促すため、現行の企業版ふるさと納税の適用期限を延長する。ただし、地域再生計画の認定が取り消される不適切事案も発生していることから、当該制度の健全な発展に向けて必要な見直しが行われる。 |
5. 地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度
地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度について、次の措置がとられ、その適用期限が3年延長される。
POINT: 上乗せ措置を適用しない通常類型については、特別償却率の引下げ、投資下限の引上げという要件の厳格化及び税務メリットの縮小がみられる。一方で、上乗せ措置については、各地方自治体が設定する重点分野への設備投資を後押しするために、「高成長投資枠」に対する新たな類型が追加される等、これまで以上に地域の特性や魅力を生かした地域社会の創出に向けた制度となっている。 |
6. リース取引についての整備
(1)オペレーティング・リース取引
法人が各事業年度にオペレーティング・リース取引によりその取引の目的となる資産の賃借を行った場合において、その取引に係る契約に基づきその法人が支払う金額があるときは、その金額のうち債務の確定した部分の金額は、その確定した日の属する事業年度に損金算入される。
(注1)「オペレーティング・リース取引」とは、資産の賃貸借のうちリース取引(ファイナンス・リース取引)以外のものをいう。
(注2)上記の支払う金額には、その資産の賃借のために要する費用の額及びその資産を事業の用に供するために直接要する費用の額は含むものとされ、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、固定資産の取得に要した金額とされるべき費用の額及び繰延資産となる費用の額が除かれる。
(2)リース譲渡に係る収益及び費用の帰属事業年度の特例の廃止
リース譲渡に係る収益及び費用の帰属事業年度の特例は廃止される。
なお、令和7年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度において延払基準の適用をやめた場合の繰延リース利益額を5年均等で収益計上する等の経過措置が講じられる(所得税についても同様)。
(3)所有権移転外リース取引に係るリース資産の減価償却費
令和9年4月1日以降に締結された所有権移転外リース取引に係る契約に係るリース資産の減価償却について、リース期間定額法の計算において取得価額に含まれている残価保証額は控除しないこととされ、リース期間経過時点に1円(備忘価額)まで償却できることとされる(所得税についても同様とされる。)。
(注)令和9年3月31日までに締結された所有権移転外リース取引に係る契約に係るリース資産(その取得価額に残価保証額が含まれているものに限られる。)については、令和7年4月1日以降に開始する事業年度の償却方法につき改正後のリース期間定額法により償却できることとされる経過措置が講じられる。
(4)法人事業税についての措置
事業税付加価値割の課税標準について、法人が各事業年度にオペレーティング・リース取引によりその取引の目的となる土地又は家屋の賃借を行った場合において、その取引に係る契約に基づきその法人が賃貸借等の対価として支払う金額があるときは、その金額のうち法人税の所得の計算上損金の額に算入される部分の金額は、その損金の額に算入される事業年度の支払賃借料とするほか、所要の措置が講じられる。
国税の見直しに準じて、法人住民税及び法人事業税について所要の措置が講じられる。
POINT: 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(リース会計基準)が公表され、原則として令和9年4月1日以後開始事業年度の期首から適用されるが、令和7年4月1日以後開始事業年度の期首からの早期適用も認められている。 借手側におけるオペレーティング・リース取引の処理について、会計上はファイナンス・リース取引と同様に資産計上が必要となる一方で、税務上は現行の取扱いと同様に支払賃借料のうち債務確定した部分を損金算入することになるため、令和7年4月1日以後開始事業年度から早期適用した場合、税会が不一致となり事務管理が煩雑になると見込まれる。 また、貸手側において会計上リース料受取時に売上高と売上原価を計上する会計処理が廃止されることに伴い、税務上も延払基準の方法による特例が廃止されることになるほか、リース会計基準の改正に伴う所要の措置が講じられる。 |
組織再編
1. 非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の算定方法等についての見直し
非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の算定方法等について、次の見直しが行われる。
■ 一定の資産評定により移転を受ける資産及び負債の価値が等しくなる場合等においてその対価がないときの調整勘定の算定方法が明確化される。
■ いわゆる対価省略型の非適格合併等が行われた場合において移転を受ける資産等が資産超過であり、かつ、一定の資産評定を行っていないとき等における処理の方法が適正化される。
