Deloitte Insights

デロイト・グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2023 #11 境界の無い世界をリードする 

リーダーシップの在り方を変え、他者に影響を与えていく

リーダーがどこでどのように介在するのか、という基本原理や、仕事を推進するために取り入れるマインドセットは変わってきている。あらゆる階層にリーダーが存在する世界では、リーダーはオーケストレーターにならなければならない。そのために、従業員やチームと価値を共創し、アイデアを結集し、影響力を高めていく必要がある。

仕事がもはやジョブによって定義されず、ワークプレイスが特定の場所に左右されず、最も重要な労働者が従来型の従業員ではなく、リーダーシップが組織図によって決定されないような境界の無い世界で、どうやってリードしていくのか。成長するためには、リーダーも組織と歩調を合わせて進化し、新しい成果に向けて従業員とチームを機動的に動かすための新たなスタンダードを取り入れなければならない。

親愛なるリーダーの皆様へ;

あなた方の組織が重要な変革の瞬間に直面しているように、そしてあなた方自身もそうであるように、ビジネスおよびそれを取り巻く社会は、断絶の時代にも繫栄するため、組織の人間的な課題の軌跡を変化させ続けています。

[コラム] 将来の5つの不連続性

  1. 急進的な科学技術―指数関数的進歩のさらなる波
  2. ステークホルダー資本主義への転換―不可欠な「外部性」 の内在化
  3. グローバル化の刷新と“活発な政府”の復活
  4. 「企業論」 の衰退と 「エコシステム論」 の台頭―新たな戦略分析単位
  5. ネットワーク化された権限の増加:権限のデフォルトはヒエラルキーからネットワークへ切り替わる 1

私たちは、シンプルで細分化された世界から離れ、境界の無い世界へと移行しています。その中で、リーダーの定義やリーダーの仕事も変わってきました。

リーダーシップは、職位、階層、部下の数によらなくなりました。今日では、従業員を動かして仕事を達成できれば誰もがリーダーになれ、彼らが上司部下関係にあるかどうか、組織内部の人間か外部の人間かどうかは関係ありません。

リーダーは、これまでの実績ある組織運営方法が、また、これまで頼りにしてきた実証済みの管理方法が問われています。実際、グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査の回答者は、調査した9つのトレンドのうち7つで、リーダーシップをトップ5の障壁にランク付けしていました。今、新しいリードの仕方が強く求められています。

リーダーがどこでどのように介在するのか、という基本原理や、仕事を推進するために取り入れるマインドセットは変わってきています。あらゆる階層にリーダーが存在する世界では、リーダーであるあなた方はオーケストレーターにならなければなりません。そのために、従業員やチームと価値を共創し、アイデアを結集し、影響力を高めていく必要があります。成功しているリーダーは、組織、従業員、社会全体の利益のためにこれらを実行しています。
 

「我々は、すべてのレベルで、ボート全体を速く航行させるべくリーダーシップをとっていく必要があります。そのために、我々は透明性へのこだわりを追求しています。企業のリーダー達の仕事とは意思決定をすることではなく、優れた質問をし、チームが意思決定できるようにすることです。また、アウトプットとアウトカムへの透明性と説明責任もあります。これは、チームやメンバーの成功を心から称賛したり、物事がうまくいかなかったときに『そこから何を学ぶことができるか』と問うたりすることも含まれます。これらの問いが将来のより良い結果につながるのです。」

–Neil Walker-Neveras, Chief Talent Officer, M&T Bank

あなた方リーダーの影響力がこれまで以上に必要とされています。そして、あなた方の役割はかつてないほど難しくなっています。

[コラム] 経営陣への期待の高まり

今日のリーダーシップの定義の拡大は、あらゆるレベルの個人が、現在の境界の無い世界がもらす新たな機会に対して結集していることを意味します。CXOにとって、重要な考慮すべき事柄は、チームレベルでのイノベーションとアジリティを抑制することなく、共通の組織目標の実現に向けて、個人のエネルギーをどのように活用するかです。

そのために、これまで以上にシンフォニックな経営陣が必要となります。2 新たな成功の手段に対して組織を鼓舞し、共通のビジョンに対してあらゆるレベルのリーダーに責任を負わせる必要があります。チームとして機能するCXOだけが、境界の無い世界で成功するために必要なレベルの脆弱性を実現できます。これには、実験、テスト、失敗を厭わない脆弱性や、これまで以上に高い透明性と共感を持って活動する脆弱性が含まれます。

2020年5月、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが組織に多大な圧力をかけている最中、AdventHealthのCEOであるTerry Shaw氏は経営陣の主要メンバーを現場の外へ連れ、組織の将来について話し合いました。彼のエグゼクティブコーチのアドバイスにより、リーダーたちは2つの領域に焦点を当てました。1) パンデミックを通し組織は何を学んだか、リーダーとして何を推進するべきか、2) 市場がもたらす今後の混乱に備え、パンデミックから抜け出すために組織がどのように変化し適応する必要があるか。

