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HRBP起点の改革プロジェクトを追う~教育改革編~

ドキュメント 人事部変革プロジェクト ~企業価値向上に貢献する組織への進化を追う~ 第8回

本連載では、架空の会社・尾張マシナリー社を舞台にストーリーを追い、解説編でポイントを取り上げていきます。第8回となる今回は、人事制度改革やビジネスパートナーの声をきっかけに立ち上がった、第4の改革分科会【教育分科会】の始動の様子をお伝えします。

《ストーリー編》

事例 : 尾張マシナリー(機械メーカー)
登場人物 :
有田…人事本部長、風土改革プロジェクトリーダー
瀬戸…人事部次長、HRBP(HRビジネスパートナー)および人事制度分科会のリーダー
堤…人事部人材開発グループ所属で、HRBPメンバーの1人。有田から、教育分科会のリーダーに指名される
最上…外部コンサルタントのリーダー

前回までのあらすじ

ビジネスパートナーによる提言ワークショップを経て、適材適所・採用強化・人事制度のそれぞれについて改革分科会が設立された。そのうちの1つ、【人事制度分科会】では、ビジネスパートナーを分科会のコアメンバーに迎え、各本部の意見を収集しながら制度の骨子を固めていった。起こっている事象を捉えるだけでなく、得たい果実を明確化する、ビジネスパートナー活動で学んだ問題解決アプローチを活用しながら、尾張マシナリーの面々は人事制度を設計していった。

人材育成は誰の責任?

総合職社員向けの人事制度は、「年齢や経験ではなく、資質や能力のある人を上げていく」ことを基本方針に据えた。そのため、人事制度には「昇進要件の明確化」「ビジネスパートナーの参画による、昇進運用のモニタリング」を盛り込んだ。 

しかし、外部コンサルタントの最上は、まだピースが欠けていると感じていた。「昇進させたくなる人づくりの仕掛け」である。ある日、最上は瀬戸にこう切り出した。 

「昇進要件や昇進運用の見直しで、適材を昇進させるプロセスは整いました。しかし、適材がいなければ意味がありません。人の質づくりに直結する打ち手が必要です」 

ビジネスパートナーリーダーの瀬戸は、最上に問いかけた。 

「確かに、ビジネスパートナー週報にも、いろいろと“教育問題”が挙げられています。ただ、“教育”といっても様々ですね。例えば、“書類の書き方”のようなものは、ある程度全社で揃えるべきだから、人事がまとめて対応しても違和感がないと思います。しかし、例えば経理本部の週報を見ると、“若手社員に経理知識を習得させてほしい”と書いてあります。果たして、我々がそこまでやるべきなんでしょうか」 

最上の答えは次のようなものだった。

「我々が何を支援し、本部に何を委ねるのかは、検討したほうがよさそうですね。私見ですが、経理知識は、本来、経理業務に必要だから身につけるものです。従って、部下の業務遂行に必要なインプットを提供するのは、本部の上長の役割だと思います。ただ、貴社における経理のルールなど、ごく基本的なものは全社員知っているべきだともいえます。なお、社会人の育成で最もインパクトがあるのは、経験、つまりOJTなんです(図表1)。人材は誰かが育ててくれるのではなく、自分たちで育てるのです。OJT充実化は検討すべきでしょうね。しかし、人事本部のやっている研修にも意味はあります。むしろ、研修で共通土台を作るからこそ、OJTが活きるともいえます。全社研修を体系立てて見せることで、本部個別に研修すべき内容を特定しやすくなるでしょうね」

図表1 経営人材のリーダーシップ開発に有効だった経験の内訳

研修という観点からも、OJTという観点からも、やはり人材育成は課題がありそうだ。最上は、瀬戸に依頼して、ビジネスパートナーに、人材育成についての本部の問題意識や要望を収集してもらうことにした。また自身は、有田のもとに赴いた。人材育成という観点から、「昇進させたくなる人づくり」をリードする、教育改革分科会を立ち上げるためである。 

第4の分科会の立ち上げ~教育分科会~

最上から分科会立ち上げを相談された有田は快諾した。

「リーダーはビジネスパートナーの堤にしましょう。人材開発グループ所属で、改革意欲にあふれています。突破力のある彼なら、きっとやり遂げてくれるでしょう」 

続けて有田は最上にこんなことを打ち明けた。 

「現状の研修体系は歯抜けです。過去の予算縮小で、コストをかけない研修が至上命題とされたからです。課題解決力やマネジメント力を鍛えたり、経営目線での思考力・判断力を養うものなど仕事の質を高める研修は、外部に委託していたので休止に追い込まれました」 

