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Future of Workforce Planning(後編)

“未来型”要員・人件費マネジメントのデザイン 第15回・完

本連載では人件費を考える上で重要な複数の観点から、どのように要員・人件費マネジメントに取り組むべきか、ストーリー形式で詳解していく。これらの“拡張労働力”をどう織り込んで人的生産性を算出するのか、あるいは逆に織り込まずに生産性を捉えるべきなのか。新しい生産性の捉え方についても、一つの考え方を提示してみたい。

前回のあらすじ

創業100年を迎える老舗小売業のN社は、"人"を大切にし、"人"を介した価値の提供を強みとする会社であった。しかし、昨今の市場環境の変化に対応しきれているとは言えず、徐々に業績が悪化し続けていた。そんな中、N社の創業以来初めて社外から招へいされた50歳の森が社長に就任し、人事部長の高野に「拡張労働力の活用を前提とした、10年後の人材ポートフォリオの検討」を命じたのである。

人事部長の高野は、その領域に明るいコンサルタントの松本の協力を仰ぎながら、何とか検討を前に進めようと奮闘していたが…

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なぜ、今考えるべきなのか

その日、高野は朝から胃の痛くなる思いだった。
「今日は14時から竹中さんへの説明か…。何とか無事に終わるといいんだが…」

竹中は、新卒でN社に入社して30年となる生え抜きの事業部長であり、前社長からの信任も厚い人物である。愛社精神に溢れており、部下からも慕われている一方、古き良きN社を体現しているような人物でもあるため、これまでも度々何か新しいことに取り組もうとする場面では、いわゆる抵抗勢力となることも多い人物であった。

現在高野が取り組んでいる「拡張労働力」を前提とした人材ポートフォリオの検討、それはすなわち、これまでの業務の中に、自社の社員以外の"人"や"ツール"が入ってくる、ということである。N社は社員を大切にする社風を重んじ、かつ、「人」を介したやり取りを強みとするビジネスモデルを構えてきたため、そこに人以外の"ツール"を導入することに対して、竹中のような人物が強い反発を覚えるであろうことは明らかだった。
「しかし、竹中さんを説得できれば、新しい考え方を社内に理解・浸透させる大きな一歩となることは間違いない。今日がこの取り組みの最初の天王山だ」

14時、N社の会議室には、竹中事業部長と高野、そしてコンサルタントの松本が相対していた。
「竹中さん、本日はお忙しいところお時間をいただき、ありがとうございます。実はいま、私のほうでこれからの中計、そしてもっと先の10年後を見据えた、わが社のあるべき人材ポートフォリオを検討する、という取り組みを実施しています。この検討には事業側のご協力が必要不可欠であるため、まずは今日、これからのご説明で竹中さんに我々がやろうとしていることをお伝えし、ご理解をいただきたいと考えています。その上で、今後の計画について順次ディスカッションをさせていただきたいのです」

高野が口火を切ると、竹中は柔和な笑顔でそれに答えた。
「もちろんだよ。私が協力できることであれば、なんでも言ってくれて構わない。で、具体的にはどんなことを行っていこうとしているんだい?」
「はい、まずは考え方の全体像について、この検討にご協力いただいているコンサルタントの松本さんからご説明いただきます」
「それでは、ご説明させていただきます。お手元の資料をご覧ください…」

松本が、拡張労働力について、そして、その概念を用いた人材ポートフォリオ・要員計画を検討することの必要性について一通りの説明を行うと、竹中は少し困ったような笑顔で高野と松本を見て、こう切り出した。
「なるほど、ご説明の内容はよく理解できた。また、最近の潮流として、ロボティクスやAIといったものをどんどんと取り入れていく流れである、というのもそのとおりだと思う。しかし、ご存じのとおりわが社は"人"を介したつながりを大切にしてきた会社であるし、それはこれからも変わらないものだと思っている。そこをなくしてしまったら、それはわが社としての存在価値を失う、ということではないだろうか」

