女性活躍推進法行動計画からみる課題

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実現されない?女性活躍推進法行動計画からみる課題

本稿では、女性活躍推進の先進企業が法対応としてどのような目標を掲げているかを調査・整理している。また、そこから得られる示唆をお伝えする。

はじめに

女性活躍推進法の施行からまもなく2年が経過しようとしている。恐らくこれまで女性活躍について特段関心のなかった業界・企業も、法による強制力のもと、現状分析をし、目標と行動計画を立て、進捗を追う状況になっているという点においては、この法律が施行された意味は大きいと考える。本稿では、女性活躍推進の先進企業が法対応としてどのような目標を掲げているかを調査・整理している。また、そこから得られる示唆をお伝えする。
 

女性活躍推進法の概要

まず、女性活躍推進法の概要をおさらいしておきたい。

正式名称「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」は、「自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性がその個性と能力を十分に発揮して活躍することが一層重要となっているに鑑み、女性への積極的な機会提供、家庭生活との両立が可能となる環境整備等により、女性の職業生活における活躍を推進し、豊かで活力ある社会を実現する」ことを目的としている。301名以上の労働者を雇用する事業主(300名以下の事業主の場合は努力義務)は、(1)自社の女性活躍状況の把握・課題分析、(2)行動計画の策定・提出、(3)情報公表などを行うことが義務付けられた。

今回の調査概要女性活躍推進の先進企業が法対応としてどのような目標を掲げているかを整理し、我が国における女性活躍の現状と課題を明らかにするための調査を実施した。調査の概要は次の通りである。

【調査対象企業抽出方法】

下記いずれかに該当する企業を抽出。

  • 日経Woman/プレジデントオンライン/東洋経済オンラインの、いずれかのランキングの上位30位以内企業
  • なでしこ銘柄指定企業
日経ウーマン 2017年「女性が活躍する会社BEST100」
東洋経済オンライン 2016年度「女性が働きやすい会社」トップ300社
プレジデントオンライン 2016年度版「女性活躍推進企業ランキング」
経済産業省 H28なでしこ銘柄


結果、今回の調査対象企業として86社を抽出した。業種別、従業員規模別、女性従業員比率別内訳は以下図表の通り。

出所:厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」(参照 2017年5月29日)をもとにデロイト作成

【調査項目】

各社行動計画から下記の項目をピックアップし、整理・集計した。

A:目標期限
B:女性管理職比率(管理職に占める女性の割合等)の有無およびその内容
C:女性役員比率(役員に占める女性の割合等)の有無およびその内容
D:労働時間等の働き方(残業時間数の減少等)の有無およびその内容
E:女性の積極採用(採用者に占める女性の割合等)の有無
F:女性の継続就業(勤続年数の男女差の縮小等)の有無
 

調査結果考察

1. 目標期限について

計画期間については厚労省からは「平成28年度から平成37年度までの10年間を、各事業主の実情に応じておおむね2年から5年間に区切り、定期的に行動計画の進捗を検証しながら、改定を行うこと」とされている。

実際は、2020年度を目標期限に置いている企業が最多(43.0%-86社中37社)であった。次いで多いのが2017年-2018年3月31日を期限としている企業(17.4%)であった。また、2年毎に目標を更新していく企業も少なからずある。

表1:行動計画期限
  2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度以降
社数 2 15 13 13 37 5 1
分布 2.30% 17.40% 15.10% 15.10% 43.00% 5.80% 1.20%

 

2. 目標に設定している項目

「女性管理職比率」を目標に設定している企業が最も多く84.9%を占める。調査対象企業はいわゆる先進企業ゆえ、推進度合いをストレートに表現できる項目を選択していると想定される。次いで「女性の積極採用」(23.3%)、「労働時間等の働き方」(20.9%)と続く。

採用を項目に掲げているのは、パイプラインを強化し、中長期にわたり安定的に女性管理職を輩出していく、という課題からであると推察する。また、働き方改善はそのための環境整備としては必須であると企業が捉えているのではないかと考える。

なお、「女性役員比率」を設定している企業は3.5%とまだまだ少数派であった。

表2:目標に設定している項目
  女性管理職比率 女性役員比率 労働時間等の働き方 女性の積極採用 女性の継続就業 女性の配置・育成・教育訓練 その他
社数 73 3 18 20 7 4 18
分布 84.90% 3.50% 20.90% 23.30% 8.10% 4.70% 20.90%

 