有田によると、現在残っているのは、必要最低限のOAスキル研修や新入社員研修、法令や社内ルールをひと通り伝えるための昇進者研修ぐらい。しかも、内容は数年間変わっておらず、受講者アンケートの内容も十分に分析・活用できていなかった。 

有田は続けた。 

「何より私が問題視しているのは、人材開発グループのなかで、“我々はどういう人材を生み出すべきか、そのためにグループとして、どういう育成手段を講じ、どう改善を図るべきか”という議論がされていないことなんです」 

「なるほど、言葉は良くないのですが“研修屋”になっていて“人材開発”という本来の目的に目が向いていないのですね」 

最上の言葉に、有田はうなずいた。 

「まさにそうです。木を見て森を見ず、の状態です。彼らは、限られたコストで研修をやり続けていることにプライドを持っています。最上さんには、そこは尊重してもらいたいと思います。ただ、尊重と現状追認は全く違います。実施した研修はきちんと振り返って改善するべきだし、人材開発グループを名乗るからには研修屋ではなく、ありとあらゆる方向から、人づくりに汗をかくべきだと思います。教育分科会を機に、人材開発グループを、真の“人材開発集団”に仕立てたいのです」 

会社の永続的な成長を目指す以上は、人もまた成長し続けなければならない。その究極的な目標に向かって、人材開発グループは常に高い目線を持ち、研修に閉じない打ち手を講じる必要がある。これが有田の視野だ。一方で、コストの制約のなかで自ら講師として日々拠点を行脚している担当者から見れば、高い目標を目指す前に、まずは目の前の仕事を少しでも整理し、その分考える時間に充てられるようにしてほしい、と感じるだろう。 

加えて、人材開発グループ員の大半は、これまでの人事改革活動に参画していない。唯一、堤がビジネスパートナーとして参画しているだけだ。改革慣れしつつある堤と、意図せざることとはいえ、人事改革の表舞台に立ってこなかったグループ員とでは、温度差がある。大上段に“改革”を叫んでもフィットしない。そう考えた最上は、有田にこう答えた。 

「よく分かりました。教育分科会では、我々は黒子に徹したいと思います。予算も人手もないなかで研修をやり遂げてきた彼らに対して、コンサルタントがあれこれと指摘するのではなく、ご自身の力でやるべきことを考え、成し遂げていただくべく、お導きいたしましょう」 

有田は、最上の答えに大きくうなずきながら「ありがとうございます」と言うと、こう付け加えた。 

「ただし、堤は例外です。堤は人材開発チームのエースです。彼は、人材開発グループとして何を成し遂げるべきか? を俯瞰的に考えてくれると期待しています。最上さんには堤の参謀として、“何を考えるべきか”“そのために、分科会で何を議論しどう運営するか”ヒントを出していただきたいと思います。堤には、それを受けて分科会でリーダーシップを発揮してもらいたいと思います」 

二人三脚でのスタート

最上との打ち合わせの翌日。有田は堤を呼び、分科会をリードするよう指示した。併せて、教育改革における最上の立ち位置、堤への期待も伝達した。 

堤は答えた。 

「ぜひやらせてください。研修は各拠点で運営していたので、全拠点横断で何かに取り組むことは、今回が初めてです。やるべきことは多々あると思いますが、1つひとつ頑張りたいと思います」 

有田から堤が快諾したことを聞いた最上は、早速、堤に作戦会議を申し込んだ。作戦会議で堤はこう提案した。 

「つらい時期を乗り越えてきた分科会メンバーの皆さんの声を聞くところから始めてはどうかと思っています。職人肌の彼らにいきなり人材開発のあるべき姿を問うても、議論が成り立たないと思います。まずは、彼らが“変えたいけど、1人の力ではできないこと”を実現していきたいのです」 

最上が答えた。 

「“分科会に参加したら良いことがある”そう思ってもらうことから始めなければなりませんからね。非常に良いと思います。第1 回分科会は、メンバーの“しゃべり場”にしましょう。一方で、堤さんと私は、現場目線と全社目線の両立を意識して作戦を練っていくことにしましょう」 

