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人的資本開示と企業人事戦略

人的資本開示の世界的潮流に、日本企業が対応していくためには

現在、欧米を中心に人的資本の開示を求める潮流が急速に高まっている。技術革新により企業の価値創造の源泉が「ヒト=人的資本」にシフトしたことで、これからの人事施策は、企業の競争優位性に貢献できているかを客観的に評価され、投資判断の材料に用いられるようになる。本稿では、人的資本開示をめぐる最新動向を解説するとともに、新たな潮流に対応するために日本企業が取り組むべき課題を、国内外の事例を交えながら考察する。

人的資本開示の潮流

はじめに:人的資本とは何か

人的資本(Human Capital)とは、企業を構成する「人」を、投資によって価値を創造することのできる競争優位性の源泉であり、アセットであると捉えた概念であり、「人」を使用・消費する対象としての資源「Human Resource」として捉えてきた従来の概念に相対するものである。

人的資本を可視化する情報の具体的項目は、開示を求められる背景に応じて多岐にわたり、準拠する規則・ガイドラインにより異なるが、一般に、労働力・生産性・スキル&ケイパビリティ・組織文化・多様性などの情報が該当する。
 

図表1:人的資本情報の例
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欧州におけるトレンド:ISO30414

欧州においては、欧州委員会に主導された政治による環境規制の標準化、世論のサステナビリティ問題への高い注目度、NPO・NGOの発言・影響力の強さを背景に、米国に先駆けてESG投資が展開・浸透してきた。その過程で、非財務情報の開示を企業が検討するための指針も策定された。

2000年には、オランダに本拠地を置くNGOであるグローバル・レポーティング・イニシアティブ(Global Reporting Initiative, 以下、GRI)が、世界で先駆けてサステナビリティ報告書の指針(GRIスタンダード)を策定し、各国で広く活用されている。GRIスタンダードは「経済・環境・社会」に関する情報を対象にしており、「社会」の中に多様性や人権保護、健康・安全衛生などの人的資本情報を含んでいる。

2018年には、国際標準化機構(International Organization for Standardization、以下、ISO)が、人事管理の標準指針ISO30414を策定し、企業の人的資本を評価する項目や開示範囲について基準を提示した。前述のGRIスタンダードが広く「経済・環境・社会」に関連する情報を対象としている一方で、ISO30414は人的資本に特化した指針として注目されている。欧州の一部企業はISO30414に準拠した形で人的資本情報の開示を開始している。

開示事例① ドイツ銀行

ドイツ銀行は、ステークホルダーに向けて人材マネジメント状況を説明する報告書「Human Resource Report」を毎年発行している。2020年は同レポートにISO30414への準拠を明記し、開示項目を大幅に拡充した。

例えば、同社の人事戦略の柱のひとつ「労働力の最適化」の報告においては、人員数(FTE)情報だけでなく、「空きポジションが発生した場合の人員補充にかかる期間」「空きポジション補充における社内登用者の割合」などの指標を開示し、労働力の流動性を適切にモニタリングしていることを説明している。これらの指標は基本的にISO30414のものを参照しているとみられる。

レポートの全体は、同社の人事戦略および人材マネジメントプロセスに沿って構成されている。ISO30414の各項目はレポートの説明ストーリーに沿って選定され、定量データにもとづいた説明根拠を提示している。非財務情報の報告において課題になりがちな情報の客観性・透明性を、フレームワークの測定基準を活用することによって担保し、説明力を強化している。

出所:Deutsche Bank Human Resources Report 2020

米国におけるトレンド:S-K Disclosure改定の意義と背景

2020年11月、米国証券取引委員会(Security Exchange Committee, 以下、SEC)はS-K Disclosureと呼ばれる開示要件の見直しを採択し、米国の証券取引所に上場している企業に対して、人的資本に関する施策の開示を義務付けた。

開示要件が見直された背景には、特にリーマンショック以降、モノからサービスへ産業構造が変化し、無形資産への投資が進む中で、企業価値が財務情報だけでは判断できなくなったことが挙げられる。2010年代にGAFAをはじめとするテック企業が時価総額を急伸させ、米国経済を牽引してきたことは、その象徴である。労働市場においてサービスを創る高スキル人材の獲得競争が激化する中、機関投資家団体は企業競争力の源泉は人的資本であるという共通認識を強め、情報の可視化を企業に求めるようになった。このように投資家からの働きかけに主導され、SECは30年ぶりの開示要件見直しを決定した。