2. 通算法人の行った株式分配に係るみなし配当の額の計算の見直し等
通算法人が行った株式分配における株式分配割合につき、完全子法人のグループ通算制度離脱に伴う投資簿価修正を踏まえた帳簿価額を用いて算出する場合でも、当該計算がスピンオフ実行に間に合うよう、見直しが行われる。
具体的には、分子の完全子法人株式簿価については基本的に前期末に投資簿価修正を行ったとした場合の簿価修正相当額を反映することとされ、分母に対しても同様の金額の調整を行うこととされる。
通算法人の株主が、通算法人が行った分割型分割により分割承継法人の株式等の交付を受けた場合における、所有株式の帳簿価額に乗ずる割合の計算等においても同様の見直しが行われる。
国際課税
1. グローバル・ミニマム課税への対応
国際合意に則り、軽課税所得ルール(Undertaxed Profits Rule:以下「UTPR」)及び国内ミニマム課税(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax:以下「QDMTT」)が法制化される。適用開始時期は、いずれも令和8年4月1日以後に開始する対象会計年度とされる。併せて、OECDにより発出されたガイダンスの内容等を踏まえ、制度の明確化等の観点から所要の見直しが行われる。
(1)軽課税所得ルール(UTPR)
(2)国内ミニマム課税(QDMTT)
(3)国際最低課税額に対する法人税等の見直し
■ OECDにより発出されたガイダンスの内容等を踏まえ、制度の明確化等の観点から所要の見直しが行われる(外国子会社合算税制等の対象とされる他の構成会社等に係る調整後対象租税額に含まれる金額等の計算について、その対象に法人税等調整額が加えられる等)。
POINT: グローバル・ミニマム課税(「第2の柱」)については、国際合意に則り、軽課税所得ルール(UTPR)と国内ミニマム課税(QDMTT)の法制化が行われ、いずれも令和8年4月以後に開始する対象会計年度から適用される。 |
2. 外国子会社合算税制等の見直し
内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例(外国子会社合算税制)等について、次の見直しが行われる。これは、「第2の柱」の導入により対象企業に追加的な事務負担が生じること等を踏まえたものである。
(1)合算課税のタイミングの見直し
内国法人に係る外国関係会社の各事業年度に係る課税対象金額等に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして、その事業年度終了の日の翌日から4月(現行:2月)を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入することとされる。
例えば、内国法人(P社)が3月決算、その内国法人に係る外国関係会社(S社)が12月決算である場合の取扱いは、次のとおりである。
(2)書類添付要件等の見直し
申告書に添付又は保存をすることとされている外国関係会社に関する書類の範囲から、次に掲げるものを除外することとされる。
■ 株主資本等変動計算書及び損益金の処分に関する計算書
■ 貸借対照表及び損益計算書に係る勘定科目内訳明細書
(3)関連制度の見直し
居住者に係る外国子会社合算税制及び特殊関係株主等である内国法人に係る外国関係法人に係る所得の課税の特例等の関連制度につき、上記(1)及び(2)と同様の見直しが行われる。
(4)適用関係
POINT: 合算課税のタイミングについて、現行では外国関係会社の事業年度終了日翌日から2月を経過する日を含む日本親会社の事業年度の申告に反映させることとされているが、改正案では4月を経過する日を含む日本親会社の事業年度の申告に反映させることとされている。 また、令和6年度税制改正に引き続き納税者の事務負担を軽減する措置がとられている。 |
消費課税
1. 外国人旅行者向け消費税免税制度(輸出物品販売場制度)の見直し
外国人旅行者向け消費税免税制度について、主に次の見直しが行われる。
(1)免税方式の見直し
① 輸出物品販売場を経営する事業者が、免税購入対象者に対して免税対象物品を譲渡した場合であって、その免税購入対象者がその購入した日から90日以内に出港地の税関長による確認を受けたときは、その確認をした旨の情報(以下「税関確認情報」)を輸出物品販売場を経営する事業者において保存することを要件として、その免税対象物品の譲渡について、消費税が免除される。
(注)上記の改正に伴い、実務上、消費税相当額を含めた価格で販売し、出国時に持出しが確認された場合に輸出物品販売場を経営する事業者から免税購入対象者に対し消費税相当額を返金する「リファンド方式」となる。
② 免税購入対象者は、購入した免税対象物品について、出国時に旅券等を提示して税関長の確認を受けるものとされ、その確認を受けた免税対象物品を国外に持ち出さなければならないこととされる。
③ 税関長は、輸出物品販売場を経営する事業者(承認送信事業者を含む。)に対し、購入記録情報ごとに、国税庁の免税販売管理システムを通じて税関確認情報を提供するものとされる。
(2)免税対象物品の範囲の見直し
① 消耗品について免税購入対象者の同一店舗一日当たりの購入上限額(50万円)及び特殊包装が廃止されるとともに、一般物品と消耗品の区分が廃止される。