「現場目線と全社目線の両立とは、どういうことでしょう?」 

堤の問いかけに最上はこう説明した。 

分科会メンバーから出てくる意見は、研修個々の改善提案や運営負荷の軽減要請等が中心、つまり“歯抜け”の現状を起点にした意見が多数を占めるだろう。それはそれで問題解決を進めるべきだ。しかし一方で、メンバーの困りごとや意見に個別対応しても、そもそも目的がはっきりしない。何をゴールとするのか見えていないからだ。 

「だから堤さんと私は、“我々は何をゴールにして研修を行うのか”“そのゴールに到達するために、具体的に何を変えるか”“研修以外の方法をどう盛り込んでいくか”“どのぐらいの期間をかけて変えていくか”を、ある程度考えておいたほうが良いと思います。つまり、To-Beを描くのです。そして、分科会の様子を見ながら、徐々に皆さんとTo-Beの議論をしていきましょう」 

To-Beの議論に備える材料として、最上は堤にある資料を手渡した。最上が瀬戸に依頼してビジネスパートナーに取りまとめてもらった、各本部の人材育成に関する意見だ(図表2)。

図表2 ビジネスパートナーが収集した、人材育成に関する本部意見(抜粋)
画像をクリックまたはタップすると、拡大版をご覧になれます

堤はなるほどと思った。自分自身も含め、これまで人材開発グループで議論されていたのは、主に研修の話だった。しかし本部が挙げていたのは、研修という手段の巧拙ではなく、人材育成自体を、誰がどうやって進めていくのか、という中長期的な課題だった。大きすぎるテーマを見て頭を抱えた堤に、最上は助け舟を出した。 

「堤さん、いっぺんにやろうとする必要はありません。まずは、チームを作らねばなりませんから、堤さんがご提案してくれたように分科会メンバーの関心も高い研修のテコ入れから始めましょう。ただし、先ほども申し上げた通り、“何をゴールに研修を行い、そのために、今のやり方から何を変えるべきか”を検討しましょう。五月雨式に個別研修の善しあしを追いかけていても、現状は変わりません」 

人事施策を調和させよ~人事制度との連動~

最上は続けた。 

「ヒントは本部意見のなかにあると思います。キャリア形成に関するコメントのなかに、“社員がどう成長するか、いつどこまで到達させるかを明確化すべき” “きちんと仕上げてから昇進させるべき”というものがありましたね。これはまさに、総合職の新人事制度が目指す方向性と一致しています。新人事制度では、“資質や能力のある人を上げていく”とうたっています。だから、資質や能力を見出し、伸ばし、見定めなくてはいけません。“主任なら全員部下指導ができる”というような、共通基盤を作っていきたいのです。そして、その基盤のできた人から、より上位の仕事にチャレンジしていく。この仕組みを動かすには、研修が人事制度と対になっている必要があるのです」 

「なるほど。しかし、具体的にはどうやったらいいんでしょう?」 

堤は最上に問いかけた。

「貴社は実質的に本部の判断で昇進が決まっており、“本当にその人が昇進すべき人材か”という観点で、人事が検証材料に基づいて横串で見る仕組みがなかったのです。その点、全社研修は強い武器になります。人材開発グループが、各階層に共通して求める能力やスキル・知識を定義し、研修という形で提供する。そして、受講者が研修で学んだことを実施しているか、必ずチェックする形にしてはどうでしょうか」 

「なるほど、人材開発グループがきちんと定着度をチェックし、それを昇進要件にも絡めるということですね。製品の生産過程で必ず品質チェックを行いますが、それと似た考え方でしょうか」 

最上は大きくうなずいた。 

「品質チェック、まさにその通りです。全社共通のチェックポイントを通過し、本部でも“この人こそは”と判断された人が昇進する仕組みにしたいですね」 

この仕組みは今後“チェックポイント制”と呼ばれていく。 

最上との会話を経て、堤は研修を体系的に、かつゴール起点で刷新するための検討ステップを組み立てた。 

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〈今年度の教育改革〉

ステップ1:「育成目標」の決定

ステップ2:育成目標を実現するために身につけるべき知識・スキルの特定

ステップ3:ステップ2を踏まえた、教育研修体系の設計

ステップ4:個々の研修カリキュラムの概要設計(チェックポイント判定方法の設計含む)

