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医療提供体制構築におけるオンライン診療への期待

COVID-19流行後の医療提供体制構築においてオンライン診療に期待される役割

医師の働き方改革・COVID-19の流行など医療機関を取り巻く環境は厳しさを増しています。本稿では特に医師・医療機関側の視点から、オンライン診療が今後の医療提供体制を構築する上で果たすことが期待される役割について論じています。

医療機関を取り巻く環境(人材面)

2022年10月27日に開催された「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」内で議論されたとおり、2016年から2020年にかけて「医師の地域偏在」が加速しています。医師の偏在は地域間のみならず診療科間にも存在しており、例えば、産科・産婦人科、小児科の医師は医師全体に比して医学部定員増加による医師数増加の割合が少なくなっています (参考:医療従事者の需給に関する検討会 第22回医師需給分科会資料2-1)。

このような医師の地域・診療科偏在に加えて、2024年4月からは医師の働き方改革が始まり医師の総労働時間が規制されることから、多くの医療機関が従来型の医師個人の長時間労働に依存した医療提供体制を見直す必要に迫られています。常勤医師確保だけでなく、各診療科に派遣される「応援医師」「非常勤医師」の確保についても、派遣元医療機関における労働時間との兼ね合いから勤務困難となり派遣が中止となるなど、これまでどおりの診療時間・診療体制を維持することが困難となる医療機関も散見されています。

医療機関を取り巻く環境(経営面)

COVID-19流行以前より、公立病院や中小規模の医療機関は厳しい経営状況にありました。2019年9月に厚生労働省が全国424病院について再編や統合を検討するよう議論すべきと公表したことに代表されるように、高騰する社会保障費を抑制することを目的とした診療報酬制度の改正による機能転換の誘導など強い制度面からの要請のもと、多くの医療機関が慢性的な赤字体質に悩まされていました。

医療機関経営を取り巻く環境はCOVID-19の流行を経てむしろ悪化しており、一般社団法人日本病院会等が2023年3月29日から4月5日にかけて実施した医療機関経営状況調査の結果によると、2021年度・2022年度ともに約7割の医療機関が赤字であり、経常利益においても補助金がなければほとんどの医療機関が赤字経営であることが示されています。

これらの要因として、感染防護による診療の非効率化・受診控えなどが挙げられます。5類に移行した現在 (2023年11月時点) でも、多くの医療機関では感染者と非感染者との動線を分けたり、感染防護具を着用して診療に当たったりするなど、診療あたりにかかる時間・コストが高い状態が継続しています。また、COVID-19流行下での受療行動の変化も継続しており、多くの医療機関で診療患者数がCOVID-19流行前の水準に達しない状態が続いています。

COVID-19によるオンライン診療の普及と医療提供体制構築における期待

令和2年4月10日発出の事務連絡(「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」)によって初診からのオンライン診療が解禁となるなど、COVID-19の流行は患者の受療行動だけでなく診療提供側にも大きな変化をもたらしました。本稿では、オンライン診療の導入がもたらすメリットについて、特に医師・医療機関の視点から掘り下げていきます。

医師・医療機関にとってオンライン診療導入のメリットはいくつかありますが、特に「診療効率の向上」に着目したいと思います。例えば、発熱患者の診療においては、前述の感染防護・患者の動線確保などが不要になることで診療効率が向上するなど、1患者あたりの診療効率が向上します。また、医療提供体制の構築という観点からは医師の所在にとらわれず診療を提供することが出来る、という点が最大のメリットであると考えています。従来「応援医師」「非常勤医師」は派遣元医療機関において外勤日を設け、支援先医療機関に長時間かけて移動し、勤務終了後に再び派遣元医療機関に戻るという形で対面診療を行ってきました。このようなサイクルにオンライン診療を導入し、派遣元医療機関から支援先医療機関にオンラインで診療を提供することで、医師の移動時間を削減することが出来ます。派遣元医療機関にとっては医師の総労働時間を削減することにつながるため、医師の働き方改革を推進する中でも応援医師の派遣をより柔軟に行えるようになり、派遣先医療機関の医療提供体制維持に寄与することが可能となります。

また、厳しい経営環境に置かれた結果として医療機関の再編統合を検討するにあたっても、オンライン診療の導入は有効な選択肢の一つとして捉えられ始めています。医療機関同士の再編統合を検討するにあたっては連携強化・役割分担・施設統合など様々な形態が想定されますが、新たに「片方の医療機関に入院機能を集約」「もう一方の医療機関は無床診療所として継続し、オンライン診療も提供」という形をとることで、従来よりも各地域の医療提供体制を維持しつつ再編統合を進めることが可能となりました。令和5年5月18日発出の通知 (「へき地等において特例的に医師が常駐しないオンライン診療のための診療所の開設について」) により、へき地等一部地域では医師が常駐しないオンライン診療のための診療所を開設することが、行政側が主体的に関与することによって可能となったことを受け、今後、医師の高齢化や収益悪化などから存続が難しいへき地診療所間の再編統合を検討するにあたり、オンライン診療の導入等を検討していく事例が増加すると推察しています。

持続可能な医療提供体制構築に向けて

いわゆる「団塊の世代」が75歳以上となり、生産年齢人口が減少する2025年を迎えるまで残りわずかな期間となりました。直近の医療ニーズが増加する中で、医師の働き方改革を含めCOVID-19流行後の医療提供体制をどのように構築していくのかを検討することが強く求められています。

このような状況下で、COVID-19の流行を契機として普及が促進されたオンライン診療は、医師の負担軽減・労働時間短縮・診療効率の向上などの面から医療提供体制を構築する上で重要な役割を担っていくと想定されます。次月は患者受療行動と、医療MaaSに焦点を当てたいと思います。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/11

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