やはりそうきたか…竹中の反応は、高野にとっては予想どおりのものであった。しかし、この竹中を説得することができなければ、N社における中長期の人材ポートフォリオ検討の取り組みは必ず頓挫する、そう感じていた高野は、あらかじめ松本と相談し、対策を講じていた。
「竹中さんのご懸念はよく分かります。私も、わが社の強みは"人"にあると考えていますし、そこを変えていこう、と考えているわけではありません。しかし、そのポリシーとは別に、今、このことを検討していかなければならない理由があるのです」

高野は、あらかじめ用意していたいくつかのグラフを竹中に提示した[図表1~2]
 

[図表1] 労働人口推移

[図表2] N社のなりゆきシミュレーション結果

「まず、このグラフ①と②をご覧ください。①は日本の労働人口の推移、そして②はわが社の社員数を成り行きで見た将来シミュレーション結果です。ご覧いただければお分かりのように、日本の労働人口は年々減少していくことが予想されています。既に採用市場は売り手市場となっており、これからさらに人材の獲得競争が厳しくなっていくことは明白です。加えて、わが社の要員構成は現在40代に山がある状態になっているため、たとえ採用競争に勝ち、今と同程度の採用人数が維持できたとしても、10年後・20年後の将来を考えると、社員の数はどんどん減っていってしまうのです」

二つのグラフをまじまじと見つめる竹中の反応をうかがいながら、高野は続ける。
「これの意味するところは、今と同じ組織規模を維持しようとすると、これまで以上に厳しい採用競争を勝ち抜き、今以上の人数を採用し続けるということが必要となるのですが、それははっきり申し上げて現実的ではありません。すなわち、拡張労働力を使うか使わないかは、どちらかを判断するものではなく、『使わざるを得ない』ものといえるのです」

高野の迫力に、竹中は若干気おされた様子を見せながらも、どこかハッとした表情を浮かべていた、そこにすかさず、松本が援護する。
「竹中さん、今、さまざまなものごとの変化が加速度的に速くなっていることは、竹中さんも肌で感じられていることと思います。そしてその変化のスピードは、速くなることはあっても遅くなることはないでしょう。一説には、これからの10年の変化は、これまでの20年の変化に匹敵する、とも言われています、今から20年前と言えば、1998年です。その頃から今、つまり2018年までに起こった変化と同程度の変化が、この先10年で起こることを想像していただければ、そのスピードの速さがお分かりいただけるかと思います」
「このようなスピードで起こる変化に対しては、後追いはすなわち衰退を意味するのではないでしょうか。将来を見越して今から変化に備えておくこと、それこそが、特に御社のような、変化にさらされてこなかった企業には必要なことだと私は考えます」

竹中の表情から柔和な笑顔が消え、眉間にしわを寄せながら腕組みをし、深く考え込むような姿勢を見せていた。

しばらくの沈黙の後、竹中が重い口を開いた。
「高野君、松本さんの言っていることは分かった。分かったが、すぐには考えを整理することができないというのが正直なところだ。申し訳ないが、一度持ち帰ってじっくりと考える時間をもらえないだろうか」
「もちろんです。ぜひ、じっくり考えていただき、竹中さんのお考えをお伺いしたいです」

こうして、竹中との最初の打ち合わせは終わった。高野は、少しではあるが手ごたえを感じ、竹中からの連絡を待つことにした。

数日後、竹中から高野と松本宛てにメールが届いた。
『あの後いろいろと考え、事業部の者ともこのテーマについて何度か話し合ってみました。結論としては、前回の打ち合わせで伺った内容はもっともであり、わが社が今後どう変化していくべきか、検討を始めないといけないだろう、ということになりました。しかし、個人的に、この検討を進めていくことで、わが社の良さ・強みが消えてしまうのではないか、という懸念が払しょくしきれず、その点がどうしても気がかりであることも事実です。この点について、あらためて高野君・松本さんのご意見をお聞きしたいと考えています』

高野は、内心でガッツポーズをしながらこう返信した。
『竹中さん、ご連絡ありがとうございます。前回のお打ち合わせの際にもお伝えしたとおり、私も松本さんも、何でもかんでもロボットやAIを導入すればよい、と考えているわけではありません。わが社のよさ・強みを生かしながらも、ビジネスとして勝っていける姿をどう描くか、そこが最も大切なポイントであると考えています。ぜひ、これからいろいろとディスカッションをさせていただければと思います』

こうして、竹中をはじめ事業部のメンバーを巻き込んだ形での、"中長期人材ポートフォリオ検討分科会"が立ち上がったのである。
 

どのような変化が起こるのか?

