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今後10年間を見据えた医師の働き方改革の取り組み

医師の働き方改革は生産性向上に向けた取組みである

医師の働き方改革は、今まさに日本の医療界にとって喫緊の課題となっています。2024年4月から始まった医師の時間外労働の上限規制の対応に、これまで多くの医療機関が追われてきたかと思います。しかし、この改革は単なる労働時間管理の問題にとどまらず、医療経営そのもの、ひいては日本の医療の未来を左右する極めて重要なテーマであると考えます。現状を正しく認識し、戦略的に改革を進めることで、医療の質の向上、患者満足度の向上、そして医療機関の持続可能性を確保できる絶好の機会と捉えるべきです。

医師の働き方改革は、これまで医師の労働時間管理を行ってこなかった多くの医療機関にとって、労働時間管理を行うことが目的になってしまっているような印象を受けます。その結果、一部の医療機関からは、自己研鑽の時間を上手く利用し、労務管理上は労働時間の上限を超えないような状態にする一方で、現場の医師からは働き方は変わっていないのに、残業代だけが減らされた、という不満が上がっているという話を聞きます。複雑な働き方である医師の労働時間を管理することだけでも非常に難易度が高いことは十分理解できますが、「医師の働き方改革→労働時間管理」ではなく、「医師の働き方改革→生産性の向上」が本来あるべき姿ではないかと筆者は考えます。医師の働き方改革の真の目的は、限られた医療資源を最大限に活用し、質の高い医療を効率的に提供することで、医療の持続可能性を確保することです。そのためには、医療機関全体の生産性向上を目指した抜本的な改革が不可欠です。

 

働き方改革フレームワークを活用し推進する

多くの医療機関では、医師の業務負担軽減策として、タスクシフト・タスクシェアを進められていると思いますが、単なる業務の移管ではなく、これを効率的・効果的に進めるには、各職種の役割分担の明確化、手順書の作成、研修の実施など、多職種連携の強化が重要となります。医師の本来の業務である診断・治療に集中できる環境を整備することで、医療の質の向上にも繋がります。

ICTの活用も、生産性向上に大きく貢献します。電子カルテシステムの最適化は、入力作業の効率化、情報共有の円滑化、診療情報の可視化を実現し、医師の事務作業負担を軽減します。AIを活用した画像診断支援は、診断の効率化・精度向上に寄与し、遠隔医療の導入は、医師の移動時間や負担を軽減するだけでなく、患者の利便性向上にも繋がります。これらの技術を積極的に導入し、医療現場のワークフローを革新していくことが求められます。
しかしながら、単にICT機器を導入すればすぐに業務効率化が進むかと言えばそうではありません。これまで実施してきた業務の進め方を現場の医療従事者に変えていただくためには、それなりの準備をお願いして効果を知っていただくほか、実際に使っていただくための運用ルールなどを徹底しなければ、せっかく導入しても使われなかったり、余計に非効率になってしまったりする可能性もあります。

また、地域医療連携の強化も重要な視点です。例えば、医師の充足状況は診療科によって大きく異なり、働き方改革のアプローチもそれぞれに最適化していく必要があります。特に、希少性の高い診療科では、個々の医療機関だけで労働時間の上限規制を遵守することは困難な場合が多く、地域全体での連携が不可欠です。このような場合、特定の診療科を地域の中核病院に集約し、専門性の高い医師が集中して診療を行う「センター化」は、医師の負担軽減と質の高い医療提供を両立する有効な手段です。医師の偏在を解消し、地域住民にとって公平な医療アクセスを確保するためにも、地域医療構想に基づいた医療機能分化・連携の推進が重要となります。

このような考え方をフレームワークとしてまとめました。この順番通りにいかないケースもあるかと思いますが、各医療機関での進め方の参考にしていただけると幸いです。

10年計画で未来を創造し、持続可能な医療経営へ挑戦する

新型コロナの影響などにより、医療機関の経営環境は厳しさを増しています。このような状況下で、医師の働き方改革は、短期的なコスト増と捉えられがちですが、中長期的な視点で見れば、医療の質の向上、患者満足度の向上、そして医療機関の持続可能性に繋がる、未来への投資です。

10年という長いスパンで、医療経営を改善していく必要があります。まずは、現状を正確に把握し、具体的な数値目標を設定することから始めましょう。その上で、医療機関全体で改革のビジョンを共有し、段階的に具体的な施策を実行していくことが重要です。

働き方改革関連の補助金や支援制度も積極的に活用し、財源確保に努めましょう。また、医師だけでなく、看護師、薬剤師、事務職員など、すべての職員が改革の当事者意識を持ち、共に取り組むことが成功の鍵となります。

医師の働き方改革は、医療の未来を拓く挑戦です。困難な道のりではありますが、この改革を乗り越えることで、より良い医療を提供し続け、地域社会に貢献できる医療機関へと進化できます。全職員が一丸となって、この重要な改革に取り組み、持続可能な医療経営を実現していくことが重要です。

病院を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、ヒト・モノ・カネといった限られた資源をいかに有効活用して病院が持続可能な業績を確保するか、働き方改革が鍵を握っているといっても過言ではありません。医師の働き方改革への適応によって院内の検討体制や取組意識が冷めやらぬこのタイミングを逃さず、自院が目指す病院経営・働き方改革について今一度院内で検討をお進め下さい。

デロイト トーマツ ヘルスケアでは、医師の働き方改革に関する運用面や病院経営と働き方改革の現状把握に関するご相談をお受けしております。本テーマについてご関心がある医療機関様は是非当社へお問い合わせ下さい。

執筆

デロイト トーマツ リスクアドバイザリー合同会社
ヘルスケア

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2025/2

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