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電子カルテ情報共有サービスの動向について
電子カルテ情報共有サービスの概要、医療業界に与える影響
医療DXにおける「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」に係る取組の下、医療機関間や医療機関-患者間での文書・電子カルテ情報を共有可能とする「電子カルテ情報共有サービス」の運用が、2025年4月から開始する予定です。本稿では、電子カルテ情報共有サービスの概要や、当該サービス導入に当たり医療機関で必要となる対応について論じます。
1. 電子カルテ情報共有サービスとは
「電子カルテ情報共有サービス」とは、政府が推進する医療DXの実現に向けた「全国医療情報プラットフォームの創設」、「電子カルテ情報の標準化等」に係る取組の下、オンライン資格確認等システムを拡充し、医療機関間や医療機関-患者間での文書・電子カルテ情報の共有を可能とするサービスです。
共有可能とする文書・電子カルテ情報としては、「健康診断結果報告書」、「診療情報提供書」、「退院時サマリー」の3文書、「傷病名」、「感染症」、「薬剤アレルギー等」、「その他アレルギー等」、「検査」、「処方」の6情報を予定しています。「健康診断結果報告書」では、「特定健康診査(特定健診)」、「後期高齢者医療健康診査(後期高齢者健診)」、「事業主健診(一般定期健康診断)」、「学校保健安全法、及び労働安全衛生法に基づく職員健診」、「人間ドック等のその他健診」を対象としています。
3文書・6情報の内、「診療情報提供書」、「退院時サマリー」は紹介先の医療機関のみ閲覧可能となり、その他の情報は紹介先の医療機関を含む全国の医療機関等、及びマイナポータルで患者本人が閲覧可能となります。
また、医師がこれまで紙などで患者に情報共有していた治療上のアドバイスを患者に電子的に共有する仕組みとして、「患者サマリー」の運用も検討が進んでいます。患者サマリーでは、「療養計画」と「6情報」を組み合わせて情報を整理し、マイナポータル上で患者にわかりやすく情報提供することを目指しています。
出所:【資料1】第22回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ資料について(2024年6月10日)(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001263740.pdf)
「電子カルテ情報共有サービス」は、2025年4月からの運用開始に向けて開発が進んでおり、今後、医療情報システムの更新を予定している医療機関では、その動向を踏まえた準備が必要となります。
出所:【参考資料1】第22回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ資料について(2024年6月10日)(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001262035.pdf)
2. 電子カルテ情報共有サービスの概要
医療機関から「電子カルテ情報共有サービス」へ3文書6情報を共有する際は、HL7 FHIR記述仕様に基づくデータフォーマットで送信する仕様となっています。6情報を電子的に共有するためのコードには、「レセプト電算処理マスターの傷病名コード」、「ICD10対応標準病名マスターの病名管理番号」、「YJコード」、「J-FAGYコード」、「JLAC(10/11)コード」を利用します。但し、「薬剤アレルギー等」、「その他アレルギー等」は、コードで表現できない場合、テキスト入力も許容しています。
「感染症」、「検査」においては、全てのデータではなく、以下の項目に限って共有しますが、「電子カルテ情報共有サービスの導入に関するシステムベンダ向け技術解説書(案)1.1.0版」(以下、「システムベンダ向け技術解説書」)では、随時見直す可能性があると明記しており、システムベンダに対して、項目拡張には柔軟に対応可能な仕組みとすることを求めています。
- 感染症:梅毒STS、梅毒TP、HBs(B型肝炎)、HCV(C型肝炎)、HIVの5項目
- 検査:臨床検査項目基本コードセット(生活習慣病関連の項目、救急時に有用な項目)で指定された43項目
また、「健康診断結果報告書」は5年間分をオンライン資格確認等システム上で保存し、医療機関・患者が閲覧可能となります。「診療情報提供書」、「退院時サマリー」は紹介先医療機関のみ閲覧でき、受領後1週間程度(未受領の場合6カ月間)で電子カルテ情報共有サービス上から削除します。6情報の内、「傷病名」、「感染症」、「薬剤アレルギー等」、「その他アレルギー等」は、5年間分をオンライン資格確認等システム上で保存しますが、医師等の判断に伴い電子カルテで「長期保管フラグ」を付与すると長期間保存できるようになります。その他、「検査」は1年間分もしくは直近3回分、「処方」は100日間分もしくは直近3回分をオンライン資格確認等システム上に保存し、医療機関・患者が閲覧可能となります。
さらに、「傷病名」の情報は、電子カルテでフラグ付与をすることにより以下の制御も可能となります。
- 医師が「未告知フラグ」を付与:全国の医療機関等が閲覧する際に、当該傷病を患者へ未告知である旨を合わせて表示でき、かつ患者本人がマイナポータルで閲覧する際には表示しない
- 医師が「未提供フラグ」を付与:全国の医療機関等、患者本人ともに閲覧できない
なお、3文書6情報を医療機関が閲覧するためには、顔認証付きカードリーダーでのオンライン資格確認時に患者本人が閲覧同意する必要があります。
出所:【参考資料1】第22回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループ資料について(2024年6月10日)(https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001262035.pdf)