竹中のメールから1週間後、初回の分科会が開催された。
まずは少人数である程度の方向性を検討していこうという意図で、メンバーは、高野と松本、竹中、そして竹中の事業部で企画を担当している梅沢の4人でのスタートとなった。

「皆さま、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。この分科会では、N社の10年後・20年後を見据えた人材ポートフォリオのあるべき姿を検討することを目的としています。直近のゴールとしては、2カ月後に森社長に検討経過を報告する場がありますので、それまでに大まかな方向性を合意し、社長のGoサインをいただきましたら、各現場のメンバーも交えてより具体的な議論を深めていく、という進め方を想定しています」

高野が分科会の目的、そして今後の進め方について説明をすると、竹中がおもむろに口を開いた。

「高野君、以前のメールにも書かせてもらったが、この取り組みの趣旨自体には賛同するが、私自身はいろいろとクリアしなければならない懸念があると考えている。この分科会では、その点についてぜひじっくりと議論を深めていきたいというのが私の希望だ。また、前回の説明を受けて概観は理解したが、一体何をどう考えていけばよいかはまったくイメージが見えていないのだが…」

「本日は第1回目ということで、私のほうからFuture of Workforce Planningを検討する際の考え方・要素についてまずはインプットさせていただければと思います」
そう言うと、松本はPCの画面を投影し、いくつかの図表を示しながら説明を始めた。

「まずは、こちらの図をご覧ください[図表3]。一口に『拡張労働力』と言っても、その種類はさまざまです。拡張労働力には、大きく"ツール"の要素と"人"の要素の2種類がありますが、ツールにも、RPAやコグニティブ・コンピューティング、AIといったデジタル的な要素の強いものから、ロボティクスのように物理的な存在としての要素が強いものまで、多くの種類が存在しています。また、人という観点においては、外注や非正規といったこれまでにもあった形に加えて、クラウドワーカーやギグ・エコノミーといった新しい種類の働き方をする人が発生してきます」
 

[図表3] ツールの種類

「さらに、今後は市場環境の変化や、それに伴うビジネス変化がより一層激しくなると考えられ、それらに対応し、適応していくことが企業には求められるでしょう。そしてそのためには、今までどおりの固定的な組織の在り方そのものを大きく見直す必要があると考えられています。具体的には、より柔軟で流動的であることが求められるようになると考えられています」

 

[図表4]人の種類

「さらに言えば、人の"意識"の変化も、Future of Workforce Planningを語る上では外すことのできない要素であるといえます。現状においても、働き方改革やシニア人材活用などの新たな取り組み、そしてミレニアル世代の勤労意識の変化など、各所でさまざまな変化が生まれていますが、これらがさらに進化することで、より多様な働き方を許容する時代が到来すると考えられます。その結果、"1人=1人"ではない世界がやってくると考えられます」

「"1人=1人"ではない世界とは、どういう意味ですか?」
梅沢が問う。

「例えば、御社にも時短勤務の方がいらっしゃると思いますが、おそらく、一定年代の女性にほぼ限定されていると思います。しかし、これからは年齢や性別によらず、個人の価値観や志向に応じて、さまざまな人がさまざまな働き方を選択できる時代になる、ということです。それは、時短勤務に限らず、例えば週5日ではなく週3日のみ働く、という人や、1年のうち半年働いて半年休む、といった働き方を選択する人が出てくる可能性もゼロではないでしょう。そうした世界においては、人を頭数でとらえることに意味がなくなるため、FTE(full-time equivalent)でとらえることが必要になってくると考えられます」

※FTE…フルタイムで働いた工数を1として、実際の業務にかかった時間がその何倍かを示す単位)

そして松本は、最後に[図表5]を示した。

 

[図表5]安定した組織と流動的な(適応可能な)組織の違い

 

