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医療MaaSが満たす地方・都市の医療ニーズ

地方・都市それぞれにおいて医療MaaSが提供する価値

医療においてもMaaSの活用が盛んになり様々な実証事業が行われていますが、地方・都市それぞれにおいて医療MaaSに期待される役割は大きく異なります。本稿では、地方・都市それぞれにおける医療MaaSへの期待役割について論じています。

MaaSの登場と日本における普及の変遷

フィンランドにおいて上市されたモビリティサービスの統合アプリが産み出した「MaaS」という概念は、自動運転技術の浸透と共に、移動の利便性向上や地域課題解決に資するものとして期待が高まっています。

日本では、未来投資戦略2018-「Society5.0」「データ駆動型社会への変革」-のうち成長戦略の重点分野の1つである「次世代モビリティ・システムの構築」の中で、公共交通全体のスマート化を実現する手段として自動運転の実用化と並んで言及されたことを皮切りに、様々な実証事業やサービスの提供が開始されています。医療分野でも「日本版医療MaaSの推進」として国土交通省・経済産業省が主体となり公示した地域交通の改善や街づくり等に関する方針に則り、2019年以降へき地を中心に患者の医療アクセスを向上させる手段としてMaaSが用いられるようになりました。

地方における医療MaaSの普及

地方では人口減少に伴う公共交通機関の衰退・高齢化に伴い自家用車を運転できなくなることによる移動手段の欠如等、移動ツールが失われることで医療アクセスが制限されるという課題が顕在化しています。

加えて、高齢化・医療の高度化による医療費の増加を受けた診療報酬適正化の流れの中で、財務省財政制度等審議会の中でも議論されているように、地域医療構想がより力強く推進されることとなり、医療機関の再編統合や病床機能転換も進んでいくことになります。国土交通省が公表している都市圏参考資料によれば、救急告示病院は約2万人、一般病院は約7千人規模の自治体でないと存続が危ぶまれることが想定されています。言い換えれば、人口減少に伴って救急告示病院や一般病院の存続が困難になることで、今は当たり前とされている「救急医療へのアクセス」「必要なすべての診療科へのアクセス」が担保されなくなる可能性が高いということになります。

生産年齢人口の減少と働き方改革の推進に伴って、医師・看護師等医療従事者の確保も困難となり、医療機関・働き手の両方が減少していく中にあっても行政サービスをどのように維持していくか、残存する住民に対して医療提供体制をどのように維持していくのか、各自治体は検討を行う必要性に迫られつつあります。

このような移動ニーズ・医療提供体制構築ニーズに対し、MaaSを用いた様々な実証実験が行われています。特に医療分野においては、移動主体は大きく①医師・看護師等医療従事者、②患者、③検査・治療機器の3つに分けられ、それぞれ①従来の在宅医療のように医療リソースを移動困難者の元に届ける、②患者がMaaSを利用し最適な医療機関へ移動することを助ける、③検査・治療機器をはじめとする診療空間を患者の元に届ける、という思想の下でサービスが展開されています。特に③のユースケースでは、看護師がMaaS車両に同乗して患者宅へ出向き診療補助を行うなど、いわゆるDtoPwithN形式での診療提供の場として医療MaaSをとらえることで、医師の移動時間等を削減し診療を効率化するだけでなく、患者側のITリテラシー等遠隔での受診を妨げる要因を解消することも可能となり、従来の対面診療の一部を、MaaS車両を用いたオンライン診療へ切り出していくことが主な狙いとなっています。

都市部における医療MaaSの普及

日本の総人口・生産年齢人口が急速に減少する局面を迎える中で、都市部はこれまで経験したことのない高齢化の波を迎えることになります。国立社会保障・人口問題研究所によれば、2025年までに東京都・大阪府・神奈川県・埼玉県・愛知県・千葉県・北海道・兵庫県・福岡県で全国の65歳以上人口増加数の約60%を占めると推計されており、これらの地域では医療需要が急激に増加していくことになります。一方で、都市部には生産年齢人口も集中するため、軽症者や処方の必要ない患者などの医療需要も一定程度存在しており、各医療機関においては診療単価の低い患者のトリアージ、集中回避、オンライン診療活用などによる診療効率化等のニーズが高まると想定されます。

都市部においては、発達した公共交通網の恩恵を受け、医療分野における移動課題が地方ほど顕在化していないことから、これまであまり医療MaaSの取組みは行われてきませんでした。しかしながら、ユーザーの利用に応じて収益が発生するモデルが一般的であるMaaSのサービスにおいては、ユーザー数の多い都市部ではいかに価値を提供しマネタイズモデルを構築していくかが重要です。

サービスを通して入手されるデータは医療だけでなく通院前後の行動・購買など多岐にわたり、重症化予防・介入施策の立案・治療補助など様々なサービスとして利活用することが可能です。先述した、今後都市部で顕在化が想定される診療単価の低い患者のトリアージ、集中回避、オンライン診療活用などによる診療効率化等のニーズに沿った形でのサービス提供を進めるだけでなく、取得したデータを利活用していくことでトランザクション数のみに依存しないビジネスモデルを構築したプラットフォーマーが、今後の都市部における医療MaaSを寡占的にリードしていくと考えられます。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/12

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