3. 目標の指標・内容

「女性管理職比率」

93.2%の企業が、「管理職全体における女性管理職の割合」を指標としている。

うち、女性管理職比率の目標値を「30%~以上」としている企業は25.8%と最多であり、次に「10%~15%未満」(21.6%)、「20%~25%未満」と「5%~10%未満」(それぞれ16.7%)が続く。調査対象企業が先進企業ゆえ、「30%~以上」を目標値としている企業が最多なのはうなずける。

一方で、「10%~15%未満」や「5~10%未満」の割合も多い。低めの目標値を掲げている企業の業種内訳をみてみると、そもそも女性社員比率が低い製造業やインフラなどが占めている。全社の男女比率を勘案し、設定したのではないかと思われる。

表3:指標とする数値の種類
  割合※1 人数 乗数※2 数値なし
社数 68 12 8 2
分布 93.20% 16.40% 11.00% 2.70%

※1 管理職全体における女性管理職の割合
※2 20XX年度のX倍、等

表4:女性管理職比率目標値別社数・分布割合
  ~5%未満 5%~10%未満 10%~15%未満 15%~20%未満 20%~25%未満 25%~30%未満 30%~以上
社数 4 11 14 7 11 2 17
分布 6.10% 16.70% 21.20% 10.60% 16.70% 3.00% 25.80%

「女性の積極採用」

本項目を目標として掲げている企業(20社、今回の調査対象企業の23.3%)のうち、女性社員比率が20%未満の企業は13社である。また業種別にみると、金融業・保険業や卸売業・小売業は女性比率が高い業種だが、目標の指標を女性比率が低いであろう「総合職/グローバル職」としていたり、数値自体を高く設定したり(例:安定的に50%等)している。

「労働時間等の働き方」

本項目を目標として掲げている企業(18社、今回の調査対象企業の20.9%)については、業種や規模、女性社員比率等について大きな傾向は見られなかった。

有給休暇取得率向上を掲げている企業は延べ7社、在宅勤務やフレックスなど、柔軟な働き方ができる環境整備を掲げている企業は延べ6社、所定外/法定外労働時間や総労働時間規制など、いわゆる労働時間削減を掲げている企業は延べ5社である。

「女性役員比率」

本項目を目標として掲げている企業は3社(今回の調査対象企業の3.5%)であった。

うち2社は、「1人」という目標を掲げている(目標期限は2020年度と2021年度)。現在ゼロだが、あと5年以内には少なくとも1名の女性役員を輩出できる(相応の候補者がいる)見込みであることが窺える。ちなみに、「1人」という目標を掲げているのは2社とも製造業である。

もう1社は、女性社員比率自体が9割を超えており、女性役員比率40%を目標として掲げている(ただし、女性社員比率を勘案すると、目標値は低いと言える)。

「女性の継続就業」

この項目では主に、女性の平均勤続年数を指標として掲げている企業(4社)と、育児休業復帰率を掲げている企業(3社)が見受けられた。情報通信業、卸売業・小売業、サービス業など、一般的に離職率が高い業種の企業が本項目を選択している。

「その他」

その他、「勤務地限定社員から正社員への転換者数」や「スキル・専門知識の向上を目的とした研修の受講者における女性比率」、「女性海外勤務経験者の延べ人数」などを目標としている企業もあった。
 

  2016年度 2017年度 2018年度 2019年度 2020年度 2021年度 2022年度以降
社数 2 15 13 13 37 5 1
分布 2.30% 17.40% 15.10% 15.10% 43.00% 5.80% 1.20%

調査結果からみた我が国における課題

ここまで調査対象企業の目標内容(項目・指標・数値等)とそれぞれの割合をみてきた。自社における女性活躍状況の分析を経た上での目標設定なので、当然ながら現実的な目標にならざるを得ないことは理解できるが、このペースで我が国の企業が女性活躍を推進していく場合、何年後に望ましい姿に到達できるのだろうか。望ましい姿を、仮に政府が掲げていた「202030」に即して「あらゆる業種・企業において、女性管理職比率が30%以上」とした場合、どれくらいのことをやらなければならないのか。具体的に把握するため、簡易的な人員構成シミュレーションを行った。

※政府は「第4次男女共同参画基本計画」において、女性管理職等の登用目標を「下方修正」した(課長相当職の目標値は2020年で15%)

シミュレーションは「女性管理職比率:10%、従業員全体(1,000人)に占める女性比率:23%」というモデル企業を設定し、なりゆきの人事管理(女性の採用者数は男性の4掛け、女性の昇格率は男性の7掛け、女性の離職率平均は男性の1.6倍)を行った場合と、女性活躍推進を意識したストレッチ気味の人事管理(採用者数/昇格率/離職率とも男女同水準)を行った場合の2パターンでシミュレーションを行い、望ましい姿(女性管理職比率30%以上)に到達するまでの年数を把握した。

