調査レポート

デジタル人材育成に関する実態調査2023

人的資本経営時代に取り組むべきリスキリングとは

DXの加速化が求められる中、それらを推進する人材、スキル不足が課題となっている。本調査は、企業と個人を対象に、デジタル人材・非デジタル人材の市場規模、企業におけるデジタル人材育成に関する現状と課題、労働者個人におけるリスキリング状況・課題を明らかにし、国や企業が今後取り組むべき方向性について考察する。

「デジタル人材育成に関する実態調査」について

本調査は、企業(252社)、個人(スクリーニング調査:119,326人、本調査:6,387人)を対象に実施した。

具体的には、企業調査ではDX銘柄企業*1またはDX認定企業*2の計38社を「DX先行企業」、ほかの214社を「一般企業」として、DXの取り組みや人材施策・育成などについて分析した。また、個人調査では「デジタル人材*3」4,103人(ウェイトバック後:645人に補正)と「非デジタル人材」2,284人(ウェイトバック後:5,742人に補正)から回答を得て、デジタル業務への関与意向やリスキリングの意向・課題感などを分析した。
 

*1 DX銘柄企業:経産省等の選定による、優れたデジタル活用の実績が表れている企業
*2 DX認定企業:情報処理推進機構による「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業
*3 デジタル人材:下記、デジタル領域の14職種のうちいずれか1つ以上経験者

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主な調査結果(企業)

■DX(デジタル・トランスフォーメーション)に対する取り組み状況

全体の9割以上の企業がDXを検討・推進しているものの、その多くは業務効率化にとどまっている。一方、DX先行企業は、「新規製品・サービスの創出」92%、「既存製品・サービスの付加価値化」76%といった付加価値向上目的に加え、「企業文化・組織マインドの根本的な変革」といった従業員を対象とした変革にも76%が取り組んでおり、一般企業との差異が表れている。


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■デジタル人材の育成に関する施策の実施状況

では、DX推進のために企業ではどのような人材施策を実施しているのだろうか。

具体的には、以下の施策について聴取、類型化した。

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最も多く実施されているのは、研修や資格補助などの「育成・研修」施策で、一般企業で46%、DX先行企業で87%となっている。また、DX先行企業では、「経営ビジョン」や、「人材ニーズの定義」、「育成計画」といった育成・研修の前提となる戦略や計画、研修等での学びを活かす「実践機会の提供」について半数以上が実施している一方、一般企業はDX先行企業を大きく下回り、e-learning受講環境の提供など、比較的始めやすい「学ぶ場」の提供から進めている傾向がうかがえる。

また、DX先行企業においても、学びを促進する「コミュニケーション」は18%、評価や報酬に紐づく「人事制度」の整備は8%にとどまり、学ぶ「動機づけ」につながる施策まで着手できていない企業が大半となっている。

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■デジタル人材の育成に関する施策の課題認識

DX推進のための人材施策に関する課題について、一般企業では、「経営ビジョン」45%、「育成計画」57%などで、「育成・研修」フェーズより手前の施策に課題を感じる割合が高い。

一方、DX先行企業においては、「実践機会の提供」53%や、「人事制度」47%などの課題認識が高い。特に、「実践機会の提供」においては、DX先行企業の71%が既に着手している一方で、依然、課題を抱えている企業も多い。

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■デジタル人材育成に向けた研修の実施状況

「育成・研修」実施企業が行っているデジタル領域に関する研修内容について、「基礎的なリテラシー向上に向けた研修」が7割近く、さらに踏み込んだ実践的な知識・スキルの育成に向けた研修は3~5割となっているが、いずれもその内容には「改善の余地がある」と考えている企業が多い。

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主な調査結果(個人)

ここまで企業の現状や課題をみてきたが、次は労働者個人におけるデジタル人材市場規模や、リスキリングに関する意向や課題等をみていきたい。
 

■現在のデジタル人材と非デジタル人材における「潜在デジタル人材」の市場規模

日本の就業人口約3,000万人のうち「デジタル人材」(エンジニアやデザイナー、ビジネスプランナーなど、デジタルに関する14職種の経験者を「デジタル人材」と定義)は全体の9%の約254万人と推計される。性年代別では、男性20代における割合が21%と最も高く、女性より男性、年代別では若い年代ほど割合が高い傾向にある。

