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デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2023 #3 テクノロジーで人間そのものの能力を高める 

テクノロジーは人間の仕事を向上させるだけでなく、職場における人間そのものの能力を向上させられるようになる

テクノロジーは現在、単なる労働者の代替物や補完物の機能だけでなく、労働者自身の人間性を向上させることに役立っており、個人やチームがより自分の力を発揮できるようなサポートを実現している。今後は人間やチームの能力そのものを向上するインテリジェント・テクノロジーとしての可能性を視野に入れることで、人が創造性・アイデア・イノベーションといった付加価値の高いタスクに注力できるようになれば、組織は進歩していくだろう。

職場における新しいテクノロジーは、単に労働力を増加させるだけでなく、労働者自身の個人的な能力やチームを作る能力そのものを向上させることができます―つまり、人がより自分の力を発揮できるようになり、チームがより良いチームになるようにするのです。これはウェアラブルなテクノロジーに留まりません。新たな行動を促進し、労働者がより良い自分になるために、あらゆる方法で人間をサポートするのがテクノロジーなのです。

知能技術と労働者の関係は、時代とともに大きく進化してきました。当初、テクノロジーは労働者の代わりとして使われ、単調で、汚く、危険で、人でなくとも実行可能な仕事を自動化させていきました。次に、労働力を増強するために、強化された能力と洞察を提供するツールとして、労働者と共に機能しました。以前のレポートでは、こうした傾向をスーパージョブ1やスーパーチーム2と呼んでいましたが、この傾向は技術の進歩によって加速し続けています。 現在では、単に労働者の代わりや補助というだけでなく、実際に労働者の人間性を向上させるのに役立つテクノロジーが登場しており、人がより自分の力を発揮できるようになり、より良いチームになるようにしています。

例えば、LinkedInのGogi Anand氏は、「従業員の経験全体がテクノロジーによってひっくり返されようとしており、人々にとって非常に有益なものになるだろう。例えば、プレゼンテーションを行うと、Microsoft Teams内のSpeaker Coachからプロンプトが表示され、自分が話している速さや、会議を支配しているかどうかが表示される。これはより良いプレゼンターになるのに役立つ即時フィードバックとなる。また認識プラットフォームを見れば、AIがよりインクルーシブな言葉遣いをするように促してくる。この種の技術は、情報労働者と現場の労働者の両方にとって非常に有益だろう」と述べています。3

このような革新的なテクノロジーは、心理学、人類学、社会学、行動科学の原理を活用して、人間、チーム、組織のパフォーマンスを定義し、改善する方法の幅を再形成しています。特に、人工知能 (AI) を搭載したインテリジェントデバイスは、仕事における人間のインパクトを高めるような、パフォーマンス関連の情報を提供する量を増やし続けています。実際、AIと機械学習は2025年までに労働生産性を37%向上させると推定している研究もあります。 4

トレンドに当てはまるシグナル

  • 複数の競合するテクノロジーソリューションが労働力の枯渇、生産性の頭打ち、チームの機能不全に影響を及ぼしている
  • 自社のテクノロジーは、人間やチームのパフォーマンスではなく、組織のパフォーマンスに重点を置いて設計されている
  • テクノロジーへの投資は、人的成果ではなくコストとROIのみで評価されている

レディネス・ギャップ

デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンドによると、調査対象となったビジネスリーダーの90%以上が、テクノロジーを活用した仕事の成果やチームのパフォーマンス向上が、組織の成功にとって非常に重要または重要であると考えています。しかし、自分たちの組織がテクノロジーによる成果やパフォーマンス向上に対する準備が非常に整っていると考えているのは、僅か22%となりました。

図1 テクノロジー活用に向けたレディネス・ギャップ
 

※クリックまたはタップして拡大表示できます


多くの組織が仕事の成果を向上させるために従来のワークプレイス向けテクノロジーを実装していますが、彼らの多くは現在、実験的な性質を持つ新しいインテリジェント・テクノロジーの採用に慎重です。一方で、彼らは将来のチャンスも認識しています。ビジネスリーダーの42%は、今後2~4年の間に、テクノロジーが従業員やチームのパフォーマンスを向上させることで、組織の成果を向上させることができると期待しています。

 

 

