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医療・介護現場における教育の現状と必要性

実態調査の結果に見る現状と、効果的な教育体系の構築・整備のポイント

どの組織においても、ヒトを中心に活動する産業である以上、教育・研修・トレーニングは必須です。医療介護施設における教育・研修等の必要性、実施実態を振り返り、教育体系整備の際のポイントについて言及します。

はじめに

デロイト トーマツ グループには、医療や介護事業者様を主な対象とした「ヘルスケアセクター」の他、学校(主に高等教育機関)や教育事業者様を主な対象とした「教育セクター」があります。本稿においては、医療介護組織における「教育」をテーマに、各組織の教育・研修の実態とその重要性、また教育体系の構築・整備の際のポイントをご紹介致します。本稿を通じて、教育機会に関する他組織の状況を把握するとともに、今後、競争優位のある教育機会の構築・確保が促進されればと思います。

継続教育の必要性と動向

近年、大学では職員の資質向上の取り組み「SD(スタッフ・ディベロップメント)」が義務化され、職員レベルの高度化および生涯教育の重要性が注目を浴びています。

この背景1には、就学人口の減少等による経営環境の激化、ボーダレスな市場環境を前提とした経営が求められるなど、単なる事務に留まらない「イノベーティブ」な人材の必要性が高まっていることが伺えます。「教育」と「医療・介護」という扱うモノは違うにせよ、医療・介護施設においても、専門職のみならず事務職の学びの機会を設けることが、経営の質を追求する観点から今後重要視されるようになることは確実です。また、医療・介護においてはその人件費率の高さから推察できる通り、機器やメソッドを扱いサービス提供するのは全て人であり、彼ら彼女らに対して十分に時間をかけて育成することは、個人の成長、患者・利用者の満足度向上はもちろん、職員満足度にも大きく影響し、リテンションなど他の経営の観点でも貢献が見込めるでしょう。

では、組織内での教育の機会の実態はどのようなものでしょうか。全ての組織を網羅的に確認することは出来ないものの、次のようにご紹介します。

※1: 2008年の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」で「大学経営をめぐる課題が高度化・複雑化する中、職員の職能開発はますます重要となってきている」との認識がある。

教育・育成に関する実態調査

下図の通り、2015年に「育成に関するアンケート」を実施しました。医療機関規模別に教育機会の頻度と誰を対象にしたかという情報です。ポイントは大きく2点認識しています。1つは、小中規模組織の方が往々にして教育研修の機会が多いことです。もう1つは、どの規模の組織においても、対象者を「全員」にした教育機会が多く、目的に応じ、システマチックに機会が準備されていないことです。

法人別の事務職員向け研修の実施件数
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事務職員向け研修の実施件数
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まず初めに同調査において、「医療・介護の現場における医療介護職、事務職員向けにもっと教育の機会が必要と感じるか」という質問に対して、1名を除く全員が「必要」と回答されています。機会の不足感が否めない、というのが現状でしょうか。
これに対して、実態は以下の通りです。実施件数の構成比を確認すると、診療報酬関連や人材育成など、法人経営への影響が大きいと考えられる事項に関する研修に注力している傾向が見受けられます。また、いずれの規模の法人でも新人研修や階層別研修を実施しており、人材育成を意識した姿勢がうかがえます。病床規模が大きい法人では新人・新任職員研修や階層別研修を中心に基礎分野が重視される傾向が見受けられる一方、病床規模の小さい法人では、実践的なスキル獲得を目指す研修が重視される傾向が見受けられ、即戦力となる人材をより求めている姿勢がうかがえます。逆に言えば、必要最小限で現場での稼働が可能なレベルには育成するが、その後は自助努力ということも言えなくはないように思います。他には、情報管理、災害・危機管理や法人のビジョン等に関する研修は相対的に実施件数が少なくなっている傾向が見受けられます。調査より、実際に実施されている教育機会のイメージは下図の通りです。

 

教育体系
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求められる教育機会

上記調査とは別に、2017年1月に「教育研修について、どのような領域において特に必要と感じるか」という観点で、42組織の方にヒアリングを行いました。特筆すべきは、「体系的な学び」の必要性を主張するものでした。
体系的な学びとは、①研修カリキュラム全体像:職種別、年次別や目的別など一定網羅された研修体系となっているか、②個別シラバス:個別研修の学びの目的や成果、教授方法などが整っているか、ということです。組織内での学習は必要と感じるものの、学校を卒業して以降、学びの機会がないことや、受講料や場所の問題など機会があっても参加できない状況である声が多く挙がりました。また組織内での機会は疎らであり、教えられる人材も限定的である、という意見が多くありました。もちろん、教育体系をどこまで詳細まで現場に落とし込みをするかは各組織次第ではありますが、前述の通り、高度化・専門家への対応、厳しい市場環境での競争優位性の確保などを考えると、学びの機会が整理整頓されることやそれによる人材成長の場の確保は、ニーズも高く極めて重要なことだと考えられます。

教育体系の構築・整備の際のポイント

教育体系の構築・整備を検討する際に、大きく3つのプロセスを検討します。①全体像の検討、②個別コンテンツの検討、③外部活用の検討です。①、②は組織内部の話、③は組織外の協力を得る話です。

全体像の検討は、機能区分(例:理念浸透、評価の心得、キャリア構築、経営スキル向上、各種資格取得や更新など)と職種や階層(医師、看護師、診療補助員、医療技術、受付・クラーク、事務などの職種に、新任、中堅、管理者、監督者、ベテランなどの階層)を掛け合わせ、自組織で必要な”研修のコマ”を設定します。

個別コンテンツの検討は、比較的蔑ろにされますが、非常に重要なパートです。第一に「受講後の受講者の理想像」を可視化します(”Clarification of Perfect Learner”)。所謂、研修における「大目標」という位置づけです。例えば、「管理者事務職員の経営スキル(特に当該部門の事業計画等を作成・レビューする力)を上げる」ためのコンテンツである場合、「受講後は、当該部門の事業計画を適切なフレームワークに基づき評価できること。またその計画をもとに、部下に中長期観点での指示が出せること」などが理想像になろうかと思います。次に「理想像かどうかの判断基準」を明確にします("Purpose & Assessment”)。先の例で検討すると、「適切なフレームワークが利用できていること」、「部下の状況に鑑み、事業計画でのタスクを振り分けられること」などいくつか基準が設定できるかと思います。ここまでが明確になると、各コンテンツで教えるべき・学ぶべき内容が明確になります。ここではフレームワークはもちろん、部下とのコミュニケーションの取り方、タスクの把握方法などを教える必要があるということになります。

最後に外部活用の検討です。勤務の繁忙や研修を内製化するほど受講対象者がいないコンテンツ、さらには地方部などの研修機会確保においては、外部研修等を利用することになります。遠隔教育については、便利でかつ流行りのツールかと思います。実際に、先の2017年調査において7法人は医療情報学会/生涯研修セミナーのe-Learning、理学療法士協会の提供するコース、大学が提供するコース等を利用していると回答しています。遠隔教育については、機会があれば別途言及したいと思います。

ここで重要なことは、すべての機会を外部に依存する場合においても、①の全体像を明確にするということです。医療機関だけでなく多くの組織では、自組織が求める体系を明確にしないまま、手当などにより教育機会の提供をしていますが、一過性のものになり、体系的に自組織が求める人材像にあった学びとはならないことが多々あります。まずは、全体像を明確にしたうえで、欠けているコンテンツを外部に求めるようにして頂きたいです。

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