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分科会のキックオフ

そして分科会のキックオフ当日を迎えた。事前の打合せ通り、分科会の舵取り役は堤が務め、有田と最上は後方から見守る形とした。 

「皆さん、お忙しいところお集まりいただきありがとうございます。皆さんもお聞き及びの通り、現在わが社では、有田さんがスポンサーになり、ビジネスパートナー活動や人事制度改革を始めとした、人事全体のパワーアップ活動が進んでいます。我々も人事の一員として、研修の企画・運営を中心に人材育成を担ってきましたが、なかなか思うようにできないことも多々あると思います。そこで今日は、日頃の研修運営を通じた皆さんの意見を伺いたいと思います。困っていること、本当はやりたいけどやれていないこと、何でも結構です。我々がいかにアピールできるかで、有田さんが我々をどれだけ助けてくれるかが決まりますから、ぜひ忌憚ないご意見をお願いします」 

あくまで現場に目線を置いた堤のファシリテーションはうまくいった。これまで有田に直接意見を言う機会がなかったこともあり、活発な問題提起がなされた。 

その多くは、最上が見込んだ通り、個別の研修改善や負荷軽減に関するものだったが、なかには少し違った観点の意見も得られた。 

例えばある中堅の場合。

「私は1年目社員の課題解決研修を担当しています。そこでは“何ごとも、仕事をするうえではPDCAを回しなさい”と教えていますが、実は講師である人材開発グループ自体が、PDCAを徹底できていません。実際、その研修の受講後アンケートをまとめて次年度の改善策を考えなくてはいけないのですが、未着手です。お恥ずかしい限りですが……」 

また別の中堅からは、こんなコメントも得られた。 

「私は以前、生産本部の研修をサポートしたことがあるのですが、実によくできた仕組みを持っていました。若手のうちは1年ごと、中堅以上でも数年ごとに、習得すべき知識やスキルが一覧化されているんです。その一覧表に沿って、研修で習得できるもの、研修とOJTの組み合わせで習得できるもの、OJTメインのもの……というように、育成手段が決められているのです。これを全社展開できるといいなと思いました」 

それは運用が大変だな……という空気がその場を支配しかけた矢先、入社2年目の若手がこんな意見を寄せた。 

「確かに研修運営は大変ですけど、昇進したらこういう研修があるとか、もっと仕事を任せてもらうためにはこんな研修を受けると良いとか、そういうことを知りたい若手は多いと思います。先週、他社に就職した大学の同期と会ったのですが、しょっちゅう研修や発表会があって大変だとぼやきつつ、勉強も仕事もがんばっていると言っていました。負けられないって思います」 

有田の目についたのは、中堅や若手の意欲の高さだ。分科会終了後、有田は堤にこう声をかけた。 

「人材開発グループでのキャリアが比較的浅い中堅や若手の意志をうまく引き出していこう。今までのやり方に精通していない代わり、変えることへのハードルも低いからね。ただし、現在の研修の中核を担っている管理職層が置き去りにならないよう、気をつけるんだぞ」 

最上は堤にいくつか助言した。 

「有田さんのおっしゃる通り、これまでのキャリアや経験によって、温度差が少しありそうですね。研修は人事制度と異なり、数が多く実施時期も分散していますから、一気にすべて変えるのは難しいものです。ですから、数年間のロードマップを考えておくと良いですね(図表3)。このとき工夫したいのが、マイルストンの設定です。例えば、今年度作っていく教育研修体系を実際運用するのは来年度になりますが、今年度にも、何か目標を置きたいですね……」

図表3 教育改革の3ヵ年ロードマップ

「おぉ、マイルストンといえば、実は、すぐにでも作ってほしいものがあるんだよ」 

有田は薄い冊子を取り出した。 

「同業他社の交流会で特別にもらってきたA社の教育研修ガイドだ。いつ、誰に対して、どのような研修が用意されているのか一目で分かる。先ほど事例として挙がった生産本部の取り組みの全社版といえるだろう。必須研修だけでなく、任意研修も載っているから、学習意欲をかきたてられるし、会社の人材育成への本気度もアピールできる」 

堤のなかで、最上のいう“マイルストン”と“教育研修ガイド”が符合した。 

もともと、分科会メンバーは、決まったことをきちんと整理し、やり抜くタイプの人間が多い。教育研修ガイドづくりを目標に掲げたら、チームがうまくまとまるのではないかと、堤は思考を巡らせていた。(第9回に続く)