② 免税販売の対象外とされている通常生活の用に供しないものの要件が廃止されるとともに、金地金等の不正の目的で購入されるおそれが高い物品については、免税販売の対象外とされる物品として個別に定める仕組みとされる。
(3)免税販売手続の見直し
① 船舶観光上陸許可等により上陸する者の免税販売手続においては、上陸許可書及び旅券の提示が求められることとされ、輸出物品販売場を経営する事業者は、旅券番号に基づき購入記録情報を提供するものとされる。
② 日本国籍を有する免税購入対象者が国内に2年以上住所等を有しないことの証明書類に個人番号カードを追加することとされ、現行の証明書類については本籍の地番の記載を不要とされる。また、輸出物品販売場を経営する事業者は、証明書類の種類及び国外転出等をした日を購入記録情報として送信することとされ、その証明書類の保存を不要とされる。
③ 100万円(税抜き)以上の免税対象物品については、購入記録情報の送信事項にその免税対象物品を特定するための情報(シリアルナンバー等)が加えられる。
④ 免税購入対象者が輸出物品販売場で運送契約を締結し、かつ、その場で物品を運送事業者へ引き渡す、いわゆる「直送」による免税販売方式については、従来の方式に代えて消費税法第7条の輸出免税制度により消費税を免除することができることとされる。
⑤ 免税購入対象者が輸出物品販売場で購入した免税対象物品について、その免税購入対象者が別途国外へ配送する、いわゆる「別送」をしたことにより出国時に携帯していない場合に、その免税対象物品の配送等に係る書類により輸出したことを確認する取扱いが廃止される。
(4)輸出物品販売場の許可要件の見直し
① 一般型輸出物品販売場と手続委託型輸出物品販売場の許可の区分が廃止されるとともに、輸出物品販売場の許可については、適切に購入記録情報及び税関確認情報を授受できることが要件とされる。
② 輸出物品販売場の許可の取消要件に、購入記録情報の提供状況等が税関長の確認に支障があると認められる場合が加えられる。
(5)その他
基地内輸出物品販売場制度が廃止される。
免税購入対象者に対する即時徴収及び罰則について所要の整備が行われるほか、外国人旅行者向け消費税免税制度の見直しに伴い、所要の措置が講じられる。
上記(3)⑤の取扱いは、令和7年3月31日をもって廃止され、その他は令和8年11月1日以降に行われる免税対象物品の譲渡等について適用される。
POINT: 消費税の外国人旅行者向け免税制度については、不正利用を排除し、免税店が不正の排除のために負担を負うことのないようにするため、出国時に持ち出しが確認された場合に免税販売が成立する制度とし、確認後に免税店から外国人旅行者に消費税相当額を返金する「リファンド方式」に見直された。 |
2. リース譲渡等の時期の特例の廃止
リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例は、廃止される。
なお、令和7年4月1日前にリース譲渡に該当する資産の譲渡等を行った事業者の令和12年3月31日以前に開始する年又は事業年度について延払基準の方法により資産の譲渡等の対価の額を計算することができることとされるとともに、令和7年4月1日以降に開始する年又は事業年度について延払基準の適用をやめた場合の賦払金の残金を10年均等で資産の譲渡等の対価の額とする等の経過措置が講じられる。
個人所得課税
1. 物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整への対応
いわゆる103万円の壁に対する対応として、物価上昇局面における税負担の調整の観点から、所得税の基礎控除等の見直しが行われるとともに、就業調整対策の観点から、大学生年代の子等に係る新たな控除が創設される。
(1)基礎控除等及び給与所得控除の最低保障額の引上げ
デフレ状態から脱却し物価が上昇傾向にあり、基礎控除が定額であることなどにより実質的な税負担が増加するという課題に対処するため、基礎控除等が以下のとおり引き上げられる。
■ 扶養親族及び同一生計配偶者の合計所得金額の要件
基礎控除の引上げに併せて、扶養親族及び同一生計配偶者の要件も、現行48万円がそれぞれ58万円に引き上げられる。
■ 給与所得控除の最低保障額
(2)特定親族特別控除(仮称)の創設
大学生のアルバイトの就業調整は税制が一因であるとの指摘があり、これに対応するため新たな所得控除が創設され、以下の仕組みとされる。
■ 対象者:生計を一にする19歳以上23歳未満の親族等(配偶者等を除く合計所得金額123万円以下の者)で、控除対象扶養親族に該当しない者を有する者
■ その親族等の合計所得金額により、以下の金額を控除する。
2. スタートアップへの投資促進等及び「資産運用立国」の実現に向けた環境整備
エンジェル税制の見直し等によりスタートアップへの投資促進が図られるほか、スタートアップへの人材確保を支援するストックオプション税制の要件を満たさずに同様の税優遇の効果を生むスキームへの適正化措置が講じられる。また、貯蓄から投資への流れが加速しているが、この流れを一層着実なものにし「資産運用立国」の取組みを後押しするため、iDeCoの拠出限度額の引上げ、NISAの利便性向上などが行われる。
(1)エンジェル税制の見直し(令和8年1月1日以降取得したものに適用)