「こちらの図は、これまでの変化をすべて踏まえた場合の、会社や組織、そして労働力の在り方の変化をイメージとして表したものになります。すなわち、これまでは組織の形がある程度固定的で、社員はほぼ同様の働き方をしており、ツールはあくまで人の働きを助け補うものでした。しかし今後は、組織そのものの形は今よりも曖昧になり、会社に所属していない外部の人と一体となって業務を進めていくことが当たり前になるでしょう。そして、ある領域においては、ツールは人を補助するものではなく、ツールがメインの業務を担い、人がそのツールの働きを補助することになります。そして、人の働き方は画一的ではなく、個人別にいろいろなパターンの働き方を選択することが可能になるのです」

松本の説明に、竹中と高野は深く考え込む表情となり、梅沢は情報量の多さに圧倒され、混乱しているような表情を浮かべていた。
松本はそれぞれの反応を見て、ほほ笑みながらこう言った。
「人の意識や働き方の変化については、どこまでを会社として許容するか、という判断も必要となりますし、扱う要素が多く検討が複雑になってしまうので、次回の社長へのご報告に向けては、いったん検討対象外としておくのがよろしいかと思います。まずは、"量"の観点から、拡張労働力を用いてどのようにあるべきポートフォリオを描くか、という点に絞り、検討を進めていくこととしましょう」

こうして、初回の分科会は終了し、今回の話を踏まえ、各々が今後のN社において起こり得る変化について次回の分科会までに検討を進めてくることとなった。

 

あるべき人材ポートフォリオの検討

2週間後に行われた第2回分科会。開始早々、竹中がせきを切ったように自身の検討内容について語り始めた。
「この2週間、私なりにいろいろと考えた点をお話ししたい。まず、総人員数の見積もりについては、これからの労働人口の変化やわが社の採用競争力を踏まえると、以前高野君に見せてもらった試算どおり、もしくはそれ以上に今後減少してくことを前提として考えるべきだと思う。そうするとポイントとなってくるのは、その限りある資源ともいえる「人」を最も効果的に活用していくためには、わが社のどこに配置すべきか、という点だと思う」
「そこで重要なのは、わが社の競争優位はどこにあるのか、という点だ。私がこの取り組みの話を聞いてからずっと気にしているポイントでもあるが、やはり、顧客との接点となる業務領域においては、必ず「人」を、しかも外部の人材ではなく、わが社の人材を配置すべきだと私は考える。そこを人でないものに置き換えてしまうことは、短期的な効率化につながるかもしれないが、中長期的にみれば自社の強みを失い、わが社の衰退を招く結果になるのではないだろうか」

「竹中さんのおっしゃるとおりだと思います。ツールや外部人材の活用は、業務の効率化や自社にはない要素を外部から取り入れ活用できる、というメリットはありますが、反対に、その領域で人が育たない、自社にノウハウが蓄積されないといったデメリットも存在します。したがって、自社のコア業務については、やはり自社の人材を活用することが望ましいでしょう」

松本の言葉に、竹中はわが意を得たり、といった表情でうなずきを返した。
「そうは言っても総人数は減少していく、ということ考えると、やはり間接機能においては、できるだけRPAやAIといった拡張労働力を活用することが必要になってくる、ということですね」

高野がそう意見を述べると、竹中がその言葉に反応し、言葉を続ける。
「間接機能における拡張労働力の活用が必須なことは言うまでもないが、もう一つ、拡張労働力の活用にチャレンジしたいと考えている領域がある。それは、新規事業の領域だ」
「新規事業、ですか? しかし、それこそ会社にとってのコア業務、といえるのではないですか?」

高野は疑問を投げ掛ける。
「高野君の意見はもっともだと思う。しかし、わが社では、もう何年も新規事業の立ち上げにチャレンジしては立ち消える、ということを繰り返しているのも事実だ。これはもともと、新しいことにチャレンジするという組織風土がわが社にはあまりないため、当然の結果として、新規事業などの新しいことを考えることができる人材が育っておらず、そればかりか協力を拒むような文化がある。それが非常に大きな課題だと常々思っていたんだ。そこで、新規事業の領域で、あえて自社にない要素を持った外部人材を活用するというのは、案外あり得る選択肢なのではないか、と思ったのだが…」