新たな開示要件が適用されて以降、米国企業は年次報告書(Annual Report)にて人材育成や多様性など人的資本に関する定量・定性情報の開示を増やしている。なお、SECの開示規則は原則主義に則り具体的な開示項目を現時点では規定しておらず、どのような情報を開示するかは企業の判断に任せられている。このため、開示すべき項目を示す指針として、ISO30414等の国際基準が今後の検討の拠りどころになると見られている。

この流れを受けて、米国のSASB(サステナビリティ開示基準審議会)は投資家向けのESG情報開示フレームワークを改定し、人的資本情報項目を拡充することを表明している。

欧州に比較するとESG経営の浸透が遅く、非財務情報の開示が進んでいなかった米国で義務化が決定したことで、世界の人的資本情報開示に向けた機運は一気に高まっている。

 

ESGからグレート・リセットへの潮流

米国と欧州における、人的資本開示の高まりの背景に共通するのは、ESG経営の浸透である。

2000年代の半ばに機関投資家の行動規範を定めたPRI(Principles for Responsible Investment、国連・責任投資原則)によりESG投資は提唱された。当初は投資家の観点で策定された考え方であったが、2008年のリーマンショックを契機に欧米グローバル企業の多くがESG経営に本格的に向き合うようになった。それまでは、社会や環境に対する企業の取り組みは利益と直接に結びつかないCSRによる社会貢献活動が主流であったが、短期利益の追求により経営上大きな打撃を受け、社会的信頼を失墜させた企業は、企業価値を中長期的に維持・向上するため持続可能性(サステナビリティ)を追求することの重要性を認識した。

現在、ESG投資の考え方は多数の機関投資家により支持され、投資家が保有する総運用資産のうちESG資産が占める割合は継続して増加、欧州や豪州においては過半を占める水準に到達している。議決権行使助言会社は、株主向けの議決権行使ガイドラインで、環境・社会問題へ対応せず、株主利益に反するリスクを及ぼす提案に反対票を投じることを推奨している。ESG経営に優れた企業は、投資家から評価され、資金調達のハードルが下がり、競争優位を築くことが可能となる。市場を通した資金調達を必要とする企業にとって、現在、ESG問題へ取り組むことは不可欠となっている。

なお、これまでESG問題のうち特に世界的な注目を集める傾向にあったのは“E”(環境)問題であった。近年のWorld Economic Forum(ダボス会議)では、世界的リスクとして経済・社会問題よりも環境問題が挙げられる傾向にあり、2020年1月時点のダボス会議では、発生可能性が高いグローバルリスクの上位5つ全てが環境問題(異常気象や自然災害等)で占められた1。人的資本を含む“S”(社会)問題は、 “E”(環境)と比較すると国際的な取り組みテーマとしては目立たなかったものの、企業によっては自社の経営戦略と結びつくマテリアリティ(重要課題)を特定する中で、人材を企業価値の源泉として捉え、経営課題として多様性やスキル&ケイパビリティ開発に取り組む事例も見られた。

開示事例② 日立製作所

日立製作所は、ESG経営の“S”(社会)要素として人財を特に重要と位置付けており、投資家向けESG説明会(2020年)においてもCHROが人財戦略アジェンダを重点的に説明している。

同社の統合報告書では、価値創造プロセスにおけるアウトプットとして、財務成果に並んで「人財の多様化・グローバル化」が掲げられている。これを測定するKPIとして「海外従業員比率」「女性管理職比率」「役員に占める外国人比率」「役員に占める女性比率」「デジタル人財数」が設定されている。

