調査レポート

人事制度・報酬調査2024

調査対象企業の約85%が賃上げ、中堅企業にも賃上げの動きが拡大

本調査は、日本企業の役職・報酬体系に沿った形で、従業員の報酬水準や人事制度を対象に調査しています。調査内容は、売上・従業員数・職種などでの報酬水準比較や、シニア人材の雇用と処遇、従業員向けLTIの動向など多様なテーマを含んでいますが、本レポートでは報酬水準・賃上げ動向を中心に主要なトピックスをお知らせします。

【主な調査結果】

■85%の企業が賃上げ実施、物価上昇に対応して全体底上げ

直近3年間において賃上げを実施した企業は84.5%で、2023年度の調査結果(80.3%)より4.2ポイント高い結果となった。特に従業員規模500人未満の企業においては、賃上げを実施したと回答した割合が前年比で10.8ポイント高くなっており、大企業だけではなく中堅企業にも賃上げが拡大している。

賃上げの目的については、昨年同様に約6割の企業で「物価上昇への対応」(69.2%)や「従業員のモチベーション向上」(62.1%)と回答しており、「外部からの人材獲得」(21.0%)や「従業員の離職低減」(16.5%)※1を目的とする企業は約2割に留まっている。

※1 賃上げの目的は複数回答可、最大2つまで

初任給から本部長級までのいずれの階層においても、「2~4%程度」の賃上げ率とする回答が最も多く(32.0%~50.0%)、将来的な収益の見通しが立ちにくい中での人件費増加には慎重な企業が多いことが伺える。一方で、階層別の賃上げ率を見ると、初任給や若手社員の給与について、6%の賃上げを実施する企業が前年と比較して増加している。企業規模別にみると、2,500人以上の企業の約半数が6%以上の初任給引き上げを実施している。

 

 

■年間報酬水準は全階層で上昇傾向

全産業における、基本給・諸手当・賞与を含めた年間報酬額の中央値は、全ての階層で増加基調にある。特に、管理職層※2やスペシャリスト層※3と比較して非管理職層※4の報酬水準の増加率が高い(4.9~8.7%増)。

※2 管理職層=本部長級、部長級、課長級、課長代理・係長級
※3 スペシャリスト層=専門家として全社的な貢献が求められるシニアスペシャリスト、スペシャリスト
※4 非管理職層=上級一般社員・主任、標準一般社員、初級一般社員

 

■全階層で「ヒト」起点から「仕事」起点への移行が進む

人事制度を「改定した」または「改定予定あり」とする企業は、管理職層82.1%、スペシャリスト層80.3%、非管理職層82.9%と全ての階層において8割以上にのぼる。

その中で現行・改定前と改定後・改定予定の制度基軸を比較すると、現行・改定前は全ての階層において職能が3割以上と最も多く(管理職層31.9%、スペシャリスト層34.8%、非管理職層45.8%)、ついで職能×役割のハイブリッド型が続く形となっている(管理職層25.9%、スペシャリスト層25.1%、非管理職層20.2%)。一方で、改定後・改定予定は全ての階層において職能や職能×役割のハイブリッド型とする企業の割合が減っており、役割や職務/ジョブを制度基軸とする企業が増加している。

特に、スペシャリスト層に至っては改定後・改定予定に、職務/ジョブを制度基軸とする企業が10.6ポイント増加しており、人材確保が難しい高度専門人材の採用に向けて、職種ごとの市場相場等に合わせた制度に移行している企業が増加していることが伺える。

 

■多くの企業がデジタル人材の報酬水準のアンマッチに苦戦

デジタル人材マネジメントにおける問題意識としては、「報酬水準の自社水準とのアンマッチ」を挙げた企業が52.4%と最も多かった。一方で、デジタル人材の採用・活躍が進んでいる企業では、入社時の精緻なマッチングに向けた「採用時のスキルの見極め」(40.0%)や、社内人材のリスキルやスキルアップに向けた「研修体系等の整備」(25.0%)に対してより問題意識を持っている。報酬水準の検討に加え、自社に必要となるスキルを見極める基準整備や、自社内でのデジタル人材育成に向けた教育体系整備も同時に検討が必要だと考えられる。

 

■4割の企業が従業員向けLTIを検討・導入、非管理職層に拡大

従業員に対してLTI※5を導入・検討している企業は、38.5%にのぼっており、導入・検討している中で、管理職層を対象としている企業が約8割、非管理職層を対象としている企業が約5割となっている。支給目的としては、中長期的な企業業績に対するインセンティブに加え、「従業員の自社株保有の促進」や「福利厚生の充実・従業員の資産形成の促進」など、従業員エンゲージメント向上に影響する項目が挙がっている。また、LTIの支給スキームとしては、事務負担の軽さ等を背景に株式交付信託(ESOP)を選択している企業が36.5%と、前年よりも13.5ポイント増加している。

※5 LTI=長期インセンティブ

 

■女性の定着だけではなく、活躍に向けた施策の検討が課題

法改正の後押しもあり、80.2%の企業が「働きやすい制度の整備」に取り組んでおり、女性が長く働ける環境の整備が進んでいることがわかる。一方で、それ以外の施策は全て実施率が3割を切っており、女性活躍や女性管理職登用に向けては、未だ問題意識を持てていない・問題意識を持っているが、具体的なアクションにつながっていない企業が大半となっているのが現状である。

 

■70歳までの努力義務には多くの企業が未対応

努力義務となっている70歳までの雇用機会確保については、63.2%の企業が未対応であり、企業規模別に見ると、大企業の方が雇用機会確保に向けた取り組みが進んでいる。また、雇用機会確保に対応している企業の内、80.1%が継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)を導入している。再雇用者の報酬水準を企業規模別に見ると、大企業より中堅企業の方が、再雇用時の報酬減額が少なく、中堅企業ほどシニアの活用に積極的であると考えられる。

 

【調査結果へのコメント】

注目すべきは賃上げと従業員向けLTIの2点である。

最大の注目ポイントは賃上げである。物価上昇の圧力や政官民一体での賃上げ推進を背景に、昨年に引き続き8割を超える企業が賃上げを実施する結果となった。特に今回の調査では、中堅企業にも賃上げの波が波及しており、今後この流れが更に拡大するかを注視する必要がある。一方で、未だ企業競争力の強化を目的に特定人材に資本を集中させる「攻めの賃上げ」ではなく、内部公平性を確保し全体の底上げを図る「守りの賃上げ」に留まっているのが現状となっている。

また、従業員向けLTIの導入については、会社の中長期的な業績に対するインセンティブや従業員のエンゲージメント向上を目的に、近年導入する企業が増加しており、対象者についても管理職層だけではなく、非管理職層に広がりを見せている。株式交付信託(ESOP)のような事務負担の軽いスキームの出現や、規制緩和に向けた動き等もあり、従業員向けLTIは今後更に拡大する可能性がある。

本サーベイについては、自社の制度が業界や社会全体の動向をどの程度反映しているかを把握し、競争力のある報酬水準・人事制度の検討するヒントとして活用いただければ幸いである。

 

【調査概要】

調査期間:2024年7月~9月

調査目的:魅力的な報酬水準・人事制度の設計に資する従業員報酬制度・人事制度の現状に関する分析データの提供

参加企業数:265社(集計対象従業員総数 1,305,557名)

参加企業属性:製造業116社、非製造業149社/ 上場企業179社、非上場企業86社

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