事例紹介

地方独立行政法人に対する経営管理システムの導入事例

地方独立行政法人に対する経営管理システムの導入にあたり支援ツールを提供した事例

地方独立行政法人は、地方独立行政法人法に基づき、決算資料、単年度予算、中期経営計画、経営分析資料、県提出資料等の各種資料を作成する義務があります。現状は手作業によりこれらの資料を作成している法人が多いですが、経営管理システムの導入により、資料作成の自動化による業務効率化や、経営管理機能の強化が期待されます。

地方独立行政法人について

自治体として行っている事務・業務を効率かつ効果的に行うため自治体組織から独立させて設立する法人が地方独立行政法人です。現在では公立大学、公立病院、試験研究機関といった様々な分野で、130を超える地方独立行政法人が設立されています。大学や病院といった機関を地方独立行政法人化する意義として、以下の5点が挙げられます。

①目標による業務管理

地域独立行政法人が達成すべき業務運営に関する目標(以下、「中期目標」という)を設定した上で中期計画及び年度計画を作成して、年度ごと及び中期目標期間の経過後に業績評価を行います。目標による管理の考え方(PDCAサイクルによる継続的な業務改善を促す仕組み)は、事務及び事業の効率的な執行といった地方独立行政法人制度の導入趣旨から制度の根幹として位置づけられています。

②適正な業務実績の評価

目標による業務管理の仕組みを採用したことに対応し、第三者評価を含む事後の事業評価の仕組みが導入されています。

③業績主義の人事管理

非公務員の職員で構成される一般地方独立行政法人においては法人業務の実績、職員の勤務成績を反映した給与の仕組み等を確立することが可能になります。

④財務運営の弾力化

原則として企業会計原則により業務を運営し、経営努力で生じた毎事業年度の利益は中期計画で定めた剰余金の使途に充当可能とすることで、財務運営の弾力化が図られています。

⑤積極的な情報開示

透明性向上のため、中期目標等、財務諸表、業務実績、評価結果、給与の支給基準等広汎な事項を積極的に公開することが求められています。

地方独立行政法人における経営管理システム導入の重要性

地方独立行政法人においては上述の通り、各種資料の作成が義務付けられています。その中でも中期計画・経営計画策定業務、予算編成業務、決算資料作成業務は主に手作業で行うため、膨大な人員コストがかかります。また各業務で使用するデータは概ね同じものであるのにもかかわらず、各業務の担当者が各々の方法で資料を作成するため、入力が重複していたり、資料間の数値に不一致が生じたりという事態も起こりえます。その他、使用する様式の視認性の悪さ等の課題もあります。

経営管理システムの導入により、従来使用していたシステム(購買管理システム、経費精算システム、財務会計システム、ワークフローシステム等)と経営管理システムを連携させ、これまで手作業で行っていた作業を自動化させることが可能です。またデータベースと入力様式、出力様式を切り分けることが可能になり、同一項目の入力を1回で済ませることが期待できます。その結果、業務効率化や各種推計値の精緻化といった経営管理機能の強化が見込まれます。

図表1:経営管理システム導入前後の比較イメージ

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さらに公開資料の作成に関する業務だけではなく、予実管理業務や経営管理業務のためにも経営管理システムは有用です。例えば財務指標であれば財務会計システム等のシステムから取り込んだデータを基に自動的にKPI(Key Performance Index:将来の患者数や診療収入、病床利用率、医薬材料費等)を算出し、KPIを踏まえた経営管理・分析をタイムリーに実施することが可能になります。

図表2:KPIの活用イメージ

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中期計画・経営計画策定支援ツールとは何か

経営管理システムを導入する場合、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書における将来計画数値を算定するための前提条件を設定する必要があります。中期計画・経営計画策定支援ツールでは、業務担当者からのヒアリング結果を基に、経営実態に応じた前提条件を設定し、実際に各システムからダウンロードした元データから将来計画数値を算出しています。

経営管理システムを導入した後の計画策定、年度予算策定及び予実管理の流れは以下の通り想定していますが、中期計画・経営計画策定支援ツールは主に①の機能の策定のために必要です。