持続的成長のためには人財戦略が不可欠であるというという外部に向けた強いメッセージとともに、KPIにより具体的な取り組みの目標・成果が伝わる開示内容となっている。

出所:株式会社日立製作所 統合報告書2020 および2019年ESG説明会資料「社会価値の創出を牽引する人財戦略」 

“S”(社会)問題の位置づけを大きく変える契機となったのが、Covid-19である。パンデミック危機による社会不安が広がる中で、労働者の健康・安全や職場環境への注目が高まった。2021年1月のWorld Economic Forum(ダボス会議)のアジェンダでは、停滞する経済・社会システムを立て直すための「グレート・リセット」の必要性が提示された。第二次大戦後から続く短期利益重視の経済システムは多様な立場の人々を包み込めず、持続性に乏しく、もはや時代遅れとなった。古いシステムを脱却して株主至上主義からステークホルダー資本主義に転換し、人々の幸福を中心とした経済を確立すべきという考えが「グレート・リセット」の中心となっている2

「グレート・リセット」実現のためには、企業は第4次産業革命で培ったイノベーション技術を公共の利益(特に健康と社会問題)の増進に活用することが求められる。「グレート・リセット」の考え方の下では、人々の幸福、すなわちWell-beingに直接関わる人的資本(企業文化、リーダーシップ、スキル&ケイパビリティ、健康・安全、多様性等)は、経営課題の中心的テーマとなっていくことが予想される。

このような状況の中、企業価値を維持・向上するうえで人材マネジメントの重要性は急速に高まっている。従来、日本の人事部門は主に社内のリソースを管理する役割を担っており、経営戦略と人事施策を連動させてステークホルダーと対話できているのは限られた先進企業であった。今後はCHROおよび人事部門の役割は大きく変わり、体制・担い手の見直しを迫られることが予想される。
 

1.World Economic Forum, The Global Risks Report 2020
2.World Economic Forum, The Global Agenda 2021 /クラウス・シュワブ,ティエリ・マルレ著「グレート・リセット」 2021年

 

潮流が企業の人事施策に与える影響

日本における人的資本開示に係る潮流と規制

日本は、これまでESG経営の本格化に関しては欧米に後れをとっていた。リーマンショック以降、多くの日本企業は財務状況の悪化を受けてCSR予算を削減し、環境や社会問題そのものへの取り組みを止めてしまった。この時点では、日本企業は欧米企業と異なり、ESG経営に取り組むことが中長期的な企業価値の向上につながることを認識しなかったと言える。

しかし、世界的なESG経営の浸透、および人的資本開示の潮流は早晩日本にも流入することが想定される。

2020年9月に経済産業省が公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書〜人材版伊藤レポート〜」では、持続的な企業価値の向上に向けた人的資本経営の必要性が示された。

2021年6月に改訂されたコーポレート・ガバナンスコードにおいては、「中核人材における多様性確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標の開示」を示し、人材育成方針や社内環境整備方針を含めて状況の開示を行うことが求められた。また、現時点では開示項目として明示されていないものの、持続的な成長につながるように人的資本や知的財産へ経営資源を配分し監督すべきこと、人的資本や知的財産への投資を適切に開示すべきことが示された。

2021年7月に公表された政府の成長戦略フォローアップの内容にも、「人的資本情報の『見える化』の推進」が明記され、今後人的資本情報開示に関する政策の議論が進むと見られている。
 

企業の人事施策の歴史的変化

前述の潮流は、日本企業の人事施策にどのような影響を与えるのだろうか。まずは、これまでの日本社会の変化と、それに対応してきた企業の人事施策の変遷を整理したい。

戦後の日本企業の人事システムの特徴は一部の大手(となる)企業と、大半の中小規模の企業で異なる。但し、いずれの企業においても重要であったのは、「企業も人材も未成熟な社会の中で、いかに人材(若手や中堅層)を囲い込むか」である。この目的を目指して人材獲得競争を繰り広げる、一部の大企業と大半の中小企業、という総体的な構図は、戦後75年が経過した現在でも大きくは変わっていない。

一部大企業のシステムの特徴は終身雇用であり、大学を卒業した若手が、単一の企業で自らの能力を磨き上げ、キャリアを築いていくことが前提となっている。終身雇用システムでは、企業を跨ぐ労働力の移動は活発化せず、いわゆるキャリア採用はあくまで副次的な施策として管理されてきた。人材管理は個人のキャリア形成とほぼ意味を同じくしていたと言える。併せて導入された職能資格制度に基づく、段階的な賃金上昇の思想とも相まって、人事制度は、外部競争力よりも内部公平性を重視する傾向が強く見られた。結果として、人事施策はいち企業に閉じられた環境の中で、そこで働く社員の能力を高め、組織の意向に即した配置を行うための内向きなものとして発展した。

