Deloitte Insights

デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2023 #4 未来の職場の活性化

職場は仕事そのものへのインプットへと進化する

より大きな相互接続性や、在宅勤務とオンサイト勤務の境界の曖昧さは、組織に 「どこで」 ではなく 「どのように」 仕事をすべきかを実験するユニークな機会を与える。場所と様式(modality) は仕事と労働者のニーズにおいてあまり重要ではなくなる。

理想的な職場は、伝統や権利、必要性によって決められた物理的な場所だけではなく、仕事が最適に行われる場所です。組織は、従来の境界線に挑戦し、文化、コミュニティ、チームワーク等の労働者の好みや高次な目標を尊重しながら、様々な作業ニーズに適合する物理的、デジタル的、またはハイブリッドな環境を設計する必要があります。労働者は、これらの決定を制約するのではなく可能にすることを目的とした広範なガイドラインにおいて、いつ、どこで、どのように作業をベストな状態で達成するか決定することができます。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる混乱以前から、仕事の仮想化がトレンドとなっており、職場を単に物理的な場所と捉えることは、しばらく前からプレッシャーにさらされてきました。しかし、この劇的な混乱により、組織はより迅速に仮想およびハイブリッドの作業環境で労働者を繋ぎ、関与させる方法を再考し、境界の無い職場の可能性を受け入れることを余儀なくされました。残念ながら古い習慣を断ち切ることは困難なようで、仕事とは何かについての定義が時代遅れであることや、労働者の生産性や組織文化に対する認識を起因とした揺り戻しが見られ、多くの企業が労働者をオフィスに復帰させようとしています。

ビジネスの成果を達成するために必要な物理的職場とデジタルな職場の組み合わせは、仕事そのものが規定していくため、今後リーダー陣は仕事自体のデザインと実践という基本的な問題に焦点を当てるべきです。しかし、残念なことに今年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査では、未来の職場を作る上で最も重要な要因のひとつとして仕事の設計方法を挙げた回答者は僅か15%でした。

境界の無い職場への移行は、労働者の交渉力と技術の進歩という2つの要因によって推進されています。労働者の気持ちは変化し、労働者は自分たちのニーズとウェルビーイングを最もサポートしてくれる職場モデルを主張しています。現在多くの労働者は、リモートワークができることを奪い得ない権利であると考えています。最近の調査によると、世界の労働者の2/3 (64%) は、雇用主がフルタイムでオフィスに戻ることを望んでいる場合、既に新しい仕事を探すことを検討している (または検討する予定である) と述べています。1

また、テクノロジーは職場のデザインに欠かせない要素として急速に進歩しています。これはコラボレーションツールにとどまらず、現在では仕事に関連する膨大な数のテクノロジーを含んでおり、最も顕著な例は、間違いなくメタバースとUnlimited Realityです。

パンデミック後の世界で、組織が職場について再考する中、その結果は単一の場所や万能のソリューションではなく、多様な方法で仕事をこなすことをサポートする様々な機能やスペースとなっています。この再考は知識労働者に限らず、現場労働者にも及んでいます。ForbesとMicrosoftによる最近の調査では、第一線で働く人々にデジタルの力を与える取り組みを先導している組織(例えば、コールセンターの代表者やフィールドサービス担当者)は、20%を超える年間成長を達成する可能性が3倍高いことが示されました。2

トレンドに当てはまるシグナル

  • ナレッジシェアと知的財産の有効活用が著しく低下している。
  • コラボレーションにおける継続的課題が、仕事の遂行に悪影響を及ぼし、会議の顕著な増加をもたらしている。
  • 旧来の仕事の仕方がハイブリッドな職場に移植されているため、エンゲージメントと生産性が低下している。
  • 時代遅れあるいは効果的ではない職場環境が原因で、トップクラスの人材を惹きつけるのに苦労している。

レディネス・ギャップ

今年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査によると、ビジネスリーダーの大多数 (87%) は、適切な職場モデルを開発することが組織の成功にとって重要、または非常に重要であると考えています。しかし、組織がこの傾向に対処する準備が整っている、または非常に整っていると感じているのは24%に過ぎません。

 

図1:未来の職場の準備に関するレディネス・ギャップ

図1:未来の職場の準備に関するレディネス・ギャップ

幸いなことに、現状に満足しており、職場戦略を変更していない (今後も変更しない) と答えた組織は、調査対象の6%に過ぎません。一方で、78%は既存の業務プロセスを再設計したり、仕事そのものを再定義したりすることで、労働者が成長できる未来の職場を作ろうとしています。