「パンデミックはまだ終わっていませんでしたが、我々は2週間かけて、我々の将来のために、取り入れているもの、また今後取り入れていくべきものを策定しました。」

-Terry Shaw, AdventHealth社長兼CEO
 

「これらの話し合いは我々の組織の行く道筋を変え、その時のパンデミックへの対処を超えて、会社の将来を確かなものにするという我々の関心事に影響を与えました。」

-Olesea Azevedo, Chief People Officer, AdventHealth

レディネス・ギャップ

グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査の回答者は、リーダーシップがこれまで以上に重要であり、ますます獲得するのが難しくなっていると述べました。回答者の94%は、リーダーシップ能力とその効力が組織の成功にとって重要、または非常に重要であると考えており、すべての傾向の中で最も重要度の高いスコアとなっています。しかし、組織のリーダーが現在、混乱した境界の無い世界でマネージメントをしていくために必要な能力を持っていると考えているのは、僅か23%でした。

図1: 混乱した世界をリードするためのレディネス・ギャップ
図1: 混乱した世界をリードするためのレディネス・ギャップ

準備不足の原因は、私たちが今まさに突入しようとしている新しい世界が持つ意味と新しい世界が秘める機会に対する誤解が原因かもしれません。例えば、組織の中に拡大する労働力を包括的に指導したり、意思決定の際により広範な社会的・環境的リスクを考慮したりすることができるリーダーが存在すると考えている回答者は15%未満でした。リーダーが成果とチームのパフォーマンスを向上させるためにテクノロジーを使用する準備が万全に整っていると考えているのは僅か16%であり、組織に適した職場モデルを開発する準備が万全に整っていると考えている回答者は僅か18%でした。

リーダーシップの再構築

リーダーシップ・ギャップの拡大は、スキルや能力の不足によるものではない可能性が高いかもしれません。むしろ、従来の定義や境界線に基づいた、昨日までのレンズを通して仕事や労働者を見た結果であると考えられます。境界の無い世界では、リーダーシップは形式的な権威やヒエラルキーよりも、インサイトの活用、個人の説明責任、価値観との繋がり、行動に重きが置かれます。つまり、あなた方リーダーはチームや職場をこれまでと違った方法で活性化させる必要があり、組織がどのようなもので、誰がその中にいて、どのように機能するかについての思い込みを見直す必要があるということです。

しかし、どこから手をつけたらいいのでしょうか。調査回答者の半数近くは、組織のリーダーは、破壊的なシフトの数と頻度に圧倒されているため、何を優先すべきか特定するのに苦労していると述べています。その点では、リーダーとして取り入れる必要がある新しいあり姿とは、組織が生み出すべき変化に似ています。

新しいあり姿とは

課題の整理―研究者のように考える:従来、あなた方がリーダーとして成功していたのは、あなた方が正しい答えやソリューションを導き出す能力を持っていたからでした。そして実行するということは、ソリューションを実現するために、部下に動いてもらうことでした。境界の無い世界において、ソリューションを導くことが成功の鍵ではありません。新しい情報を迅速に吸収して適応させる環境を作り、労働者に促すことがより肝心となります。このように、リーダーとしての成功の新たな尺度は、仕事や活動の管理から協働による成果の創出へのシフトとなるでしょう。

グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド調査の回答者は、アウトプットよりもアウトカムへのマインドシフトが必要であることに同意しています。回答者の33%は、アウトカムに対する説明責任の欠如が、リーダーが組織に価値をもたらす能力を妨げる要因であると回答しています。アウトカムを管理し促進するには、継続的な挑戦と学習が必要であり、意思決定に際しデータを利活用するケイパビリティが必要とされます。また、間違いを犯したり、従来正しいと信じられてきたことに異を唱えたりすることをいとわない存在であるべきです。調査の回答者は、今後2-4年でリーダーにとって、現状に異を唱え、新しい働き方を推進する能力が、組織で果たす最も重要な役割のひとつになると予想しています。境界の無い世界で効果的なリーダーになるには、組織よりも早く行動する必要があるでしょう。まず、自身とチームに対してはアウトカムに焦点を当て、挑戦 (および失敗から学ぶため) の機会を作ることから始める必要があります。

新しい道を描くー関係を共に創る:かつては、一握りの経営陣が組織の成功の主な原動力であり、それは組織の内側にいる従業員によってもたらされていました。あなた方の権限と主体性は、あなたの職務レベルと直接相関していました。しかし、これまで以上に労働者の主体性が高まる、境界の無い労働力のエコシステムでは、問題解決はチームスポーツとなり、最善のソリューションは共創により生み出されます。しかし、調査回答者の34%は、彼らの組織のリーダーは、ソリューションが共に創られる世界において、リードしていく準備が全くできていないと述べています。この共創レディネス・ギャップは、他の新しい姿に存在するギャップよりも大きくなっています。