新しいあり姿とは

技術が作業者 (およびチーム)への働きかけを可能にしていく:テクノロジーを人間の労働力の代替あるいは補完として捉える伝統的な考えは視野が狭すぎます。今後は、従業員やチームを最良の状態へもっていくためのものとしてテクノロジーを活用するべきです。つまり、新しい行動を学び、古い行動を正し、スキルを磨くように促すということです。例えば、手術室 (OR) で滞りなくミスのない手術を行うには熟練した技術が必要ですが、器具に加える圧力の正確な量を決定することは外科医にとって多くの場合困難です。ですがテクノロジーを活用したスマートなメスと鉗子があれば、外科医はリアルタイムで圧力を測定し調整でき、その後のプレシジョンと患者のアウトカムの向上させることができます。5

人間をより良くするための介入やナッジを行う:テクノロジーはまた、「人間の根幹たるもの」の改善を促すことができます。テクノロジーは人間の代替物や補完物であるという従来の見方で考えると、テクノロジーが人間をより人間らしくするために使われていると考えるのは皮肉なことでありますが、ここではまさにそれについて述べています。テクノロジーは、私たちがすでに最も得意としていること、例えば幸福感を促進すること、感情的知性を実践すること、創造性やチームワークを育てることなどを改善することができますが、これらはテクノロジーそれ自体にはできないことなのです。

人間自身をより良くアップデートすることを補助するということは、それだけでも価値のある試みです。しかし、ビジネスの観点からは、人々の仕事の質を向上させ、それによってエンゲージメントとパフォーマンスを向上させるという価値の高い恩恵があります。前述の手術の例でいえば、テクノロジーはケアチームメンバーのORでの時間をモニタリングすると同時に、その時間に関連する種類の手術のエラーデータとを相互参照して、疲労リスクに関するアラートを提供しています。これは患者のアウトカムを改善するだけでなく、手術チームのウェルビーイングも改善するのです。

洞察を拡大して、より大きなインパクトを与える:個人やチームへの影響のみならず、テクノロジーと人間のチームのコラボレーションは大規模な洞察を通じてインパクトを与えることもできます。ナッジ、コラボレーション、トレーニング、その他のどのような目的で使用されようが、これらすべてのテクノロジーはデータを 「出力」 します。6 データはそれだけで強力なツールとなるのです。手術の例でいうと、テクノロジーは細かな調整、手術時間、エラーに関するデータを集約し、院内システムや健康システムから洞察を引き出し、従業員の現場実態の変化(シフトの長さ、スケジュール、備品の追加補充など)を通知します。この情報は、作業者、チーム、組織、およびシステム全体のパフォーマンスと成果を向上させるために使用できます。

このような想像上の未来は単なる可能性の話ではありません。多くの場合、既に実現しているのです。そして、その潜在的なインパクトは、個人だけでなく、チーム (および連関する目標を追求するその他のチーム網) にも適用された場合、さらに大きくなります。その結果、パフォーマンス、研修・開発、コミュニケーション、コラボレーションが向上します。デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査に回答した経営幹部は、テクノロジーとチームが協力して成果を上げることができるメリットを信じており、3人に1人は、テクノロジーとチームの協力に対するアプローチの結果、財務パフォーマンスが向上したと回答しています。

 

 

先進的企業による取り組み

  • Humuは、企業のデータと従業員のフィードバックを分析し、従業員の幸福度、パフォーマンス、定着率を向上させる可能性のある変化を特定しています。7  この技術は仮想的なパーソナルコーチのようなもので、AIを使って労働者の調査やその他のデータ入力を取り出し、労働者や組織が目標を達成するのに役立つ行動の変化を特定します。その後、従業員に対しカスタマイズされたナッジを電子メール、Slack、またはMicrosoft Teamsで通知します。ナッジは行動を変えることを目的としており、多くの場合、その行動がなぜ重要かという説明や研究へのリンクが付けられています。作業者 (とその周囲の人々) が改善を報告すると、機械学習はシステムが次の目標に進むようにします。
  • Ultranautsは、神経多様性を持つ人々がテック企業で身を落ち着けることに対する障壁を取り除くために、TeamsとSlackのボットを使用しています。 同社のCEOは、従業員が個々人「バイオデックス」 を作成できるようにしました。これは、全く異なるスタイルの人々が最高のコラボレーション方法をすぐに理解できるようにするためのクイックスタートガイドとなります。
  • DrishtiのAIとコンピュータビジョンを活用した動作認識技術により、日本の自動車部品メーカーであるデンソーは、生産部門の従業員が行う手作業をリアルタイムで継続的に分析することができるようになりました。 9  分析結果として得られるデータセットから、プロダクションマネージャーは、ボトルネックを迅速に特定して排除し、プロセスの改善や、効率化、タスクの優先順位付けができます。DrishtiのCEOであるPrasad Akella氏は、 「工場の従業員がDrishtiを使うことに前向きなのは、マネージャーの干渉を受けずに継続的にトレーニングできるからだということがわかりました。システムは、ミスが発生したときにラインアソシエートに通知し、他の誰にも知られずに問題を修正することができます」 と述べています。
  • 東京の分身ロボットカフェ「Dawn」では、障害や育児などで外出できない人が遠隔操作をするロボットウェイターがいます。10 遠隔操作ロボットであるウェイターは、外出困難者の分身として職場によりアクセスしやすくすることを目的として設計されており、操作しているカフェ従業員に顧客と会話・交流する機会を提供し、将来的にカフェの働き手となれる人材プールを拡げています。

