リモートワークおよびエッセンシャルワークに係る手当・補助の支給状況(国内) ブックマークが追加されました
ナレッジ
リモートワークおよびエッセンシャルワークに係る手当・補助の支給状況(国内)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が人材マネジメントに与える影響
COVID-19の影響による、リモートワーク手当・補助およびエッセンシャルワークに係る手当の現状について調査および考察を行った。
COVID-19の感染拡大、緊急事態宣言の発出等により、リモートワークによる在宅勤務に切り替えた企業が多く、当該リモートワークに係る手当・補助を新たに設定した事例が見られる。一方で、いわゆる“エッセンシャルワーカー”等、リモートワークができない業種や職種に対し追加的な手当を支給する事例も見られる。
これらはまだ新しい動きであり、市場で情報が十分に揃わない面もあるが、現時点(2020年7月)で国内の公開情報から確認できた内容に基づき、上記リモートワーク手当・補助およびエッセンシャルワークに係る手当の現状について調査および考察を行った。
リモートワークに係る手当・補助
IT業界に多く見られるリモートワーク手当・補助
リモートワークに係る手当・補助は、いわゆるIT業界での導入事例が多く見られる。業界特性上、リモートワーク導入自体が進んでいた、あるいは進みやすかったことや、企業規模的に機動的に手当の導入をしやすかった等が背景として推察される。一方、富士通、日立製作所、AGCといった日系大企業でも導入の動きが見られる。このことから、今後IT業界に限らず、リモートワーク、およびこれに係る手当の支給がより一般化していくことが考えられる。
目的は大きく「リモートワーク環境整備」と「通信費・光熱費」の二つ。ただし、用途を特定しないリモートワーク関連手当として支給する例が多い
リモートワークに係る補助・手当の目的は大きく (1) リモートワーク環境整備 と (2) 通信費・光熱費 の二種類が存在すると考えられる。一方、用途をそのいずれかに特定するのではなく、それらを総合的にカバーする、リモートワーク全般に係る補助・手当として支給する事例 がもっとも多い。
なお、(2) 通信費・光熱費の支給事例の多くは、リモート環境整備補助(あるいは現物支給・貸与等)も支給されている。このことから、在宅勤務環境の整備自体の優先度が高く考えられており、その上で、通信費・光熱費の補助が検討されていると考えられる。
リモート環境整備として1~3万円、通信・光熱費として月額2~5千円が中心。多用途設定の場合は総じてこれよりも高い
リモート環境整備の補助・手当は一時金での支給、通信・光熱費の補助・手当は月額等の定期支給が一般的だ。金額水準は、リモート環境整備として1~3万円(一時金)、通信・光熱費として月2~5千円が中心的な範囲である。
ただし多用途の設定の場合、上記のような特定用途の金額に比べ水準は高い。複合的に用途を想定している点が反映されていると考えられる。
通勤手当の削減相当分を根拠としている事例も
金額の算定方法を公開している企業は多くないが、リモート関連全般への補助・手当として、「通勤手当を支給しない、あるいは削減する代わりに」との根拠を添えている例が見られる。特定用途からの金額算定ではなく、通勤手当からの振り替えを設定根拠としているゆえに、多用途の手当として設定されている可能性もある。
エッセンシャルワークに係る手当
小売業や医療・福祉業界に多い。一方で、様々な業種でも支給事例は見られる
COVID-19の拡大の中、いわゆる“エッセンシャルワーカー”への手当を新たに支給した事例(国内)としては、特に小売業や医療・福祉といった業種で多く見られる。また、それら以外でも、様々な業種で、リモートワークができない業務への従事者への支給事例が見られる。
なお、IT系企業の支給事例が比較的多く見られ、いずれもリモート手当も支給している企業であった。(これら企業では、リモートワーカーへの対応とのバランスも、検討上の観点として重視された可能性もある)
高リスク下での従事に対する慰労が目的。現時点では暫定的・一過的な特別手当
総じて、COVID-19感染拡大下での、高リスク下での従事に対する慰労の主旨で支給されている。一部、ドラッグストア等の例では、業務量増大への慰労の意図も含まれている。
なお、今後の継続支給有無について言及しているケースは見られず、現時点では、暫定的・一過的な特別手当との位置づけで支給されていると考えられる。
一括・定額の場合は2~3万円、日額設定の場合は日額3~5千円程度の例が多い
前掲のとおり、暫定的・一過的な手当の位置づけでの支給と考えられるため、支給方法の違い(一括定額での支給か/日額設定での支給か等)には大きな意味の違いはないと考えられるが、勤務日数等に応じて支払う主旨で日額設定しているケースが多い。
おおむね、一括・定額の場合は2~3万円、日額設定の場合は日額3~5千円程度の例が多い。
今後のリモートワーク手当・補助およびエッセンシャルワーク手当のあり方
リモートワーク手当・補助は、環境整備と通信・光熱費補助という大きく二つの目的で整理され一般化
リモートワークに係る手当・補助は総じて、リモートワークに伴う経費を補助する位置づけのものであり、今後、リモートワークがより広がっていくと想定される中で、経済的な衛生要因面を担保するものとして必須の手当・補助となることが予想される。
内容としては典型的には、まず、リモートワーク環境(ホームオフィス環境)の整備のために一定のサポートをすること、その上で、通信費や光熱費といったいわゆるランニングコストをカバーすること、という大きく二つの目的・性質の手当・補助に整理され、一般化していくことが予想される。
なお、金額水準は、経費としての想定額に基づく設定が理に適うとは思われるものの、その合理的・妥当な見積もりが難しい面もあると考えられる。一部に見られるような「通勤手当の削減分を振り替える」といった考え方も含め、引き続き動向を注視したい。
エッセンシャルワーク手当は、対象のジョブそのものの社会的な賃金水準を引き上げる意味合いに
エッセンシャルワークに係る手当は、高リスク下での仕事そのものに対する慰労的手当であり、この点が、経費精算的なリモート手当と本質的に異なる。当面現在の感染リスク環境が続くとすれば、現時点では「手当」という対応形態ではあるが、本質的には、対象のジョブそのものの社会的な賃金水準を引き上げる意味を有するとも考えられる。
また、現在の国内事例の多くは一過的な特別手当の性格が強いものの、今後はより一般化・恒常化する可能性も十分考えられるだろう。
双方のバランスが組織内で論点に。リモートを「選択できる」裁量性の有無も手当のあり方に影響を及ぼし得る
多くの場合、同一企業内でも、リモートワークが可能な職務と、そうでない職務の双方があるだろう。また、今後の新たな勤務形態の在り方として、リモートと出社の併用(例:週2日出社等)も選択肢として多くの企業で検討されていると思われる。このようにリモートと非リモートを同じ組織内で併用するようになった場合に、それらの手当について「どのように双方のバランスをとるべきか」という観点・論点が生じると考えられる。それぞれ個別に必要な手当をすれば良しとするのか、あるいはアサインメント自体の損得のような要素も手当の在り方・バランスに影響するのか等は、今後も動向を注視したい点の一つである。
また、COVID-19環境での強制的なリモートワークではなく、選択的な働き方としてのリモートワークという、本人裁量的な側面が強調される位置づけとなる場合、リモートワーク手当の考え方にどのように影響を及ぼすか、という点も今後の動向として注目したい点である。
執筆者
- 田村 征継(たむら まさつぐ)
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー
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