リーダーは、共創を自分たちの階層的な権限に対する挑戦であると考えるかもしれません、また自分たちだけでは完全に解決できない個人的な失敗と考えるかもしれません。これらは古い境界の概念に基づいて導き出された考え方です。リーダーは、共創を組織のエコシステム内の労働者の知識と経験をフル活用し、より良いソリューションをもたらす機会と捉えるべきです。また個人レベルにおいては、組織全体に影響力の輪を広げることもできるでしょう。

共創によって、人間関係をどのように構築するか、そして誰と構築するかがこれまで以上に重要になっています。期待される成果を達成するためには、組織内のあらゆるタイプの労働者 (外部、内部、上下) との関係構築に意図的に注力する必要があります。また、同じく関係構築に注力している他のメンバーと共に、より深い知識を積極的に身に付けていく必要があります。これには、自身の専門知識、可能性、夢、ニーズなどが含まれるかもしれません。拡張されたエコシステムでは、影響力は与えられるものではなく、他者に対して、交渉力、オーナーシップ、情報へのアクセス、そしてエコシステム内のメンバーそれぞれの願望を達成するための道を与えることによって獲得するものとなります。

影響力をデザインする―人間のアウトカムを優先する:ビジネスにおいて、リーダーの成功の伝統的な尺度は収益、コスト削減、市場シェアの獲得など、組織の財務および運用上の指標となっています。しかし、境界の無い世界では、組織により広範なアウトカムが加わります。あなた方とあなた方の組織が行うすべての選択には結果があります。個人や組織は、互いの行動や決定の影響から逃れることはできません。例えば、組織としては政治的対立を無視することもできますが、「政治的対立を無視する」という決定自体が選択であり、顧客や労働者の信頼を失ったり、彼らが離れていったりする可能性があります。

すべてがつながっているこの境界の無い世界で成功するためには、リーダーはすべての中心に人間を置く必要があります。つまり、組織とそれが触れる人間の両方に利益をもたらす有意義な成果を目指してデザインするのです。これは、自分がリードしている人たちを心から大切にすることから始まり、仕事の内外での行動でそれを再現することです。これは共感を超えるものであり、有意義なつながりや成果を築くためには、自分が仕事や生活の中でリードしている人々に対して、心からのケアと関心を示さなければなりません。

現在、人間中心の課題に対して人間中心の解決策を推進する責任を負うリーダーはほとんどいないため、この考え方へのシフトは非常に困難となるかもしれません。例えば、調査回答者の40%以上は、現在、持続可能性のある成果を測定する上で自分のビジネス機能は何の役割も果たしていないと述べています。そのため、少なくとも当分の間は、成功するということは、組織自体が現在行っているよりも高い基準に自分自身を置くことかもしれません。

幸いなことに、社会で積極的な役割を果たすことは、金銭的なアウトカムを犠牲にする必要はありません。社会的に責任ある行動に本気で取り組む企業のパフォーマンスは、市場よりも優れているのです。3

目の前の選択

リーダーの皆様、これはあなた方のチャンスです。この境界の無い世界を利用して、組織の将来を創造する上での役割を再構築し、より人間的な方向性を示す責任を自ら引き受けましょう。

あるいは、別の選択肢もあります。境界線の崩壊に伴う混乱を受け入れ、嵐を乗り切る希望を持って、生き残るために最低限必要なことをするということです。しかし、仕事や労働者に関する数多くの限界に拘束されることなくこれらを実行しなければなりません。

ディスラプションの可能性は現実味を帯びていますが、仕事や労働力、職場というものについて、素晴らしい再考の機会でもあります。前者の大胆な道を選択し、新しい未来に向けて自分自身と組織を動かしていくために、以下の行動を推奨します。

  • より良いソシューションを出せるように試行錯誤し、学び続け、自らの価値を増大させる。
  • 共創を通じて、より広いエコシステム全体で労働者との深く親密な関係を築く。
  • 人間のアジェンダを念頭に置いて、意思決定の影響を完全に理解するために、意思決定の範囲を広げる。

アジリティは今後の10年間の決定的な特徴のひとつとなるでしょう。私たちがより公平で人間的な未来を築いていく中で、境界の無い世界がリーダーとして、組織として、そして社会全体として生み出す可能性を受け入れましょう。

脚注

1. Eamonn Kelly and Jason Girzadas, Leading through an age of discontinuity, Deloitte, accessed December 9, 2022.

2. Gaurav Lahiri and Jeff Schwartz, The symphonic C-suite: Teams leading teams, Deloitte Insights, March 28, 2018.

3. David Cruickshank, 2030 Purpose: Good business and a better future, Deloitte, accessed December 9, 2022.

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