3. 電子カルテ情報共有サービス導入で想定される対応
電子カルテ情報共有サービスを導入するに当たり、医療機関では以下の対応が必要になります。
① 文書・電子カルテ情報の作成・入力・共有に係るシステムの改修
② 3文書6情報の共有に必要なマスターの整備
③ 3文書6情報の送信・閲覧に係る運用見直し
④ HL7FHIR変換等の専用サーバーの導入検討
⑤ 通信量増加に伴うネットワーク構成・セキュリティ対策の見直し 等
①のシステム改修では、自施設のシステム運用を踏まえ、関連システムのベンダから電子カルテ情報共有サービスへのシステム対応に係る情報収集を行い、改修対応を検討する必要があります。電子カルテシステムベンダのみではなく、健診を実施する医療機関では健診システム、診療情報提供書・退院時サマリーを電子カルテシステム以外で作成する医療機関では当該文書作成システムのベンダからもシステム対応に係る情報収集が必要となります。
②③のマスター整備、運用見直しでは、3文書6情報の共有に使用する「J-FAGYコード」、「JLAC(10/11)コード」等のコードの整備が必要となるほか、前述の「未告知/未提供フラグ」や「長期保管フラグ」は医師等の判断に基づく入力が必要となりますので、その運用の周知・浸透も必要になります。また、現時点では診療情報提供書への電子署名は任意ですが、医療機関のポリシーや、将来的に必須となる可能性を見据え、導入当初から電子署名を行うといった検討も必要です。
④のHL7FHIR変換等専用サーバーは、ファサード型/リポジトリ型の2パターンでの構成方法があります。
- ファサード型:電子カルテシステム等のデータを、電子カルテ情報共有サービスに登録するタイミングで都度 FHIR 変換する方式
- リポジトリ型:電子カルテ情報共有サービスに登録するタイミングとは関係なく、電子 カルテシステム等のデータをあらかじめ FHIR 変換し、変換したデータ をリポジトリ(保存領域)にデータとして保存しておく方式
HL7FHIR変換等専用サーバーの導入は必須ではありませんが、本サービスでは文書やオーダー情報の発行時に3文書6情報を共有する仕組みを想定しているため、病院のシステム環境によってはレスポンス確保の観点から導入検討が必要になると考えます。データを蓄積しないファサード型の方がストレージやデータの管理は容易ですが、臨床研究への活用の面からリポジトリ型の導入を検討する医療機関もあるでしょう。
また、電子カルテ情報共有サービスは、オンライン資格確認等システムと同様に資格確認端末経由方式(資格確認端末上で動作するオンライン資格確認等連携ソフトを用いた連携方式)でのサービス利用が可能です。但し、システムベンダ向け技術解説書では、資格確認端末に接続可能なセッション数の制限(最大20セッション)等を踏まえ、大規模医療機関は資格確認端末経由方式ではなく、WebAPI通信方式を採用することを推奨しています。WebAPI通信方式を採用する場合は、⑤に挙げるネットワーク構成、及びセキュリティ対策の見直しも必要となります。
なお、電子カルテ情報共有サービス導入に伴う改修費用については、医療機関等向け統合ポータルサイトにて、2024年3月から補助金申請の受付が始まっています。申請には、電子処方箋管理サービスの導入(予定も可)が要件になっていますので、電子処方箋に未対応の場合、補助金活用のためには、電子処方箋への対応も併せて検討が必要となる点に留意が必要です。
4. 電子カルテ情報共有サービスが与える影響
本稿は2024年10月時点の公開情報に基づいていますので、今後のモデル事業の結果等により変更が生じる可能性はありますが、いずれにしても電子カルテ情報共有サービスの導入に当たり、医療機関が検討すべきことは多岐に渡ると想定します。特に、電子署名の要否や、HL7FHIR交換等専用サーバーの導入に当たっては、自施設における医療情報システムの在り方の検討も必要になると考えます。
また、地域医療連携ネットワークや、分析用の情報基盤を運用管理する自治体・団体等においても、役割分担の整理やシステム整備の方向性の見直し等が発生する可能性があります。電子カルテ情報共有サービスの運用開始は、医療機関内のみではなく、地域単位のシステム運用にも影響を及ぼすでしょう。
電子カルテ情報共有サービスの導入により、医療機関間、医療機関-患者間の情報共有は加速度的に推進すると予測します。これまで自施設内のみで共有していた情報を他施設や患者が閲覧できるようになり、全国の医療機関と電子的な文書の授受ができるようになります。場合によっては、患者が医療機関のサービスや利便性を評価する際の観点を変えるほどの影響を与えるかもしれません。電子カルテ情報共有サービスが与える影響を踏まえると、引き続き動向を注視し、自施設の医療情報システム整備計画との整合性を確認しておいた方が良いでしょう。
前述のとおり、電子カルテ情報共有サービスへの対応には、多くの検討を要する可能性があります。そのため、全て内製するのではなく、検討を支援する外部組織を活用することも選択肢となり得るでしょう。
デロイト トーマツ グループは、豊富な医療情報システムの導入支援、システム監査のほか、病院経営に関するアドバイザリー業務等の実績も有しており、病院運営に係る総合的な視点から、医療DXに対応した医療機関の在るべき姿の検討を多角的に支援することが可能です。今後の医療情報システムの在り方や整備を検討する際には是非ご相談ください。
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2024/11
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