■ エンジェル税制の対象となる特定中小会社の株式を払込みにより取得した場合には、その取得に要した額をその年の一般株式等の譲渡所得等及び上場株式等の譲渡所得等の額の合計額から控除することができる(適用額)が、取得に要した額で控除しきれない金額(特定株式控除未済額)がある場合に、その年の前年分の所得税額のうちその特定株式控除未済額に対応する部分の金額を還付請求(繰戻し還付)することができることとされる。
- この場合に、その特定中小会社の株式の取得価額は、適用額と特定株式控除未済額の合計額をその取得に要した額から控除した額とされる。
■ エンジェル税制の対象となる「特例控除対象特定株式」(設立の日以後5年未満の株式会社であるなど所定の要件を満たす株式)を取得した年の翌年中に譲渡(上場の日以後の譲渡など所定のものを除く)をした場合に、その特例控除対象特定株式の取得価額は、適用額と控除未済額との合計額(20億円を限度)を取得に要した額から控除した金額とすることとされる。
(2)ストックオプション税制と同様の税効果を生むスキームへの対応
■ 受益者の存しない信託(法人課税信託)に受益者が存することとなった場合(法人課税信託でなくなった場合)に、その信託が「特定法人課税信託」である場合には、その信託財産に属する特定株式については、法人課税信託に該当しないこととなったときにおける価額で取得したものとみなして、各受益者等の所得金額を計算することとされる。
- 特定法人課税信託とは、信託財産に属する特定株式に係る発行法人等が委託者となる受益者の存しない信託で特定株式の発行法人の役員等の勤続年数等を勘案してその役員等が受益者として指定されるものをいう。
(3)「資産運用立国」の取組みの後押し
1) 確定拠出年金制度の見直しに係る措置
確定拠出年金法等の改正を前提に、以下の見直しが行われた後も、現行の税制上の措置を適用することとされる。
■ マッチング拠出について、加入者掛金の額が事業主掛金の額を超えることができないとする制約を廃止する。
企業型確定拠出年金の拠出限度額を以下のとおりとする。
■ 個人型確定拠出年金についても、拠出限度額の増額など所要の改正が行われる。
2) NISAの環境整備、利便性向上
■ つみたて投資枠について、上場投資信託(ETF)の最小取引単位の見直し(購入しやすい環境整備)
■ 金融機関変更時の即日買付を可能とする など
3. 退職所得の計算等に係る見直し
■ 退職手当等(確定拠出年金法により支給される老齢一時金を除く)の支払いを受ける年の前年以前9年内に老齢一時金の支払いを受けている場合には、当該老齢一時金等について、退職所得控除額の計算における勤続期間等の重複排除の特例の対象とされる。
■ 退職手当等の支払いをする者は、その支払いを受けるすべての居住者について源泉徴収票を税務署長に提出しなければならないこととされる(現行は、退職手当の支払いをする法人の役員についてのみ提出義務がある)。
資産課税
1. 非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例制度における役員就任要件の見直し
非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例制度における役員就任要件について、贈与の直前において特例認定贈与承継会社の役員等であることとされる。
上記の改正は、令和7年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用される。
POINT: 現行の場合、当該納税猶予の特例制度を適用するためには、令和6年12月31日までに後継者が特例認定贈与承継会社の役員等に就任する必要があったが、改正案により柔軟な事業承継が期待される。 当該納税猶予の特例制度の適用期限について、令和4年度及び令和6年度と同様に、令和9年12月31日までの適用期限の延長は行わない旨が大綱の「第一令和7年度税制改正の基本的考え方」9頁に記載されている。また、令和8年3月31日までに特例承継計画を都道府県知事に提出する必要があるため、適用を考えている納税者は期限に留意されたい。 |
2. 個人の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度における事業従事要件の見直し
個人の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度における事業従事要件について、贈与の直前において特定事業用資産に係る事業に従事していたこととされる。
上記の改正は、令和7年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用される。
POINT: 当該納税猶予制度は適用期限が令和10年12月31日までであり、かつ、令和8年3月31日までに個人事業承継計画を都道府県知事に提出する必要があるため、適用を考えている納税者は期限に留意されたい。 |
3. 相続に係る所有権の移転登記等に対する登録免許税の免税措置の適用期限延長
相続に係る所有権の移転登記等に対する登録免許税の免税措置の適用期限が2年延長される。
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。