新しいあり姿とは

職場の決定は仕事に任せる:物理的、デジタル、ハイブリッド等、人々がどこで働くべきかについての質問に、組織が効果的な回答ができるようになる前に、必要な仕事を理解しなければなりません。そのため、職場について考える時には初めに「その仕事には何が必要か」と問うべきでしょう。全ての組織が採用すべき完璧な職場モデルや普遍的な解決策は存在しません。最適な結果を出すために物理的なスペースを必要としない業務であれば、過去の前例や現在の管理上の不安だけを理由に、それを強制してはいけません。その代わりに、組織は自分たちが達成しようとしている仕事に目を向け、それらの目標に関連する固有のニーズと優先事項を深く理解する必要があります。それによって初めて、組織はどこで、いつ、どのように業務を行うべきかを効果的に決めていくことが可能となります。

成果や価値の創出に寄与するエクスペリエンスを意図的に設計する:組織は、業務をサポートする職場モデルを設計する際に、まず推進しようとする最終的な成果(文化、イノベーション、ソーシャルインパクト)に焦点を当て、その価値が最もよく生み出される場所を定義する必要があります。今年のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査に回答したリーダー陣によると、未来の職場に関するアプローチから得られた最大のメリットは労働者のエンゲージメントと幸福度の向上であり、一方、最大の障壁は企業文化でした。

個人、チーム、エコシステムに力を与える:特に、労働者の交渉力の向上を考慮すると、組織のエコシステムにおける労働者にとっての重要な成果は、組織の成果と同等に考慮されるべきです。これは職場モデルにも当てはまります。組織は、そのニーズや欲求と全労働者のニーズや欲求を一致させる (少なくともバランスをとる) ために最善を尽くすべきでしょう。組織は今、自分たちの職場モデルを大胆に実験し、仕事の成果と労働者の好みとのバランスを取り、彼らが作ろうとしている新しい価値を解き放つ機会を得ています。

例えば、人々がどこでどのように交流するかを考えてみましょう。調査によると、コラボレーションは物理的なオフィスの第1の目的であり、これは地理、業界、役割、世代に関係なく適用される所見です。そのため、物理的、デジタル、またはハイブリッドを問わず、職場モデルを作る場合は、コネクティビティとコラボレーションをサポートし促進するよう意図的に設計する必要があります。 

先進的企業による取り組み

  • ユニリーバは、人々がいつどこで働くかではなく、何を生み出すか (成果) に焦点を当てています。オフィススペースを最大限に活用する方法に関して一連のグローバル原則を導入しています。人々に柔軟性と選択の余地を与えながら、オフィスでの時間の少なくとも40%をコラボレーションと繋がりに費やします。そのため、対面での接触の価値を完全に失うことなく、仕事と家庭生活のバランスをとるのに役立つ仕事の選択肢をデザインしています。
  • BMWは、メタバースを従来の物理的環境である工場に導入しようとしています。3Dコラボレーティブ・メタバース・プラットフォームであるNVIDIA Omniverseを使用して、未来の工場(すなわちデジタルツイン)の完璧なシミュレーションを作成しました。5 未来の工場は完全にデジタルの領域で設計され、最初から最後までシミュレーションされ、仮想3D環境で作業者をトレーニングし、リモート接続を行います。このデジタル工場では、BMWのグローバルチームがリアルタイムで協力して工場のデザインと再構成を行い、計画プロセスに変革をもたらし、移動の必要性を無くすことが可能です。作業者はバーチャル上で、モーションキャプチャスーツを装着した状態で組み立てシミュレーションやタスクの状態遷移記録ができます。同時にラインデザインはリアルタイムで調整され、ライン操作、作業者の人間工学、安全性が最適化されます。
  • ファミリーマートでは、遠隔操作ロボットを使って棚に商品を並べる実験を行っており、従業員はVRゴーグルやコントローラーを使ってどこからでも仕事ができます。6 このソリューションの副次的な利点は、在庫棚での物理的移動がロボットの支援無しには困難な障がい者を雇用できることです。
  • AdventHealthはケアチームにバーチャル看護師を追加し、デジタルおよび物理的な職場全体で看護師のエクスペリエンスを強化し、より良いチームワークと治療結果を可能にしました。7 組織は、画面上にバーチャル看護師チームのメンバーを配置し、対面でチームと連携できるようになりました。その結果、バーチャル看護師は対面で活動する看護師の仕事を楽にするだけでなく、良い結果・患者体験をもたらすケアをバーチャルで提供しています。
  • M&T銀行は、パンデミック後の職場戦略の中心にパーパスを据えようとしています。8 新型コロナウイルスのパンデミックの中で、同社のエッセンシャルワーカー以外は全てバーチャルでした。物事がオープンになるにつれ、ハイブリッドワークを推進しました。それは仕事がバーチャルではできないからではなく、職場が会社内にコミュニティと繋がりを生み出したと信じていたからです。