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また、デジタル領域の経験を有さない非デジタル人材においても、当該領域に必要なコンピテンシーを持つ人材は一定数存在する。そこで、非デジタル人材における「潜在デジタル人材」を、「デジタル領域への関与意向」と、デロイト トーマツ独自のデジタルリテラシーアセスメントにおける「マインド・スタンス*4」レベルから推計した。

*4 デジタルリテラシーは「認識・理解」「活用・実践」「マインド・スタンス」で構成され、このうち、新たな価値を生み出す基礎として「マインド・スタンス」を「潜在デジタル人材」の要件として定義した

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その結果、非デジタル人材の36%が「潜在デジタル人材」と推計され、今後のリスキリングやデジタル領域への関与意欲喚起によりデジタル人材として活躍する可能性の高い人材も一定規模存在することが明らかになった。

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■「リスキリング」に関する意向と課題

では、デジタル技術の発展に伴う新たな仕事・職務への移行や、今の職業で必要とされるスキルの変化に適応するために必要となるスキルを習得するという意味での「リスキリング」について、労働者はどのように感じているのだろうか。

デジタル人材では7割近く(69%)がリスキリングする意向がある一方、非デジタル人材では32%にとどまる。

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さらに、リスキリングに関する課題について、非デジタル人材の半数近くが該当する課題が一つもないと回答するなど、現状の非デジタル人材は大半がリスキリングへの関心が低い傾向がうかがえる。

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また、これらの課題について、前述のリスキリング意向者に絞り分析すると、トレーニング機会や時間確保、必要なスキルや学習方法の明確化、キャリアに活かせる機会不足に関する項目が上位となっており、デジタル人材層を拡大する上では学びに対する個人のレディネス(準備)や動機づけを促進する必要があると考えられる。

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■勤務先におけるデジタル人材育成施策の参加経験

前述の通り、企業においては「育成・研修」施策は一定進んでいるという結果となっているが、労働者個人の勤務先での参加状況については、デジタル人材は7割以上に参加経験がある一方、非デジタル人材では2割程度にとどまる。デジタル人材は勤務先での学習機会も参加経験も一定あるが、非デジタル人材においては勤務先での学習機会提供だけではなく、デジタル領域に関するリスキリングの必要性、興味喚起といった学習の動機づけが行き届いていない可能性がある。

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調査結果からの示唆・考察

本調査から見えてきたのは、企業において、自社が必要とする人材ニーズの定義や、学びに対する従業員のレディネスや動機づけを促進する施策の着手が不十分な中、e-learningや座学研修などの育成・研修施策が先行して進んでいる状況である。

DXの加速化に際し、企業がデジタル人材を育成・確保していくためには、研修を実施するのみではなく、評価・報酬・キャリアパスといった出口の明示と、実践機会の提供により、従業員のリスキリング意欲を喚起し、実践に活きる知識・スキル・働き方の習得を促していくことが必要と考える。

既にリスキリング意欲の高いデジタル人材に対しても、自社のDX戦略に基づく人材ニーズを明確に発信したうえで、出口の明示と実践機会の提供を一気通貫して実施していくことで、デジタル人材を惹きつけ、実践を通じたスキル(幅・深さ)向上を促していくことが必要であろう。

また、労働者個人も、今後のキャリアにはデジタル領域を中心とした新しい知識やスキルが必要となるといった労働市場動向の理解と、それらを踏まえた自身のスキルの現状(As is)とありたい姿(To be)を把握し、自律的に取り組む姿勢が望まれる。

ただ、これらの実現においては、企業の取り組みや個人の主体性任せでは限界があり、国による支援も重要である。

日本の経済成長において重要となる人的資本に投資し、必要な人材を育成するためには、国による人材流動性を高める投資・枠組みづくりにより、企業の投資・人材育成の強化と、個人のリスキリングを促していくことが求められるであろう。
 

より詳細な結果をご覧になりたい方は、調査結果の全編をご案内しますので、お問い合わせください。

調査概要

 

解説者紹介:

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ディレクター 小出 翔
マネジャー  佐藤 由布子

デロイト トーマツ グループ合同会社
マネジャー 大畑 静美
シニアアソシエイト 渋谷 拓磨

※所属・役職は執筆時点の情報です。

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