結果として、「なりゆきパターン」の場合、女性管理職比率は横ばいのまま、20年後である2038年まで現在と同水準のまま推移する。従業員全体に占める女性比率も同様である(なりゆきなので当然の結果である)。

一方、「ストレッチパターン」の場合、女性管理職比率は10年後の2028年に28%、30%に達するのは12年後の2030年である。なお、2030年の女性比率は45%となる。繰り返しとなるが、採用者数・昇格率・離職率を全て男女同じにして、ようやく12年後に30%達成というスピード感であり、その時点でもまだ従業員全体に占める女性比率と女性管理職比率はイコールになっていない状況である。

具体的な数字で見てみると、政府が掲げていた「202030」がいかに掛け声的であったかが分かる。政府は「第4次男女共同参画基本計画」にて課長相当職の目標値を「2020年までに15%」と下方修正したが、それでも状況は厳しいと思われる。ちなみに「ストレッチパターン」においても、15%達成は2021年である。

各企業が等身大でやっていても、望ましい姿には永遠に到達できない。女性活躍推進を意識したストレッチ気味の人事管理を行ったとしても、10年経っても30%に達しない。

望ましい姿にするためには、「特に女性だからと意識せず、これまで通り男女関係なく公平な評価を行っていく」などと言っている場合ではない。女性の昇格率が男性のそれと見劣りしていないか部門毎にウォッチし、見劣りしている部門については人事がその妥当性を追究する、各階層別/部門別の女性の離職率が男性のそれより高い場合は、その理由を明確にし、即打ち手を講じる、くらいのことが、すべきことの最低ラインであろう。

本気で女性活躍を推進していくのであれば、全ての人事の仕組みの中に、女性を活躍させるにはどうすべきか、という視点を埋め込まなければならない。昇格管理は上記で述べたとおりだが、評価の妥当性を担保するためには、評価者(管理職)に対して評価基準を徹底させることや、部下とのフィードバック面談内容を把握する必要がある。ときに、評価基準そのものを再検証することも必要となる。また、女性管理職候補者が昇格要件を満たしていない場合は、必要な教育のタイムリーな企画・実施が求められる。働き方等で支援が必要な場合は、具体的なニーズの把握と仕組みの設計をしなければならない。

各企業において女性活躍推進を担っている部門が、上記のような各人事機能を司り、機動的に動くことができるか否か。推進を加速するには、まず推進組織体制の見直しが必要だと言える。
 

女性活躍推進について、今企業が取り組むべきこと

我が国の女性活躍に関する法令は、1985年施行の男女雇用機会均等法成立から始まり、1992年の育児休業法施行、その後幾度かの均等法改正、育児・介護休業法の施行・改正を経て、2016年の女性活躍推進法施行に至っている。これらの法令、つまり政府による後押しにより企業における女性活躍が進んできたことは事実であり、今後も政府は企業の人材マネジメントに介入するような法律なり規制を制定していくことが予測される。

他国の例として、アイスランドのクォーター制を挙げたい。アイスランド政府は、2008年のリーマンショックが引き起こした金融危機で経済破綻した。その後、政府は相当な資金を投入してその原因をリサーチし、「国内3大金融機関のトップが全員男性であったために、金融危機が起こった。女性トップがいればリスクを考えてどこかで立ち止まったはずだが、全員男性だったため、負けを取り戻そうとさらに投資をし、結果ギャンブル的経営に陥った」と結論づけた。そして男性優位社会を否定し、国内3大金融機関のうち2行のトップを女性に交代させた。さらに2013年には、従業員50名以上の民間企業に、女性役員を40%以上にすることを義務づけるクォーター制を導入した。

日本も外部環境の変化等により、いつなんどきアイスランドのような法規制が張り巡らされるか分からない。そのときに「とてもじゃないが、自社では実現できない」ということにならないよう、今から自助努力であるべき姿の実現に資する施策を打つべきと考える。なお、既に打つべき手を打っている企業は確実に増えてきている。そして、そういった会社の女性管理職比率は、数年後には大幅に伸びるであろう。

女性活躍推進に関して今企業がすべきは、政府の動きを常にウォッチしつつ、自社内の推進組織体制を整備し、あるべき姿の実現に向け打ち手を打っていくことである。気づけば時代に取り残され、女性活躍後進企業とのレッテルを貼られないように。

著者:桑原 由紀子

(デロイト トーマツ コンサルティング  シニアマネジャー)

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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