最新動向/市場予測

不妊治療と仕事の両立に係る政策動向について

現在、企業では社員が不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりに注力する動きが広がっています。これにより、離職の防止、社員の安心感やモチベーションの向上、新たな人材の確保など、多くのメリットが期待されます。一方で、不妊治療と仕事の両立が困難な場合、労働力の減少やノウハウの喪失といったデメリットも生じます。今回は、不妊治療と仕事の両立に関する最新の政策動向や支援制度について詳しく紹介します。

企業における不妊治療と仕事の両立支援の現状と意義

現状

不妊治療と仕事の両立に係る政策動向を理解するためには、まず現状を把握することが重要です。2021年に日本では「11.6人に1人」1)の割合で生殖補助医療により誕生しています。また、日本では、「不妊を心配したことがある夫婦は39.2%」2)であり、「実際に不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は22.7%」3)に上ります。しかし、企業側の対応はまだ十分ではなく、「約6割の企業で、不妊治療を行っている社員の把握ができておらず、約7割の企業が不妊治療を行っている社員が受けられる支援制度等を実施していません。」4) この現状は、多くの社員が不妊治療と仕事の両立に苦労していることを示しており、両立支援策の導入が急務であることを物語っています。

意義

不妊治療と仕事の両立を推進する意義は多岐にわたります。企業が社員の不妊治療を支援することで、社員が治療を受けながら働き続けられるという安心感や、両立を支援してくれる環境下でモチベーションが向上し、結果的に労働生産性の向上や離職率の低下が期待できます。さらに、企業の支援体制が整っていることで、そうした企業で働きたいという人材を引き付けるとともに、それが対外的に知られることで企業イメージの向上にもつながります。

また、不妊治療と仕事の両立ができる環境を整えることは、社員のライフイベントを尊重し、働きやすい職場づくりを進める上でも重要です。このような取組は、企業にとっても社会にとっても大きなメリットをもたらします。不妊治療と仕事の両立支援策を導入することで、企業は持続可能な成長を実現し、社員一人ひとりが安心して働ける環境を提供することができるのです。

出所:1) 2) 3) 4) 厚生労働省『不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル』、2024、p.5

新たな認定制度「プラス認定」

不妊治療と仕事との両立に係る政策動向の一環として、令和4年4月から、不妊治療と仕事の両立に取り組む優良な企業に対する新たな認定制度が創設されました。この制度は、次世代育成支援対策推進法(次世代法)に基づき、「くるみん」等の認定を受けた企業が、不妊治療と仕事の両立にも積極的に取り組み、一定の認定基準を満たした場合に、3種類のくるみんにそれぞれプラスして認定(プラス認定)するもので、「くるみんプラス」「プラチナくるみんプラス」「トライくるみんプラス」と称されます。

認定を受けるためには、くるみん等の認定基準を満たした上で、以下の認定基準5)を全て満たすことが必要です。

プラス認定基準1:
次の(1)及び(2)の制度を設けていること。
(1)不妊治療のための休暇制度(不妊治療を含む多様な目的で利用することができる休暇制度及び利用目的を限定しない休暇制度を含み、年次有給休暇を除く)
(2)不妊治療のために利用することができる次のうちのいずれかの制度である、半日又は時間単位の年次有給休暇、所定外労働の制限制度、時差出勤制度、フレックスタイム制、短時間勤務制度、テレワークのいずれかが含まれます。

プラス認定基準2:
不妊治療と仕事との両立の推進に関する方針を示し、講じている措置の内容とともに労働者に周知していること。

プラス認定基準3:
不妊治療と仕事との両立に関する研修その他の不妊治療と仕事との両立に関する労働者の理解を促進するための取組を実施していること。

プラス認定基準4:
不妊治療を受ける労働者からの不妊治療と仕事との両立に関する相談に応じるための担当者(両立支援担当者)を選任し、労働者に周知していること。

認定に際しての相談は、都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)で受け付けています。

 

出所:5) 厚生労働省ホームページ
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/kurumin/index.html)

 

両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)

さらに、不妊治療と仕事の両立に係る政策動向として、不妊治療と仕事の両立に資する職場環境の整備に取り組み、不妊治療のために利用可能な休暇制度や両立支援制度を労働者に利用させた中小企業事業主に対し、助成金を支給する制度が令和3年度より制定されています。この助成金は、要件を満たすと30万円、さらに労働者が不妊治療休暇を20日以上連続すると30万円加算して受給できます。具体的には、不妊治療のために利用可能な休暇制度、所定外労働制限制度、時差出勤制度、短時間勤務制度、フレックスタイム制、テレワークを整備し、それらを労働者に利用させた中小企業事業主が対象です。また、働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休取得促進コース)を利用できる場合もあります。詳細については、厚生労働省のホームページ「不妊治療と仕事との両立のために」をご参照ください。

参考:「不妊治療と仕事との両立のために」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_14408.html

令和6年度「不妊治療と仕事の両立支援担当者等向け研修会」

不妊治療と仕事の両立に係る政策動向の一環として、2025年3月14日まで、不妊治療と仕事の両立を支援するための担当者向け研修会が、オンデマンドで無料開催されています。この研修会は、最新の政策動向や企業の取組事例、不妊治療に関する基礎知識などを学べる貴重な機会となります。ぜひご視聴いただき、社内の支援体制の強化にお役立てください。研修会の詳細やお申し込みに関しては、専用サイト(https://www.funin-ryoritsu.mhlw.go.jp/)をご確認ください。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2025/2

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