これらの革新的な実験の多くは、メタバースを中心に展開されています。メタバースは、組織がデジタル職場について考える方法を変え、コラボレーションを促進し、世界中のどこからでも没入型の職場体験を作成するための新しいデジタルツールを提供しています。メタバースの利点には、昼夜を問わずあらゆる場所からリモートで作業できることや、匿名でいられること、作業に集中できること等があります。ガートナーでは、2026年までに25%の人々が1日に少なくとも1時間メタバースで過ごすようになると予測しています。9 また、技術者の5人のうち3人は、メタバースに関するVRヘッドセットをトレーニングやプロフェッショナル能力開発に使用することに興味があると述べています。10

進むべき道

図2 生き残る、成長する、率先する

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生き残る

市場での存続可能性の維持

  • 作業を最低レベルに分解し、作業成果を定義して作業が最適に実行される場所を決定する
  • 場所だけではなく、どのように労働者が交流するかを考える
  • デジタルサイトと物理サイト、それぞれの使用方法と理由等、現在の職場のインベントリを作成する

成長する

差別化による競争優位の獲得

  • 仕事を中心に職場でのエクスペリエンスをデザインする
  • 職場デザインを通じて、より多くのコネクティビティ、コラボレーション、イノベーションを促進する方法について、労働者とチームに発言権を与える
  • 新しい職場のアプローチを試行し、従業員のフィードバックを収集する
  • 物理的な職場、デジタルな職場、ハイブリッドな職場をシームレスに移行できるよう、職場のエコシステムを設計する

率先する

根本的な革新と変革による市場のリード

  • 画期的な技術の継続的な評価を含む、職場でのエクスペリエンスを向上させるためのアジャイルアプローチをとる
  • ESGと人的リスクの接点を踏まえて職場のデザインをリードする
  • 職場での実験と変化に対するリーダーの寛大さを養う

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今後の展望

職場は不可欠だが、仕事と職場の関係においては、仕事が職場をリードしなければなりません。職場はビジネス戦略に沿った成果や価値に焦点を当て、仕事そのものへのインプットとなるべきです。職場に対する戦略的アプローチは、仕事からの直接的な価値だけではなく、ESGの “下流“ の利益を生み出すこともできます。例えば、組織の物理的なオフィススペースの量を減らすことで、カーボンフットプリントを減らすことができます。リモートで働く日を選択する権限を労働者に与えることで、介護者に柔軟性を与え、DEIの成果を下支えできる可能性があります。

職場デザインを通じて、組織はブランドを向上させ、人材を惹き付け、仕事の成果を向上させる機会を得られます。全ては、「仕事そのものをサポートするために、職場をどのようにデザインすればよいのか。」という重要な疑問から始まるのです。職場デザインの取り組みを中心に設定している組織は、優れた結果を得る可能性が最も高くなります。今年のレポートの他の傾向と同様に、仕事と労働者の好みのニーズは変化し続け、組織は実験、傾聴、進化を続ける必要があります。

脚注

  1. ADP Research Institute, “ADP Research Institute® reveals pandemic-sparked shift in workers’ priorities and expectations in new global study,” April 25, 2022. 
  2. Forbes Insights, Empowering the firstline workforce: Technology, autonomy and information sharing deliver growth to forward-thinking organizations, accessed December 12, 2022.
  3. Janet Pogue McLaurin, “How younger workers’ preferences and workstyles will define the future workplace,”  Gensler, October 7, 2021.
  4. Elisabeth Buchwald, “‘Return is the wrong word. That world is gone’: Unilever chief HR officer foresees a new, flexible era for office workers post-COVID,” Unilever, October 16, 2021.
  5. Brian Caulfield, “NVIDIA, BMW blend reality, virtual worlds to demonstrate factory of the future,” NVIDIA, April 13, 2021.
  6. Vlad Savov and Mia Glass, “Robot arms are replacing shelf stockers in Japan’s stores,” Bloomberg, August 10, 2022.
  7. Trish Celano, chief nursing officer, AdventHealth, interview with authors.
  8. Neil Walker-Neveras, chief talent officer, M&T Bank, interview with authors.
  9. Gartner, “Gartner predicts 25% of people will spend at least one hour per day in the metaverse by 2026,” press release, February 7, 2022.
  10. Chris Teale, “Some companies are starting to embrace the metaverse. Many tech employees are interested in doing certain work tasks in virtual reality,” Morning Consult, May 31, 2022.

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