一方、大半の中小規模の企業においては、大企業の「人を抱え込む」システムに対抗するため、市場で戦力となる人材をいかに獲得するかが主要な論点であった。公正な労働市場が未成熟な中、こうした企業はあらゆる方法で即戦力の確保に動いた。一方、大学新卒者に対してのアプローチも必要に応じて行い、将来有望な人材の獲得に努めた。

その後、日本経済が右肩上がりであった時代を終え、終身雇用システムにほころびが出始めると、大企業は雇用形態の多様化を積極的に行うようになった。採用の間口は狭まり、人材市場は急速に発達した。中小規模の企業は市場からの人材獲得に積極的になり、結果、人材の獲得競争はより加熱することとなる。

さらに、経済と社会のグローバル化が進むにつれ、社会や人の意識が少しずつ変化した。海外の人材マネジメントの導入は、終身雇用を前提としない「個としてのキャリア観」をも社会に浸透させ、人材を抱え込むことが最適ではなくなった企業はこの思想の浸透を後押しした。企業の理論ではなく、そこで働く社員の思想により、人材市場の流動性はさらに高まったと言える。

直近では、21世紀以降の更なるグローバル化、技術革新やそれに伴うDXの推進が、従来型の人材マネジメントでは確保が難しい人材のニーズを高めている。日本における労働力人口の減少とも相まって、大中小様々な規模の企業が入り混じった人材の獲得競争はさらに激化している。大企業の中でもこれまでの内部公平性の概念から距離を置いた、「特区」人事を導入し、多様な人材の獲得に動く企業も出てきている。
 

人的資本開示の潮流とこれからの人事施策

人的資本をはじめとする無形資産が企業の市場価値に占める割合は年々増加しており、2015年時点ではS&P500構成銘柄の企業に占める無形資産の価値は、約9割に上るとされている。世界の企業は、更なる成長に向けて、人的資本を高めるためのあらゆる施策を講じている。人的資本の開示が進めば、こうした風潮はさらに加速することが見込まれるであろう。

一方、日本企業においては、未だに「社内の人材をやりくりすることで企業価値を高める」ことに終始する状況が見て取れる。企業の成長のために必要な人材や要素を特定し、それを獲得するために選択的投資を行う企業はまだ少ない。仮に人材を獲得しても、従来の人事制度の枠外で管理を行い、内部でのキャリア構築を促すようなしかけが十分でないケースもある。今後、人的資本開示が進むにつれては、企業の成長との源泉たるヒトの総体的な価値を高めるため、より大胆な施策の立案・実行が求められるようになる可能性は高いと言えるであろう。

人的資本開示へ対応するために

日本企業が取り組むべき課題

新たな潮流に対応していくために、日本企業には何が求められるのであろうか。企業としての取り組みの喫緊性や具体的な中身については、各企業の置かれる状況によって差異があろうかと思う。しかしながら、無形資産が企業価値の大半を占めている昨今においては、市場から人的資本開示への要請が高まることは不可避である。ここでは、一般的に、取り組みの推進のために必要な要素を整理する。

1.経営戦略と人材戦略との紐づけ(経営管理指標の定義と意思決定プロセスの整備)

第一に、人的資本開示のための経営管理指標を定義し、それに基づく人材戦略の策定・実行プロセスを整備することが重要と言える。現在の人材戦略について、対外的な納得感を得るには、一定の合理的な意思決定プロセスを導入する必要があると言える。管理指標については、ISO30414等のフレームワークを参考にしながら、企業として管理する指標や項目を定義することが望ましい。

開示事例③ 中外製薬

中外製薬の統合報告書では、事業活動における各経営管理指標が、それぞれどのように連動して企業価値向上に影響するのか分かりやすく整理され説明されている。

例えば、人財に関連する経営管理指標(採用・育成やダイバーシティ&インクルージョン指数)については、中長期的に研究開発やソリューション関連の指標に影響を与え、最終的に収益・成長に関する財務成果につながるプロセスが時系列で図示され、経営戦略との関連性が伝わる開示内容になっている。