《解説編》

自前で改革を成し遂げるうえでのポイント

今回は、人事制度改革やビジネスパートナーからの声をきっかけに始まった教育改革を取り上げた。尾張マシナリーの場合、改革活動に従事していた人間にとっては教育改革が必須と認識されていた。しかし、肝心の人材開発グループがその認識を持っておらず、現状の運営に対して相応の自負心を有していたことに難しさがあった。この難しさを乗り越えるために、最上は大きく2つの提言をしている。 

提言1:コンサルタントの使い道を変える

堤は管理職としては若手で、フットワークの軽い改革意欲にあふれた人材だった。分科会の立ち上げという、熱量の必要な時期を引っ張るリーダーとして有田が任命したこともうなずける。一方、教育分科会は大人数で、研修運営にかけては熟練の人間も多い。真面目さと自負心が相まって、他者からとやかく言われることを望まず、自分たちが変えられる範囲のことを着実に変えようという、小ぢんまりした落としどころになることが予想された。 

いかに、最上がビジネスパートナー活動や人事制度分科会で尾張マシナリーに溶け込んでいたとしても、真正面から切り込んでいては果実が得られない状態だった。そこで有田は、最上に対して“舵取りや意思決定はあくまで尾張マシナリーにある”ことが明確になる働きかけ方を打診している。同時に、堤に対しては、彼が見えていなかった論点や本部の声を提供して彼の思考の整理を手伝いつつ、彼自身がリーダーシップを発揮するように求めている。分科会に同席はしたが、積極的な発言は控え、あくまで堤の進め方や考え方を補足するようなコメントや、議論の方向性がぶれたときの軌道修正支援程度に留めた。 

提言2:改革を絶やさない仕掛けを盛り込んでおく

現場を尊重し黒子に徹するとはいえ、目先の研修改善だけであれば、最上の存在価値はない。そこで最上は、現状を踏まえつつ先々まで改革が続くよう、それとなく堤を誘導していた。例えば3年スパンのロードマップについて言及した。“改革は1 年にしてならず、ゆえに2年目以降の目標を定めておくべし”ということだ。 

分科会初年度は研修体系の刷新に焦点が当たっていたが、研修の本番は、実行し、効果を測定し、改善することである。立派な体系に中身が伴っていなかったり、年を追うごとに陳腐化していっては意味がない。 

尾張マシナリーでは、研修体系の構築と、それに伴う個々の研修の見直しにめどがついた段階で、“PDCAサイクル”の実装にシフトした。研修をやりっぱなしにせず、アンケートやインタビューを通して効果測定し、改善につなげるためだ。アンケート項目等の共通化すべきものは統一し、業務手順を整理することで、誰もが迷いなくPDCAを回せる仕組みを検討していった。また、PDCAサイクルの実装は、議論を進めるための叩き台づくりを最上らコンサルタント、内容の詰めを尾張マシナリーの若手~中堅が担当する体制で進んだ。 

内容の実効性を高めることはもちろんのこと、「他人が作った仕組みをやらされている」のではなく、「自分たちで作った仕組みだから、活用したい・より良くしたい」という主体性を引き出すことも狙いだった。改革の担い手を絶やさないことも、改革継続の1つの要諦といえるだろう。 

課題・留意点:特別な人材をどう見つけるか?

尾張マシナリーでは、あくまで全階層・全社員を対象にした教育改革が進んだ。研修運営者を巻き込んだ改革は、非常に現実的といえるだろう。ただし、なかにはこのようなボトムアップでは生み出しにくい人材もいる。経営幹部やグローバル人材は代表例だろう。これらの人材には、階層という全社共通の物差しでは測れない資質や特徴、ポテンシャルが求められ、だからこそ全社研修では育成しきれない。外部によるアセスメントや経営者直々の育成など、トップダウンのアプローチが有効だ。なお、尾張マシナリーでは、業務経験を通じたリーダー育成にこだわり、選抜型のリーダー開発研修などは特に実施しなかったことを申し添えておく。 

育成目標・キャリアゴールに応じて、育成方法もまたそれぞれという点は、くれぐれも留意したい。 

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HRBP起点の改革プロジェクトを追う~教育改革編~
〔PDF, 1.28MB〕

ニュースレター情報

Initiative Vol.102

著者: デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー 国井 浩士
マネジャー  沼田 真理子

2017.7.28

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

※本コラムは、株式会社ビジネスパブリッシングの許諾を得て、月刊人事マネジメントの記事(2016年8月号掲載)を転載したものです。

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