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医療機関の働き方改革と病院経営の両立
2024年4月より施行された医師の時間外労働の上限規制により、各医療機関では医師に対する適切な労務管理と働き方の継続的な見直しが行われています。一方で、令和6年度診療報酬改定の影響や人件費・物価の高騰が経営を圧迫し、経営状況が悪化する医療機関が増加しています。本記事では、医療機関に求められる働き方改革と病院経営を両立するための考え方・取組について解説します。
医師の時間外労働の上限規制に伴う医療機関の今後の法対応の方向性
医師の時間外労働の上限規制の開始と適切な運用
2024年4月より医師の時間外労働の上限規制が開始となり、医師は原則、時間外労働を年960時間未満に収めなければなりません。やむを得ず年960時間以上の時間外労働に従事させる必要がある医療機関に対しては、特例の時間外労働時間水準が認められています(特定労務管理対象機関)。厚生労働省の調査資料*1によると、令和6年9月時点において特定労務管理対象機関は450施設となっています。
医師の働き方改革関係の医療法の施行に伴って、令和6年度以降の医療法第25条第1項に基づく立入検査においては、全ての医療機関に対して新たに検査項目が追加されています。
参考:厚生労働省_医師の働き方改革にかかる医療法第25条第1項に基づく立入検査について(医療機関向け)
上記より、すべての医療機関が医療法に基づく労務管理を徹底する必要があり、適切な労務管理を行っている証跡として院内で各種管理帳票の整備が求められます。
特定労務管理対象機関における時間外労働時間水準の継続的な見直し
特例水準であるB水準、連携B水準の時間外労働の上限(年1860時間)については、3年ごとに必要な見直しを検討しなければならず、必要な検討を実施の上で次の3年間の上限を設定します。特定労務管理対象医療機関の指定(更新)についても同様に3年ごとに更新しなければその効力が失われるため、指定を更新する場合には、再度の評価センターの評価受審、知事の指定(更新)が必要となります。
また、B水準、連携B水準は2035年度末までの廃止が予定されているため、今後段階的に医師の労働時間の短縮を進める必要があります。
*1 令和6年度第1回医療政策研修会 令和6年10月10日
働き方改革と病院経営の両立の考え方
働き方改革と病院経営
前述のとおり、これからの病院経営にあたっては医師の労務管理・時間外労働は施行された法を遵守した形で運営しなければなりません。また、特例のB水準・連携B水準の指定を受ける医療機関にあたっては将来的な時間外労働時間の削減に向けて働き方の継続的な見直しが必要です。
一方で、現在、医療機関においては令和6年度診療報酬改定、最低賃金の引上げなどを含む人件費の高騰、物価高騰による給食材料費・水道光熱費など各種経費の増加により、経営状況が悪化する医療機関が増加しています。日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が、11月16日に公表した「病院経営定期調査」によると、医業損益の前年同月比較で減収減益となっており、極めて厳しい経営状況にあることが明らかになりました。
出所:日本医療法人協会「2024年度病院経営定期調査 概要版―最終報告(集計結果)―」
(https://ajhc.or.jp/siryo/20241116report.pdf)
また、職員の定着が芳しくない施設では、人材確保に伴う採用費(採用広告費や人材紹介料など)や教育費も多大なコストが掛かっています。
働き方改革によって医師および医療関係職種の労働時間の適正化が求められるため、時間外を含む労働時間の増加によって診療の量(=収益)を増やす施策を講じることはできず、一方で各種経費の高騰は終焉の見通しが立たないといった板挟みの経営環境にあります。
このような状況を打破する一つとして、働き方改革の目的を法対応や時間外労働時間の削減と捉えるのではなく、職員が働きやすい・働き甲斐のある環境を整備することで生産性が高まる循環をつくり、収益の増加や経費の圧縮に繋げることが考えられます。
真の働き方改革による病院経営との両立
上記の考え方に基づく働き方改革のゴールは、医療機関に求められる働き方改革関連法規制への適用と持続的な病院経営を両立するために人材の定着や確保に資する“働きやすい・働き甲斐のある”職場環境の整備と生産性の向上を実現している状態と考えられます。
(デロイト トーマツ ヘルスケアが考える医療機関の働き方改革のGOAL)
『生産性向上による働き方改革と病院経営との両立』を目指すためには、自院の職場環境が職員にとって生産性向上に繋がる「働きやすい・働きがいのある環境」か否かや病院業績との相関を把握することが重要です。
現状を把握し戦略的に打ち手を検討する
働き方改革を推進するためのフレームワークと分析視点
職員にとっての「働きやすい・働きがいのある環境」には、単に労働時間のみならず業務の在り方や施設・設備などのソフト・ハード面で様々な要素が絡んでいます。そのため、「働きやすい・働きがいのある環境」に影響を及ぼすと考えられる要素について多角的に状況を捉える必要があります。
(働きやすい・働きがいのある職場環境のフレーム)
上記のフレームについて、自院で取り組んでいる施策の内容や取組状況とともにそれぞれに対する職員の満足状況や期待を突合し、職員視点における課題を分析します。
(各要素の取組施策と職員満足の相関)
また、病院業績(収益、費用、利益)と生産性の評価指標(例:医師一人あたり収益、看護師一人あたり患者数、技師一人あたり検査件数、リハビリ職一人あたりリハビリ単位数など)、人材管理の評価指標(離職率など)も併せて整理します。
これにより、職員にとって働きやすい・働きがいのある職場環境になっているか、職場環境は生産性の向上に繋がっているか、総合的に可視化されます。そして、自院の業績を高めるための生産性の目標や生産性を高めるために着手すべき施策の検討が可能となります。
これからの病院経営に向けて
病院を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、ヒト・モノ・カネといった限られた資源をいかに有効活用して病院が持続可能な業績を確保するか、働き方改革が鍵を握っているといっても過言ではありません。医師の働き方改革への適応によって院内の検討体制や取組意識が冷めやらぬこのタイミングを逃さず、自院が目指す病院経営・働き方改革について今一度院内で検討をお進め下さい。
デロイト トーマツ ヘルスケアでは、医師の働き方改革に関する運用面や病院経営と働き方改革の現状把握に関するご相談をお受けしております。本テーマについてご関心がある医療機関様は是非お問い合わせ下さい。
執筆
デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア
※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2025/1
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