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地域医療構想を踏まえた戦略ポイント 

地域医療構想の策定が進み、多くの都道府県で急性期病床の過剰、回復期病床の不足傾向が明らかになってきています。2018年にはこれらの結果を受けた、診療報酬・介護報酬のダブル改定など、2025年に向けた重要イベントが集中します。したがって今年1年は、これらの傾向を注視しながら、各医療機関が今後の戦略を検討・再整理する重要な年になると言えます。本記事では、医療機関の経営改善を多数手がけるコンサルタントが、戦略を検討する際のポイントを整理します。

地域医療構想により各県別に医療提供体制の将来像が示された

直近の医療法の改正(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律)により、各都道府県は「地域医療構想」を医療計画において策定することが必須となりました。地域医療構想は、2025年に向け病床の機能分化・連携を進めるために、医療機能ごと(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)に2025年の医療需要と病床の必要量を推計し定めるものであり、基本的には2次医療圏単位で作成されます。

日本全国の都道府県において地域医療構想の検討が進んでおり、厚生労働省の調査によると、平成28年11月30日時点において34都府県で策定済みとなっています。

各都道府県で置かれている環境は異なりますが、首都圏などの一部の地域を除き、「①各医療機能を合計した病床全体で過剰である」「②急性期機能・慢性期機能が過剰である一方で回復期機能が不足している」といった特徴が、多くの都道府県の地域医療構想で見受けられ、全国的な傾向となっています。

病床再編の流れは不可避

団塊の世代が全て後期高齢者となる2025年に向け、国の医療・介護費用は大きく増加することが予想されています。これらの背景のもと、徹底した合理化や効率化の必要性が叫ばれており、急性期病床の削減や、患者を「施設」から「地域」へ、「医療」から「介護」へという大きな流れが着実に進んでいます。
上述した地域医療構想の全国的な傾向は当該流れに沿ったものであり、地域医療構想を踏まえた病床再編は不可避であると考えられます。
今後病床再編の流れは加速すると考えられますが、病床再編を促す仕組みとして、地域医療介護総合確保基金を活用した各都道府県の補助金事業と診療報酬改定について、注目する必要があります。
地域医療介護総合確保基金を活用した補助金事業の内容は、各都道府県が置かれている状況により異なりますが、上述した「急性期機能・慢性期機能が過剰である一方で回復期機能が不足している」という全国的な傾向を受け、急性期や慢性期などの過剰機能から回復期などの不足機能に転換を促す事業や、在宅医療などの整備といった、慢性期機能を削減した場合の受け皿となる機能の整備を目的とした事業などが多くの都道府県で予算化されています。
また診療報酬改定についても意識をする必要があります。平成28年度の診療報酬改定では、地域医療構想を踏まえた病床再編を促すため、厚生労働省から明確なメッセージが示されたと考えるべきです。
急性期機能に関しては、その絞込みを意図した厳しい改定内容となっています。医療・看護必要度の引き上げ、在宅復帰率の基準引き上げなど、7:1入院基本料の維持に最も障害となるポイントが改定されました。これは、今まで以上に重度の患者割合を高め、効率的(平均在院日数の短縮)に運用する必要があるとのメッセージであると考えられます。
回復期機能に関しては、地域包括ケア病床に有利な報酬設定がなされ、7:1入院基本料等からの転換ハードルを下げた改定であると考えられます。不足機能であるため、“充足されるまで”は評価を充実し、急性期機能からの転換を受け入れやすくするとのメッセージであると考えられます。
慢性期機能に関しては、医療区分の見直しなどにより、療養病床ではより医療必要度の高い患者を受け入れることが求められるようになりました。医療区分の低い患者は在宅への流れを作る必要があるとのメッセージであると考えられます。
このように、地域医療介護総合確保基金を活用した補助金事業や診療報酬改定など、医療機関の経営に直結する側面からも、病床再編の流れは不可避であると考えられます。

今後の戦略立案上のポイント

2017年は各医療機関にとって重要な1年です。2018年には診療報酬・介護報酬のダブル改定、第7次医療計画・第7次介護保険事業計画のスタート、第3次医療費適正化計画スタートなど、重要イベントが集中しています。2025年に向けた医療提供体制整備に関する方向性が、2018年の段階で、ある程度整理されるものと想定されます。このため2018年は一つの節目の年であり、各医療機関は2017年度中に今後の戦略を検討・再整理する必要があると考えられます。

では、各医療機関が戦略を立案していくうえで何がポイントとなるのでしょうか。各医療機関が提供している医療内容により細かな部分は異なりますが、以下の3つのキーワードは機能に限らず、すべての医療機関で共通して検討・再整理が必要なテーマであると考えられます。

1.機能・役割の明確化

高度急性期、急性期、回復期、慢性期機能の中でどの機能を担うのか、当該機能の中でどのような役割(対象疾患や患者像、他医療機関との連携関係)を担うのかを明確にする必要があります。病床再編というキーワードの下、機能分化と他の医療機関との連携強化が強く求められています。このため自院の機能と役割を明確にすることは必要不可欠ですが、それらを明確に出来ていない医療機関も少なくありません。様々な専門職種が集まる医療機関という組織において、機能・役割を明確にするためのコンセンサスを得ることが難しいなどの背景もあると考えられます。まずは自院を取り巻く環境を客観的に整理し、機能・役割を明確にしたうえで、職員との対話を繰り返し、時に経営者は強いリーダーシップを発揮しながら、職員と十分なコンセンサスを得ることが必要になります。

2.情報発信の強化

機能・役割が明確化されたら、機能分化と他の医療機関との連携強化を推進していくために、他病院、近隣クリニック、救急隊、患者・家族などに対して、当該内容の情報発信を積極的に行っていく必要があります。医療機関の中には情報発信を苦手とするところが少なくありません。このため、機能や役割が、他病院、近隣クリニック、救急隊、患者・家族などに十分に周知されていないケースも多くみられます。地域連携室などを通じた対組織的な情報発信から、Dr. to Dr.などの個人的な情報発信まで、同じベクトルで一貫性を持った情報発信が必要です。

3.広域での検討

日本の多くの都道府県は、人口減少などにより将来にわたって患者数の大幅な増加は見込めない地域が多い状況です。また道路を中心とした交通手段の整備により、患者の行動範囲も広がり、二次医療圏をまたぐ患者の流出入が発生している地域も多く存在します。患者の絶対数が増えず、患者の行動範囲も広がっている現状において、近所や同一医療圏内など限られた範囲ではなく、より広域での連携活動を行うことも必要となります。

2017年の新年を向かえ、2018年という一つの節目の年に向け、自院の将来の方向性や地域で果たすべき役割を整理し、地域医療構想を踏まえた戦略を検討されてはいかがでしょうか。

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