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「新たな地域医療構想」の論点と方向性

厚生労働省では、いわゆる団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年に向けて、2025年より後の医療提供体制を見据えた「新たな地域医療構想」を策定するための議論が進められています。その中で示されているこれまでの地域医療構想における取組の強化に加えて、地域医療構想の新たな方向性について概観します。

地域医療構想のこれまで

地域医療構想は、「中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的」とするものです。言い換えれば、地域に必要な医療、特に急性期機能を確保することが主眼になっています。

これまで、構想区域ごとに、高度急性期・急性期・回復期・慢性期の各医療機能に係る2025年の医療需要と「病床数の必要量」について、都道府県において推計したうえで、病床機能報告によって各病院における現状の病床機能と今後の見込み等を把握し、病床の機能分化・連携に向けた取組が進められてきました。
その結果として医療機関・病床の再編と機能分化が進展し、地域医療構想が始まった2015年以降、高度急性期・急性期・慢性期病床の減少、回復期病床の増加につながっており、全国の病床数合計値としては2025年における「病床数の必要量」に近づいています。

出所:厚生労働省 第7回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料1
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42839.html

他方で、医療機関の再編におけるステークホルダーの合意には時間を要する、構想区域ごとに現状の病床数と必要量との間に差異がある等の課題が指摘されています。

それに加えて、厚生労働省では、いわゆる団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年に向けて、2025年より後の医療提供体制を見据えた「新たな地域医療構想」を策定するための議論が進められています。
その中では、これまでの地域医療構想における取組の強化に加えて、地域医療構想の新たな方向性が示されています。


 

「新たな地域医療構想」の策定の前提となる課題

「新たな地域医療構想」の策定にあたっては、2040年までに起きる人口構造の大幅な変化を見据えて、以下の事項に対応することが主眼となっています。

1. 軽症・中等症を中心とする高齢者救急の増加

高齢者人口の増加に伴って高齢者の救急搬送者数が増加している中で、特に軽症・中等症の数が増加しており、今後もその傾向が続くと考えられます。

出所:厚生労働省 第8回救急・災害医療提供体制等に関するワーキンググループ 参考資料1
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42157.html

2. 在宅医療需要の増加

厚生労働省の推計では、2020年から2040年にかけて在宅医療の需要が50%以上増加する二次保健医療圏が66あり、在宅医療の需要は全体として増加を続けることが想定されています。

出所:厚生労働省 第7回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料1
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42839.html

3. 医療従事者数の不足

2040年には現役世代の減少に伴って就業者数が大きく減少することと併せて、医療・福祉職種の需要が増加することによって、医療従事者の不足が顕著になることが想定されています。

出所:厚生労働省 第7回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料1
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42839.html

 

「新たな地域医療構想」の策定の論点

上記の課題を踏まえ、現在、厚生労働省において展開されている議論の中で、特に下記のものに注目することが必要です。

1. 「高齢者救急」への対応強化

高齢者救急では、入院早期からのリハビリ介入や、退院後に治療や生活を支えるためのリハビリ等を提供できる体制が重要であり、高齢者救急を担う医療機関においては、救急搬送対応と併せて入院早期からのリハビリ等の離床介入、つまりはこれまでの急性期と回復期の機能二つを備えることが必要となると指摘されています。それを踏まえて、今後の病床機能報告において、回復期でも急性期機能の一部を担うことと位置づけ、名称や定義を変更することが検討されています。

2. 広域的な観点に係る医療機関機能の整理

救命救急センターや総合周産期母子医療センター等の二次保健医療圏等の範囲を超えた総合的な機能を有する医療機関について、「救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能」を発揮する医療機関として位置づけ、地域ごとに確保が必要となる医療提供機能であると同時に、必要に応じて圏域を拡大して対応することも検討されています。
2040年を見据えて、人口減少や医療従事者の確保、医療機関の維持等の観点から医療提供体制上の課題がある場合には、構想区域の拡大が想定されているとともに、特に救急・急性期を担う医療機関については、現行の構想区域単位よりも広い単位での集約も想定されています。

出所:厚生労働省 第9回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料2
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43955.html

3. 外来・在宅医療、介護との連携等の医療提供体制全体を含んだ構想の策定

「新たな地域医療構想」の基本的な方向性として、「入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む、医療提供体制全体の課題解決を図るための地域医療構想」とすることが示されています。
外来については、外来機能報告や2025年度開始のかかりつけ医機能報告等のデータに基づいて、診療科や地域、在宅・公衆衛生等の機能に係る外来医療の偏在状況を把握し、外来機能の明確化・連携や外来医療提供体制の確保等を進めることとされています。偏在を是正するための手法として、外来医師多数区域における新規開業希望者に対し地域で必要な医療機能の要請を実施する等のいくつかの案が検討されています。
また、在宅医療については、需要増加を見据えて、病床機能報告において在宅医療を担う医療機関機能の位置づけを明確化することを検討するとともに、都道府県における適切な在宅医療圏域の設定を前提に、ICT活用による効率化や医療機関の参入促進等が重要であると指摘されています。
加えて、介護施設において協力医療機関との緊急時対応連携の有無によって入所者の救急車搬送回数に差があることを踏まえ、肺炎や尿路感染症等の介護施設における適切な管理や必要時の円滑な入院のため、介護施設と医療機関の連携強化が重要であると指摘されています。

 

まとめ

以上で概観した新たな地域医療構想については、「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~(令和6年6月21日閣議決定)」いわゆる骨太の方針2024においても、以下のとおり言及されています。

「地域医療構想の対象範囲について、かかりつけ医機能や在宅医療、医療・介護連携、人材確保等を含めた地域の医療提供体制全体に拡大するとともに、病床機能の分化・連携に加えて、医療機関機能の明確化、都道府県の責務・権限や市町村の役割、財政支援の在り方等について、法制上の措置を含めて検討を行い、2024年末までに結論を得る」

地域医療構想は、厚生労働省だけでなく政府全体の重要施策として、その役割の拡大を含めて明確に位置づけられており今後もその位置づけは変わらないと考えられます。
そもそもの地域医療構想の主眼である地域に必要な医療、特に急性期機能の確保に向けて、人口減少に伴う働き手の不足を解消するため、急性期機能の集約が更に重要となります。まだ方向性が示されていない区域では、その点を踏まえて取組を進展させることが必要です。
その上で現在議論されている、高齢者救急や介護との連携に係る論点を踏まえて、地域基幹病院が適切に機能するための役割分担を進め、地域を面で支える医療介護体制を築いていくことが求められます。
そのために、地域の急性期病院を中心に、回復期、慢性期の病院や介護施設関係者なども含め、地域の医療介護体制を維持するための取組を進めることが重要です。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/11

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