進むべき道

図2 生き残る、成長する、率先する。

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生き残る

市場での存続可能性の維持

  • テクノロジーにより自動化・品質向上をする際、導入するテクノロジーが従業員の経験にどのような影響を与えるかを理解する
  • チーム間のコラボレーションにおける技術的障壁を取り除く
  • テクノロジーを含むチームのパフォーマンス成果達成の基準を定義する

成長する

差別化による競争優位の獲得

  • デジタルトランスフォーメーション・ジャーニーにナッジの技術を取り入れる
  • 人間とテクノロジーのコラボレーションにおける「重要なタイミング」 を最重要項目と定義づけ、実現するために必要な投資を実施する
  • 人間とテクノロジーが協働することによるリスクを把握し、対処する(例:導入するテクノロジーにアンコンシャスバイアスを軽減するような設定をかける)

率先する

根本的な革新と変革による市場のリード

  • 組織のパーパスを可能にする機能とケイパビリティを持つテクノロジーを選択し、企業の技術戦略にパーパスを組み込む
  • テクノロジーが導き出した従業員のパフォーマンスに関する洞察を活用、開発機会とパフォーマンス把握の決定をする
  • テクノロジー投資の効果測定を、従業員やチームのパフォーマンスや従業員の労働力を向上させたかどうかで判定する(例:ウェルビーイング、エンゲージメント)

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今後の展望

情報化時代から想像力の時代へと移行するにつれて、テクノロジーは、労働者のアウトプット創出支援から個人とチームが成果に集中できるよう支援することへと進化し、「人間にとってより良い仕事、人間にとってより良い働きぶり(making work better for humans and humans better at work™)」を可能にしています。これらの動きは、顧客、製品品質、ネットワークの安全性、環境などより広い範囲に広がっていくでしょう。このような世界を実現するためには、組織は生産性向上のためのテクノロジーという時代遅れの考えから脱却し、人間やチームの能力そのものの向上を可能にするインテリジェント・テクノロジーの可能性を受け入れる必要があるのです。

ワークプレイス向けテクノロジーがチームワークの向上や、チームの繋がりの維持に寄与している、あるいは、労働者が創造性・アイデア・イノベーションの求められるような付加価値が高いとされるタスクに注力しその能力を発揮させられているとき、その組織は進歩していると言えるでしょう。ワークプレイス向けテクノロジーは、本レポートの他のトレンド (労働者データ、労働力のエコシステム、職場の将来など) を実現する上でも重要な役割を果たしています。

脚注

  1. Erica Volini et al., 2019 Deloitte Global Human Capital Trends, Deloitte Insights, April 11, 2019.
  2. Jeff Schwartz et al., 2020 Global Human Capital Trends, Deloitte Insights, May 15, 2020.
  3. Interview with authors.
  4. James Eager et al., Opportunities of artificial intelligence, European Parliament, June 2020.
  5. BioSpace, “Surgical scalpel market: Technological advancements in the field of surgical scalpel,” June 4, 2021; New York University, “New tool brings missing sense of touch to minimally-invasive surgery procedures,” ScienceDaily, June 27, 2022.
  6. Techopedia, “What does data exhaust mean,” accessed November 17, 2022.
  7. Humu, “Move your organization to exactly where it needs to be,” accessed November 17, 2022.
  8. Ultranauts, “The Biodex - A user manual for every teammate,” accessed on November 17, 2022.
  9. Drishti, “DENSO: $46B Japanese auto tier 1 manufacturer,” accessed on November 17, 2022.
  10. Emma Steen, “This new Tokyo café has robot waiters controlled remotely by disabled workers,” TimeOut, June 22, 2021.

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