人財に関連する経営管理指標の一部は、社員意識調査によって測定されており、CEOメッセージにおいて成果の振り返りや今後の取り組みを説明するためにたびたび引用されている。2020年度の統合報告書では、社員意識調査の結果から、「従業員エンゲージメント」は業界トップレベル水準を達成していること、「全社的なリソース最適化」や「チャレンジに対する適正な処遇」については今後の対応事項と捉え、新成長戦略に向けた資源配分を実行していくことが説明されている。

人的資本に関する経営管理指標が、戦略を策定する意思決定に反映され、対外的な説明に活用されている事例である。

出所:中外製薬株式会社 アニュアルレポート2020(統合報告書)

 

開示事例④ SAP

SAPは、人材戦略が企業目標にもたらすインパクトを定量的に分析し、分析の過程と結果を開示している。

例えば、従業員の身体的・精神的な健康をサポートする取り組みが、従業員エンゲージメントを向上させ、収益にプラスの影響を与えたことを社内で収集したデータの解析や学術調査結果から確認した結果、「Business Health Culture Index (健康的なビジネス文化の指標)」を経営管理指標として選定したことを企業HPにおいて報告している。同様に、企業目標に紐づく経営管理指標として「女性管理職比率」「上位ポジションへの内部昇格率」「従業員のリテンション率」を特定し、これらの維持・向上に向けた取り組みを統合報告書で開示している。

経営管理指標にもとづき、経営戦略と人事戦略を連動させている事例である。

出所:SAP Integrated Report 2020

 

2.人材戦略と報酬戦略の連動(役員・幹部の方向性の統一)

第二に、そうした指標と、幹部の報酬との連動性を高めることである。開示内容と企業の戦略とを整合させるためには、企業の先導たる社長はじめ幹部の経営の方向性を揃える必要がある。幹部報酬と人的資本にかかる管理指標を連動させることは、方向性の統一に寄与する。報酬委員会等が、これを監督し、投資家をはじめとするステークホルダーにとって適切な方向へと導く必要があろう。

開示事例⑤ ソニー

ソニーは、2019年にマテリアリティ(重要課題)分析を実施し、長期的な価値創造を支える最も重要なマテリアリティとして、「テクノロジー」と「人材」を特定した。

「人材」に関する取り組みとして、従業員エンゲージメントの維持・向上は特に重視されている。モニタリングされた従業員エンゲージメント指数は社内イントラネットで従業員に公開され、上級役員の業績連動報酬に係る個人評価指標に組入れられている。

人材戦略と報酬設計を整合させ、経営メンバーのコミットメントを高めている事例である。

出所:ソニー株式会社 Corporate Report 2021(統合報告書) 

 

3.人事管理のためのインフラ整備(戦略的意思決定のための基盤づくり)

第三に、この仕組みを機能させるためのインフラ整備も欠かせない。DX推進の一環として、人材マネジメントシステムの刷新に取り組まれている企業もあると認識している。そうした企業は、単なる業務の効率化といった観点ではなく、今後の企業の継続的な成長のための施策と位置付けて取り組みを進めていかれることを推奨する。

 

4.人事プロフェッショナルの確保・育成(人事機能の再構築)

第四に、これが最も重要と言えるかもしれないが、企業競争力を高める人事施策の企画や実行の担い手である人事プロフェッショナルの確保・育成である。これまでの日本企業では、過去の経緯への理解や社内の調整に長けた人材が、人事部として求められていた。一方、今後の人材戦略の強化にあたっては、組織やビジネスのニーズを把握し、データを分析して、市場のトレンドを考慮した人材確保・育成、並びに処遇の各施策を企画・実行していくスキルが追加的に求められる。無論こうしたスーパー人事パーソンを育成するのは容易ではないため、人事トップが様々なスキルを持つ人材を融合させて組織を作り上げることが重要となる。新たな要請に見合ったスキルを有する人材の確保・育成は人事部トップの新たなミッションとなろう。

著者

上林 俊介
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ディレクター

佐藤 由布子
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアコンサルタント

林 もと香
デロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社
シニアアソシエイト

※上記の役職は、執筆時点のものとなります。

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