①経営管理システムにおいて各計画を作成

経営管理システムにおいて、各システムからのデータ、各部門作成の計画、KPI指標等をもとに、セグメント別の年度計画予算を作成することを想定しています。セグメント別の年度計画予算の合計が年度計画予算となり、貸借対照表やキャッシュフロー計算書に連動することを想定しています。

②各部門からの予算要求を反映

年度計画予算作成時において、例えば人件費であれば、直近の人件費データをもとに、各部門の人員計画や定期昇給等を加味した人件費計画を作成することを想定しています。また、人員計画に変更がある場合は、予算編成時に、修正事項や修正理由等を経営管理システムに登録することで、年度計画予算と年度予算の乖離要因の把握が可能になる仕組みを想定しています。

③年度計画予算をもとに年度予算を作成

年度計画予算をもとに、各部門で作成された予算要求(修正計画)が反映された年度予算を経営管理システムにおいて作成することを想定しています。

④年度予算を月次予算に配賦

セグメント別月次試算表の収入・費用の変動トレンドをもとに配賦ルールを検討したうえで、年度予算を月次予算に配賦することを想定しています。各部門からの予算要求において大規模投資等があった場合は、投資時期を確認のうえ、当該月の予算に反映することを想定しています。

⑤予実管理

法人全体の損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の予実管理をしたうえで、その変動要因となる損益計算書については、セグメント別にKPI指標等を含め、経営管理システムでモニタリングすることを想定しています。

図表3:経営管理システム導入後の計画策定、年度予算策定及び予実管理の流れ

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中期計画・経営計画策定支援ツールの活用で可能になること

中期計画・経営計画策定支援ツールの活用で可能になることについて、以下詳細に説明します。

①経営管理システム導入完了時までの将来計画の作成

経営管理システムを導入することになった場合、導入完了までには必然的にタイムラグが生じます。中期計画・経営計画策定支援ツールは、最終的に経営管理システム上で行いたい処理をスプレッドシート上で行っているものであるため、システム導入完了までの補完的なツールとして有用です。例えば直近数年分の財務データ(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)、各システムから出力したデータ(借入金台帳、固定資産台帳、人員配置計画等)を基にデータを集計し、将来計画数値を算出することが可能です。データの集計方法には過年度実績の平均を取る方法、借入・返済計画に応じた方法、減価償却シミュレーションに応じた方法等様々なものがあります。実態に合った集計方法でかつ、地方独立行政法人特有の会計基準に準拠した将来計画数値の作成が可能です。

また損益計算書を作成すると貸借対照表、キャッシュフロー計算書の数値も自動的に算出される仕組みとなっています。将来計画は毎期更新する必要があるため、効率性の観点から有用です。

②中期計画作成

中期経営計画は地方独立行政法人が6年ごとに作成・公表する資料です。将来計画を応用して作成することができるため効率的であり、将来計画と数値が一致した精緻な資料が作成可能です。

③予算作成、収支計画作成

①で作成した損益計算書と予算、収支計画とでは収益及び費用の捉え方が異なるため、将来計画数値に一部修正を加え、予算数値、収支計画数値に修正する必要があります。中期計画・経営計画策定支援ツールではこの修正を自動で行うことが可能です。

④システムベンダーへの説明資料としての活用

経営管理システム上で行いたい処理をシステムベンダーに伝達する際、中期計画・経営計画策定ツールを用いてイメージを共有することが可能です。実際にシステムに取り込むことになる元データはどのような形式なのか、元データからどのように数値が集計されているかということについて前提条件を見つつ確認することができます。またスプレッドシート上は可能でも、システム上実装が可能な処理かどうかという点についても議論がしやすくなります。

まとめ

地方独立行政法人は独立性の高い機関であるが故に、その透明性を向上させるべく、中期計画をはじめとした様々な資料の作成が求められます。しかし手作業の多い従来の方法で対応するには限界が生じる可能性があります。また昨今赤字である機関も多いため、より効率的な運営のために正確な経営分析が必要です。

デロイト トーマツ グループでは、地方独立行政法人に限らず、公立病院および公立大学に関する知見を活かし、理想的な経営管理システムの実現に貢献していきます。

執筆

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部  ヘルスケア 

※上記の部署・内容は、掲載日時点のものとなります。2023/08

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