「竹中さんのお考えは、拡張労働力の活用方法の非常に良い在り方だと思います」
松本の言葉に、竹中はうれしそうな表情を浮かべた。

「竹中さんからは主に組織風土の観点からご意見をいただきましたが、もう1点、会社の規模という観点からもいえることがあります。つまり、会社の規模が大きくなればなるほど、業務が分業され、オペレーション的になっていってしまうため、社員が企画的で創造力が求められるような業務に触れる機会も減ってしまう。結果としてそうした人材が育ちにくくなるのは、ある意味自然な流れであるといえます。したがって、新規事業のような、ある意味尖った要素が必要な領域で外部人材をうまく活用する、ということは当然取り得る方針であり、御社の場合必要な対応と考えられます。ただ、検討すべきはあくまで"N社の"新規事業であるため、外部人材に御社の特徴や方針を伝え、それらをインプットした形で御社の新規事業の形を作り上げていくためのブリッジ人材は、自社内で作り出す必要があります」

「ブリッジ人材か…、なるほど。そういったブリッジ人材の必要性についてはあまり意識していなかったが、確かに、外部人材に丸投げにするわけにもいかないし、新規事業にわが社の魂を吹き込むためにも必ずそうした人材は必要だな」

「それから、会社全体として、新規事業を育もう・新しい価値をみんなで生みだそうという雰囲気を醸成していくことも重要と思われます。まったくの飛び地のような事業でない限り、既存事業とのシナジー創出が新規事業の成功の鍵になってくるでしょう。加えて、会社として新規事業に投資を実施するとなると、既存事業の人材をシフトしたり、既存事業の投資原資をある意味奪うような場面も出てきます。それを受け止められるような土壌・文化の醸成が必要となるのです。新規事業の成功には、既存事業の協力が必要不可欠なのです」

「そこがわが社の一番のネックになるかもしれないな。だが、絶対に必要な対応だ。あるべきポートフォリオの報告を実施する際に、必要施策として併せて社長に報告することにしよう。他に同じような懸念はないだろうか…」

こうして、各々がこの2週間考えてきたことを話し合い、さらに複数回の分科会を通じてディスカッションを繰り返し、2カ月後にN社の10年後の目指すべき人材ポートフォリオの第1弾が完成したのである[図表6]

 

[図表6]会社・組織・労働力のあり方の変化(イメージ)
 

「よし、この検討結果を、社長にぶつけてみよう」
高野は、ここまでの議論を振り返り、この結果であれば自信をもって社長に報告できる、そんな確信を抱いていた。

 

社長への報告

「…というわけで、拡張労働力の活用を踏まえたわが社の10年後のあるべき人材ポートフォリオは、こういった形になると私たちは考えます」

手元の資料に目線を落とし報告にじっと耳を傾けていた社長は、顔を上げ、高野の目を見ると、深くうなずいた。
「高野くん、この短期間でよくここまで検討してくれた。私のイメージしていた内容にほぼ近しいものになっている。このまま、より具体的な検討を進めていってほしい」

「はい、ありがとうございます。竹中さんに梅沢さん、そして松本さんのご協力のおかげです。今後は、もっと現場のメンバーも交えて、より具体的な施策まで踏み込んで検討を進めていこうと思います」

「よろしく頼むよ。また、冒頭で説明があったが、この後は、組織の在り方の変化や人の意識の変化といった、今回の報告の対象外とした要素も含めて検討を進めていってほしい。特に、ヒエラルキー構造に基づいた組織を、ネットワーク型の組織へ変えていくという取り組みは、組織に大きな負荷がかかることが想定される。そのストレスを最小限に抑え、プラスのエネルギーへと展開させていくためには、より複雑な検討が必要となると思うが、君ならきっとやり遂げてくれると信じているよ」
「はい、承知いたしました」

高野は、分科会のメンバーの顔を思い起こし、このメンバーならきっとやり遂げることができる、その自信を胸に、社長室を後にした。
 

 

著者:山本奈々(デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャー)

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。
※本コラムは、労務行政研究所の許諾を得て、労政時報 jin-jour(ジンジュール)の記事(2018年12月18日掲載)を転載したものです。

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